もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

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猫カフェ開店するニャ

第5話 捕まったのニャ

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 ──それから3時間──
 わたしは目を覚ましました。

 気が付くと、体が少し窮屈です。
 腕が後ろにまわされ、両手の親指がひもで縛られています。
 そして、箱のようなものの中にいれられていました。
 その箱は、大型犬が入れるぐらいのゲージでした。しっかりと錠前がかけられています。

「あれ、わたし……捕まっちゃったのかな……」

 この場合、そう考えるのが自然かと思いました。
 まるで、牢屋に閉じ込められているような気分です。

 周囲を見ると、猫の入った小さなゲージが複数置いてありました。
 種類は、すべてマンチカンです。

「マンチカンがいっぱいいる……」

 ここは、いったいどこなのでしょうか。
 わたしは、ゲージに入っている猫に聞いてみました。

「ねえ、ここはどこ?」

 猫たちは震えています。なにか、怖い目にあったのでしょうか。
 ちょっと顔がブルドックに似ているマンチカンが口を開きました。

『まさか、人間まで捕まってるとはね……詳しい場所まではわからないが、海の近くだ。波の音とウミネコの鳴く声が聞こえる』
「あ、ありがとう。(海の近く……)」

 たしかに、磯の香りがします。
 と、いうことは、ここは港の倉庫でしょうか。

「ねえ、ここにいる猫たちは」
「みんな捕まってしまったのさ、人間にな」

 やはり、ココアのように、捕まってしまったのでしょうか

「ねえ、ここにきた猫はどこへ行くの?」
『おれにはよくわからないが、おそらく、ここじゃないところに連れていかれるのさ。あの赤いゲージの猫たちを見てみな、さっき運ばれてきたやつらだ。ナリはおれたちと変わらないが、言葉が通じない。この国の猫じゃないんだ』
「そ……そうなんだ……」

 かなり危険な臭いがしてきました。
 こんな時は、猫の手でも借りたい気分です。
 そういえば、ココアは無事なのでしょうか、それと、トラは…………。

 倉庫の外から、二人の男の声が聞こえてきました。
 偉そうな低い声の男と、真面目そうな少し高い声の男です。

「部長、申し訳ないっす!」
「困るよ君たち。ただの小遣い稼ぎが大ごとになったじゃないか。わかってるんだろうね」
「はい。あの娘はわたしが責任を持って売り飛ばしますんで」
「人間を取り扱っちゃまずいんだよ。うちはただの海運会社だ。人間を運んだらごまかせないだろう。だから猫で小遣い稼ぎをしてるんだ」

(猫で小遣い稼ぎって……わたしのようなことをやっているの?)
 と、一瞬思いましたが、海運会社と猫カフェでは、どうもしっくりきません。
 やはり、もっと黒いことをしていそうです。

「そうっすよね……すんませんでしたあ!」
「ああ、わかればいい。その娘はわたしが何とかしよう。いいか、忘れるな。海外で見つけた猫を日本で売って、日本で見つけた猫を海外で売るのがおまえの仕事だ」
「はい、今度は失敗しないようにします」

 ようするに、この人たちは盗んだ猫を売っている悪いやつらということになりますね。
 でも、どうして海外でわざわざ盗んで日本で売って、日本で盗んだ猫を海外で売るのでしょうか。
 ちっともわかりません。

 そもそも、悪いことをする人の思考回路なんて、わからない方が幸せです。
 わかってしまったら心の汚れが移ってしまいます。

「なにスタンガンなんて使ってるんだおまえ!」
「いや、兄貴がピンチだったんで……つい」
「挙げ句の果てに娘さらってくるなんて、責任もって見張っておけよ」
「はい、兄貴」

 どうやらもう一人いたようです。ドスの利いた声で話しています。
 おそらく、スタンガンを使った黒服の男でしょう。なにやら、怒られています。
 わたしをさらったのは想定外の出来事だったということでしょうか。

 しばらくして静かになりました。
 おそらく外には、黒服の男が見張りについているでしょう。

 彼らは、海運会社と言っていましたがどうもあやしいです。
 実はそれを隠れみのにして、あくどいことをしていそうです。

 それにしても、まずい状況です。このままでは、わたしもこの猫たちと同じように、海外に売られてしまうかもしれません。
 売られると、どうなるのでしょうか。

(もし、心の優しい人に買ってもらったなら、とても幸せに……)
 と、考えてみましたが、まず、そんなことはあり得ません。
 おもちゃにされて、働かされて、挙げ句の果てに切り売りされるのがおちというものです。

 絶望感から、すこし頭が変になっていたみたいです。
 こんな時ならばこそ、冷静にならなければいけません。

 まず、周囲を注意深く確認しました。
 すると、デスクが置いてあり、その横にあるフックに鍵がかけられていました。
 ゲージにかかっている錠前の鍵でしょうか。

 あとは、倉庫の扉が少し開いていることぐらいです。
 扉が開いていたとしても、わたしはゲージの中。
 まず、これをどうにかしなければなりません。

 と、いっても、わたしは縄抜けができるわけではありません。
 しかも、手の親指が縛られているので、どうすることもできません。

 冷静になればなるほど、絶望感に取り込まれます。
 何の手立てもないこの詰んだ状態を再確認するだけだからです。

 奇跡は、起こるのでしょうか。
 いいえ、それは神のみぞ知ることなのです。
 予定調和なのです。

 ラプラスの悪魔は量子によって殺されたのです。
 シュレーディンガーの猫は多世界介錯されて、分裂するのです。
 超ひも理論をなんとかしないと、わたしの親指は自由になりません。
 化学は万能ではありませんが、トイレにはいかせてもらえるのでしょうか。

 絶望感は、わたしの思考を崩壊へと導きました。

「ああ、わたしは不幸の観測者。わたしが観測できるのは、このチープな光景だけ。そしてこれから見たくもない現実を観測しなければならないのです。南無~」

 気がつくとわたしは、不思議な祈りをささげていました。

 ふと、倉庫の扉の開いていた隙間から、小さな影が見えました。
 その影は、猛獣の姿をしていました。
 そして、わたしにゆっくりと近づいてきます。
 わたしはその猛獣の餌になってしまうのでしょうか。

『やっと見つけた』

(この声は……)
「トラ?」

 その声を聞いた瞬間、わたしは、われに返りました。
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