もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

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猫カフェ開店するニャ

第4話 探すのニャ

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 いろいろと悩んでいると、トラが暇そうにしながら近づいてきました。
 さりげなくわたしに話しかけてきます。

『どうした、ほのか』
「トラ……駄目じゃない、持ち場を離れちゃ」
『二人の様子が気になったのでつい……』

 それを口実に、接客から逃げてきたのだと思いますが……。

「そうだ、ココアしらない?」
『ココア? さっきまでいたと思ったのだが、探してみるか』
「探せるの?」
『犬ほどではないが、人間よりは鼻は利くぞ』
「じゃあ、お願いするね。それでサボリはチャラにします」

 ふと、熱い視線を感じました。
 その視線は、知愛の視線でした。
 目を輝かせてわたしに話しかけてきます。

「ほのかさん……猫と話せるの?」
「え……えっと、少しわかるだけかな、みんなには内緒だよ」
「は……はーい」

 ──そうでした。

 また同じことをしてしまいました。
 猫と話すなんて、他の人から見れば変人以外の何者でもありません。
 知愛は天然なので、なんとかごまかすことができましが、これからは気をつけなければいけません。

 トラの後を追います。トラはカウンターを過ぎて、店の出入り口にきました。

『外に出たかもしれないな。臭いが続いている』
「ええ? もしそうなら、わたしの視界にはいるはず……」

 もしカウンターの目の前をココアが通れば、わたしが見過ごすはずがありません。
 視界に死角があったのでしょうか。いいえ、なかったはずです。
 わたしはずっと見ていました。何かが通れば気付くはずです。

「本当に外へ?」
『ああ、間違いないはずだ』

 信じてみましょう。
 もし、見つからなかったらトラのせいにすることにします。

 出入り口のドアを開け、わたしとトラと知愛は店の外に出ました。

「トラ、わかる?」
『す……すまん……臭いがなくなってる……』
「ええ、それじゃあ、店の中にいるってことになるよね」

 しょせんは猫の鼻です。万能ではありません。

『あ、ちょっと待ってくれ……声を立てないでもらえるか』
「どうしたの?」
『シャーッ!』

 おそらく、静かにという意味の『シャーッ!』だと思うのですが、牙を見せて真剣な顔になったトラは初めて見ました。

『ほのか、道路の向こう側。公園の先の方でココアが助けを呼んでる!』
「ええ、わかるの?」
『ああ、間違いない! ココアの声だ』

 そう言ってトラは、勢いよく道路を飛び出し、走っていきました。

「道路の飛び出しは、危ないんだからね!」

 わたしはトラを怒鳴りつけます。ちょうど車が通っていなかったので大丈夫でしたが……猫カフェの側で、しかも開店初日に猫の交通事故などあった日には、不吉な猫カフェとうわさが流れてしまうに違いありません。

 とにかく、トラの後を追わなければいけません。
 わたしは知愛といっしょに、走ってトラを追いかけます。

『近道だ!』

 トラは、そう言うと、公園の茂みに突っ込み、強引に公園を横切ります。

 ああ、やっぱり猫です。
 話せるだけで、ただの猫です。
 わたしたちの事など、気にもとめていません。

 わたしと知愛は、道沿いにトラを追うしかありません。
 トラを見失わないように、公園の歩道を走って追いかけます。

 公園を過ぎると、トラの動きが止まりました。
 やっとのことでトラに追いついたわたしは、呼吸を整え、「もっと周りをよく見なさい!」と、トラを怒鳴りつけます。
 ですが、トラは知らんぷりでした。

『向こうから……ココアの臭いがする』

 トラが指し示す方向に、白の半袖と黒のジャージズボンの姿の青年がスポーツバックを持って歩いていました。
 そういえば、その青年の姿ははっきりと覚えています。
 彼は今日朝一でお店に来てくれたお客様でした。そして、ココアと遊んでいたお客様でもあります。

 ──まさか……。

 彼の持っているスポーツバックは、ココアが十分に入るほどの大きさです。
 わたしは、もしやと思い、その青年を追いかけました。

『たす……け……て……』

 その青年に近づくと、かすかに声が聞こえました。ココアの声です。
 わたしは、その青年のバックに当たりをつけ、話しかけます。

「お客様! 申し訳ございません。お客様の持っているバッグ、もしかすると別なお客様のものと取り違えているかもしれません。ちょっと確認しても、よろしいでしょうか」

 もちろん、うそです。ですが、こういう場合、このほうが自然です。

 青年はこちらに気付きました。
 そして、わたしを見た瞬間、バッグを抱えて走り出しました。

 ──逃げた!

『たすけて~!』

 今、はっきりとココアの声が聞こえました。確実にバッグの中にココアがいます。

『ほのか、あいつがココアを!』
「うん、わかってる。知愛ちゃん! 警察呼んで!」
「う……うん」

 わたしは全速力で走ります。これでも足は結構速い方です。
 あっという間に逃げる男に追いつき、ジャージの後ろ襟をつかみました。
 すると、男は抱えていたスポーツバッグを投げ捨て、「あああああ!」と、うなり声をあげながら激しく抵抗します。

 なんとか押さえ込もうとしますが、さすがに男の力です。そう簡単にはいきません。
 しょうがないので押さえ込むのはあきらめ、男を一瞬だけ突き飛ばし、ココアの入ったスポーツバッグめがけて走りました。

 スポーツバッグに手が届きます。
 わたしは、いそいでスポーツバッグのチャックを開けます。
 すると、予想通り、バッグの中にはココアがいました。
 ココアはプルプルと震えながら助けを待っていたようです。

「よかった……無事みたい……」

 わたしはココアをバッグからゆっくりと取り出します。
 ──その時でした。
 何か、首元に押し当てられました。

 その瞬間、火花の散る音とともに、わたしの体に痛みと痺れが走りました。
 ショックで意識が薄れていきます。

 薄れゆく意識の中で、ジャージの男とは別の、黒服姿の男の見ました。
 その男は、スタンガンを持っていました。どうやら、ジャージ男の仲間のようです。
 本当にうかつでした。

「うそ……スタンガン……ココアが……」
 わたしは、とうとう気を失ってしまいました。
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