もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

文字の大きさ
上 下
3 / 32
猫カフェ開店するニャ

第3話 接客開始だニャ

しおりを挟む
 ──開店初日──

 今日は日曜日、天気も、お店の開店を祝ってくれるかのような晴天です。
 時間はもう朝の9時。もうすぐ開店の時間です。飾りつけを終えて、店の中で待機します。

 猫サークルの方が二人、猫を連れて応援に来てくれました。

「きょ……きょうはよろしくお願いします」

 恥ずかしそうにあいさつをしたのは、ちょっとおとなしい天然の中学生『恵比寿知愛ちえ
 飼っている猫は、焦げ茶色のマンチカンで名前は『ココア(メス)』
 足は短いですが、小さくてとってもかわいい猫です。
 ココアは、軽くあいさつをします。

『よろしくなのニャ』
『『『ハイなのニャ~』』』

 うちの猫たちは、かわいいココアに目をハートにして群がります。今まで女日照り……もとい、メス日照りの彼らにとって、そのかわいさは少し刺激が強すぎるようです。なので、ちょっと釘を刺しておきます。

「もし、ココアちゃんに何かあったら……去勢……」
『『『そ……それだけばご勘弁を……!』』』

 わたしのその一言で、うちの猫たちは震え上がり、おとなしくなりました。とっても素直な良い子たちです。

 腰の曲がった優しそうなおばあさん『和島八重子やえこ』も応援にきてくれました。

「ほのちゃん。今日もかわいいねぇ」
「ありがとうございます、八重子さん。今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、わたしはいるだけですよ。主役はウメだしねぇ」

『助っ人にきたぜぃ』

 おばあさんが連れてきたねこは、タマと同じ真っ白な猫日本猫で、名前は『ウメ』
 ちょっと自信過剰気味な性格です。

 父は、なんだかそわそわしています。
 無理もないことです。
 自分の喫茶店が猫カフェになってしまったのですから、無理もありません。

 それと……言い忘れていましたが、一応、この5匹以外の猫とも話をすることができます。ただし、飼い主がいる手前、あまり面倒なことを言うのも気が引けます。それに、特別ゲストですからね。

 ──さあ、開店です。

「いらっしゃいませ!」

 お客様たちがご入場です。
 開店で並んでくれていた5名ほどのお客様が、ゆっくりと店内に入ります。

「へえ~。こんなところに猫カフェができたんだ」
「ほら、にゃんこいるよ」
「ねえ、猫は触っていいの?」

「ええ、もちろんです」

 お店の説明をして、店の奥のキャットスペースへ案内します。
 そこでは、猫たちがふわふわの絨毯の上で寝そべっています。

『に……人間がいっぱいニャ』
『訓練を思い出せ! いつものとおりにしていればいいんだ』

 タマとトラは少し緊張しています。

『高級猫缶食べたいニャ~』
『わたしはゲットしてみせますよぉ』

 ボブとロズは、高級猫缶をゲットする気満々です。

『へい、おれのダンスで魅了してやるぜ!』

 レンは、ラジオから流れる曲に合わせて不思議なダンスを踊っています。

「ママ~、この猫、変な踊りしてる~」
「へえ~おもしろいわね~」

 レンは、かっこいいダンスだと思っているようですが、お客様から痛い視線を受けているのに気が付いていません。

 ゲストのココアとウメは、気負っているわけでもなく、普通にしています。
 ココアは、白い半袖に黒いジャージズボン姿の青年に猫じゃらしでくすぐられています。
 とても気持ちよさそうです。
 ウメは、OLさんの膝の上で、猫なで声を上げながらくつろいでいます。
 これが自然な猫の姿でしょう。

「ママ~、この猫「ニャニャニャーン、ニャニャニャーン」って、変な鳴き方する~」
「へえ~おもしろいわね~」

『ネコカーン! ネコカーン!』
 ボブは、いじられながら、猫缶を欲していました。お客様には、言葉がわからないとはいえ、ちょっと見苦しいです。

 10時を過ぎると、お客さんがさらに集まってきました。
 応援を呼んでおいて正解でした。お客様の相手は7匹でギリギリです。

 父はちゃっかり3Dプリンタで、猫のストラップを作っていました。
 勝手に売りさばいています。こういうところだけは抜け目がない父です。



 しばらくして、カウンターにいる私のところへ知愛がきました。
 なんだかそわそわしています。

「ほ、ほのかさん……ココア、見ませんでした?」
「さっきまで、遊んでもらってたはずなんだけど……」

 カウンターを離れ、キャットスペースにいるタマにそれとなく聞いてみました。

「ねえ、タマ。ココア知らない?」
『そういえば、さっきまでいたのにいないのニャ』
「もし、見かけたら知らせてくれるかな?」
『わかったのニャ』

 タマは5匹の中ではしっかりしているので、任せても大丈夫でしょう。

「ママ~、このおばさん猫と話してる~」
「へえ~おもしろいわね~」

 親子で来店されているお客様に、会話している所を見られてしまいました。

 ──ええ、確かに猫と話しました。それに、わたしはまだおばさんじゃありませんし、おもしろくもないです!
 ……とは、口が裂けても言えません。さりげなく笑ってごまかします。

「ここにいないとすれば……控室にいないかな」

 ひとまず、知愛と二人で猫の控室をのぞきにいってみました。
 控室には爪とぎ用の洗濯板と、空の餌用トレイがあるだけで、ココアの姿は見当たりません。

「トイレ……かな」

 控室の奥の猫用トイレを調べます。

 うちの猫用トイレは、贅沢にも専用水洗トイレです。
 使い方は口頭で教えることができたので、しつけは楽でした。
 
「ココアちゃん、いる~?」

 声をかけてみました。すると、知愛は「まさか、流された!?」と、びっくりしたように声を上げました。

「いや、それはさすがに……」

 センサーで、猫がトイレの中にいるうちは、水が出ない仕組みになっています。それに、流されるほど大きな穴はありません。
 知恵は心配そうにトイレの穴をのぞきます。

「流されたら……詰まるよね……」

 知愛は、そう言ってしょんぼりします。

 その通りです。なので、その可能性は消えました。

「一体どこへ……」

 知愛は、目に涙を浮かべながらココアを探しています。

 店の中はそんなに広くはありません。
 隠れる場所は限られているので、すぐ見つかると思うのですが……このままだと、知愛が泣きだしてしまいそうです。

 ──早く何とかしないと……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢
ファンタジー
ある朝、ギルドが崩壊していた。 ギルド戦での敗北から3日、アドラーの所属するギルドは崩壊した。 ごたごたの中で団長に就任したアドラーは、ギルドの再建を団の守り神から頼まれる。 団長になったアドラーは自分の力に気付く。 彼のスキルの本質は『指揮下の者だけ能力を倍増させる』ものだった。 守り神の猫娘、居場所のない混血エルフ、引きこもりの魔女、生まれたての竜姫、加勢するかつての仲間。 変わり者ばかりが集まるギルドは、何時しか大陸最強の戦闘集団になる。

その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。 機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。 #725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。 その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。 ※小説化になろうにも投稿しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-

橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。 心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。 pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。 「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった

竹井ゴールド
キャラ文芸
 オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー  平行世界のオレと入れ替わってしまった。  平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。

処理中です...