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第一章
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「さ、お昼寝しよ、可愛い抱きまくらさん」
利都は、チカにひょいと抱き上げられ、身を固くした。
「はい、お姫様、ベッドに着きましたよ」
そう言って、チカがそっと広いベッドに降ろしてくれた。
「眠い。エコノミーの席だと寝た気がしなーい。でも俺貧乏性だから、いつも飛行機はエコノミーなんだよね。だって椅子にお金払うのって勿体無くない?」
チカは甘えるように言って、利都の傍らに横たわる。
「おいで」
抱き寄せられ、利都はおずおずとチカに寄り添った。
微笑みを浮かべたチカが、じっとしている利都の髪を幸せそうな笑顔で撫でた。
「はぁ……今日はほんとありがとね。爺さんとかオヤジとか、高明の相手してくれて。また遊びに行ってやって?」
「もちろんだよ。私の方こそいろいろご馳走になっちゃって……美味しかったってお伝えしてくれる?」
「えへへ、うん。あの爺さんがあんなにメロメロになるの、久しぶりに見た……」
利都の言葉にほほ笑みを浮かべ、チカがそっと目をつぶった。
そのまますうすうと寝息を立て始める。
――あれ、もう寝ちゃってる……そんなに疲れてたんだ……。
利都は小さく苦笑して、チカの肩に頭をくっつけて目をつぶった。
チカはどんなに疲れていても疲れたと言わないし、毎日遅くまで働いてアクティブだ。
しかし、海外出張中も働き詰めだったに違いないし、そのまま十時間以上のフライトで日本に戻ってきたばかりで疲れていないわけがないのだ。
これからは、彼の無理しがちな面をケアするのは利都の仕事になるのだろう。
――そうだよね、奥さんになったらチカさんを今よりもっと気遣わなきゃ。ただこの人に見とれて、甘えて、寄りかかってちゃダメなんだよね。
そう思うと、不思議と気が引き締まる気がした。
ただひたすらに憧れの王子様だった彼が、自分と同じ場所に立って、同じ方向を見ているように感じられる。
――大好きだもん……チカさんのこと大事にしたい。華やかな皆の王子様かもしれないけど、私にとってはたった一人の大事な人……。
目をつぶるとチカの体温が伝わってきて、利都もいつしか眠りに引き込まれていた。
どのくらい眠ったのだろうか。まだ外は明るく、毛布をかぶった体も温かい。
利都はよく寝たな、と思いながら目を開けた。
「おはよ」
ぼんやりしている利都にチカが微笑みかける。彼は起き上がると毛布をさっと剥がし、寝ぼけてぼんやりしている利都の花柄のシフォンスカートを無造作にめくった。
「きゃあぁ!」
驚きで、利都は一気に目が覚めた。
「このスカート可愛い。こんなの俺がいない時に履いて歩いてないよね?」
チカが眉根を寄せて真剣な表情で尋ねてくる。利都はあわあわと手を伸ばし、なんとかスカートを抑えようとチカに抵抗した。
「やだぁ! 恥ずかしいからめくらないでっ!」
「化繊のシフォンってメチャクチャ日に透けるんだよねぇ……こんなの絶対会社に履いて行かないでよ! 可愛いからってダ……メ……」
いつもの『お説教』を始めようとしていたチカが、違和感に気づいたようにもう一度スカートの中を覗き込む。
「もぉっ! チカさんてば、見ないで……っ」
スカートをめくられ覗きこまれたまま、利都は必死で足を閉じる。
今日はちょっと……恥ずかしいのだ。
何故なら、この前一緒にお茶した英里に『彼氏ができたなら可愛い下着を買うべき! この辺でいいお店知ってるから行こう! 私も買いたいから!』と強引に連れて行かれて店で買ってしまった、派手な下着を身に着けてきてしまったからだ。
何時もの利都ならちょっとだけレースの付いた白か水色の地味な下着を愛用しているのだが、今日は珍しくピンクだ。
しかも『薄手の服にブラやショーツのラインが浮くのを防ぎますよ』とお店の人に言われて買った、一万円以上する高価なスリップまで身につけてきている。
英里には『彼氏が帰ってくるときに着なよ! オシャレは見えないところからだよ?』などとおだてられてその気になってしまったが、ちょっと張り切りすぎて恥ずかしくなってきたので、後でお風呂に入るときにこっそり着替えようと思っていたのに……。
「なんか可愛いの着てる! 服脱いで見せてよ」
「い、嫌……」
「なんでぇ……? 疲れて帰ってきた俺をいたわってよ……」
妙に可愛らしい上目遣いで見つめられ、利都はごくんと息を呑む。こういうことをチカが言い出したら絶対に譲らないことはよく知っている。しかし今日の下着はちょっと、普段の利都からすれば頑張りすぎているのだ。
「き、今日のはちょっと派手だから……」
「そういうものこそ俺に見せるべきでしょ」
チカにきっぱりと言い切られ、利都は真っ赤になってしまった。
――ま、まあ、確かにそうだよね……。ちょっとだけならいいかな……?
そう思い、恐る恐るチカに尋ねる。
「わ、笑わない?」
「笑わないよ。どんな下着なの? 人の顔でも書いてあるの?」
「書いてないけど色がピンクで……」
「分かったよ。脱がせてあげる」
チカが小さく笑い、寝転がったままの利都の身体をひょいと起こし、セーターをするりと脱がせた。
それから利都の着ているスリップをめくり、何故か真っ先にタグを確かめて笑顔になる。
「おお、可愛いじゃん! 知ってるよこのメーカー。俺の友達のモデルさんが専属やってた。この辺のリバーレースはフランスでデザインしたやつなんじゃない? フランスのデザイナーと提携してるよね、このブランド」
下着に妙に詳しそうなチカが、今度は利都のスカートに手をかける。
恥ずかしさで俯いたまま、利都はされるがままに身を任せた。
「へー、いいじゃん。かわいいかわいい。いいなあ、女の子の下着って綺麗で。昔パリのレースの展示会に友達に連れて行ってもらったこと思い出しちゃった。目玉が飛び出るような高級レースが並んでてさ……」
無意識に利都の身体を撫でながら、チカが懐かしそうにつぶやいた。
それから我に返ったように、利都のむき出しの方にキスをする。
「ピンク似合うよね。めったにピンクの下着付けてくれないけど」
「ちょ、ちょっと、ピンクは可愛らしすぎるかなと思って」
「いや、似合う。俺には最高のプレゼントだよ。じゃあ、早速この素晴らしいラッピングを解かせていただきます」
唐突にチカがいい、ベッドの上に正座をして手を伸ばし、スリップの下に身に着けている利都のブラのホックを外した。
何をされるのかと利都は身を固くする。
「こういうの着たら、俺に何されちゃうのか教えてあげるね。綺麗だよ、すごく。綺麗すぎて興奮する……」
チカが身をかがめ、利都の耳に囁いた。
利都は、チカにひょいと抱き上げられ、身を固くした。
「はい、お姫様、ベッドに着きましたよ」
そう言って、チカがそっと広いベッドに降ろしてくれた。
「眠い。エコノミーの席だと寝た気がしなーい。でも俺貧乏性だから、いつも飛行機はエコノミーなんだよね。だって椅子にお金払うのって勿体無くない?」
チカは甘えるように言って、利都の傍らに横たわる。
「おいで」
抱き寄せられ、利都はおずおずとチカに寄り添った。
微笑みを浮かべたチカが、じっとしている利都の髪を幸せそうな笑顔で撫でた。
「はぁ……今日はほんとありがとね。爺さんとかオヤジとか、高明の相手してくれて。また遊びに行ってやって?」
「もちろんだよ。私の方こそいろいろご馳走になっちゃって……美味しかったってお伝えしてくれる?」
「えへへ、うん。あの爺さんがあんなにメロメロになるの、久しぶりに見た……」
利都の言葉にほほ笑みを浮かべ、チカがそっと目をつぶった。
そのまますうすうと寝息を立て始める。
――あれ、もう寝ちゃってる……そんなに疲れてたんだ……。
利都は小さく苦笑して、チカの肩に頭をくっつけて目をつぶった。
チカはどんなに疲れていても疲れたと言わないし、毎日遅くまで働いてアクティブだ。
しかし、海外出張中も働き詰めだったに違いないし、そのまま十時間以上のフライトで日本に戻ってきたばかりで疲れていないわけがないのだ。
これからは、彼の無理しがちな面をケアするのは利都の仕事になるのだろう。
――そうだよね、奥さんになったらチカさんを今よりもっと気遣わなきゃ。ただこの人に見とれて、甘えて、寄りかかってちゃダメなんだよね。
そう思うと、不思議と気が引き締まる気がした。
ただひたすらに憧れの王子様だった彼が、自分と同じ場所に立って、同じ方向を見ているように感じられる。
――大好きだもん……チカさんのこと大事にしたい。華やかな皆の王子様かもしれないけど、私にとってはたった一人の大事な人……。
目をつぶるとチカの体温が伝わってきて、利都もいつしか眠りに引き込まれていた。
どのくらい眠ったのだろうか。まだ外は明るく、毛布をかぶった体も温かい。
利都はよく寝たな、と思いながら目を開けた。
「おはよ」
ぼんやりしている利都にチカが微笑みかける。彼は起き上がると毛布をさっと剥がし、寝ぼけてぼんやりしている利都の花柄のシフォンスカートを無造作にめくった。
「きゃあぁ!」
驚きで、利都は一気に目が覚めた。
「このスカート可愛い。こんなの俺がいない時に履いて歩いてないよね?」
チカが眉根を寄せて真剣な表情で尋ねてくる。利都はあわあわと手を伸ばし、なんとかスカートを抑えようとチカに抵抗した。
「やだぁ! 恥ずかしいからめくらないでっ!」
「化繊のシフォンってメチャクチャ日に透けるんだよねぇ……こんなの絶対会社に履いて行かないでよ! 可愛いからってダ……メ……」
いつもの『お説教』を始めようとしていたチカが、違和感に気づいたようにもう一度スカートの中を覗き込む。
「もぉっ! チカさんてば、見ないで……っ」
スカートをめくられ覗きこまれたまま、利都は必死で足を閉じる。
今日はちょっと……恥ずかしいのだ。
何故なら、この前一緒にお茶した英里に『彼氏ができたなら可愛い下着を買うべき! この辺でいいお店知ってるから行こう! 私も買いたいから!』と強引に連れて行かれて店で買ってしまった、派手な下着を身に着けてきてしまったからだ。
何時もの利都ならちょっとだけレースの付いた白か水色の地味な下着を愛用しているのだが、今日は珍しくピンクだ。
しかも『薄手の服にブラやショーツのラインが浮くのを防ぎますよ』とお店の人に言われて買った、一万円以上する高価なスリップまで身につけてきている。
英里には『彼氏が帰ってくるときに着なよ! オシャレは見えないところからだよ?』などとおだてられてその気になってしまったが、ちょっと張り切りすぎて恥ずかしくなってきたので、後でお風呂に入るときにこっそり着替えようと思っていたのに……。
「なんか可愛いの着てる! 服脱いで見せてよ」
「い、嫌……」
「なんでぇ……? 疲れて帰ってきた俺をいたわってよ……」
妙に可愛らしい上目遣いで見つめられ、利都はごくんと息を呑む。こういうことをチカが言い出したら絶対に譲らないことはよく知っている。しかし今日の下着はちょっと、普段の利都からすれば頑張りすぎているのだ。
「き、今日のはちょっと派手だから……」
「そういうものこそ俺に見せるべきでしょ」
チカにきっぱりと言い切られ、利都は真っ赤になってしまった。
――ま、まあ、確かにそうだよね……。ちょっとだけならいいかな……?
そう思い、恐る恐るチカに尋ねる。
「わ、笑わない?」
「笑わないよ。どんな下着なの? 人の顔でも書いてあるの?」
「書いてないけど色がピンクで……」
「分かったよ。脱がせてあげる」
チカが小さく笑い、寝転がったままの利都の身体をひょいと起こし、セーターをするりと脱がせた。
それから利都の着ているスリップをめくり、何故か真っ先にタグを確かめて笑顔になる。
「おお、可愛いじゃん! 知ってるよこのメーカー。俺の友達のモデルさんが専属やってた。この辺のリバーレースはフランスでデザインしたやつなんじゃない? フランスのデザイナーと提携してるよね、このブランド」
下着に妙に詳しそうなチカが、今度は利都のスカートに手をかける。
恥ずかしさで俯いたまま、利都はされるがままに身を任せた。
「へー、いいじゃん。かわいいかわいい。いいなあ、女の子の下着って綺麗で。昔パリのレースの展示会に友達に連れて行ってもらったこと思い出しちゃった。目玉が飛び出るような高級レースが並んでてさ……」
無意識に利都の身体を撫でながら、チカが懐かしそうにつぶやいた。
それから我に返ったように、利都のむき出しの方にキスをする。
「ピンク似合うよね。めったにピンクの下着付けてくれないけど」
「ちょ、ちょっと、ピンクは可愛らしすぎるかなと思って」
「いや、似合う。俺には最高のプレゼントだよ。じゃあ、早速この素晴らしいラッピングを解かせていただきます」
唐突にチカがいい、ベッドの上に正座をして手を伸ばし、スリップの下に身に着けている利都のブラのホックを外した。
何をされるのかと利都は身を固くする。
「こういうの着たら、俺に何されちゃうのか教えてあげるね。綺麗だよ、すごく。綺麗すぎて興奮する……」
チカが身をかがめ、利都の耳に囁いた。
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