貴方の全てを愛してる

栢野すばる

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 ゲオルグは腕のいい武器屋と交渉して、近距離で使わねばならない代わりに今までよりも太く威力のある矢を魔蟲に打ち込む装置を作ってもらったり、魔法を使える若者を対策班に勧誘して、後衛として鍛えてきたりした。

 王宮の魔導師たちに交渉して、打ち込む矢に、古代の魔法書から見出されたという『魔蟲殺シ』の術を込めてもらったりもした。

 どうやら禁呪にちかい性質をもつ『魔蟲殺シ』の術は、大きく術士の力を損なうらしく、一年に一度くらいしか行使できないのだという。

 今、ゲオルグの手元にある『魔蟲殺シ』の矢は、希少品だった。

 ここまで備えても、いざとなったらどうにもならないかもしれない。『古い種族』が出てきたら、勝てないかもしれない。だが……貪り食われて死ぬ人間をぼんやり見ていることはゲオルグにはできなかった。班長の死に様を見て、選べた道は二つだ。怯えて逃げ出すか、自分が強くなり、彼の犠牲に報いる事を選ぶか。ゲオルグは、逃げたくなかった。自分の強さに自負があった。男として戦士としての道を選びたかったのだ。たとえ病に負けたとしても、最後まで男で、戦士でありたかったのに……

 ――本当に、余計な真似しやがってよ、この変態色男。

 しゅんとした子犬のようなリージェンスをひと睨みし、ゲオルグは再びぷいっと顔を背けた。

 ゲオルグが育てた部下の中でも、リージェンスの実力は突出していた。魔術師としても狩人としても誰より才能がある若者、ただし、戦い方が投げやりすぎる。それがゲオルグのリージェンスに対する評価だった。

「……行ってきます」

 思わず『気をつけていけよ』と言いかけて、ゲオルグは慌てて唇を噛み締めた。なんで強姦魔を慰労してやらねばならないんだ、葛藤しつつ、ゲオルグは小さい声で言った。

「季節も季節だ、どんな魔蟲が出るか分からねえからな。油断するな。俺の班長が十五年前に殺った古い種族は雌だった。卵を産んでたかも知れねえからな……」

 ゲオルグは知っている。魔蟲と対峙すれば、死ぬ可能性があることを、誰よりも良く、残酷な形で何度も教えられている。

 忠告は出来るときにしなければ、後悔するのだ。たとえ相手がクソみたいな自己中な理由で自分を『女』に変えた変態であってもだ。

「分かっています。貴方に何度も言われていますから」

 リージェンスが優しい声で言って、踵を返して家から出ていった。

 ――何故あんなクズ野郎に優しくせねばならんのだ。畜生。ああ……胸が揺れて邪魔くせえ! クソッ、洗濯が終わったらおっぱい触ろう。

 ゲオルグは自分の家からリージェンスが出ていくのを横目で見送り、破瓜の痕が残るシーツをベッドから思い切り引き剥がした。

 昨夜散々こぼれた汗の匂いがシーツから立ち上る。リージェンスに与えられた『屈辱』が蘇り、ゲオルグの体の芯がじんと疼く。

 ――クソ! 俺はイカされてねえからな……あの野郎、覚えていやがれ……!
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2020/2/20まで、毎日7:00と19:00にアップします。全話予約投稿済みです。よろしくお願いいたします。

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