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その夜、対策班の本部に手短に事情を報告した後、ゲオルグは一人で寝台にうずくまっていた。
――息が苦しい気もするな。気にし過ぎか。ま、ほっといてもどんどん苦しくなるんだろうな……ったく、いっそのこと、自分の首を掻っ切って死んでやろうか?
手足が冷たく、何もかもが心もとなかった。魔蟲と対峙し、死を覚悟したときですら、これほどまでの心もとなさを感じたことはなかったかもしれない。
――ったく、情けねえな。俺は戦士じゃなかったのかよ。病気ってやつは始末におえないね……
溜息を付いたゲオルグは、不意に勝手に開いた扉に愕然とした。
――俺、施錠したよな?
起き上がって身構えたゲオルグの目の前に現れたのは、リージェンスだった。
顔色が悪く、美しい顔は凍りついている。
「おい、リージェンス、どうやって入ってきたんだ?」
深夜だというのに、なぜ彼は家までやってきたのだろう。わけが分からず、ゲオルグはただそれだけを尋ねた。
だが、リージェンスはその質問に答えてはくれなかった。真っ青な顔で、横になったままのゲオルグを見下ろして、かすれた声で言った。
「俺を生かした責任、取ってもらいに来ました」
「はぁ?」
「何回も何回も死のうと思ったのに。魔蟲と相討ちになって終わろうと思ったのに、それなのに、異端者の俺をその度に助けたのは、貴方ですよ……ゲオルグ・フォーマン班長」
青ざめた顔でリージェンスが言う。
何を言われているのか分からず顔をしかめたゲオルグに、リージェンスは続けた。
「狩りのたびに生きて帰ろうなんて言われたら、うまい飯食わしてやるなんて言われたら、もっといい弩の構え方、休みの日に教えてやるなんて言われたら……俺は勘違いしますよ。責任、取ってください」
「何言ってんだ、おい、異端……者……って、なんのことだ?」
その問いに、リージェンスが薄く笑う。
「わかりませんか? わからないふり、されてるのかな……俺は、貴方しか愛せなかった。どんな女を抱いても愛せなかった。何人抱いても、だれにも心が動かなかった。ムリもないよな。認めたくないけど、俺は男しか愛せない異端者だったんだから。聞いて下さい。おれは貴方に惚れてんだよ。貴方は俺のこと強いって、可愛い部下だって、俺が剣を、教えてやるって……誰よりも強い貴方にそんな事言われたら、惚れるに決まってるだろ……? この国じゃ、男なんか愛したら死ぬしかないのにさ……」
「ちょ、おま、待っ……」
言いかけたゲオルグの襟元に、リージェンスの手が伸びる。圧倒的な力で胸ぐらをつかまれ、引きずり寄せられて、ゲオルグは思わずその手を振り払おうとした。
「……本当だ、班長、痩せましたね。痩せたと思ったんだ……なんか変だなって。飯食わないし、狩りの最中も、妙に息が荒いし……。そっか、病気だったんだ。でも俺が助けてあげる。班長は死なない。班長、俺が貴方に新しい身体をあげます」
「は……? 新しい身体……?」
あまりに突拍子もない話ばかりされて、頭がついていかない。
眉根を寄せたゲオルグに、リージェンスが囁きかける。
「そう、新しい身体……俺は……貴方だったら、女の子になっても愛せます」
――息が苦しい気もするな。気にし過ぎか。ま、ほっといてもどんどん苦しくなるんだろうな……ったく、いっそのこと、自分の首を掻っ切って死んでやろうか?
手足が冷たく、何もかもが心もとなかった。魔蟲と対峙し、死を覚悟したときですら、これほどまでの心もとなさを感じたことはなかったかもしれない。
――ったく、情けねえな。俺は戦士じゃなかったのかよ。病気ってやつは始末におえないね……
溜息を付いたゲオルグは、不意に勝手に開いた扉に愕然とした。
――俺、施錠したよな?
起き上がって身構えたゲオルグの目の前に現れたのは、リージェンスだった。
顔色が悪く、美しい顔は凍りついている。
「おい、リージェンス、どうやって入ってきたんだ?」
深夜だというのに、なぜ彼は家までやってきたのだろう。わけが分からず、ゲオルグはただそれだけを尋ねた。
だが、リージェンスはその質問に答えてはくれなかった。真っ青な顔で、横になったままのゲオルグを見下ろして、かすれた声で言った。
「俺を生かした責任、取ってもらいに来ました」
「はぁ?」
「何回も何回も死のうと思ったのに。魔蟲と相討ちになって終わろうと思ったのに、それなのに、異端者の俺をその度に助けたのは、貴方ですよ……ゲオルグ・フォーマン班長」
青ざめた顔でリージェンスが言う。
何を言われているのか分からず顔をしかめたゲオルグに、リージェンスは続けた。
「狩りのたびに生きて帰ろうなんて言われたら、うまい飯食わしてやるなんて言われたら、もっといい弩の構え方、休みの日に教えてやるなんて言われたら……俺は勘違いしますよ。責任、取ってください」
「何言ってんだ、おい、異端……者……って、なんのことだ?」
その問いに、リージェンスが薄く笑う。
「わかりませんか? わからないふり、されてるのかな……俺は、貴方しか愛せなかった。どんな女を抱いても愛せなかった。何人抱いても、だれにも心が動かなかった。ムリもないよな。認めたくないけど、俺は男しか愛せない異端者だったんだから。聞いて下さい。おれは貴方に惚れてんだよ。貴方は俺のこと強いって、可愛い部下だって、俺が剣を、教えてやるって……誰よりも強い貴方にそんな事言われたら、惚れるに決まってるだろ……? この国じゃ、男なんか愛したら死ぬしかないのにさ……」
「ちょ、おま、待っ……」
言いかけたゲオルグの襟元に、リージェンスの手が伸びる。圧倒的な力で胸ぐらをつかまれ、引きずり寄せられて、ゲオルグは思わずその手を振り払おうとした。
「……本当だ、班長、痩せましたね。痩せたと思ったんだ……なんか変だなって。飯食わないし、狩りの最中も、妙に息が荒いし……。そっか、病気だったんだ。でも俺が助けてあげる。班長は死なない。班長、俺が貴方に新しい身体をあげます」
「は……? 新しい身体……?」
あまりに突拍子もない話ばかりされて、頭がついていかない。
眉根を寄せたゲオルグに、リージェンスが囁きかける。
「そう、新しい身体……俺は……貴方だったら、女の子になっても愛せます」
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