貴方の全てを愛してる

栢野すばる

文字の大きさ
上 下
1 / 18

1

しおりを挟む
 ゲオルグは、我が身の異変に耐えられずに歯を食いしばる。

 三十八年も男として……その半分以上の年月を、人並み以上に頑強な身体を誇る戦士として生きてきた自分が、『少女』に変わってしまったなんて、信じたくない。対・魔蟲対策班長として、国内でも指折りの戦士として、この状況を受け入れるなんてできない。

 女になった自分を抱こうとしている青年を睨みつけ、ゲオルグは腹の底から思う。

 ――お前は俺の一番買ってる部下なんだ。誰よりも強くて、才能がある。だから……自分を破滅させるような真似はやめてくれ。

 ゲオルグは、桜色の爪の生えた真っ白な手で、のしかかる青年の身体を押しのけようとした。

 しかししなやかな体は、絡みつくようにゲオルグから離れない。

 ――俺はお前がやけっぱちな戦い方を止めて、命を大事にしてくれればよかったんだ……なのにお前はいつだって生き急ぎやがって……何なんだよ!

 ゲオルグは、小さな拳で青年の肩を叩く。だがその一撃は、今までのゲオルグの一打の、十分の一ほどの威力もなかった。

「離せ……馬鹿野郎……っ」

 無理矢理女の子に変化させられた身体から、甘く澄んだ声が漏れる。

 必死に訴える声は、聞き惚れてしまうくらいに愛らしい、可憐な声だ。

 自分の体の異変を受け入れられないまま、ゲオルグは青年の体の下で必死にもがく。

 いつの間にか、短く刈り込んだはずの髪は波打つ長い黒髪に、血液の病で痩せてたるみ始めていた皮膚は、つややかで張りのある、絹のような質感に変わっていた。

「女体化の禁呪なんか使ったら、他の女を抱けなくなるんだぞ。これからお前には結婚とか、子供とか、未来があるだろうがっ! どうすんだよ……ッ」

「いりません」

「いりませんじゃねえよ、リージェンス! 考え直せ! 俺には禁呪に手を出してまで助けるような価値はねえ!」

 ゲオルグの上で、リージェンスと呼ばれた男が薄く笑った。

 忘れな草を溶かしたような青い瞳が、まるで恋する男のように一瞬だけ緩み、美しい少女に変貌したゲオルグの姿を映す。

「俺の命の価値は、俺が決めます。俺の命は、貴方に使います……さあ、ゲオルグ班長、これが貴方の新しい体、新しい命です。今度は俺が、班長を助けます」

「バカ……野郎……ッ!」

 女体化禁呪の噂はゲオルグも聞いたことがある。

 力ある魔導師でも、生涯に一度しか使えない程の大技で、使える術士は男性に限定されるらしい。

 しかも、この術を用いた術士は、術を施し、女体に変えた相手としか肉体関係を持つことができなくなるという。

 その禁を破れば、術士の体は爆散すると言われているのだ。

 冗談のような話だし、ゲオルグも半分は噂話だろうと思っていた。

 ――だが俺は女になっちまってる……夢でなければ、いや、夢じゃねえ、夢じゃねえよ、これは。

「お、おい、挿れんな……」

 足の間に、熱く昂ったものが押し当てられている。重たく揺れる乳房を片手で抑え、ゲオルグは白く細い足を必死で閉じようとした。

「やめろ、ばか、ここでやめれば引き返せるんだろう? な?」

「嫌です。術を完成させて、貴方の身体を『病のない健康な女の子』のものに変えます。だって、俺を生かしたのは貴方ですよ。あなたが好きだったのに。だから、ずっとずっと苦しかったのに……俺を一人で置いて行かないで下さい。俺を未練がましく生きながらえさせた責任を取ってください。ゲオルグ班長……」

 リージェンスが、笑った。

 その笑顔はどこまでも透き通っていて清らかで……誰の話も受け付けない。そんな笑顔だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

大神官様に溺愛されて、幸せいっぱいです!~××がきっかけですが~

如月あこ
恋愛
アリアドネが朝起きると、床に男性のアレが落ちていた。 しかしすぐに、アレではなく、アレによく似た魔獣が部屋に迷い込んだのだろうと結論づける。 瀕死の魔獣を救おうとするが、それは魔獣ではく妖精のいたずらで分離された男性のアレだった。 「これほどまでに、純粋に私の局部を愛してくださる女性が現れるとは。……私の地位や見目ではなく、純粋に局部を……」 「あの、言葉だけ聞くと私とんでもない変態みたいなんですが……」 ちょっと癖のある大神官(28)×平民女(20)の、溺愛物語

処理中です...