愛されるのもお仕事ですかっ!?

栢野すばる

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1巻

1-3

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 優しくベッドに横たえられて、華はシーツを握りしめた。
 外山が華の頬をそっと引き寄せ、再び唇を奪った。
 ――こういう行きずりみたいな関係の場合は、キスは絶対しないって人もいるらしいけど、外山さんはしたいほうなのかな……? 
 ためらいを覚えつつ、華は少しだけ唇を開けてそのキスに応えた。執拗しつように感じるくらい情熱的なキスに、華は小さく身じろぎする。
 外山の大きな手が迷うことなくバスローブの腰紐にかかり、ゆっくりとそれを解いた。
 やはりいざとなるとづいて身体が強張こわばってしまう。華は引きつった顔を見られないため下に向け、かすかに震える腕で外山のバスローブの袖をつかんだ。大丈夫だというように、外山がそっと華の湿った髪を撫でてくれる。本当は怖くてたまらないことを、外山に見透かされているようだ。
 外山の手で脱がされたバスローブが、肌の上を滑り落ちていく。彼は手を伸ばし、ベッドサイドのスイッチで部屋の明かりを落とす。
 華は淡い明かりに満たされたベッドの上で、胸を両手で隠したまま身体を固くしていた。

「力を抜いてください」

 外山が呟くように言って、そっとひたいを撫でてくれる。とても紳士的な触れ方だ。

「触っていいですか」
「はっ、はい、どうぞ……」

 間の抜けた返事をしてしまったと思う間もなく、外山の指が、華の足の間に滑りこんだ。二本に揃えた指が、華の固く閉じた花芯を柔らかくもてあそぶ。

「や、あ……!」

 下腹に強い掻痒感そうようかんが走る。甘ったるい声を上げそうになり、華は慌てて言った。

「っ、手が汚れますから、あの」

 すると外山が華のむき出しの下腹部をもう一方の手のひらで愛撫しながら耳元でささやいた。

「ほぐさないと、痛いと思いますよ」
「私、別に、痛くても大丈夫……んっ」

 静かに、とでも言うかのように、華の唇がふさがれた。僅かな光に浮かび上がる冷静な表情とは裏腹に、とろけるほど優しいキスだ。
 思わず外山にそのまま身を任せそうになり、華は気づかれないようにぎゅっとシーツをつかんだ。こんなに簡単に気を許してしまいそうになるなんて、どうかしている。
 外山の言葉どおり、ほぐすように指が華のつぼみの奥にゆっくりと押し入っていく。
 華はかすかに腰を浮かして、声を漏らした。

「ん……ふ……」
「痛くないですか?」

 穏やかに聞かれ、華はつい素直にうなずいてしまった。
 外山の指が、完全にぬかるみに沈み込むと、別の指で巧みに小さな芽をこすられて、得体のしれない熱が下腹部に蓄積されてゆく。

「……っ、あ、ああっ」

 外山のたくましい肩をつかみ、華は乱れそうになる呼吸を必死でこらえた。

「まだきついですね。もう少し、指でしましょうか」
「やぁ……っ、も、大丈夫……っ」

 開かれた足の間に外山の身体があるので、足を閉じることもできない。華は必死で声をこらえ、膝を震わせて指先でもてあそばれる時間をやりすごす。
 やがて足の間からぬるい蜜がわきだした。その蜜が外山の指に絡まって、はしたない水音を立てているのがかすかに聞こえる。

「あ、あぁ……やぁ……っ……と、やま、さん、っ」

 こんなふうに丁寧に責め立てられたら、おかしくなりそうだ。

「っ、もう、やめ……」

 情けない声が出てしまった。華は外山にしがみついたまま、小さい声で懇願する。

「好きにして、いいから、ゆ、指、やめ……」
「俺は今、好きなようにしてるんですよ」

 外山が耳元でささやいた。下腹部を触っていたもう片方の腕が、優しく華の腰を抱き寄せる。華の長い髪に頬をすり寄せ、外山が言った。

「伊東さんは、髪も肌も本当にきれいですね」

 しみじみとした口調に、華は涙ぐんだまま首を少しだけ横に振った。

「な、何……言って……」

 ぬちゃ、というひときわ大きな音を立てて、外山が中で指をかき回した。華は再び腰を浮かしそうになる。

「っあ、ダメ、外山さぁ……ッ」

 外山の指がひくつく花襞を何度も擦り、さらに奥へ忍び込んでゆく。身体を甘く責め立てる指から、そして自分の身体が立てるみだらな音から逃れようと、華は必死で腰を引いた。

「お願い、もう、指、ヤダぁ……っ……」

 ぬるりと媚壁を擦る指の感覚に耐えられなくなり、華は涙ぐんだままイヤイヤと首を振った。

「や、あぁ、ッ、もう、恥ずかし……っ、指、やぁ……ッ」

 身体を揺するたびに、まとわりつくような水音が聞こえる。
 その音が自分から聞こえているのだと思うと羞恥でどうにかなりそうだ。

「もうそろそろ、いいかな」

 華の中を行き来していた指がずる、と抜かれた。外山はさっき持ってきたコンビニの袋から避妊具を取り出して、口でその端をくわえてパッケージを引き破る。

「っ、ふ」

 流れ出した涙を隠そうと、華は腕を上げて必死で手の甲で顔を覆った。

「泣かないで」
「な、泣いて、な……」

 華の精いっぱいの虚勢に、外山がかすかに喉を鳴らして笑った。そして涙目で唇を噛んだ華に軽くキスをして、濡れそぼった蜜口に硬くなった先端をあてがう。

れますね、痛かったら言ってください」

 硬く大きな茎が、じゅぶじゅぶという音とともに、圧倒的な存在感を伴って華の中に埋まってゆく。華は思わず身体をよじって、あえぎ声を漏らした。

「あ、あーーっ……なんか、おっき……っ」

 当惑と同時に、甘いうずきが身体の中を走り抜ける。開かれた足から、どんどん力が抜けていく。

「このまま俺につかまってていいですよ」

 華の腰をさらに抱き寄せながら、外山が優しく言った。
 熱いかたまりが、耐えがたいほどの圧迫感で華の下腹部を押し広げていく。
 気づけば華は汗だくになって、外山の身体にすがりついていた。むき出しの乳房が彼の胸板で押しつぶされ、先端がその刺激でとがり始める。

「っ、うぅ、っ……外山、さん、あの、……っ」
「もうこんなに濡れてる。可愛いですね、素直な身体で……もう少し、挿れますね」

 華の首筋に頬ずりしながら、外山が言った。
 ――ま、まだ奥まで入ってないの、嘘……
 肉杭が蜜襞にこすれる生々しい音が華の耳に届く。中がきつくて限界かも、と思った瞬間、外山が華の耳元でささやいた。

「全部入りましたよ。どうですか」
「あぁ、だ、大丈夫……で、す、っ」

 蜜壺が彼のモノでいっぱいに満たされ、華はぎゅっと目をつぶった。

「軽く動いてみますね」

 中がぎちぎちで、裂けてしまいそうで怖い。だが、たっぷりとうるみ始めた内壁が、らすように抽送を繰り返す外山の動きを助けている。
 今までこんなに濡れたことがあっただろうか。自分の身体の変化に戸惑い、華は思わず声を上げた。

「あ、あ……っ、やあ……!」

 みっちりと彼を受け入れた身体の中が熱い。外山が動くたびに抑えようとしても声が漏れ、華は必死に自分を叱咤しったした。
 ――こんな声、出しちゃダメだってば……
 そうは思うものの、与えられる刺激が強すぎて、どうすることもできない。
 だんだん、思考がとぎれとぎれになっていく。

「っ、あ、あ、外山……さ……」

 肌がこすれ合うとお互い一糸まとわぬ姿なのだと思い知らされて、恥ずかしくてたまらない。なのに、くちゅりという音が聞こえるたび、お腹の奥のうずきが止まらなくなってしまう。

「気持ちいいですか?」

 華の身体を気遣っているのか、ゆったりとした抽送を繰り返しながら、外山が尋ねた。

「あ、っ、あ……の……」

 華の身体の奥が、不意に、熱くたかぶった外山のモノでぐいと突き上げられる。

「ひぃ、っ」

 花芯の最奥をえぐられる快感に思わず身体が跳ね、弾けるように乳房が揺れた。華はって外山の二の腕を握りしめる。
 その反応を良しと見たのか、外山が華の足を限界まで大きく広げさせ、何度も奥を突き上げた。グチュグチュというあられもない音が響き渡り、ますます羞恥心しゅうちしんが高まっていく。

「こうされると、気持ちいいですか?」
「っ、あ、べ、別、に」
「こんなエロい音を立ててるのに、そうでもないんですか?」

 意地の悪い言葉に、華の目にまた涙がにじんだ。素直に答えないと許してもらえなそうだ。

「……っ、気持ちいい……です……」

 ようやく絞り出した言葉と同時に、華の目からぼろりと涙がこぼれ落ちる。
 クス、と笑い声が聞こえた気がした。そして華の唇が、外山の唇で優しくふさがれる。
 華は外山の背中に腕を回し、もう一度すがりついた。抱きかかえるような体勢に変わると同時に、今度は剛直したモノで優しく小さな芽を擦られて、耐えがたいほどの快感が走る。

「っ、やぁぁっ、や、ヤダ、ダメ、そんなとこ……ダメ……っ」

 外山の唇を振りほどき、華はうるんだ視界のまま訴えた。

「う、う……」

 身体を翻弄ほんろうされて、涙がとめどなくあふれてくる。ぼろぼろ涙を流して泣いている華の唇に執拗しつようなキスを繰り返しながら、外山がため息のような声で呟いた。

「俺も気持ちいいです、なんだか、本当に……貴方が可愛くて」

 耳元でささやかれた瞬間、再び外山のモノが奥へと入り込み、華の蜜壁がぞわりとうごめく。気づけば華は自分から小さく腰を振っていた。恥ずかしいからこんな真似をしたくないのに、身体が勝手に動いてしまう。

「あ、あ……っ、あ……」

 ねだるようなか細い声にあおられたのか、外山がさらに強く華の身体を抱き寄せる。

「さっきよりいい声になりましたね、伊東さん。俺……どうにかなりそうだ」

 そう呟き、外山の手が華の乳房から腹、そして太ももにかけて楽しむようにゆっくりとすべり落ちていく。

「こんな身体をしていたら、朝まで俺に泣かされても文句は言えませんよ」

 外山が華の腰を手でつかみ、容赦なく身体を動かす。どろどろに濡れた秘裂に、繰り返し昂った剛直をねじ込まれる。

「っ、やぁ、そこ、ヤダ、深い……っ……」

 けた杭に何度も隘路あいろを行き来され、閉じ合わさった肉襞を執拗しつように押し広げられて、華は唇を噛んだ。これ以上乱れた姿をさらしたくない。勝手に漏れてしまう声を聞かないで欲しい。

「もう、嫌……ヤダ……変になっちゃうから……っ……」

 華の唇から、うわ言のように哀願の言葉がこぼれでる。
 力の入らない身体をらすように突き上げていた外山が、汗のにじんだ顔で笑った。

「なんで嫌だなんて言うんですか、貴方だってまんざらでもなさそうなのに」

 受け入れた彼のモノが華の中でますます硬く熱を帯びる。外山の熱で、身体の芯があぶられて、身も心も溶けてしまってどうにかなりそうだ。分厚い身体と絡み合いながら、華は吸いつくように外山の首筋に顔をうずめた。

「っ、ああ……っ、やァ……っ」
「そんなに締めつけないでください。意外と貪欲だな」

 外山がそう言って、ぎゅっと華の身体を抱きしめた。

「でも、こうやって貴方が乱れる姿、悪くないです」

 乳房が、外山の厚い胸板で押しつぶされる。
 外山のなめらかな肌に包まれると、身体と身体の境目がなくなっていくような気がしてしまう。

「貴方の中、めちゃくちゃ熱い。今、そんなに、いいですか?」
「あ、あ、ちがっ……」

 華はその言葉にあらがおうと必死で首を振った。

「こんな状態で否定されると、逆にめちゃくちゃそそられる……」
「なん……で……ヤダ……ぁ……」

 貪欲とか、まんざらでもなさそうとか、外山がささやく言葉はどれも華の心情としては納得しがたい。
 なのに、外山にむさぼられる身体は彼の言葉を肯定し、灼けるような愛撫を従順に受け入れている。
 自分ではもうどうすることもできない甘い快楽に押し流されながら、華は汗だくの外山にすがりついたまま、意味をなさないあえぎ声を漏らし続けた。

「あ、あ……っ、ひぃ、っ」

 繰り返し激しく突き上げられて、花芯から身体の奥にかけてが、引き絞られるようにうずく。
 膝頭を震わせ、自分の指の背を噛んでこらえたけれど、もう限界だった。
 外山の汗が華の汗と交わって肌を濡らし続け、その発散される熱で全身を包みこまれるような感覚に襲われる。つらぬかれた身体の中がぐちゃぐちゃにとろけてゆく。
 さらに蜜があふれだし、華は力いっぱい外山にしがみついた。

「い、ぃ……っ、あ、ああ……っ、も、イッちゃ……っ」

 華の言葉に応えるように、外山が片腕で華の頭を抱き寄せる。
 まるで恋人に対するかのような優しいしぐさだった。
 大切に扱われているのが伝わってきて、二人の関係を勘違いしそうになってしまう。
 けるような雄茎の熱を散々味わわされた媚肉が、ぎゅうっと強く収縮する。

「ッ、あああーーーっ!」

 悲鳴を押し殺し、華は隙間なく外山と肌を合わせた。まぶたの裏に、無数の星が散る。

「伊東さん、すみません、俺も……」

 一瞬身体を強張こわばらせた外山が、大きく息を乱して、華の一番奥を探り当てながら動く。
 痙攣けいれんする蜜壁を味わうように動きを止め、外山は剛直を震わせて、ゆっくりと精を吐き出した。

「……っ、失礼」

 外山は華の身体から、力を失った自身を引き抜くと、脱力している華を抱き寄せた。
 汗ばんだ外山の胸に抱き寄せられたまま、華は弾んだ息を整える。
 温かい大きな身体に寄り添っていると、気がゆるんで強い睡魔に襲われた。

「大丈夫ですか?」

 外山の問いかけに、華はこくりとうなずいた。
 何か気の利いたことを言わなければと思うのだが、頭がぼうっとして何も思いつかない。

「もう泣いてないですよね? ……顔を見せて」

 大きな手で頬を支えられ、華は涙でグシャグシャの顔を上げた。こんな顔を見せるのは恥ずかしいのにと思う。だが、奇異な目で見るどころか外山は微笑んでいた。見たことがないくらい、優しい表情をしている。

「失礼」

 ティッシュで足の間をぬぐってもらい、華はぼやけた視界でかろうじてお礼を言う。こんなことまでしてもらうなんて、とは思うが、もう何をされても抵抗する気力もない。
 外山が起き上がって、自分の身体の始末を始めた。華も起き上がろうとしたのだが、身体に力が入らない。口を開くのすらだるいくらいだ。

「冷えますから、これを着て」

 さっき脱がされたバスローブを着せてもらい、華は目をつぶった。

「眠ってていいですよ」

 うとうとしかけた華の耳元で、外山が華の髪を手でいとしむように撫でながらささやいた。

「ありがとう……」

 素直にそう答え、華はそのまま意識を手放した。


 ――あれ? 武史泊まっていったの? 珍しい。
 寝ぼけた華は、男の腕の中で目を覚ました。人肌は気持ちいいな、と思ってもう一度目を閉じかけ、あることに気づいてバチッと目を開ける。大柄なたくましい身体は武史のものではない。
 だいたい、武史とはもう別れているではないか。
 状況を把握した華は布団の中で凍りついたまま、添い寝をしている男の顔をじっと見つめた。
 その端整な寝顔にしばらく見とれた後、サーッと血の気が引いていく。
 ――あああ。なぜこうなった……! 
 早朝明るくなったホテルの部屋を一瞥いちべつした瞬間、華の全身に冷や汗がにじんだ。
 人生初めての『行きずりの夜』がどうやら明けたようだ。
 外山が目を覚ましたら、なんと挨拶をすればいいのだろうか。
 ――昨日はお疲れ様でしたって言えばいいのかな。ちょっと間が抜けてるかも。どうしよう。
 寝顔をうかがいながらじっとしていると、外山が気配に気づいたように目を覚ました。

「お、おはようございます」
「おはようございます」

 外山がそう言って手を伸ばし、縮こまっている華の頭を胸に抱き寄せ、髪を撫でた。
 華は息を呑む。外山とベッドの中で密着して髪を撫でられているなんて、想像を絶する状況だ。

「伊東さんの髪の手触り好きだな、俺。シルクみたいできれいですよね」

 やはり優しい声音だった。寝起きだが、機嫌はいいようだ。

「髪はずっと伸ばしてるんですか? 初めて会った時からずいぶん伸びましたよね」
「伸ばしてると、それなりにまとまるから、美容院にこまめに行かなくてもいいので……」

 ――どうでもいいこと言っちゃったな……
 思わず目をつぶった華の言葉に外山は笑って、そっと身体を離した。

「なるほどね。ところで、シャワー浴びませんか?」
「お先にどうぞ、私は後で」
「一緒に行きましょう」
「あ、あのっ、お風呂一緒に入るのは、さすがに恥ずかしいんですけど」
「いいじゃないですか、今日くらい」

 華はこぶしを口に当て、外山の言葉を反芻はんすうする。『今日くらい』とはどういう意味なのだろう。
 奮発していいホテルに泊まった記念すべき日という意味だろうか。

「あれ? もしかして今さら照れてるんですか」

 からかうように言われ、華は反射的に首を振った。こんな情事に慣れていそうな彼に、お子様だと思われるのはちょっとしゃくだ。

「い、いえ、違います……」

 だが、華の答えに、外山は口の端を吊り上げて笑っただけだった。余裕しゃくしゃくの態度だ。外山の笑顔にひるんだ隙にベッドから引っ張りだされ、華はシャワーブースに連れ込まれてしまった。

「脱ぎましょうか」

 華のバスローブに手をかけて、外山が言った。

「た、タオル、タオル……巻かせてっ」
「昨日見ましたよ」
「ダメですっ!」

 慌ててタオルで身体の前を隠し、もう一枚を外山に差し出した。

「これ巻いてくださいっ、か、完全に裸なのはちょっと」
「わかりました」

 外山は言われたとおりに腰にタオルを巻き、肩をすくめてシャワーブースに入っていった。
 ――と、外山さんは自分の身体に自信があるのかな? あれだけの体格なら無理もないけど……
 華は脱衣所でタオルを抱いたまま逡巡しゅんじゅんした。やはり外山と二人でお風呂だなんて抵抗がある。

「隠さなくてもいいと言ってるのに」

 華は頬を染め、からかうような笑みを浮かべる外山をにらみつけた。
 だが、いわゆる『大人の関係』を結んだ手前、今さら恥ずかしがるのは野暮なのかもしれない。
 華は葛藤の末ブースに入って扉を閉め、シャワーヘッドを手にとった。
 外山を警戒しつつ、背を向けたまま小さくなりながら身体を慌てて洗う。
 華の背中から耳元に唇を寄せた外山が、からかうようにささやきかけた。

「シャワーを貸してください」

 思わず悲鳴を上げそうになったものの、華は平静を装い大きな手にシャワーヘッドを握らせる。

「ありがとう」

 それを受け取り背後で頭を洗っていた外山が、突然華の背中にシャワーの湯をかけてきた。

「なっ、何するんですか!」
「寒いかと思いまして。大丈夫ですか」
「べ、別に、平気です」
「なら良かった」

 外山は相変わらず何を考えているのかわからない笑みを浮かべ、自分の頭の泡を流した。華はぜい肉のない身体に見とれそうになり、慌てて顔を背ける。
 ――うう、やっぱり断ればよかった……私のバカ! 早く出よう! 
 なるべく外山に身体を見られないよう背を向け、華はタオルを片手に抱いたままボディソープを肌に伸ばした。その瞬間、たくましい腕がぐいと華の身体を引き寄せてくる。
 一気に顔に血がのぼる。真っ赤になっているのを自覚しながら、華は悲鳴のような声で言った。

「やっ、ヤダっ、離してください……っ」

 突然裸の胸に抱きしめられ、華は赤面して叫んだ。
 背中に引き締まった胸の感触を感じ、心臓が早鐘を打つ。

「しっかり者に見えるんですけど、貴方は隙がありますね。まあ、そんなところも可愛いけれど」

 華のウエストに回った外山の腕に力がこもる。

「離し……」

 言いかけて、華は息を呑む。むき出しの尻と腰のあたりに、熱を持った硬いモノがタオル越しに押し当てられている。
 恥ずかしさのあまり爆発しそうになり、華は激しくどもりながら言った。

「ああああのっ、お、お風呂で何すっ」
「失礼しました」

 外山が照れ隠しのように少し身をかがめ、華の耳にキスをした。
 身体から力が抜けそうになる。昨夜さんざん彼の身体に馴染なじまされたせいか、触れられると心地良いというか落ち着くというか……だが、身体の声に素直に従ってうっとりしている場合ではない。
 ――お風呂出ましょうって言おう! それで、もう帰ろう。
 意を決して振り返った華のあごは、外山の大きな手であっさりとらえられてしまった。驚いて手の力がゆるみ、タオルが床に落ちてしまう。

「ん、く……」

 全裸になってしまった。タオルを拾わねばと思うのに、頭が真っ白になって動けない。

「はぁ……本当に隙だらけで参ったな……このまま帰す気には到底なれない」

 外山が、ため息をついて華の背中に手を回して抱き寄せる。
 むき出しの乳房が外山の裸の胸板に押しつけられ、その刺激できゅっととがった。
 かすかに声を漏らしそうになり、華は身体をねじって逃れようともがいた。下腹部には相変わらず、元気に存在を主張する外山のモノが腰に巻かれたタオル越しに当たっている。

「あ、の……離して……ください」

 泡だらけの裸の身体を抱きしめられ、恥ずかしさのあまり外山の顔をまともに見ることができない。

「離したくなくなりました」

 外山がそう言って、再び華の唇をとらえ、噛みつくような勢いでキスをしてきた。
 ――ど、どうしよう……どうしよう……
 外山は手にしたシャワーヘッドをフックに戻すと、両腕で華の身体をさらにきつく抱きしめる。シャワーのお湯が頭から降ってきて、華の身体の泡を洗い流した。
 華は戸惑いながら、外山の二の腕に指をかけた。腰を抱いていた手が、華の鋭敏に反応している乳嘴にゅうしに伸びる。シャワーの湯で温められ、桜色に染まったそこを、外山の指がきゅっとつねり、らすように指先でしごいた。もう一方の手は逃がさないとばかりに華の腰を抱いている。

「んん、っ……ふ……」

 唇を奪われたまま、華は思わず声を上げる。
 外山の腕に爪を立てそうになり、肌を傷つけまいと指先をわななかせた。
 乳房をいじっていた外山の指がいつくしむように滑り降り、華の足の間の柔らかな毛を軽く引っ張る。

「ん、ん……っ」

 甘い声が華の唇の端から漏れる。足に力が入らない。華は胸を外山に押しつけ、彼の身体にすがりついてしまった。

「や、やめて……」
「すみません。無理です」

 華の力ない抗議に、外山は謝りつつ、悪びれもせず拒否の言葉を口にする。
 たかぶったモノが、華の腹のあたりでますます主張を強める。息を呑んだ華の腰から手を離し、外山はシャワーを止めた。そして、ブースの外へ華を引っ張り出す。

「やっぱり、もう一度貴方を抱きたい」

 置いてあったフカフカのバスタオルで、外山が華の身体をそっとぬぐう。
 昨夜散々味わった陶酔が、華の身体に生々しくよみがえった。
 やめて、と言いかけた言葉が喉を滑り落ちてどこかへ消える。
 ――どうしよう……私の身体、どうしちゃったの? 
 葛藤しているのに、外山を突き放せない。きっと本気で嫌がれば彼はやめてくれるのに。
 昨夜のように軽々とお姫様抱っこをされ、華は必死に胸を隠した。
 華の身体が、そっとベッドに降ろされる。外山がベッドサイドのコンビニの袋に手を突っ込み、新しい避妊具のパッケージを取り出して引きちぎる。

「あ、あの、私、やっぱり、あの……」

 どうにかしてこの状況を変えようと声を絞り出すが、外山の眼差しに射すくめられて最後まで言うことができない。

「……きれいな足ですよね。足だけじゃなくて、全部きれいだ。……俺はずっと、会社のやつらが貴方を気立てのいい子だとか、可愛いとか言うのが嫌だった」

 ゴムを付け終わり、華の足に手を掛けて広げながら、低い声で外山が呟く。
 最後のほうがよく聞こえなくて、華は小さな声で尋ね返した。

「な、なんですか?」
「なんでもありません。ああ、こんなところまで、全部きれいだ」

 ゆっくりと華の足を広げ、外山がうっとりと言った。
 ――な、何してるの、……ッ! 
 驚いて足を閉じようとしたが、太ももにかかる外山の手の力が強くあらがえない。

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