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校外授業という名の元に、青々とした緑の迷路を抜けると、そのにはポツンっと涼やかな園庭がありました。

こじんまりとした園庭でしたが、草花は綺麗に整えられ、小さな噴水もあり、数人がお茶をするには十分な広さと言えるでしょう。

むしろ、草木で王宮内からの視線を外し、へんぴな場所にあるこの園庭は、なるべく人目につきたくないアステリアにはピッタリ。

アステリアは両手を広げて、10数年ぶりの外の空気を大きく吸い込みました。
新鮮で違和感しかない空気を。
ふーっと静かに息を吐き捨てると後ろに控えていたトリスタンに尋ねました。

『よくカイルが許したね。』

10年もの間、アステリアを特別な部屋に閉じ込める程に心配性な王子が、王宮の中とはいえ外に出る許可をくれたのは意外でした。

「いつまでも中に閉じ込めておくわけにはいきませんからね。」

トリスタンの言葉にうんうんと頷きながらも、アステリアは気づいていました。
園庭を包むこの空間に王子の魔法がかかっている事を。
少し懐かしく、触れ慣れたこの空気にアステリアが気づかないはずがありません。

ずっと見られているような感覚がするのに、不思議と嫌な気持ちにはならず、嬉しいとすら思っていました。

『毒されてるな、私。』
「……?何かおっしゃりましたか?」
『いいえ~、別に。』

自然と足が軽くなり、多忙になってしまった王子を側に感じながらアステリアは園庭を見て歩きました。
その間トリスタンは席の準備をしています。どうやらここで“校外授業”が行われるようでした。

『ここはなんだか綺麗ね。』 

足を踏み入れた時から不思議な気がしていましたが、光のあたり具合なのか、園庭に植えられた草木の色が銀色にも見えたのです。
噴水の水が弾いて余計に銀色の草木が輝いて見えます。

悪魔のアステリアに草花を愛でる趣味はありませんでしたが、純粋に綺麗だと思えたのです。

「大丈夫ですか?」
『ん、何が?』
「悪魔は銀が苦手だと聞いた事があります。気分を悪くされるのではと…。」
『あー、でもそれ迷信よ?銀が苦手な悪魔もいるけど、皆が皆そうじゃないわ。こんな綺麗な色なのに嫌ってたら勿体ないもの。』

輝く物を嫌う悪魔がいるのは確かでしたが、アステリアは正直嫌いではありませんでした。
銀色よりももっと輝く存在と常に一緒にいるのですから。

アステリアは腰をかがめ、銀色の草木の香りを嗅ぐ真似をしました。香りの良し悪しはいまいち分かりませんが、人間の真似事をしてみたくなったのです。


『お気に召しましたか?』


凛と透き通る声。

聞き慣れた声なはずなのに、何故かいつもより高めの声にアステリアは反応し、声をした方を振り向くと………

『え………?』

そこには王子とそっくりな“女性”がいたのでした。
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