運命の番

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お国違えば

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アレンが畳んだ白い布を運んでいると、レイドが意識のないアーシェンを腕に抱えて歩いてきた。

「アーシェン!どうしたんですか?」

具合でも悪いのかと心配する。

「今日はずっと連れ回してしまったので、疲れたようだ。部屋に寝かせてやってもいいだろうか?」

いやらしいことを色々して、気絶させてしまったとは言えない。

「なんだ、そうだったんですね。ちょうど今から家族の部屋のシーツを変えますので、アーシェンの部屋に行きましょう」

ん?王子がベッドメイクをするのか?

「アレン王子がそんなことまでしているのか?こちらの王宮は、人を見かけないが、失礼だが使用人はどうしているんだ?」

歩きながら、疑問に思っていたことを聞く。

「ここに使用人はいません。王宮内は浄化されますので掃除は必要なく。洗濯は主に父上が行っています」

あの暗殺竜人が洗濯係り?

「朝起きて、王宮内の聖泉に、各自洗濯物を入れます。短い時間で清潔になるので、外出前や仕事前に干しておくと、午後、父上が畳んで部屋の前に置いておいてくれます」

セーカはノア女王の物だけは、泉に入れる所から最後のベッドメイクまで、全ての工程を行うが、ウルシュ王と子供達については最低限らしい。
実にわかりやすい人だ。

セーカ不在時はアレンかアーシェンが代わりにやることになっている。今は神殿で絶賛謹慎中だ。

アーシェンの部屋に入る。窓辺にハープが置いてある他は、本が並んでいるだけで物がない。王宮と同じ白石の室内だ。机の上にはレイドが誕生日に贈った栞と婚約指輪の箱があり、胸が温まる。

アレンは手際良くベッドを整えた。そこに番を横たえて、水差しの水を換えてもらい部屋を後にする。

「食事は朝と夜は外注です。決まった食堂と契約をしていて、夕方になると、その日の夕食と、翌日の朝食分が届きます。受け取る際に、前日分の容器の返却をします」

昼は残り物か外食か、王宮の森になっている木の実や果物で済ませることもあるらしい。

人件費もかからず、余計な気も遣わなくていい。実に合理的だがグラーツ帝国の場合、毒物混入の恐れがあり、やってみたくとも真似できない。

イシスは結界内が浄化されるので、毒草が育たない。
森でレイドがセーカから受けた毒も、イシスに戻ったら体から消えていた。

「他の発注業務や建物管理、細々した仕事は、主に父上が行っています」

まるで召使いのようだ。同じ王の夫とは言えど、グラーツ帝国の皇配エナンとは、業務内容がえらく違う。

「それは、大変だな・・・」

「いえ、5人家族の小さな王宮です。特別行事も来客も、何の事件もありませんので。父は書庫などで過ごしている時間の方が長いですよ。先程も神殿に書物を差し入れてきました」

相変わらず、不機嫌だったそうだ。
今日のことを知られたら、今度こそ殺されるなと思った。

「それに父は、母の召使いになりに、この国に来ましたので、今の生き方が本望なんだと思います。今だから申せますが、レイド様が婿にならなくてよかったです。あなたがこの小さな国で、洗濯物をしまったり、文官のような細かい仕事をしている姿は想像できないし、適材適所ではないと、誰もが思うはずです。威厳がありすぎ頼みたいことも頼み辛いでしょう。大国の次期皇帝として、人々を掌握し采配を振るう姿の方が、はるかにしっくりきます」

純粋無垢な顔をしているが、やはり一国の王子。まだ13才だが、冷静で落ちついた観察眼を持っている。良い王様になるだろう。

自分が13才の頃は・・・アレン王子の足元にも及ばない、蛮行まみれだったので考えるのを止めた。

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