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祭りの終わり〜修行の始まり⁈
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「修行は祭りが終わってから始める。」
そう言うと師匠は僕らと一緒に収穫祭を楽しんだ。
そう、村の子供たち全員とだ!
初めは外から来た知らない大人、しかも獣人だから遠巻きに見ていたけど、あの「雷鳴の銀狼」だと知ると途端に人気者だ。
稀に村にくる「吟遊詩人」が必ず吟じるのが「雷鳴の銀狼と山賊の姫」の話しだからだ。
内容はラグル師匠と亡国の姫が元家臣の山賊を従えて、悪政で国民を苦しめる隣国の王を討ち取る話しだからだ!
「ネェネェ!あの話しは本当なの?」
「何の事だ?」
「お姫様とは何で結婚しなかったの?」
「だから何の話しだ?」
お祖母ちゃんに聞くと真相は、
「王」では無くて、「辺境の領主」で、「山賊」では無くて「町の荒くれ者」が本当で、
「姫」と言うのは、王都で城に仕えていたメイドが王族のお手が付いて、お腹が膨らんだのでヒマを出されて、城下で産まれた子なのだそうだ?
吟遊詩人がかなり脚色して広めた詩だから、歌う詩人によっては姫との恋物語を強調する者や、悪政を糾弾する様な内容だったり、痛快な剣劇の場面だけを歌う詩人など、色々と内容が違うけど最後に「姫」から、
「私を貴方のお嫁さんにして!」と告白されるんだけど、
「今は修行の身、ソレにアナタには俺の様なケモノの男など伴侶にすべきでは有りません。」
と言って去って行くのが、どの話しでも、この部分だけはお決まりの締めくくりなんだけど?
(ちなみにこの場面で年頃の女性は涙目になったり、溜息を漏らしたり、大盛りだけど、逆にそうならない吟遊詩人は腕が無いと言われてしまうらしいよ。)
「ああ、アレか。
それはな、嫁さんにもらっても、子宝に恵まれそうに無いから断った。」んだって!
お祖母ちゃんに聞いたんだけど、「銀狼の獣人族」は同じ種族で無いと結婚しても赤ちゃんが授からないみたいで、昔お祖母ちゃんたちに同行して旅をしていたのも、同族の女の人を探してたからなんだって。
この村に来たのも、旅に疲れたのでしばらくゆっくり休みたいと思っていた時に、お祖母ちゃんから村の用心棒兼剣術指南をたのまれたから、丁度良いからなんだって。
だから、この村のお姉さん達もお祖母ちゃんからその事を聞きていたので、お嫁さんに立候補する人は居なかったよ。
ただ他所の村から来てきた女の人は師匠が「雷鳴の銀狼」だと知って、途中から僕らも近づけないほどに、集まってきたんだ!
当の師匠は迷惑そうだったよ。
実は村にはこんな言い伝えが有って、祭りの最後の晩に、御神木の前で愛を誓うとその二人は幸せになれるって言われている
…って噂話を集客の為に広めたら、大変な事になって来て、お忍びで貴族のお嬢様も来ていたりしてます。
祭りには広場に「市」が開かれ、村の作物や民芸品が売られたり、外からきた商人も参加して色々な屋台料理がたべられたり、珍しい品物が売られたりと昼間は楽しかったんだけど、
(ちなみにお金はなんと師匠が僕らの分まで全部払ってくれたんだ!)
夜は早く寝て、綺麗に着飾ったお姉さんのお誘いから逃げていたよ。
「金なら、腐る程有る。
こういう時に使わないと、いつ使うのだ?」
こういうところも後々、村の皆んなから好かれる事になるんだろうけど、祭りの時は女の人にモテまくりだったので嫁探しを兼ねて祭り見物に来ていた他の村の男の人からは相当嫌われていたらしいよ、知らないけど?
祭りが終わった翌日から、村の周りに堀を作る作業が始まった、川から水を引き込むカタチで、対外的には「農業用水」だと言う事して。
掘り起こした土は堀の外側に積み固めて、少し高台になる様にし、誤って堀に落ちない様にしっかりと固めて「クローバー」の種を蒔いた。
コレで草が茂れば、遠目には堀だとは気付かれ難くなるそうだ。
出て来た石や岩も中に積み上げて土台になる様にして…
堀の内側は土砂が流れて削られない様に水が浸かっている部分には木材で補強して、
川から水を引き込む事で堀には「魚」が来るので、
高台の上から釣り糸を垂らしたり、川の上流から小舟で物を運んだり等、のどかな雰囲気を周りに見せて、コレが村の自衛の為の物だと思われにくい様にしていた。
間抜けにも夜間に祭りの稼ぎを狙った盗っ人が作業途中の堀に落ちて、足の骨を折って蹲って居たのを朝、作業に来た村人に発見された。
町の憲兵に引き渡したら、手配書が出ているお尋ね者で、後日賞金が貰えた。
お陰で、堀に渡す橋の材料の足しになった。
作業はあまり急いで作ると怪しまれるのではと、のんびり、それでいて丁寧にやっていた。
ソレでも春の種まきの時期には終わった。
ソレもコレも師匠のお陰だけど、
「コレも修行だ!」って、剣の素振り代りにひたすら鍬を振るっていた!
あの堀が出来たのは僕の修行の賜物と言ったとしても村の人は怒らないくらいだ。
初めの二年くらいは殆んどが、修行と称して「農作業」に明け暮れた。
師匠と共に「開墾」した田畑は、翌年の収穫を3倍にするだけの作物を実らせた。
この頃になると、村を出ようと思う若者はいなくなり、収穫祭で知り合って村に嫁に来たり、婿に来たりと村人の数は増えていった。
この地方を治める領主からも税の払いが良いと覚えが良くなったと村長が言っていたそうだ。
父さんが十五の誕生日に俺用の剣を作ってくれた。
少し前から木刀で、やっと本格的に「剣術」の指導を受けたのだ。
コレまでは、開墾中に出て来た岩なんかを拳で粉々に叩き割るなど、強靭な身体作りを主体にしていたが、やっとソレらしくなったと言うことも有り、コレまでに無いくらいの力作を「手向」にくれるそうだ?
「手向」って?
「お前、この村を出ろ。
近々村を出るラグルの旅に同行して、世の中を見て来い。」
今まで見た事の無い満面の笑みで父さんが言った?
「ん? 村を出る?
…あ! 悪い、俺は村で暮らすぞ。
実は子供が産まれるんだ。」
え?
ある月が美しい夜の事、
「えっ?」
そう言われて、世界から音が消えた。
「ハイ、赤ちゃんデス!
私のお腹に貴方の赤ちゃんがいるんです!」
そして、タケルやナリフ達によく似た天使たちが祝福の鐘を鳴らしなが、二人の周りを飛び回っている…天馬幻想が見えた。
涙を流して微笑んでいるのは、この村で機織りをしている「ハズキ」と言う娘さんで、普通の人だと思っていたが、
「祖父の話しでは、祖父の先祖に「黒狼族」の娘と子を成した人が居たそうです。
その所為かも知れませんね。」「結婚してください!順序が逆になってすまない、だけど大切にするから、共に生きてほしい!」
彼女が言い終わる瞬間にプロポーズする決断力が師匠らしい。
「ハイ、喜んで!」
「…って事が有ってな、明日からソッチの家で暮らすからな。
これからは年老いた義母上もいるので家族の為に生きたいのだ!」
『ラグル師匠、おめでとうございます!』
俺は心の底から叫んだ。
ハヅキさんは黒髪が綺麗な気立ての良いお姉さんで、
父親はあの日、ナリフの両親と同じ馬車に乗っていて盗賊に襲われて亡くなっている。
それから母親と二人で慎ましく暮らして居たけど、
村の特産物として彼女にしか作れない魔獣「ハミングバード・スパイダー」の糸で作った織物が好評で、
又、普段から村長一家とは家族絡みの付き合いでとても信頼されている人だ。
ナリフやカンナも実の姉の様に慕っている。
確かに、よく森の中で剣術の修練をしていた師匠やオレにお弁当とか差し入れてくれていたけど、
そんな仲とは知らなかったよ!
でもよかったね!
「…じゃ、オレ1人で行って来るよ!」
…しかし、母さんか子供が産まれるまでは村にいなさいと怒られてしまった。
ソレにしても、他種族とは子孫が残せないハズの「銀狼族」に子供が出来るとは?
でも、祖母に言わせると、
「銀狼族も黒狼族も元は同じ「魔狼族」から枝分かれした一族でね、
ソレとお祖母ちゃんも「魔人族」の血を引いているのよ。」
ん?
「ソレって、オレにも「魔族」の血が流れているんだ!」
「魔族では無くて「魔人族」ね、「魔人族」は人間で有りながら「魔力」が使えるのよ。
お祖母ちゃんは純粋な血統では無いから、その力は弱いけど、占いは「予知のチカラ」を利用しているのよ。」
「ソレって「魔法使い」って事だよね?」
「魔法使いは「呪文」など唱えて「魔法」を使っているでしょ、魔人族は「魔法」では無くて「魔力」を使っているのよ、呪文やアイテムは必要としないわ。」
頭の中の「オレ」おじさんが「超能力」だと言っている。
なんだそら?
日を追う毎にハヅキ姉さんのお腹は大きくなっている。
「双子かもしれないわね。」
孫が産まれてくるのを待っているのは師匠の義母「ナツキ」お婆さん。
ハヅキ姉さんは歳を取ってから出来た子で、上の二人の息子さんはかなり昔に村を出てそれっきりだとか?
孫の晴れ着を「テレサ」の糸で編んでいる。
「テレサ」とはハヅキ姉さんの従魔「ハミングバード・スパイダー」の名前だ。
お姉さんが子供の頃に森で薬草を採取してきると、子蜘蛛だったテレサがいつの間にか服に捕まっていて、気付かず家まで連れ帰ってしまった。
当時は豆粒程の大きさで、可哀想だからと薬草を取っていた辺りに逃がしてやると、翌朝にあの子蜘蛛が窓辺に来ていた。
どうやら気に入れられたらしい。
背中に四つ葉の様な緑色の綺麗な模様が有り、ハヅキ姉さんも「テレサ」と名前を付けて可愛がっていた。
有る時、オレの祖母がハヅキ姉さんの肩に留まっているテレサを見て、
「ハヅキちゃん、この子蜘蛛「ハミングバード・スパイダー」よ。森の妖精が蜘蛛に姿を変えたとも言われている、大変珍しい蜘蛛よ。幼体の時はね。」
ソレから数年後、テレサは大型犬程の大きさになった…
「今日はね、テレサと投げ縄ゴッコして遊んだよ!」
「テレサはお花が好きなんだよ!」
すっかり村の子供たちの良い友達なのだ。
頭の中のおじさんが「ゆるキャラ」とか言っているけど、何の事だろう?
そもそも「ハミングバード・スパイダー」は花の蜜や果実しか食べない無害な魔獣なんだ。
大人しい性格なのでコチラから何もしなければ森で会っても危険は無いそうで、テレサに至っては森で子供たちと冒険ゴッコなんてしている。
この頃はお腹の大きなハヅキお姉さんの為に、家事を手伝ってくれてる。
ちなみにまだこの大きさは幼体らしく、成体になれるのは少ない為に詳しくはわからないが、ウチの祖母が言うには「アラクネ」に進化する個体もいるとか?
テレサも赤ちゃんが産まれてくるのが楽しみなのか、張り切って「糸」を出してる。
同じ蜘蛛の魔獣で「デーモン・スパイダー」と言うのがいるそうで、その蜘蛛の糸を使った布は最高の肌触りでかなりの高額が付くらしい。
テレサがソレを知っているかは、わからないけど、自分の糸で赤ちゃんに服を作って欲しいのは何となく理解出来たので、お婆さんはせっせと編んでいる。
しかも、「生き甲斐」を見つけた所為か、最近はすこぶる身体の具合も良いそうだ。
オレはなまじ「赤ちゃんが産まれるまで」と期限を決めてしまった為に大変な事になっていた。
それまでは割とじっくりと教わっていたのに、その日のウチに師匠の課題を熟さないと殺される… 程、過酷な修行にすり替わったからだ!
「この先、何か起こるかわからんのでお前には、
我が流派「キタシロ流」を伝授する事にした。」
「師匠の流派をですか?」
「本来なら「一子相伝」なのだが、俺の子が一人前になる前に、
俺にもしもの事が有ったら、お前が俺の子供に伝えてほしいのだ。」
縁起でも無い事を言うので、オレは泣き出して師匠に殴りかかった!
勿論勝てないのだけど、
「お前の事は弟の様に思っているから、頼みたいのだ。
ソレに奥義を叩き込む為に今日まで強靭な肉体に鍛えあげたんだ。
ここまで来て、教えなかったら無駄になる。」だってさ!
ソレにしても師匠の流派は主流とされている王都の騎士団や剣聖と呼ばれている王国最強の騎士「ミタカ」が扱う流派とも違う、異国の流派らしい。
剣も変わった形で、父さんが作ってくれた剣も、その流派に適した片刄の剣だ。
「ニホン刀」と言うらしい。
その刄はミスリルの剣すら切断し、刄の無い方で叩けばオリハルコンの盾も粉砕する。
その切先はどんな物でも貫く為、形ない者や見えざる者も倒す事が出来ると言う…
剣と術が揃って可能となる流派だそうだ。
これまでの肉体作りもかなり辛かったけど、楽しくもあった。
でも、この奥義伝承の為の修練はそれまでのモノとは別物だった。
「考えるな、感じろ!」
「自分の中に小規模な宇宙を感じるんだ!」
「奥義は死の先に有る!」
ギリギリのところで、奥義を習得し、「キタシロ流免許皆伝」を許された。
それから数日後、
めでたく赤ちゃん達が産まれたのだ!
この時、オレは自分の勘違いに気がつく。
母から赤ちゃんが産まれるまで旅に出るのは待つ様に言われていた。
師匠の子供の顔を見ていけって事だと思っていた、
師匠は旅に出ないのだから別に奥義を覚えたら、俺はさっさと旅に出ても良いはず…。
「ごらんタケル、アナタの妹よ。」
そうなんだ、ウチにも神サマは可愛らしい贈り物をくれたんだ。
師匠の所は何と双子だった!
銀髪の男の子と黒髪の女の子、しかも女の子には師匠と同じ耳と尻尾があった。
師匠は泣いていた、
「この子達は伴侶を求めて長い旅をすることは無い様だ。」
きっとオレの妹の良い友達になってくれるだろう。
旅立ちの日、俺は村長の家に挨拶に行く、どうしても伝えたい想いが有るからだ。
けれど、彼女は意外な行動に出たのだ⁈
そう言うと師匠は僕らと一緒に収穫祭を楽しんだ。
そう、村の子供たち全員とだ!
初めは外から来た知らない大人、しかも獣人だから遠巻きに見ていたけど、あの「雷鳴の銀狼」だと知ると途端に人気者だ。
稀に村にくる「吟遊詩人」が必ず吟じるのが「雷鳴の銀狼と山賊の姫」の話しだからだ。
内容はラグル師匠と亡国の姫が元家臣の山賊を従えて、悪政で国民を苦しめる隣国の王を討ち取る話しだからだ!
「ネェネェ!あの話しは本当なの?」
「何の事だ?」
「お姫様とは何で結婚しなかったの?」
「だから何の話しだ?」
お祖母ちゃんに聞くと真相は、
「王」では無くて、「辺境の領主」で、「山賊」では無くて「町の荒くれ者」が本当で、
「姫」と言うのは、王都で城に仕えていたメイドが王族のお手が付いて、お腹が膨らんだのでヒマを出されて、城下で産まれた子なのだそうだ?
吟遊詩人がかなり脚色して広めた詩だから、歌う詩人によっては姫との恋物語を強調する者や、悪政を糾弾する様な内容だったり、痛快な剣劇の場面だけを歌う詩人など、色々と内容が違うけど最後に「姫」から、
「私を貴方のお嫁さんにして!」と告白されるんだけど、
「今は修行の身、ソレにアナタには俺の様なケモノの男など伴侶にすべきでは有りません。」
と言って去って行くのが、どの話しでも、この部分だけはお決まりの締めくくりなんだけど?
(ちなみにこの場面で年頃の女性は涙目になったり、溜息を漏らしたり、大盛りだけど、逆にそうならない吟遊詩人は腕が無いと言われてしまうらしいよ。)
「ああ、アレか。
それはな、嫁さんにもらっても、子宝に恵まれそうに無いから断った。」んだって!
お祖母ちゃんに聞いたんだけど、「銀狼の獣人族」は同じ種族で無いと結婚しても赤ちゃんが授からないみたいで、昔お祖母ちゃんたちに同行して旅をしていたのも、同族の女の人を探してたからなんだって。
この村に来たのも、旅に疲れたのでしばらくゆっくり休みたいと思っていた時に、お祖母ちゃんから村の用心棒兼剣術指南をたのまれたから、丁度良いからなんだって。
だから、この村のお姉さん達もお祖母ちゃんからその事を聞きていたので、お嫁さんに立候補する人は居なかったよ。
ただ他所の村から来てきた女の人は師匠が「雷鳴の銀狼」だと知って、途中から僕らも近づけないほどに、集まってきたんだ!
当の師匠は迷惑そうだったよ。
実は村にはこんな言い伝えが有って、祭りの最後の晩に、御神木の前で愛を誓うとその二人は幸せになれるって言われている
…って噂話を集客の為に広めたら、大変な事になって来て、お忍びで貴族のお嬢様も来ていたりしてます。
祭りには広場に「市」が開かれ、村の作物や民芸品が売られたり、外からきた商人も参加して色々な屋台料理がたべられたり、珍しい品物が売られたりと昼間は楽しかったんだけど、
(ちなみにお金はなんと師匠が僕らの分まで全部払ってくれたんだ!)
夜は早く寝て、綺麗に着飾ったお姉さんのお誘いから逃げていたよ。
「金なら、腐る程有る。
こういう時に使わないと、いつ使うのだ?」
こういうところも後々、村の皆んなから好かれる事になるんだろうけど、祭りの時は女の人にモテまくりだったので嫁探しを兼ねて祭り見物に来ていた他の村の男の人からは相当嫌われていたらしいよ、知らないけど?
祭りが終わった翌日から、村の周りに堀を作る作業が始まった、川から水を引き込むカタチで、対外的には「農業用水」だと言う事して。
掘り起こした土は堀の外側に積み固めて、少し高台になる様にし、誤って堀に落ちない様にしっかりと固めて「クローバー」の種を蒔いた。
コレで草が茂れば、遠目には堀だとは気付かれ難くなるそうだ。
出て来た石や岩も中に積み上げて土台になる様にして…
堀の内側は土砂が流れて削られない様に水が浸かっている部分には木材で補強して、
川から水を引き込む事で堀には「魚」が来るので、
高台の上から釣り糸を垂らしたり、川の上流から小舟で物を運んだり等、のどかな雰囲気を周りに見せて、コレが村の自衛の為の物だと思われにくい様にしていた。
間抜けにも夜間に祭りの稼ぎを狙った盗っ人が作業途中の堀に落ちて、足の骨を折って蹲って居たのを朝、作業に来た村人に発見された。
町の憲兵に引き渡したら、手配書が出ているお尋ね者で、後日賞金が貰えた。
お陰で、堀に渡す橋の材料の足しになった。
作業はあまり急いで作ると怪しまれるのではと、のんびり、それでいて丁寧にやっていた。
ソレでも春の種まきの時期には終わった。
ソレもコレも師匠のお陰だけど、
「コレも修行だ!」って、剣の素振り代りにひたすら鍬を振るっていた!
あの堀が出来たのは僕の修行の賜物と言ったとしても村の人は怒らないくらいだ。
初めの二年くらいは殆んどが、修行と称して「農作業」に明け暮れた。
師匠と共に「開墾」した田畑は、翌年の収穫を3倍にするだけの作物を実らせた。
この頃になると、村を出ようと思う若者はいなくなり、収穫祭で知り合って村に嫁に来たり、婿に来たりと村人の数は増えていった。
この地方を治める領主からも税の払いが良いと覚えが良くなったと村長が言っていたそうだ。
父さんが十五の誕生日に俺用の剣を作ってくれた。
少し前から木刀で、やっと本格的に「剣術」の指導を受けたのだ。
コレまでは、開墾中に出て来た岩なんかを拳で粉々に叩き割るなど、強靭な身体作りを主体にしていたが、やっとソレらしくなったと言うことも有り、コレまでに無いくらいの力作を「手向」にくれるそうだ?
「手向」って?
「お前、この村を出ろ。
近々村を出るラグルの旅に同行して、世の中を見て来い。」
今まで見た事の無い満面の笑みで父さんが言った?
「ん? 村を出る?
…あ! 悪い、俺は村で暮らすぞ。
実は子供が産まれるんだ。」
え?
ある月が美しい夜の事、
「えっ?」
そう言われて、世界から音が消えた。
「ハイ、赤ちゃんデス!
私のお腹に貴方の赤ちゃんがいるんです!」
そして、タケルやナリフ達によく似た天使たちが祝福の鐘を鳴らしなが、二人の周りを飛び回っている…天馬幻想が見えた。
涙を流して微笑んでいるのは、この村で機織りをしている「ハズキ」と言う娘さんで、普通の人だと思っていたが、
「祖父の話しでは、祖父の先祖に「黒狼族」の娘と子を成した人が居たそうです。
その所為かも知れませんね。」「結婚してください!順序が逆になってすまない、だけど大切にするから、共に生きてほしい!」
彼女が言い終わる瞬間にプロポーズする決断力が師匠らしい。
「ハイ、喜んで!」
「…って事が有ってな、明日からソッチの家で暮らすからな。
これからは年老いた義母上もいるので家族の為に生きたいのだ!」
『ラグル師匠、おめでとうございます!』
俺は心の底から叫んだ。
ハヅキさんは黒髪が綺麗な気立ての良いお姉さんで、
父親はあの日、ナリフの両親と同じ馬車に乗っていて盗賊に襲われて亡くなっている。
それから母親と二人で慎ましく暮らして居たけど、
村の特産物として彼女にしか作れない魔獣「ハミングバード・スパイダー」の糸で作った織物が好評で、
又、普段から村長一家とは家族絡みの付き合いでとても信頼されている人だ。
ナリフやカンナも実の姉の様に慕っている。
確かに、よく森の中で剣術の修練をしていた師匠やオレにお弁当とか差し入れてくれていたけど、
そんな仲とは知らなかったよ!
でもよかったね!
「…じゃ、オレ1人で行って来るよ!」
…しかし、母さんか子供が産まれるまでは村にいなさいと怒られてしまった。
ソレにしても、他種族とは子孫が残せないハズの「銀狼族」に子供が出来るとは?
でも、祖母に言わせると、
「銀狼族も黒狼族も元は同じ「魔狼族」から枝分かれした一族でね、
ソレとお祖母ちゃんも「魔人族」の血を引いているのよ。」
ん?
「ソレって、オレにも「魔族」の血が流れているんだ!」
「魔族では無くて「魔人族」ね、「魔人族」は人間で有りながら「魔力」が使えるのよ。
お祖母ちゃんは純粋な血統では無いから、その力は弱いけど、占いは「予知のチカラ」を利用しているのよ。」
「ソレって「魔法使い」って事だよね?」
「魔法使いは「呪文」など唱えて「魔法」を使っているでしょ、魔人族は「魔法」では無くて「魔力」を使っているのよ、呪文やアイテムは必要としないわ。」
頭の中の「オレ」おじさんが「超能力」だと言っている。
なんだそら?
日を追う毎にハヅキ姉さんのお腹は大きくなっている。
「双子かもしれないわね。」
孫が産まれてくるのを待っているのは師匠の義母「ナツキ」お婆さん。
ハヅキ姉さんは歳を取ってから出来た子で、上の二人の息子さんはかなり昔に村を出てそれっきりだとか?
孫の晴れ着を「テレサ」の糸で編んでいる。
「テレサ」とはハヅキ姉さんの従魔「ハミングバード・スパイダー」の名前だ。
お姉さんが子供の頃に森で薬草を採取してきると、子蜘蛛だったテレサがいつの間にか服に捕まっていて、気付かず家まで連れ帰ってしまった。
当時は豆粒程の大きさで、可哀想だからと薬草を取っていた辺りに逃がしてやると、翌朝にあの子蜘蛛が窓辺に来ていた。
どうやら気に入れられたらしい。
背中に四つ葉の様な緑色の綺麗な模様が有り、ハヅキ姉さんも「テレサ」と名前を付けて可愛がっていた。
有る時、オレの祖母がハヅキ姉さんの肩に留まっているテレサを見て、
「ハヅキちゃん、この子蜘蛛「ハミングバード・スパイダー」よ。森の妖精が蜘蛛に姿を変えたとも言われている、大変珍しい蜘蛛よ。幼体の時はね。」
ソレから数年後、テレサは大型犬程の大きさになった…
「今日はね、テレサと投げ縄ゴッコして遊んだよ!」
「テレサはお花が好きなんだよ!」
すっかり村の子供たちの良い友達なのだ。
頭の中のおじさんが「ゆるキャラ」とか言っているけど、何の事だろう?
そもそも「ハミングバード・スパイダー」は花の蜜や果実しか食べない無害な魔獣なんだ。
大人しい性格なのでコチラから何もしなければ森で会っても危険は無いそうで、テレサに至っては森で子供たちと冒険ゴッコなんてしている。
この頃はお腹の大きなハヅキお姉さんの為に、家事を手伝ってくれてる。
ちなみにまだこの大きさは幼体らしく、成体になれるのは少ない為に詳しくはわからないが、ウチの祖母が言うには「アラクネ」に進化する個体もいるとか?
テレサも赤ちゃんが産まれてくるのが楽しみなのか、張り切って「糸」を出してる。
同じ蜘蛛の魔獣で「デーモン・スパイダー」と言うのがいるそうで、その蜘蛛の糸を使った布は最高の肌触りでかなりの高額が付くらしい。
テレサがソレを知っているかは、わからないけど、自分の糸で赤ちゃんに服を作って欲しいのは何となく理解出来たので、お婆さんはせっせと編んでいる。
しかも、「生き甲斐」を見つけた所為か、最近はすこぶる身体の具合も良いそうだ。
オレはなまじ「赤ちゃんが産まれるまで」と期限を決めてしまった為に大変な事になっていた。
それまでは割とじっくりと教わっていたのに、その日のウチに師匠の課題を熟さないと殺される… 程、過酷な修行にすり替わったからだ!
「この先、何か起こるかわからんのでお前には、
我が流派「キタシロ流」を伝授する事にした。」
「師匠の流派をですか?」
「本来なら「一子相伝」なのだが、俺の子が一人前になる前に、
俺にもしもの事が有ったら、お前が俺の子供に伝えてほしいのだ。」
縁起でも無い事を言うので、オレは泣き出して師匠に殴りかかった!
勿論勝てないのだけど、
「お前の事は弟の様に思っているから、頼みたいのだ。
ソレに奥義を叩き込む為に今日まで強靭な肉体に鍛えあげたんだ。
ここまで来て、教えなかったら無駄になる。」だってさ!
ソレにしても師匠の流派は主流とされている王都の騎士団や剣聖と呼ばれている王国最強の騎士「ミタカ」が扱う流派とも違う、異国の流派らしい。
剣も変わった形で、父さんが作ってくれた剣も、その流派に適した片刄の剣だ。
「ニホン刀」と言うらしい。
その刄はミスリルの剣すら切断し、刄の無い方で叩けばオリハルコンの盾も粉砕する。
その切先はどんな物でも貫く為、形ない者や見えざる者も倒す事が出来ると言う…
剣と術が揃って可能となる流派だそうだ。
これまでの肉体作りもかなり辛かったけど、楽しくもあった。
でも、この奥義伝承の為の修練はそれまでのモノとは別物だった。
「考えるな、感じろ!」
「自分の中に小規模な宇宙を感じるんだ!」
「奥義は死の先に有る!」
ギリギリのところで、奥義を習得し、「キタシロ流免許皆伝」を許された。
それから数日後、
めでたく赤ちゃん達が産まれたのだ!
この時、オレは自分の勘違いに気がつく。
母から赤ちゃんが産まれるまで旅に出るのは待つ様に言われていた。
師匠の子供の顔を見ていけって事だと思っていた、
師匠は旅に出ないのだから別に奥義を覚えたら、俺はさっさと旅に出ても良いはず…。
「ごらんタケル、アナタの妹よ。」
そうなんだ、ウチにも神サマは可愛らしい贈り物をくれたんだ。
師匠の所は何と双子だった!
銀髪の男の子と黒髪の女の子、しかも女の子には師匠と同じ耳と尻尾があった。
師匠は泣いていた、
「この子達は伴侶を求めて長い旅をすることは無い様だ。」
きっとオレの妹の良い友達になってくれるだろう。
旅立ちの日、俺は村長の家に挨拶に行く、どうしても伝えたい想いが有るからだ。
けれど、彼女は意外な行動に出たのだ⁈
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