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猫ソムリエの憂鬱〜猫神様、遂に北代さんちに着く!そして本当の目的。

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 『猫神ちゃん、来たって本当?』

 『うん、本当だけど?シオネェも知り合い?』

 「森猫」のお隣で「白猫占い~黒猫始めました。」で大繁盛中の栞子さんがで森猫の受付カウンターを訪れた。

 受付にいたのはなぜか「ゆたか」だった。

 いつもなら、その高い「コミュニケーション能力」でフロア接客担当なのに?

 実はいつも「ゆたか」ばかりに接客を任せていては偏りがある「店員」が増えてしまうので、人材育成の為に各担当をローテーションで色々体験させている。

 ちなみにゆたかは基本ナンデモ来いのオールラウンダーだ。


 『ええ、子供の頃に一度だけね。父と口喧嘩して山の中にした事が有るんだけど、その時助けてくれたの。』

 『今のシオ姉さんからは想像出来ないアクティブさだね? ふ~ん、シオ姉の子供の頃かぁ?相当大昔なのかな?』

 『コ~ラ! …ん? でもゆたかが生まれる前の話しではあるかな?』

 『ホラ、やっぱり!』

 『もう!アレは私が「四歳」の頃だから二十年くらい前かな。』

 『シオ姉さん、27歳って聞いてますけど?何気に誤魔化そうとしましたね!』


 『そ、それはそうと、猫神さま、どんな様子だった?相変わらず「綺麗」だった?「峰不●子」みたいに!』

 『へ? ボクがみたのは確かに「綺麗」だけど中学生くらいの美少女だったよ。やや「厨二」っぽいカッコしてたけど?』

 『『おや?』』

 お互いの認識に「ズレ」が有る事に疑問符をとばす二人はさておき、 ひとまず、舞台を屋上庭園に戻そう。


 猫神様を囲み、お茶会は続く?

 『ツガイって、そんな簡単に用意出来る…でしょうね、御姫様の事だから?』

 半ば呆れ顔の北代 久美。

 『実はな、妾にチト相手に心当たりが有ってな。
 お主スズはこの土地、いや「このビル」にくくられている故、ここより離れられないであろう。

 しかし、そのお陰でこの砦の結界内ではほぼ無敵じゃ。「悪霊邪霊」の類いは「叩いて丸めてポイッ!」じゃろ?』

 『え?スズちゃんって、そんなに凄いの?』

 『いや、外の事を知らぬから比較出来ぬ?確かに妾の「ナワバリ」に来た不届きモノ怨霊の類いは妾の「鉄拳制裁」で四散するな?』

 『スズちゃんは我が家羽柴ビルの守神ね。』

 
 『さぁソコじゃ、この砦が地脈から何かしらの「霊力」を「スズ」に与えているのじゃが?』

 『「ナニカシラ」って何かしら?』

 新名のなオトボケはこの際気にしないよ、。


 『ただ、このビルが堕ちる様な事が有れば、お主もただでは済まないであろう?
 なので、その為の「婿取り」じゃ。』

 『そ、それでムコ殿はどちらに居られるデス?』モジモジ。

 『おう、中々「乗り気」じゃな。
 久美、ココに「羽柴の直系」の男の子オノコが居ろう?』

 『えっ!天馬くん息子がスズちゃんのお婿さんですか?』

 驚く新名母親だが、早くも愛息に「お嫁さん」が出来るとは嬉しくもあり、楽しくもあり、寂しくもあるかな?

 『そぅ慌てるな?
 なに、爪の端や毛髪を少し「依代」の「核」にするだけじゃ、後はココに来る途中で「やしろ」で毟った和紙カミに包んで雛形ヒナを作る。』


 『御姫様!鶴亀神社の鳥居の「紙垂」取ってきちゃったんですか⁈』

 呆れる久美をヨソに「紙垂」をヒラヒラさせてるココ様。

 『慌てるなと言うに!
 大丈夫じゃ!あの地の巫女朱野んには断りを入れておるでな。 
 
 そう言えば、あの社にまだ幼いが「霊力」を纏った「獣物」が居ったが?』

 『気の所為デス!』

 『そうか? まぁ良いが?』


 『別に本人をここに連れて来なくとも良いなら天馬の「爪と髪」、取ってきますね。』

 何やら妖しい事が始まりそうなので、天馬くんに見せない方が良いと判断し、母親である新名が「採取」に自宅にもどる。

 『爪とか必要なんて、何か「生々しい」ですね?まるで「呪いの儀式」みたいな?』

 『大差変わらぬぞ。森羅万象の理りを曲げて行っておるのでな。』
 

 『ソレにしても、御姫様自身もに霊力使うんでしょ?

 今日会ったばかりの「守護精霊」に大した「大盤振る舞い」ですね?』

 『全く、感謝しか有りませぬ!』


 『なに、ちょっとした「デモンストレーション」と言う奴だ!

 …マツに教わったのじゃが、使い方間違えておらぬよな?』







 『アレ?ここだって聞いたのに、ココ様が居ないな?』


 同行したニセ獣医馬鹿ヤローが信用できるはずも無いのでこの日受け入れたイヌネコの皆さんを愛葉医院動物病院に「健康診断」と言う事で半数を検査入院、残りは「森猫」の「スタッフネコ専用休憩室」で簡易健康診断をする事に。

 そんな訳で予備スペースは一足違いで「もぬけの空」、折角叔父蒼介に聞いて駆け付けたのに!

 『優斗さま、新しくいらっしゃった「猫さん達」はどこでしょうか?』

 『二葉、「ワンコ」もダぞ?』

 幼い頃に会った事が有る「優しいネコのお姉さん」、実は「猫神」のココ様。

 家で待っていれば会えるのに、何故か少しでも早く会いたい優斗は、羽柴ビルに来てしまった。

 アナタが行くなら私達もと、付いてくる二人。

 すると!

 『ネコのお姉ちゃんはここかな!』

 『て、天馬くんってば、待って!』

 『あう、テンちゃんなのだ!』

 『新名叔母様、こんにちは。天馬ちゃんと「鬼ごっこ」ですか?』

 『優斗さま、違うと思いますわ。』



 

 『あら、アナタ達も来たの?』

 『わぉ!ママ殿がいたのだ?』

 『ハァハァ、天馬ってば爪も髪も切らせてくれたけど、「ボクもネコさんとお話しする!」って、飛び出しちゃって⁈』


 『スズちゃん、「ご結婚、おめでとう」するの~!』


 『うう~、天馬は本当に「良い子」だな~。妾は必ず幸せになるわ!』


 『新名、貴女、テンちゃんになんて説明したの?』

 『べ、別に何も?』

 『何じゃ、「立ち合い人」が増えるのは構わんが、静かにせいよ?
 一応「神聖な儀式」なのだからな!

 では、始めるぞ!   「チョッパヤ」で!』

 『それも松下くんに教わったんですか?』

 
 
 『フフフ、妾は「出来る女」ゆえ「流行」には敏感なのじゃ。』

 よし決めた、後で松下くんと色々話し合おう!
 今後、変な言葉とか教えない様にと!
 必要なら、二人とも「山王院のメイドさん」に教育してもらうぞ!




 『さて、ここに妾の領地ナワバリに彷徨う「御魂」を封した翡翠が有る。』


 『綺麗ね?「蟲入り琥珀」みたい?』

 『翡翠ですわ、お母様?』

 『例えよ、二葉。た・と・え!』

 『母さんってば。どう違うか、わからないよ?』

 『後でちゃん叔母様に聞いて、宝石や鉱物に詳しいから。』

 
 『良いか、続けるぞ?』

 『『どうぞ、どうぞ!』』

 『まぁ翡翠でも琥珀でも何でも良いのだが、今回は近くに有ったコレを使ったまでだ。
 これを先程作った「雛形」に仕込み、妾の「気」を流す。』

 雛形とか仰々しく言ってるけど、パっと見は「鼻を噛んで丸めたチリ紙」の様にも見えるアバウトなモノなんだけども?


 『お昼の三分ナントカみたいね?』

 『母さんの解説、父さんみたいだ?』

 『さすが夫婦ですわ!』

 『ここからが「大事」なのだが!』

 『みんな、静かに~!』






 「おっす!わたし舞華!」


 おや?


 『どうしたっス、舞華先輩?』

 『あ、後輩ち…じゃなくて「マミちゃん」!』

 『あぁ、なんか懐かしいっス?』

 『ゴメンね、今日本当はお休みなのに?』

 『いえ、「お店猫カフェ」の方はお任せ下さい。舞華店長は「愛葉医院」に行って来てくださいよ!』

 『あっちは華ちゃんとお兄ちゃんが行っているから大丈夫!
 私は「スタ猫室」の様子を見てくるよ、何か有ったら呼びに来て!』

 『ラジャっス!』


 幼い頃から、家にはネコがいてイヌもいて、それが当たり前の日常な自分が今は猫カフェの店長をしている。

 今日は「アニマルシェルター」からの動物を受け入れている、考えたら「分不相応」な事をしているのでは無いかと思い返してしまう。

 偽善だと思われても仕方ない、
 それでも助けられない子もいる事を考えれば、マシな方だと自分に言い聞かせる!

 
 『クヨクヨしないで頑張るぞ!』

 頑張れ!舞華!

 本作の主人公は君のなのだから?







 誤解が有るとイケナイので申し上げるよ。

 舞華さんは別に自分のとしての立ち位置が揺らいできたとか、そんな小さい事を危惧していた訳では無い。

 断じて無い‼︎

 では何に凹んでいたのか?

 今日、受け入れた動物たちの体調から伺えるシェルターの運営状況や、自分の経歴を偽って近づいてきた学生、そして鉄のハートの灯火が参ってしまった悲話など、

 そう言った事に少しだけ気持ちが落ち込んでいただけ。

 国や各自治体の偉い人が「殺処分ゼロを目指します!」って言っても、まだまだ現実は厳しい様だ。

 何処かの風来坊じゃないけど、

 「目の前の、手の届く場所」を少しでも拡げたい!

 伸ばした手が、指先が触れたモノ全部護りたい!

 『私も「ルナメ○リー」が使えればいいのに!  って訳にはいかないか⁈』


 それと今回の事で「シズちゃん」こと「波原ナミハラ  シズカ」が相当動揺していた。

 彼女は今回の同行者「ニセ獣医」の推薦者だ、責任を感じるのは当たり前だけど、それで彼女に何かを強いいる事はしないんだよ?

 『コッチも声掛け必要かな?』

 彼女はの人材派遣会社からの出向社員だけど、別にの人間では無い。
 
 元山王院のメイドだとか、父や母が山王院の執事やメイドでも無い、
 普通のご家庭で育って普通に派遣会社に就職しただけのお嬢さんだし、多分「格闘技」とか「ハッキング」とか「悪鬼断罪」とか出来ないだろうし?


 スタッフ専用休憩室に行くと、ソコは意外な光景が⁈


 『テメェー!この堕とし前、どう付けるつもりなんだヨー! アァ、オラッ!』

 『や、やめ…て、勘弁してく…ダサいっです!』
 

 アレ?

 舞華わたしの中の清楚で優しい「波原 静シズちゃん」とは全く別のシズカさんがいらっしゃる?

 普段は笑みを絶やさない素敵なお姉さんが「鬼女か?夜叉か!」ってぐらい目を吊り上げて怒り顔だ!


 『ああ!君、助けてくでぇ! ご、殺されるるぅー!』

 この人ってば、
 自分の父や兄、学校の男子やたこ焼き屋のタッちゃんとか、自分の知っている男の人たちからは絶対感じない「嫌悪感」をプンプンさせてる!
 
 『ハッ! て、店長⁈  ち、違うんです、コレはその!』

 私に気がつくとよく知ってるシズちゃんの顔になった?

 『シズカさん、殺しちゃっても良いと言いたい所ですが、駄目です。貴女が捕まります、そんな男の為に無駄な時間を使わないで下さい。』

 『…舞華店長。あ、あの?』

 『あ、あの、助けでぇくらさい?』

 既に最初に会った時の顔など覚えていない「小林」と言う男の顔は恐らく原形とは違うと思うほどボッコボコにされていた。

 別に良いけど。

 『ねぇお兄さん、泳げるかな?』

 『へぇ?泳げる…げど?』


 『蟹好きです? 半年くらい「蟹漁」にいきませんか?自分が取った分のお金は貰えるし、カニ食べ放題ですよ。』


 『え? あ、あの、何の事ですか?』



 『いや、私はいいんですけど~、「私の父」や「お店の常連の方々シルバー層」が黙って無いと思いますよ?
 
 だとしたらが堕とし処かと思いますよ。

 その間は大学は休学しますか?』

 勿論、冗談で脅しただけ。

 『へェ?な、何を言ってんだよ?
お前は? 馬鹿な事、言うなよ!』


 『「お前」だと!舞華ちゃんに「お前」とか気安く呼ぶんじゃねー!』

 『ヤダ、シズカさんってば、「私の」なんて。ぽっ。』


 オイオイ。



 でも、お爺ちゃんやお婆さん、蟹好きだし?それもかな?

 ルンナさんなら、そういうお知り合いいるかなぁ、ご実家は海産物を扱ってるから案外もしかして…?




 いや!それよりシズカさんの豹変振りだよね?

 『ま、舞華店長、私今回の件では「森猫」に大変なご迷惑をかけました。
 責任を取ってココを…』

 『「シズカさん」?それとも今まで通り「シズちゃん」と呼んだ方が良いかな?』

 『え?あ、あの?』

 『えっと、ソコのお兄さん、さっきのを「冗談」にしたかったら、「ウチのお父さん」に「詫び」を入れて下さいね! でないと色々マズい事に成ります。』
 
 
 『な、何でそこまでしないといけないんだ! そもそも、犬の妊娠に気付いていないのは先方のシェルターだろ!』

 『その事を問題にしてませんわ、私たちが遺憾なのはアナタが「獣医」だと私達を欺いた事と、そして私たちを騙し通せ無かった事です。』


 『へ? どういう…?』

 『アナタも「獣医」を目指すなら、苦しんでる母犬に何かしてあげられてのでは?』

 『そ、それは  でもしかし?』

 『アナタは何も出来ずに、アワアワ慌てふためいてただけだと聞いてます。』

 『ですから、それは…。』

 『そのお顔の治療費はお出ししますよ、ですので今日はお帰り下さい。
 後日コチラからご連絡いたしますので。』

 

 この世の終わりの様な顔して「小林 アタル」は帰って行った。

 おそらく、悠佳里さんが彼の大学に確認と事情の説明をするハズだし、暫くほっておこう。

 さて、今一番の関心はオニ怖い形相をしていたシズカさんなのだよ!


 『店長、先程は大変お見苦しいモノを…。』

 『ん?何が?』

 シズカさんは大変恐縮しているけど、憤怒の残り香の様なモノが室内に残っているのか、あと二人くらい休憩を摂っていても良いのに、誰も部屋に現れない?


 『えっと今回の事、シズ…波原さんはどう考えてます?』

 『ハイ、責任を取って退職を!』

 『ん!ソレ無理!シズカさんが辞めちゃうの私ヤダもん!』

 『店長…舞華ちゃん…ありがとう。』

 『ソレでね、さっきの「蟹漁」の話しは冗談だけど、華ちゃん副店長の御実家の事で擦り寄ってくる輩はコレからもいると思われます。』

 『ハイ、名字で気付くとは思いますが、しかし…。』

 『別に隠してないけど、ソレをアテにされて近づいてくる人は今後「悠佳里さんや灯火ちゃんのお友達」ににかけてもらいます!』

 『フルイですか?でも…?』

 『向こうがコチラを利用したいなら、コチラも向こうを利用します!利用出来る人だけね! ソレ以外はにオモテナシして諦めてもらいます!そう、「北代流」のオモテナシで!』

 『は、はぁ? ハッ! そ、ソレで私は?』
 
 『今迄通りよ!それと至急「譲渡会」の開催を検討して下さい!
 今回は「ワンちゃん」も譲渡出来る様に手配して!』

 『犬もですか?でも、提携している保護猫団体さんで「イヌ」も保護している団体さんは…?』

 『いるじゃない、ちょい距離が有るけど!

 あとね、私「長距離移動」に適して、その中に「医療設備」がある自動車に心当たりが有るの!
 後は優秀な「獣医さん」を見つけないとかな?』

 波原 静はこの時、

「この子に一生懸命尽くしていこう!」

 と、決意したと言う。


 『ま、舞華店長、「お姉さま」って呼んでも良いですか?』

 『私、歳下ですけど?』



 


 そのころ、羽柴ビルの屋上庭園にある「小さな温室」では、


 『ハァ~~!』

 猫神のココ様が先程集めたモノを手の中でぎゅっと握り固めて、気を送っている。

 しかも、ついでにと優斗の髪の毛一本もプラスして?


 『優斗と天馬の二人ならきっと「イケメン」のムコ殿が産まれるに違い無いのじゃ!』
 
 なんか欲望丸分かりな事言いそうなスズに、

 『ツガイがいれば、いざと言う時にお主スズの存在をこの砦から切り離し、婿自身の「心力」で暫し養う事が可能じゃぞ!
 次の依代を見つけるまでの間は安心と言う訳じゃ!』


 『コレって、すぐ出来るの?』

 『まぁ待て待て!今「繭」に成る。』

 『繭?』

 『出来上がったらスズよ、暫くはお主が「繭」に「霊気」を送り、温めるのじゃ!』

 『ソレは「繭」と言うより「卵」なのでは?』

 『スズさんが温めるのデスか?
 ソレだとスズさん「お母さん」なのでは?』

 『年の差婚なのだ!』

 『逆「光源氏」ね?』

 『ローラーヒーローなのか?』

 『リリちゃん、微妙に間違えてますわ?』

 

 『よし、出来上がったぞ!コレが「繭」だ!』

 『…「卵」ですわ?「イースターエッグ」みたいな模様が有りますの?』

 『お前たちがうるさいから、時折「気」が乱れた所為じゃ!』

 『えっ⁈それじゃあ失敗なの?』

 『まいだーりん!』

 『あ~、心配無用じゃ。中身には影響ないナイ!繭の表面が多少になっただけじゃ。』


 『しばらく温めるって、どのくらいの時間ですか?』

 『ふ~む?七日から十日と言ったところか?

 温め始めたら、ヒナ婿がかえるまでは繭を離さずに温め続けるのじゃぞ!』

 『御意!だーりんは妾の愛で、絶対かえしてみせるのじゃ~ぁ!』


 『スズちゃん、がんっばーれ!』

 幼児に応援させて、卵を温める護り神様?


 『久美よ、この件は最後まで面倒見る。繭、いや卵が孵るまで「北代」の家に逗留するぞ。』

 『ハイ、そのつもりですから。そうだわ、「松下くん」もご一緒ですが?』

 『ん?彼奴は家に一度帰ると聞いていたが?』

 『色々有って無くなったんです。』

 









 『どうしよう、もうおしまいだ!』

 まさかこんな事になるなんて!

 大学に獣医だと詐称した事がバレてしまったら、ぞうなるだろうか?

 退学なんて事になったら、獣医になれないかも?

 いや、父から勘当されたら?

 家族から見離されたら⁈



 『もう、おしまいだぁ。』

 なんであんな事をしたのだろう?

 ちょいカッコ付けて、チヤホヤされたかったとか、
 あの店の女の子は皆んなレベル高い超可愛いから「お近づき」になりたかったとか、
 あの店が「とある財閥」の関係者が経営しているとか、

 とにかく「有利な立ち位置」を手にしたかった。

 ソレも今となっては、「最悪」な立場にいる。


 『のう、ソコの若いの。ちと道を教えてくれんかのぅ?』

 『へ?』

 気がつくと駅前のバス停のベンチに座って、俯き途方に暮れていた。

 そんな自分に話しかけてきた奇妙な奴?


 『道なら、ソコの交番で聞きなよ、ジィさ、んっ⁈』

 声からして、「年寄り」だと錯覚して八つ当たり気味に答えるが、顔を上げて絶句した。


 老人には違いないが、割とガッチリした体格にジーンズ作業着にスカジャン、白髪にペイズリー柄のバンダナ⁈

 な、何者だよ?このジイさんは!

 絶対、只者では無いぞ?


 『いやな、「駅前」で聞けば大体の者は知っているらしい「店」だと言うのでお前さんに聞いただけだよ。知らないのなら「交番」とやらで聞くワイ。』


 何故か少しこの老人に興味が湧いた?

 『「店」って?どんな店だい、お爺さん?』

 『おぉ、教えてくれるか?すまんなぁ。何でも「猫が持て成してくれる茶屋」だそうだ。』


 目の前が暗くなった。








 『るる坊、皆んな出払って淋しいか?じじはお前さんがいて楽しいがな?』

 『あうあうぅ!』

 ネコ耳と尻尾付きの赤ん坊をあやしている舞華らの祖父、縁側の日当たりの良い所で座椅子に身を預け、側にワラシが緑茶を淹れて待機している。

 『るるちゃん、ご機嫌みたいですね、じじさま。』

 『ワラシもお茶や饅頭とか飲み食い出来れば良いのになぁ?』

 『あぁうぅ!』

 幸せな光景、いつまでも続くと思っていた。
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