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〜ショート編「十六夜 灯火」の一日 

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 十六夜ちゃんの朝は早い。

 『おっはよぅさん!姐さん、卵持ってきたゼっ!』

 朝の四時、台所で各朝食の支度と子供達のお弁当を作るお母さん久美に「産みたて卵」を届ける灯火。

 庭の一画に「鳥小屋」が有る、元の品種は分からないが「MIX」のニワトリが毎朝数個の卵を産んでくれる。

 『ありがとう、灯火。もう猫たちが来ている様なら「朝ごはん」出して上げて!』

 『Yes mom! その後は私の分を頼むよ!』

 最近は北代さんちに下宿している親戚の子と、ご近所で認識されてる。

 実際の所、綾乃さんが使っている「離れ」の一階で寝泊まりしている。

 既に「彼女の部屋」として貸し与えいる認識で北代さん一家の日常が始まる。

 (でも華が長女ポジションなこは揺るがない。)


 庭には二羽烏骨鶏が居て、地域猫と一触即発な空気を朝から醸し出している。

 あ、ヤベ!鳥小屋の扉、閉め忘れた⁉︎
 

 『コラコラ、腹が減ってるから怒りっぽくなるんだ。今朝飯やるから双方引け!』

 灯火の言った事が理解出来るのか、和解したかの様に大人しくなった猫とニワトリたち。

 猫は北代さんちの「家庭菜園」を荒らす「ネズミ」を駆除し、ニワトリは「家庭菜園」の雑草や害虫を食べ、堆肥となる「鶏糞」を落とす。

 また、双方共、敷地内に来た「不審者」を威嚇し、危険を知らせる為に叫びをあげる。

 彼らは無くてはならない文字通り、「御庭番」なのだ。


 『十六夜ちゃんは早起きなのだぁあわあぁ~ふぁ~。』

 『灯火さん、おはようございますの。「コッコ」も「ゴマシオ」もおはようですの。』

 北代さんちの小ちゃな方の「お嬢様」の登場だ。

 「コッコ」は烏骨鶏、「ゴマシオ」はこのところ、良く来る「桜耳」の白地に頭に胡麻を撒いた様な黒毛模様の猫。

 命名はリリ…では無く、「優斗」だったりする。

 『よぅ、おはようさん、さん、サンシャイン!』

 『おっはよさん、さんさん、サンバルサンなのだ?』

 本当なら「地域猫の世話」は二人の当番なのだが?

 『なぁ「ゴマシオ」の奴、腹膨れてないか?』

 
 『え!ですがこの子はオスですのよ?』

 『コラ!ゴマシオ!お腹見せるのだ!ん?…アレ…この子、ゴマシオ子ちゃんなのだ?女の子なのだ?』
 
 抱っこしたニャンコのお腹を確認するリリ。

 「ゴマシオ」とはちょくちょく「地域猫用ご飯賞味期限ギリ」を食べに来る野良猫なのだが、

 そこに、

『ぐるにゃ~ご!』

 『あ、ゴマシオ⁉︎ え!えぇ⁉︎』

 『何だ、もう一匹ゴマシオがいるじゃないか?
 兄妹?親子か?』 

 何と瓜双子なニャンコが現れた、コッチがゴマシオだろう。

 『ゴマシオ子ちゃんじゃあ可哀想だな?…「しおんちゃん」ってのはどうだろな?』

 『名前も良いですけど、間違いなく「ご懐妊」ですの!保護するですか、灯火さん?』

  『師匠、いや舞華叩き起こしてこい。「森猫」で引き取れないか、あとコイツが飼い猫でないか調べさせろ。』


 朝からひと騒動ながら、楽しそうな朝のはじまり。


 この後、髪ボッサボサの舞華を
華が引っ張って連れてくる有りがちな光景後、朝食。

 ゴマシオとしおんちゃんを一時的に「保護用ケージ」に避難させた。

 後で「森猫」に協力してくれているボランティアさんが二匹とも保護してくれるそうだ。

 最近は朝食時には、既に同席している「パトリシア」や給仕を手伝っている「九院兄妹」など北代さんちの朝ご飯は大賑わいだ。

 『九院さんモグ、ゴマシオたちの事モグ、お願いモグ出来ますか?モグモグ。』

 『かしこまりモグ。』

 『お前ら、行儀悪いぞ!』

 『全くもぐ。』

 『灯火、お前もだ。』

 なんとも賑やかな朝食を済ませると子供達は登校するので、、北代家は急に静かになる。

 
 『じじ様、御加減どうたい?』

 『やぁ、おチビちゃんか。まぁまぁだな? ソレで探して来てくれたかい?』

 『あい、「シベリア ケーキリリ嬢ちゃんの好物」な!』

 孫娘的な子の好物を仕入れてこさせる代わりに、「あるモノ」と交換する。

 『ほら、約束のモノだ。』

 『ヒヒヒ、これこれ!』

 舌舐めずりしながら、じじ様からガラスの小瓶を受け取る。

 中身は琥珀色の「蜂蜜」、ほんの数日前に蜂の巣から取り出したばかり、混ぜ物無しの「天然モノ」だ。

 以前、じじ様は趣味と実益を兼ね、小規模ながら「養蜂」をしていた事が有る。
 体を壊してからは、巣箱を知人に譲り渡したが定期的に「ハチミツ」が届けられてくる。

 購入すると結構な金額の「高級品」なのだか、一度味わってしまうともう病み付きと言う人もいるくらいだ。 

 本来なら、灯火になら「タダ」で進呈しても構わないし、
 じじ様の頼みなら無償で引き受けるのだが、
 コレでお互いに「気兼ねなく」と言う事らしい。


 
 『綾乃さ~ん!お届けもんだぜー!』
 『サンキュー、十六夜ちゃん!』

 じじ様父親から綾乃の分を預かって来た。

 『じゃ、確かに渡したゼ!そろそろ出掛けるな。』

 『ハイな、行って来な。あ!コレアゲルよ。』

 と、言って飴ちゃんを灯火に投げると、口でキャッチする武闘派幼女。

 『へへ、サンキュー!』

 そもそもは山王院から陰ながら「華のボディーガード」を命じられているのだが、ナンダカンダで華や二葉のボディーガードが増えている。

 なので、その「自主的ボディーガード達」の顔を立てつつ、自分は「町のパトロール」を自主的に行なっている。

 
 午前十時ごろ 鶴亀公園では、

 『タツー!新作出来たかー?』

 『あ、灯火のアネさん。 ヘイ、有りやすぜ!』

 昼食時には鶴亀公園入り口付近に「屋台村」が出来る。

 そこの「住人」とも「マスコットキャラ」とも言うべき存在の十六夜ちゃん。

 この「屋台村」の纏め役的存在の「タツ」は人気のたこ焼き屋だ。
 「森猫」のスタッフの間でも、ほぼ毎日購入している。

 そんな店主の「タツ」は舞華に「ほの字」で有る。

 『ど、どうぞ、姐さん! 新作の「牛すじ入りたこ焼き」っス!』

 『どれどれ、モグ、熱っつ! モグモグ、!』

 『ど、どうです?姐さん!』

 『まだ有るか?もちっと食べたい。』

 『その反応なら、「今日の日替わりたこ焼き」で売れそうデスね?』
 
 『灯火ちゃ~ん、ウチのも味見してよ~!』

 同じく屋台村でサンドイッチの屋台を出しているお姉さんが声をかけてくる。

 なんでも「シングルマザー」らしく、仕事中は子供を鶴亀町に住んでいる母に預けているらしい。

 『おう、ご馳走になるか。』

 こんな調子で昼食前の腹ごなしをする?

 華や舞華達が下校する迄、町内パトロールの時間だ。

 最近また「顔馴染み」が出来たので、見廻る場所も増えた。

 商店街や鶴亀神社、駅の周りの駐車場、御年寄の多い木造住宅地など、中には「情報提供してくれる猫たち」の溜り場にも顔を出す?

 商店街の店主たちも「十六夜ちゃん」を見ない日は無い!
っと言い切るぐらい街に溶け込んでいるのだ。

 
 さて、今日はどこで昼食を取ろうか、などと考えていると、


 『おう、ちっこいの!昼メシまだか?よかったらウチで食え!この間、雨樋を直してくれた礼だ!』
 
 『ちっこい言うな!』



 まぁ大体こんな感じで食事に有り付いてる?


 『そんじゃ、今日はオヤジさんの不味い「餃子ライス」にするか?
 唐揚げ付けてくれな?』

 ココは町でそれなりに美味い中華屋だ、「伊吹亭」の次の次くらい美味いがオヤジさん一人でやってる小さい店だ。

 『不味いは余計だ!半ラーメンと半チャーハンも付けてやる!』

 不味いと貶しても、トッピングが増えるとは「人徳」か?

 
 『オヤジさん、何か困ってる事無いか? 今ヒマだから出前とか手伝ってやってもいいゼ!』


 さすがの無敵幼女もタダ飯は気が引けると言うところか?

 『ウチは無いが、ウラのバァさんが先週ひったくりに有って、大変らしいな。まだ犯人捕まってないってよ。』

 『決まりだな。』


 お腹もそこそこ膨れたので「ウラのおばあちゃん」の様子を見に行くか?

 店を出たところで、向かいの八百屋で買い物をしている「ワラシ」と出会う。

 
『ようワラシ!「お使いカゴ」持って、買い物か?』

 『コンニチハ、とうかサン。』
 
 最近、喋れる様になった鋼鉄少女ワラシ!

 じじ様から頂いた藍色の縮緬の端切れをリボンにして、和服調の「給仕服メイド服」が可愛い!

 「わるぷる」製である。

 『今晩はカレーだそうです。』

 『何⁉︎ ならそれまでに終わらすか! じゃ、ワラシ! 姐サンに美味いカリーをヨロシクっと言っておいてくれ!』


 
 灯火が訪れたのはとある雑居ビル。

 ゴンパパさんの事務所がある、この辺りではかなり古びたビルだが、一・二階の店舗は流行っている様で寂しさを感じないいい物件だ。

 何の遠慮も無く「権藤興行」の事務所にズカズカ入って行く彼女に、
 『十六夜姐さん、お疲れ様デス!』っと頭を下げる従業員若い衆

 『若頭取締役いるかい?』


 事務所の応接室に通され、フカフカのソファでお菓子と梅昆布茶で持て成される幼女戦鬼。

 『それが十六夜の姐さん、「リン姐さん」がそろそろ「お産」なんで、鉄の兄貴と「女将さん」が付きっきりでして…。』

 元ローカルなアイドルだったと聞く若頭の奥さん、「おめでた」とは聞いていたがそんなになっていたのか?

 先程、引ったくりに合ったおばあちゃんにあって来た。

 商店街で顔を合わせると飴ちゃんくれる優しいおばあちゃんで、郵便局の帰りに持っていたエコバッグを引ったくられたそうだ。

 郵便局には「かもメール」を購入しにおとずれたのを、恐らくは「年金」を下ろしに来たと見られて、被害に遭ったと警察は見ている。

 おばあちゃんは被害に遭われた時に脚を捻挫して自宅療養している。


 『あら、お嬢ちゃん!心配してお見舞いに来てくれたの、ありがとうね。』

 倒れた時に額を何処かにぶつけたらしく頭にも包帯を巻いていたのが痛々しい。

 
 『よう、灯火ちゃんが来ているって聞いて、「森猫」から戻って来たぜ。』
 
 ゴンパパさん権藤興行会長、猫たちと店員の娘っ子たちに癒されて満面の笑みでご機嫌のご帰還だが、

 『ヒヨってんなよ?「喧嘩屋権藤」さんよ?』

 今にも「殺すぞ、テメェー!」と言わんばかりの眼光で相手を睨む「十六夜 灯火」!
 

 『何でい?藪からミサイルみたいな面して?何か有ったかい?』

 まぁ何か無きゃ、いつもならメシをタカられてる訳だが、

 『この商店街でフザケた真似した「引ったくり犯」、まだ捕まって無いそうだが、見逃すつもりかい?』

 その場に居た権藤氏以外の人間が凍りつく思いだった。 

 『そうなのか?て…鉄は今、嫁さんがコレなモンで居ないか?』

 その時、

 『おやっさん!産まれた!産まれたそうです‼︎ 兄貴の赤ちゃん、女の子だそうです!』

 『『な、何!本当か⁉︎』』
 ハモる幼女と喧嘩屋。





 
 折角、息子同様に想っている若頭に娘が産まれたのだ。
 と言っても良いくらいだ!

 そんなタイだろう場で野暮な真似はしない、我らの幼女戦鬼はイキなのだ!

 『何だよ、結局自分でヤる羽目になるのか?』
 
 晩御飯に間に合う様に事を片付けるには、「後輩たち」のが必要か?


 『いや、待てよ?若頭の嫁さんって確か…!』



 そう、確か「元徳」の元配下で「鈴虫スズムシ」のコードネームで呼ばれてた護衛役、数年前までご当地アイドルだっけ?

 裏では、先に和鈴のついた真田紐を巧みに使い、標的エモノを捕縛する暗躍系メイドさんだったのに、オジサマ趣味に目覚めてちゃっかり「授かり婚」に漕ぎ着いた、見習いたい同僚の一人だ!


 『リンの出産祝いに託つけて、連中にも手伝わせるか!』

 早速、カプロボを取り出して「SANーKING」のホームページに「元アイドルのリンさん、ご出産おめでとう!by等価交換」と書き込みする。


 さて、スピカで時間潰すか?


 行くと既に、

 『あら、やだ、偶然!灯火ちゃんじゃなくて!コッチコッチ、相席しませんこと!』


 と、うるさい「元同僚」がボックス席で待ち構えていた。

 ママの新名さんと新入りのアキラがクスクス笑ってるし、


 『何か早くないか、お前?』

 呆れ顔で相席し、久しぶりに会う元同僚をどうそそのかすか考える?

 ソレにしても早すぎるだろ?


 『ヒマか?』

 『そんな訳ないでしょ!スケジュール調整とか忙しくて…じゃなくて!』

 
 彼女は元同僚の「サオリ」、コードネームは「コオロギ悪食」、鈴虫のリンの元相棒で中々の美人さんだか「音痴」なので「SANーKING」の事務方スタッフだ。

 『普通に連絡してよね!久しぶりに会えて嬉しいけど。  あ、すいませ~ん! 「アルムブレンド」二つ、お願いしま~す!』

 『ハイ、かしこまりました!…灯火ちゃん、コーヒー飲める?ソレとも「コーヒーフロート」にする?』

 オーダーを取りに来た愛夢に心配されるとは!
 
 コーヒーくらい飲めるわい!

 そう言いたいのを堪えて、

 『濃いめって、マスターに言ってくれ。』

 『スゴイね!灯火ちゃん、大人だね!』

 今度はマスターと常連のオバサマたち、そして目の前の元同僚が笑っている。


 気を取り直して、

 『なぁ「香炉機」、お前の情報網で探してくれないか?「引ったくり犯」を。』

 『ストレートだね、相変わらず。その訳は?』

 おや?何か質問されると思ったのだが?

  『この町で何か有れば、必ず動く連中が多分に居る。
 その一人が「リンの亭主」だ、だけど今はリンと産まれたばかりの子供の側を離れられない。』

 『だからアンタが動くと。で、私の情報網を覗かせろと?』

 『いつもなら、この手の揉め事は若頭の鉄が収めてるんだが…』

 『ハイハーイ、知ってるわよ。お腹の大きいリンちゃんの側に居たからって言うんでしょ?良いわよ、「出産祝い」のオマケで「ウチ」が動いてあげるわ!で、報酬は?』
 
 『出産祝いじゃないのかよ?』

 『アンタからの報酬よ!コレは「ケジメ」よ。
 私達メイドの間で「御主人様あるじ」以外に無償で働く事は無いんだから!』

 『わーたよ!じゃコイツと同じモンでどうだ?』

 そう言って取り出したのは、

 『ナニコレ?おもちゃ?』

 灯火が薄い胸元から取り出したのは「灯火専用機 ハルク」と名付けた「カプロボ」だ!


 『コイツは私専用だからやれないが同じモノを複数台、近日中に受け取る事になってる。
 その内の一台をお前さんに譲るよ。ソレで良いか?』

 『おもちゃ何か貰っても…アレ、アレレ?』

 鉛色の球体がテーブルの上をコロコロ転がっている。
 お冷のグラスやコーヒーカップを避けて、
 「香炉機コオロギ  左織サオリ」の前でピタッと止まる⁉︎

 『え?ナニコレ?』

 『変わるんだ、素敵な者に!いくぞ!』

 灯火の合図で鉛色の球体は、小さな鉄人に姿を変えた!

 『呼べば答えるし、転がって来るんだ!』そこは飛べよ!

 『新型のロボフォ○?』

 『知ってるだろ、「時村博士」の新作だ。私の趣味で鉄球型にした。変化球も思いのママだ!』

 『その使い方、勿体ないわ!でも、何が出来るかで交渉の材料になるのは認めるわ。』

 『僭越ながらワタクシからご説明しますがよろしいですか?』


 『そう?じゃあお願…え?』

 『ワタクシ「ハルク」の外装は「超重密度合金」で覆われており、ワタクシの強度とマスター灯火ちゃんの投球力が合わされば対戦車ライフルと同等の攻撃が可能かと。』
 
 『ううん、そんなのは求めて無いよ。もっと一般寄りな性能は?』

 『スマホ程度の事なら、あとstun gunの真似事が得意です。但し一回の電撃に二時間の充電食事を要しますので、待機中は小まめに充電食事させてください。』

 『うん、武闘派なのかな、君は?
 もっと可愛い機能は無いの?』

 『ワンーリンガルとニャンーリンガルの機能が有りますが可愛いですか?
 あと肌や髪の状態を観測して保湿アドバイス出来ます。
 マスターは気にしてませんので、ほぼ使った事は有りませんが。』

 『アナタの声、人気アニメの「○○君」みたいね?わかるかな?』

 『ハイ、その方のお声をサンプリングしたと記憶してます。』

 『マジ⁉︎ じゃあ、好きな声に設定出来るって事?』

 『詳しくは取扱説明書でご確認下さい。』

 『分かった!いいよ!この子と同じ子、一台で引き受ける。
なんなら捕まえて来るよ!その引ったくり犯を!』

 『なら、今日の5時までに鶴亀署に届けてくれ。
 安心させたいんだ、出来るだけ早く!』

 今日の晩御飯は食べ逃せないのだ!


 その1時間後には、

 頭を半坊主にされた引ったくり犯が段ボール箱に入れられて鶴亀署にデリバリされていた。

 この件に関する証拠品と共に。


 
 『君でも良いけど、灯火が大事にしてそうだし。アナタの兄弟、私大切にするからね!』

 そう言って、「コオロギ暴食」は職場に戻って行った。

 
 私も戻るか。

 北代家に向かう途中でビックフットと虎丸に遭遇した。

 暗い表情の少年の服の裾に噛みついて離さない。

 『駄目だよ、お願いだから離してよ。ね、良い子だから。』

 叩いたり、怒鳴ったり強く出れないのは気が弱いのか、それとも動物は好きなのか?

 仕方ない、行ってやるか。


 『ほれほれ、駄目だろ、お前たち!らしくないな?離してやんな。』

 『あ、ありがとうございます。

え、 も、
 もしかして、「ちっさい言うな!美幼女メイド姫 十六夜 灯火ちゃん」デスか?』

 『うっせー!ちっさい言うなー!』

 『わー!本物だー!握手してくださーい!サイン下さーい!』

 
 この少年がイジメを苦に自殺しようとしていたのを、

 『もー、面倒くせー!お前も来い!』と言って北代家の夕食に連れてきた事が、
 この少年を救う事になるとは灯火本人も自覚無しだから尊いのだ。


 
 『あ!間違って二葉のパンツ履いてた。』

 『ソレ、今言う事ですの?』

 『このお兄ちゃん、顔トマトみたいなのだ?』

 『ハ~イ!おかわりたくさんあるから食べ切ってね!』
 
 『カレーは二日目が美味いのだよ、ママ殿?』

 『二日目用は別の鍋なのよ。君も良かったら明日も食べに来てね!ウチはお客様大歓迎だからね!』


 そりゃ死ぬ気も無くなるよね。

 可愛い女の子たちに綺麗なお姉さん(実はお母さんだけども。)

 そしてもふもふのニャンコとワンコが近づいて擦り寄ってきたり、膝に乗ったりしてくれる。


 そして、

 『同じ釜のメシを食った以上、お前はオレのダチだ!今度はそとで遊ぼうぜ! そうだな、河川敷を犬たちと競争して負けた方が犬洗いな!』


 自殺するヒマ無いと泣いてしまった少年を風呂に誘う北代家男性陣!

 (お背中、お流ししますと九院兄登場…沈めた。)

 『私も混ざって良いか?』

 『いい訳あるか!』

 灯火ちゃんならギリOKとか無いからな!

 『リリも混ざる~!』

 『『駄目!』ですわ!』

 大騒ぎだよ!

 入浴後、お約束のコーヒー牛乳を飲んでから一息ついて、
 少年をサイドマシンに乗せて家まで送るママさん。

 『今日はありがとうございました。』

 『ねぇ、君。何か困った事が有ったらいつでもウチに来てね!』

 『は、ハイ!』

 
 果たして虎丸が戯れて、少年の服の裾に爪が引っ掛かったのは偶然か?

 ビックフットが少年に道を塞ぐ様に擦り寄って来たのは偶然か?

 
 『そんな訳ねーじゃん!』

 『ん?何か言った、灯火ちゃん?』

 『いんや、綾乃姉さん。なぁ、「出産祝い」って何送れば喜ばれるんだ?』

 『現金!』


 北代家の離れでハーブ茶に蜂蜜入れて、プチお茶会しているお二人?

 
 『なぁ灯火、何か小説の「ネタ」に成りそうな事なかった?』

 『有るよ。』
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