43 / 79
悲しい事、つらい事。
しおりを挟むソレは突然で、いきなり決まった。
姫乃サンたち芸能部の活動が話題になっている朝の教室での事だ。
「悪い、来週の譲渡会、急遽中止になった。」
俺と姫乃さんが教室に着いてすぐに、昴からそう告げられる?
「え、そなの?」
何でも、今回借りられる予定の会場が、先方の急な事情で使えなくなったそうだ?
「例の雑居ビルの一室だったんだけどさ、あのビルのオーナーが急に変わったらしくてな、その新オーナーから屋内に動物を入れないでくれって、お袋に連絡が有ったんだ。」
どうやらコチラには、あまり詳しく教えられい諸事情があるらしい?
「代わりの場所は見つからないのか?」
「今からだと、難しいな?
お袋もアテを当たってるがサッパリらしい。」
二、三匹なら昴の家で出来るが、今回の譲渡会に参加予定で他のボランティアさんが預かってくれる保護猫は合計で十五匹、中々の大きい譲渡会を予定していたのだ。
「私も光里サンもお手伝いするのを、とっても楽しみにしていたのに残念です。
何とかなりませんか、京多サン?」
「コレばかりはなんとも、十五匹の猫を連れて来れる会場なんて、俺にも…。」
ソコへ
「ヒ~メちゃん、おっはよーん!」
最近は特に懐いたウザみこと美海サンが、登校するなり姫乃サンに抱きついてきた。
仲の良い女子あるある…我慢我慢。
「おはようございます、美海サン。」
「あ、アレレ?
ヒメちゃん、泣いてる?」
泣いてはいなかったが、かなり悲しそうな表情をしていた姫乃サンに気付いた美海サン?
「い、いえ、泣いてませんよ、大丈夫デスから。」
「そうなの?」
さらには、
「お、おう、おはよ。
ん、どうかしたのか?」
最近は割と普通に挨拶してくれる黒須サン。
皆んなの妙な空気感に露骨に不快な表現を見せて、その訳を尋ねてきた。
芸能部は活動初日から、全校生徒から注目されていた?
のだけど、あの生徒会が後押ししているとか、最初に誘ったのが「宇佐美 美海」と「黒須 愛菜」と分かると皆引いてしまった様だ?
しばらくは様子見らしく、放課後に部室近くでヒソヒソ話している女子をよく見かけた。
実際に黒須サンは、ほぼボッチだと思っていたのに、割と横の繋がりがある様だ?
例えば「被服研」や「演劇部」、「アニ研」などに同志がいてコスプレイベントにその同志たちと参加している様。
つまり「気の合う」連中とはよく話すけど、ソレ以外の生徒とは必要以上にコミュニケーションを取っていないのだ。
非常にわかりやすい反面、明るいキャラクターの美海サンは何故か特定のクラスメイトしか話しかけてこない?
下手にコチラの事を話して、湾曲したウワサを広められるのを避けている様だ?
しかし、今回の芸能部の事で、「ウザみが芸能部の活動の事を全く話さない?」事で、その認識が見直されている?
ある女子が思い切って、
「ねぇ宇佐美さん、芸能部ってどんな事しているの?」
と、聞いたそうだが、
「えっとね、今はまだ内緒なんだ。ごめんね。」
だそうだ?
知りたければ、見学なり仮入部でもすれば良い、「来るモノ拒まず、去るモノ追わず」と言ったところだ。
そんな中で、この譲渡会中止の話しが耳に入る。
「…何だよ、そのビルのオーナー、冷たいのな?
前から決まってたんだろ⁈」
何故か俺を責める黒須サン?
「まぁそうなんだが、そもそも前のオーナーの好意でタダで借りられる予定だったが、金銭契約とか無かったからお袋も強く出れないそうだ?」
「そ、そうなんだ、へ、へぇー?」
俺で無くて、昴が答えた所為か黒須の様子がおかしい?
まさかテレてる?
「ねぇねぇ、おっきなスペースが有ればネコちゃんたちに新しい家族が見つけられるの?」
意外なところから実に真っ当なご意見が出た?
「えぇ、そうですけど、美海サン もしかして心当たりがありますか?」
「アマッチのおウチなら出来るんじゃない?」
「ウチはオヤジがネコアレルギーって事が判明したから駄目だゾ?」
「…なら、アタシんちでも出来るかも?」
「「「エッ?」」」
「ココ、どこ?」
最寄りの駅から二つ先の駅で降りて徒歩5分!
「ココだよ、アタシんちは。」
ほぼ駅前に有る、その大きなビルの天辺の看板には、
『(株)ラビット』
と有った?
「えっと、ファンシーな文具やグッズを製造販売している会社だよな?
光里も良く使ってるから知ってるし?」
「うん、あのね、下が会社で上がおウチなんだよ!」
その大雑把な説明で、なんとなく理解した?
「姫乃サン同様に、美海サンは大手企業のお嬢様なんだ?」
「う、嘘だろ?
マジかよ?」
驚く俺と黒須サン、そして
「いや、俺は知っていたけど?」
と、意外にも昴が答えた。
そういえば、お前んちで少数だけど文房具も扱ってたな?
「…実は俺も…ウチの爺さんとココの会長、顔見知りなんだ。」
天木までカミングアウトした?
「一階に広いスペースが有ってね、新商品の展示会とかしてるから、今場所を貸してもらえないかおじいちゃんに聞いてみるね!」
そう言うと、受付に走っていく美海サン?
するとアチラから、
「少々お待ちくださいませ、お嬢様!」
とか、
「今、常務をお呼びしますので!」
とか、聞こえてきた?
お嬢様なのは本当らしい?
「…ラビット…うさぎかぁ?
あまりひねりが無いな?」
黒須サンが呟いたが、誰もツッコまなかった?
「えっとね、今、会長と常務がお話し聞いてくれるって!」
「いっその事、ウチのスポンサーになってもらうゼ⁈」
「そんな簡単な話しじゃないだろ?」
「愛菜サンも京多サンも落ち着いて下さい!
私たち、あくまでお友達の家に来ただけなのですから!」
「そうだぞ、譲渡会の件は絶対口に出すなよ!」
オヤオヤ、昴がいつに無く真剣な顔をしている?
いつも余裕綽々で飄々としているアイツにしては珍しく緊張している?
「どしたの、昴ン?」
「…まさかと思ったが、宇佐美があの「ラビット」のお嬢様とはな?
あと、スバルんはやめろ。」
まぁ、ウチの学校って各クラスに大手企業の御曹司とか、大女優の娘とか、そんなのが必ず一人か二人いるからアリっちゃアリなんだけど?
「ラビットの会長って、業界じゃ鬼の松吾郎って呼ばれていた時代が有るんだ?」
「おに?」
「戦後のドサクサで成り上がった人らしい?
ウチの爺さんが言ってたんだけどな?」
「昴んとこの爺さんも成り上がりだもんな?」
ってか、幾つだよ、爺さんたちは?
「あ、あのお嬢様のお友達の方ですね?」
先程、受付にいたお姉さんだ?
アレ、美海は何処行った?
「ハイ、突然お邪魔してすいません。」
皆んなの代表の様に姫乃サンが答えた?
「ご案内いたします、コチラにどうぞ。」
俺達は応接室に案内され…るかと思ったら、
「皆んな~、こっちこっち~ぃ!」
エレベーターで八階建ビルの屋上に案内され、ソノ屋上には立派な御屋敷があった?
「なんだっけ、こう言うの?
武家屋敷? 高級料亭?」
「黒須サン、言いたい事はなんとなく分かるぞ?」
?な俺と黒須サン。
「まぁ、素敵なご趣味ですね。」
余裕なのか、庭の様子を見て感心している姫乃サン?
「い、池が有るぜ?
錦鯉とか泳いでるし?」
なんだかんだで俺達は日本庭園がよく見えるニ十畳ほどの広い和室に通された?
高級そうな和菓子を出されて、
「…和三盆のいい香りがしますね。」
なんて姫乃サンが超お嬢様力を発揮している?
で、わさんぼんってなに?
「やぁ待たせたね。」
ソコに現れたのは額から天辺は禿げてて、サイドの毛髪は真っ白な白髪の「ザ・おじいちゃん」って感じの美海サンのお爺さんが現れた?
何かで見た「縮緬問屋の御隠居」並の貫禄のある御老人だ?
「皆んな、美海のおじいちゃんだよ。」
スゲー嬉しそうに紹介する美海サン?
「えへへ、家にお友達連れてくるの久しぶりなんだ!」
キュン!
な、なんだよ?
急にそんな事言うなよ、可愛いじゃないかよ!
「美海サンのお祖父様、お初にお目にかかります。
桜庭 姫乃と申します、美海サンとは日頃、仲良くして頂いています。」
まるで俺達を代表しているかの様に三つ指ついて挨拶する姫乃サン!
この人…俺の未来のお嫁さんかと思うと人生勝ち組感半端ない…なんて節操ない事を思ってしまう?
「コレはコレはご丁寧に。
美海のおじいちゃんの亀太郎じゃよ。
コレからも美海とは仲良くしてやって下さいな。」
…ウサギとカメ…いや、なんでも無いよ。
「お嬢さんはサクラバフーズの御息女かな、そちらは蒼山書店の息子さん…おや、「天木家 甘太」さんのお孫さんまで?
いや、美海のお友達は凄い方ばかりだね。」
「…じっちゃんを知っているんですか?」
珍しく天木が敬語で聞き返すと、
「ワシは君のお祖父さんが現役の頃、お祖父さんの後援会長をしていた時が有ってね、最近はお手紙のやり取りしかしていないが、お祖父さんはお元気かな?」
「は、はい!
えっと、最近はもっぱら妹の遊び相手です!」
「あれ、アマッチ、妹いたの?知らなかったよ?」
「ハイ!
まだ四つになったばかりの「蜜柑」ってのがいるんですっ!
何故か美海サンの質問な敬語で答える天木?
緊張しているのか?
「…は、初めまして、黒須 愛菜です、同じクラスで同じクラブです…よ、よろしくお願いします。」
「オヤオヤ、そんなに緊張せんでもいいよ、お嬢さん。
黒須さんっと言うと、もしかして代議士の「黒須 義信」氏の…」
「あ、あの、ソレは親戚の、オジさんで、私とはその…」
「おぉ、コレは申し訳ない事をしたね。
つい、知っている名を聞いたもので早とちりしてしまった様だ、すまなかったね?」
「い、いえ、大丈夫です。」
へぇ、なんか複雑な事情でも有るのかな?
って⁈
俺が最後に挨拶する流れになっているじゃないか?
この流れだとオジさんの事でも、持ち出されるかな?
「お祖父様、初めまして!
三条 京多と言いまスっ!」
「…さ、三条だって⁈
ま、まさか君の…?」
えっ?
何、何を驚いているの?
「…ケイタくんっと言ったね、ワシは君の…
おじいちゃんじゃよ。」
えっ?
「「「「えぇ~⁇」」」」
皆んなハモった?
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。
大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。
「神の怒りを買ってしまいます~っ」
みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。
お神楽×オフィスラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる