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彼が固執する訳。

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 「すこし昔話をするわね。」


 何でも、桜庭の家は元は武家の家系らしく、
 主君は同盟を結んでいた別の藩の領主に裏切られ、戦で討ち取られ、
 その以前に主君の命でとある農村に、農民として一族で潜伏していた桜庭家は、
 いつの間にかその農村を支配する程の豪農と言われるまでに栄えていたそうだ。


 なんかよく似た話し、聞いた事ある様な?


 その頃から、

 外部のモノを迎え入れる事を極端に嫌ったそうで、
 豪農の家との結びつきを狙った江戸の大店が、
 娘を嫁にと、かなり強引に嫁がせたそうだ。

 ところが農村暮らしが嫌な嫁は、たまたま村に来た旅芸人の一座の男と恋仲になり、一緒に逃げる事になった。


 旅芸人の男は夜中に迎えに行くので、屋敷の裏木戸を開けておいてくれと、嫁に言うとその夜に一座全員で屋敷にやって来た。


 旅の一座は実は盗賊で、同じ方法であちこちの庄屋や豪農の屋敷を襲っていたのだ。

 しかし、元々サムライである家主たちは、嫁の様子がおかしい事や普段から戸締り警戒は怠らないので、襲ってきた盗賊を返り討ちして、
 騙されたとはいえ、盗賊を手引きした嫁にも、酷い仕置きをしてから実家の大店に送り返した。

 嫁が仕出かした不祥事を、町に風潮しながら。


 次第に信用をなくした大店は潰れたそうだ。


 そんな事が有ってからは本家と分家の間でしか婚姻を結ばなくなったそうだ。


 「…そんなマンガ初めて昔話がアリそうですね?」


 「京多くん、本当平成生まれ?」



 ソレから玲子さんはご主人の孝作氏の事を話し始めた。


 「ここからはプロの人に、調べてもらったわ。」

 孝作氏は学生時代、北海道の酪農家の家に下宿していたそうだ。

 アチラの農業高校に通う為に。


 関東圏にある桜井ファームという大きな農場、そこの三男の孝作氏は後にその農業の経営者となる兄を支援する為にその学校の酪農学科に進学そうだ。

 
 「そこで同じ学校に通う一人の女の子と出逢ったそうよ。

 畜産学科に通うその子と交際していたらしいけど、その子の実家が経営難で離農されて、彼女も学校を辞めたそうよ。」


 高校卒業後、関東にある農大に進学した孝作氏は東京で彼女に再会する、親元から離れて彼女はトリマーとして必死に働いていたらしい。


 分家の三男なんて居ないも同じと考えた孝作氏は彼女との結婚を決意し…

 高校生の頃に世話になった、北海道の酪農家の所なら二人を雇ってくれるかもしれない…

 そんな風に考えていたらしい?



 「その酪農家さんの所に、もしかしたら、そちらに女性を連れてお世話になりに行くかもしれない、って連絡をして来た事が有ったそうよ。

 彼女、その時あの人の赤ちゃんがお腹にいたらしいの、

 でもね、…   」


 この後とある事故で、最悪の事態になる。


 桜井家の次男が視察を兼ねた旅行先で事故に遭い亡くなった。

 その事でなんと三男の孝作氏に縁談の話しが!

 桜庭 玲子との政略結婚の件である。


 この時、サクラバフーズは分家の桜野家が運営する健康食品会社「チェリーライフ」と共同開発したダイエット健康食品を大々的に売り出す計画があった。

 しかし、商品のイメージガールとして起用した新人女優が、にも桜井家の次男と同じ事故で亡くなってしまったのだ。


 サクラバフーズとしては仕切り直す意味でも発売を延期するつもりだったが、
 急遽、亡くなった女優の代役を探し、予定通りに販売開始しようと「チェリーライフ」が、独断で販売を強行してしまった。

 ところが…

 「代役の女優が大物俳優と不倫をしていたとか、亡くなった女優さんに対して酷い仕打ちだとか、マスコミや亡くなった女優のファンの人からチェリーライフは批判されたの。

 幸か不幸か、そもそも絶対売れると強気だった桜野家の一派は「チェリーライフ」の名前を全面に出して発売したわ。

 利益と話題を独占しようとしたのね。」

 どうやら、商品の開発までにかなりの出資をしているらしく、大手のサクラバフーズ的には些細な額でもその一派には、ここで販売中止などになったら…

 「でも、その新商品の不買運動が起こってしまったの。

 小規模だったけど、事故の事と合わせてマスコミは大きく取り上げたわ。

 桜庭は桜野の一派を切り捨てたの。


 その一派のリーダーが私の元婚約者…

 もちろん婚約は解消され、新たな婚約者が選ばれた、

 ソレが…   」


 「姫乃さんのお父さん?

 でも、なんで?」


 「分家同士で本家に取り入ろうと争っていたの。

 桜井の長男は既に御結婚されていたので、三男の孝作さんが候補としてに連れて来られたらしいの。」


 「えっ、だって彼女と結婚…
 赤ちゃんだって?」


 「強引に別れさせられていたの。

 彼女の家にを渡して、赤ちゃんも堕させられた様で、その時の手術がずざんな所為で彼女はもう赤ちゃんが出来なくなったらしいの。」


 「…最悪ですね!」

 急にあの人に同情したく…

 いや、酷い目にあったのは彼女サンだ!

 「それだけじゃないの、孝作さんには、実家の為に彼女からお金を要求したとを付いていたらしくて、
 その真実を知ったのは、おそらく前当主が亡くなった時ではないかって探偵サンが教えてくれたわ。」

 探偵って凄いな!

 そこまで調べられたんだ⁈


 「ソレから、孝作さんは独自に彼女の消息を探した様で、その結果…」

 

 彼女は亡くなっていた。

 結婚もせず、実家からも縁を切り、一人で生きていたらしい。


 生前、猫のブリーダーをしていたそうだ。

 
 「まさか、その猫って⁈」


 「そう、ヒメちゃんのおばあちゃんにあたる猫、キャットショーで何度も入賞していたメスのマンチカンよ。

 何でも娘の様に可愛がっていたそうよ。」


 「だからヒメを…」


 でも、ヒメは渡さない。



 「あの人がヒメちゃんにこだわった理由はわかってもらえたかしら?」


 「そのマンチカンの子や孫、ヒメ以外にいなかったんですか?」


 「その猫はプリンセスって名前で登録されていたそうよ。

 五年程前に亡くなったそうで、五匹の子供を産んでね、全くいない訳ではないの、

 でも女の子はヒメちゃんだけみたい。

 しかも、この後子孫を残していけるのも…。


 あのね、姫乃って名前、あの人が付けたの。


 何か意味があるのかも知れないわね?」


 「…分かりませんよ、俺にはさっぱり…」

 もしかして、彼女との子に付けるつもりだった名前とか?


 偶然、「ヒメ」と名付けただけだ。

 「ご主人には確認したんですか?」


 「…まだ…なの。怖くて。」


 ソコは俺が口出ししない方が良いな。


 「まぁ、大体の事情はわかりましたよ、でもヒメを渡す事は出来ません。


 まぁ、嫁いだ娘に会いに来た父親が、嫁ぎ先の飼い猫を愛でるのは構いませんけど…


 でも、態度は改めてもらわないと!」

 おそらくヒメはオウジと結ばれるだろう、産まれる子猫はMIXな訳だし。

 「フフフ、ソレとなく伝えておくわね。




 ねぇ京多くん、とヒメちゃんの件はコレで和解の糸口は見つかりそうだけど、

 あの子の、姫乃も気付いていない姫乃の事を話しておきたいのだけど、聞いてくれるかしら?」


 「…ソレは聞かないとマズい話しですか?」


 「もしかすると、知らない方がアナタ達は幸せに暮らせるかも知れないし、そうでないかもしれない?」

 
 「…聞きますよ、聞いてほしいって顔してますよ、玲子さんが。」


 「ありがとう、京多くん。

 コレからあの子姫乃と一緒にいてくれるアナタには、知る権利が有ると思って…


 もっとも、この事が分かったのは本当に最近で、ソレも五道先生と猫探偵さんのお陰なんだけどもね。」
 
 猫探偵?

 なにそれ、可愛い⁈


 「実は姫乃、幼少期に祖父に性的イタズラをされていたらしいの。」

 玲子さんの表情が途端に険しくなる。

 ソレは桜庭家に取り憑いた老害の話しだった。
 


 
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