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㉔ 君といつまでも。

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 真季は実家では【いらない子】とか【厄介者】と言われてきて、東京に来ても居場所が無かったのだ。

 実家から出る為に、嫌いな父の顔を立てて、父の知り合いが【東京】で経営している個人商店【スーパー〇〇】に住み込みで働く事にした。

 「俺が世話してやったんだから、が有ったら仕送りしろよな!」

 コレは金をよこせって意味だろう。

 ある程度我慢して、お金が貯まったら父が紹介した仕事なんてサッサと辞めて、定時制高校に通えそうな働き口を探すつもりだった。

 しかし、そのスーパーの近くに【ショッピングモール】が出来た事から経営が傾き、真季を雇う余裕すらなくなったらしい。

 賄いと称して、パートのおばさんが作った売れ残りのポテサラやヒジキの煮物が主食だった毎日、二か月目の給料すら貰えず放り出された⁇

 お陰でお金なんかちっともたまらなかった。

 何かあったら、東京に嫁いだ姉を訪ねて欲しいと中学の担任に言われていたので、心苦しいがもう実家に戻りたく無いので、頼らせてもらった。


 先生のお姉さんは事前に事情を知っていたので、真季の事を暖かく迎えてくれた、無償で下宿させてくれたのだ。

 こちらの一家はお姉さん夫婦に、大学生の長男と高校生の次男の四人家族で、

 「…実は父さん、【娘】欲しかったんだ!」

 と、ここのご主人は真季の事を大変可愛がってくれた。

 「…お、俺も【妹】が欲しかったんだ!」

 と、長男さんもとても良くしてくれた。

 「真季チャン、こんな冴えないオヤジと気持ち悪いアニキだけど、何かされたら俺に言ってね。」

 歳が近い次男さんとは、としても親切にしてくれた。


 しばらくして案の定、最初に働いていたスーパーは閉店していた、その事が実家に伝わっているかは不明だけど。

 しかし、真季がご主人の紹介で働き口を見つけ、定時制高校に通える様になってから、それまでで一番【幸せ】で安心出来る生活が一年ほど過ぎた頃、


 深夜に酔って帰って来た長男が、部屋で寝ていた真季に突然襲いかかって来たのだ!

 「なぁいいだろ、真季ちゃん。

俺、本気なんだ、本気で君の事…」

 この日ご夫婦は所用が有って留守にしており、次男も友達の家に泊まり掛けで遊びに行っていた。

 「お、お兄さん、やめて下さい!」

 普段なら絶対こんな事はしない人なんだが、この日長男は長年想いを寄せていた女性にこっ酷く振られて、やけ酒を煽っていたらしい?

 息がお酒くさい…

 「…お前も俺を拒絶するのか!」

 抵抗すると大声を出されて、子供の頃に酔った父に殴られた事を思い出した…

 「…ヒッ⁈」

 怖くて、もう逆らえない真季だが、

 「…オイ兄貴!

 なんて事してるんだよ!」

 やっぱり真季の事が心配で、帰って来てくれた次男!

 真季に馬乗りになっていた長男を蹴り飛ばし、顔面に一発喰らわした!

 朝になり、夫婦が帰って来ると、次男から昨晩何が有ったか説明された。


 間一髪、真季は無事だったが、もうここで暮らしていけないと思った。


 ご主人が憤怒して自室で酔いが冷めて項垂れている長男を家から叩き出そうとした。

 あんなに仲の良かったご家族が自分の所為でこんな事になってしまった。


 真季は何も告げずに、黙ってこの家から姿を消した。

 職場や学校で知り合った友人の家を泊まり歩き、住み込みで働けるバイトを見つけて何とかやってこれた。

 定時制高校とはいろいろと訳ありな生徒も多く、深く追求せず力になってくれる友人が出来た事は学校に通えなければ得る事は無かっただろう。

 今はそれだけが救いだった。

 ある日、駅前で【生活向上】を唄ったシンポジウムのビラを配っている若者たちに出会った。

 パチンコ店のバイトで、その日その日をやっと生きているだけの自分が惨めに思えていた頃だった。


 「…アナタ、少しお話ししませんか?」


 「えっ、私ですか?」

 つい受け取ったビラを食いって読んでいたからかも知れない、一人の女性が真季に話しかけてきた?

 「…何かつらそうに見えたの、安心して。

 別にアナタを無理に引き込もうとは考えてないから、ただお話ししたいの…

 それだけで心が軽くなる事もあるのよ?」

 何故か心にスッと入って来る様な綺麗な声だった…

 


 「…その女性こそが、あのアパートにいた【梶原 ひとみ】だ、人の心の隙に入るのが、に上手い。」

 【非常】では無く【非情】だと兄貴が強調した?

 それは相手の心を支配する【マインドコントロール】と呼ばれる催眠術の様な物だと兄貴が教えてくれた。



 実は兄貴なりに真季の事を心配して、いろいろと動いてくれたようだ。

 その時、偶然にも別件で調査していた【宗教団体】の信者拉致事件で、例の女性の顔を覚えていたそうだ?

 「その手腕を買われて、いくつかの【団体】からヘッドハンティングされてた様だな?」

 別に【宗教家】としてではなく、あくまでとして請け負っていて、【信者】や【会員】を集めている仕事をしていた様だ?

 どうやらそう言う事が専門の【詐欺師】だったらしい?



 …あの事件の後、全国的に怪しいと思われる【団体】は警察からマークされていた。

 特に【団体名】を変えて、生き残りを図ろうしていたり、またあくまで【インチキ宗教】で金を儲けようとしていた連中は、別の【インチキ商法】に鞍替えしていた?

 実際に事件を起こした【宗教団体】とは無関係の【団体】でも、世の中は【魔女狩り】の如く、怪しい集団を駆逐していったのだ。

 特に団体で生活しようとしている為に、同じアパートや広めの家屋に信者たちが集まって暮らしていたケースが多かったようで、信者だとわかると地域住人が協力して、信者の追放運動を始めたりしていた。




 俺は図らずも、あの恐ろしい事件から逃れる事が出来た。

 偶然だとしても、小夏や子猫たちが俺を助けてくれたと思っている。

 あの日、小夏が朝にお産を始めていなかったら?

 前日に産み終わっていたら?

 いつも通りに出勤していたのだから…


 
 【カルト教団】と言う言葉が産まれた。

 連日ニュースでは【強制捜査】の様子が報道されている。


 あの日、あの晩は自分が無事だった事や真季が怪しい団体からぬけ出せた事、子猫が無事に産まれた事などを噛み締める様に皆んなで身を寄せ合って寝た。

 あの事件に恐怖し、側に家族がいる事に安堵したのだ。

 あの事件で、ウチの社員も被害に遭われたらしい?

 翌日からその対応に追われた、帰れない日も有り、真季の事を気遣って、兄貴の秘書サンと俺の中学生の妹が家に泊まりに来てくれた。

 実際、【民事不介入】と言いのトラブルから避けていた警察も一転してカルト教団に目を光らせ始めたのだから。



 兄貴も普段以上に心配になった様だ。

 子猫を観に来たとか行っていたが、まぁそれも半分と言うところだ。

 ちょいちょい真季の事を気にかけて、やたらケーキだの和菓子だの土産に持っては来てくれていた。

 途中に親しくしている親類の家があるので、その次いでに来たと誤魔化していたが?


 それから二年程過ぎた頃、真季が懐妊した。

 決して兄貴の土産が原因で肥えた訳では無かったのだ?


 …偶然にもそのひと月前に入籍して、真季は【三条 真季】になっていた。


 そして、

 大家のおばあちゃんが亡くなった、突然の心臓発作らしい。




 飼い猫のアメショも行方不明になっていたが、ある日ひっこりウチに現れた。

 随分と痩せていたが、おばあちゃんが飼っていた猫に間違いない。

 大家の息子さんにも、

 「…きっとココに行く様にお袋に言われたんですよ、コイツ。

 ご無理で無かったらこのまま、お宅に置いてやってくれませんか?」

 その通りかも知れない、俺たち家族は快諾した。

 名前は【タロウ】だそうだ、アメリカンなのに随分と和風な名前だった?

 アパートや借家の管理は息子さんが引き継ぐそうだ。


 息子さんに聞いたのだが、例の女性梶原ひとみが住んでいた部屋の天井から、【顧客リスト】の様なモノが出てきたらしい?


 一人暮らしのお年寄りや高額納税者の名前が書かれていたとか?

 警察が来て調べていったそうだ、一応立ち会って確認したとか?

 相当急いで逃げたのだと、様子を見に来てくれた兄貴が洩らして

 もしかしたら、おばあちゃんもカモに狙われていたのかも知れないとの警察の見解だったそうだ?

 果たして、まさか真季を探して追って来たのか、それとも偶然だったのか?


 そして息子さんはあのアパートを取り壊す事を決めたそうだ。

 警察から何か聞いて、決断したらしい?

 元々古いし、空室も多いので、建て替えようと思っていたが、変な住人が住み着くと怖いと思い治し、月極駐車場にするそうだ。



 「…あの、いっそこのウチ、土地混みで買ってもらえませんか?」


 それは真季のお腹が大分大きくなって来た頃だ、息子さんがら打診された。

 兄貴とも相談して、是非にと購入させてもらう事にした。

 コレで二階の増設とか…それは追々考えることに。



 


 そんな時、兄貴から悲しい話しを聞いた。

 真季がお世話になっていたご家族の長男が、【カルト教団】に参加していたそうだ。

 例の事件を起こした【教団】とも、真季が参加していた【団体】とも別のモノらしいが、そこに例の【梶原 ひとみ】が居たらしい。

 何でも信者の一人に対して、【除霊】と称して大勢で暴行を加えていたらしい?


 その結果、亡くなった人がいたそうだ、TV番組でも多く取り上げて『何故、人は怪しい【宗教】にのめり込むのか?』なんて特集を組むぐらいだ。

 「…いいか、真季ちゃんはもう大丈夫だと思うが、人間自分ではどうしようもない状態になると、否定する存在より、肯定してくれる存在に【依存】してしまうケースが有るんだ。

 君は悪くない、悪いのは君を認めない、君の素晴らしさを理解出来ない【世界】の方だと。

 そんな事を言って、自分から離れられない様にしていくんだ。」

 そんな難しいことはしていない様だけど、心が疲弊している時に言われたらそうなってしまうモノだと兄貴は語っていた。


 何かで聞いた事がある、もし目の前に【飛び降り自殺】をしようとしている人に言ってはいけない言葉があるとか?

 「頑張れ!」とか勇気付けようとする言葉はマズいそうだ。


 それまで一生懸命頑張ってソレでも駄目で死のうとしている人に、「もっと頑張れ」と言っている訳で、実はそれまでの【頑張り】を否定し、突き離している事になるそうだ。

 なので死を思いとどまらせるには相手を肯定する言葉や擁護する言葉が適してるそうだ。



 そう言う実例をたくさん知っているのだろう。

 兄貴は今、軟禁されて家に帰れない【元信者】たちの救出に協力しているそうだ?

 長男さんもその【元信者】側らしい?

 「依頼人な、俺が真季チャンの義理の兄だと言ったら、大変驚かれてな、今お腹に赤チャンがいるって言ったら、泣き出してしまったよ。」

 「…落ち着いたら、挨拶に行くわ?

 真季に知らせるかは分からんけどな。」





 しかし、俺がこの件を真季に話す事は無かった。


 お腹の子に触ると思ったからだ。


 事態は最悪の結末を迎えたからだ。



 

 助けたはずの長男さんは後日、パソコン通信などで知り合った【自殺願望】のある人たちと一緒にとある森の山荘で【集団自殺】を行ったからだ…
 
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