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いらっしゃいませ!ようこそ『森の猫さま』へ。

騒々しい来客〜猫の女神さま。

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 ご機嫌ようです!舞華です。
 最近、商店街を中心に素敵なうわさ話が広がっています。 

 「猫の女神さま。」 
 
 そこの八百屋でジャガイモ、にんじん、玉ねぎを買えば、 
 『おや、奥さん。今日はカレーなの?そうそう、カレーと言えば、あのうわさ聞きました?カレーのおう…じゃなくて「猫の神さま」!』 
 『あら、私は「猫の女神ま」って聞いたわよ?お隣りのお肉屋さんで。』 
 『そう!それそれ。あらやっぱりカレーなのね。』 
 『肉じゃがなんだけど、カレーにしようかしら?』なんて感じに広まっている。お店によってある程度、アレンジが違うけど、要約するとこんな話しです。

 ある日のお昼過ぎに、血だらけのネコを胸に抱きしめて、商店街を駆け抜けて行く美女が現れたらしい。
その人は血で服が汚れるのも厭わず、しっかりとそして愛おしく猫を抱き、風のように走り去った。 
 車にぶつかったのか、猫は大分出血してグッタリしていたらしい。
その人が向かった先にはこの辺りでは評判の良い動物病院がある、日曜祭日も診察してくれるし、先生がイケメンだし、
 おそらくソコを目指していたのだろう。実際に病院で聞いた人がいて、個人情報だから女性の素性は明かせないが、運ばれて来た仔猫はなんとか助かったそうだ。しかも、あと少し遅ければ助けられたか分からなかった。
 それほど危険な状況だったらしい。 
 獣医師さんのコメントがプラスされてから、商店街ではこの話しで持ちきりになりました。 

 「猫の女神さま」、いつのまにかそう呼ばれてる素敵な人!
私も会ってみたい!きっとニーナ叔母さまみたいに優しい美人さんだよね。 
 
 女神さま効果かな?
カフェはいつも以上に賑わっている。
 カフェでもその話しでお客様が盛り上がってあるからね!
 『あのうわさ話の「女神さま」は店長さんじゃないの?』なんて言ってくれるお客様もいるけど、嬉しい反面、この周辺でネコがそんな大怪我をするなんて信じたくないよ。
 だって、商店街通りはスクールゾーンなので車両の進入が規制されてて、普通なら猫も人間も交通事故に合う事は無いはず、又最近は猫の完全室内飼育を推奨しているし、
 アニマルシェルターなど捨てられたり、虐待されたりした動物を保護する施設が有るから、野良犬や野良猫も街中ではほとんど見かけない。
 昔は、この辺りに大きな工場があり、そこから品物を運ぶトラックが、昼夜問わず往来して、スピードもかなり出していたから、人間だって轢かれそうだって町で抗議したとか?
 今はもう無いけど、訳は知らないの?

 母さん達が子供の頃には車に轢かれた猫の遺体をずいぶん埋葬して、まるで禁じられた遊びみたいだったそうです。ごめんなさい、その例え、私も分からないので
ググろう。

 そんな中、いま「森猫」では有る事で、
 てんやわんやな大騒ぎ。

 『あの、舞華店長、今イイですか?』
 『ハイ、ひなちゃん。瞳潤ませて、なにかな?』
 『ふうなさんが今日までって、私さっき聞いたんですけど、ふうなさん、産休って、結婚してたんですか?』 
 ごめんね、ひなちゃん。ちょいウルウルおメメが可愛い♡
 『してないよ、結婚はね。でもお腹に赤ちゃんがいるのは本当。』
 
ホームページに
 「当店の「メイド長」こと、ふうなさんが産休とその後の育児の為、長期休暇に入ります。」云々がUPされた。 
 メイド長のファンの方々が次々来店してくれた。花束とか紙おむつとか、安産祈願のお守りとか贈り物たくさんでびっくり。


 ふうなちゃんに戸籍は無いから、七神さんに色々改ざんしてもらっている。みんなには私の親戚で通してきたけど、更に設定が追加されたのが、
こちらです!ドーン!


 幼い頃にご両親を亡くし、施設に居た中学生のふうなちゃんをウチのお父さんが見つけて引き取り、援助してきた。
 ご両親が遺した財産を不正に横取りしたふうなちゃんの本当の親類を社会的に懲らしめた際に、ウチのお父さんとひなちゃんのお父様たちがふうなちゃんの存在を知り、保護した。
 歳が近い私たちがいる北代家なら安心出来るからとウチで暮らす事になった。高校生の頃に知り会った男性と恋をして、男性が大学を卒業した時にプロポーズされた。
 二人で暮らせる様になったら結婚するはずだったのに、男性が仕事場所で事故に巻き込まれて帰らぬ人となった。
 自分も後を追って死ぬと言うふうなちゃんを元気付けたのは、母親同然のウチのお母さんで気晴らしになるだろうと猫カフェの仕事を手伝ってもらっていた所に妊娠が判明。
 一人で育てる事を決意表明。お母さんが男性のご両親に連絡したところ、ふうなちゃんを養女に迎えたい、孫共々一緒に暮らしたいと言ってくださり、近日中に遠方の男性の実家で暮らす事になりました。



 と水増し設定を叔母の綾乃さんが考案しました。

 あと二案候補が有りましたが、ふうなちゃんが覚えきれないのと、
 ウチの母が元レディースの総長でふうなちゃんがソコの後輩とか、
 お父さんの隠し子とか余りにもヤサグレ感が昔のTVドラマみたいで却下されたのです。私それ知らないです、「トマトを花壇の柵に刺す」とか「骨壺でサッカー」とか「ポニテのドラマー」とか。ニーナ叔母さまにはなしたら 
 『綾姉さん、その女優さんのファンなの。多分その先は気の置けない女友達三人が同居して赤ちゃんを育てるのよ。』って笑って話してくれました。
うん、更に分からないよ?
   
 何故かこの設定もすぐ商店街を中心に拡散されてた。
 ふうなちゃん、以前から「北代さんちの長女さん(最近メイド長)」って慕われてたし、何気に姐御肌だし、
 しかも設定がある世代層に弩ハマりしたらしい。ふうなお姉ちゃんだったのね、皆さんから見たら。

 そんな訳で
「メイド長さん頑張って可愛い赤ちゃん産んでねカンパ」なるモノが駅前商店街振興組合の皆さまから届いてしまいました⁉︎
 これは想定外で私達は大慌て! 
 お気持ちは大変嬉しいのですが、「先方のご両親」が恐縮してしまうので、
 ウチの両親ズが、あちこち頭を下げ了解をもらい、振興組合さん名義で保護猫の里親探しをしているボランティア団体に寄付する事になりました。
ややこしい事するからややこしい事になるんだね。でも優しい町だなってほっこりしました。 


 でもね、その最中に優しくない事が私たちが気付けないだけで本当は足元で起こっていたの。

 お父さんのいる、地下の古本屋さんで。



 その日は午前中に見切品の仕分けをしていた。午後に来客の予定がある、さっさと終わらしたいので集中していると、つい独り言を漏らす。

 『疲れた、それ以上に恥ずかしかった。』
 昨日は嫁さんとあちこち頭を下げて回った。まぁあの子の為だ、これくらいは苦でも無い、
って思ったんだが、商店街には実家を継いだ元同級生が何人かいた。
 今でもちょいちょい合う奴はそうでも無い、がしかし、俺と久美が結婚していることさえ知らないモノは、
 『えっ何で、お前が竹下さんと結婚とか、メイドちゃんの親がわりとか、あり得ないだろ!』… 誰だっけ、この人?奥さんらしい人に奥へ連れて行かれたけど。
 嫁さんは相変わらずって笑ってたが、俺は中学の頃の記憶が一部曖昧だ。中二の夏辺りにあった交通事故が原因だとか。やな事は忘れる性分だ。 
 実際に大した不便は感じなかったけど、それはいつもそばにいてくれた嫁さんや友達、家族のお陰なのだろう。
 
 ガキの頃からの友達、「シモ」の所は金物店。コイツが10万円もカンパしてやがった。だから最初にシモの家に行く。
 『悪い、こいつは受け取れねー、先方が気を使うから。で、提案だが保護猫のボランティア団体に一部募金して、あと返す。いいよな?』
 『一度でもやった金、受け取れるか!馬鹿野郎!ボランティアに募金するのは許すが、残りはお嬢ちゃんの嫁入り道具とか買うとかに使え!』 
 『嫁に行くんじゃ無いぞ~。養女だぞー!わかってるか?そうだお前んとこの1番良い包丁売ってくれ。その金で。』 
 『そのくらい、祝いの品でお嬢ちゃんに献上するぞ!お前、娘が可愛くないのか?喧嘩売ってんのか?オモテでろ!いくらお前の隠し子だからって冷たいだろ?オイ!』 
 『上がるぞー、奥さんに線香上げさせてくれー。あ、みっちゃん久しぶりー。最近お母さんに似てきたね。これ御仏壇に。』 
 『ハイ、オジさん。ありがとうございます。お父さん、馬鹿やって無いで家に入って。』
 『みっちゃん、ごめんなさいね。騒がして、    あと下野くん、ふうなは隠し子なん   かじゃないから。   亡くなった本当のご両親に悪い   から!』 
 『じょ、冗談だから、久美ちゃん。相変わらず怒ると、へ、変なしゃべり方になるのはやめてくれ。おっかねぇから!美和、茶となんか有るだろ。出してやれ。』 

 そんな感じに和やかに各家を周り、事情を説明して了承してもらえた。 
 しかし、シモの野郎が俺達が帰った後に思い付くカンパしたであろう面子に連絡して、皆んな用意周到待ち構えていた。何故かふうなが俺の隠し子として噂が広がっていた。 あと昔の忘れたかった恥ずかしい思い出や舞華たち、娘がお嫁に行くのはいつ頃かしら?とか急所を突かれまくった。

 『ウフフ、みんなイイ人ばかりね。何か本当にふうちゃんがお嫁さんに行くみたい。変なの。』
 『実際は福の嫁に来たんだけども、ウチの娘たちが結婚する時もこんな騒ぎになる予感がする。』  
 『フラグ立てないでよ~?』 
 そんな夫婦の会話して帰路に着く、SAN値が激しく減る。早く帰って犬猫をもふもふしないと!



 『そもそも誰との隠し子だって言うんだ?全く。』何故か没案がチラホラ広まっていた。 




 猫カフェの読書コーナーの本棚には、猫の本が様々置かれている。猫の漫画、小説、飼育書、猫カタログ、自己出版の写真集、etc。
 半分はこの古本屋で集めた本だ。ここの本棚に時々売れそうも無い本を寄贈している。
 とくに映画化した小説は壊滅的に売れない。映画公開時に馬鹿みたいに増刷したからだ。でも時間が経って世代が変わったなら、タダで読めるなら手に取るかな、ぐらいの気持ちで棚に置いてある。
 『カフェの入り口に段ボール箱に「ご自由にお持ち下さい。タダです。」とか書いて置いとくか?』まぁ、セクセクやっていた。 

 『やぁ、じゃまするよ。』
 ん?誰が来た。来客は午後からだし、「お客」か!珍しい! 
 この店の本は「稀覯本」もしくは「希少本」「絶版本」が8割くらいで、高額な為にほとんどが奥の書庫に厳重に保管されて、他は比較的安価で漫画等もほんの少しだけ置いている。
簡単な仕分けはしたが、雑然に置かれているものは千円あれば3~4冊買えるだろう。
それでも客はほとんど来ない。セドリがたまにくる。
 色々理由があるが、店頭で買取していないのだ。
 持ち込まれても困る。 

 『いらっしゃい、何かお探しで?』  
 『いや、客では無いんだ。』 
 なら、帰ってほしい。

 『では、どの様なご用件で?』
 『そんなに構えないでくれ、久しぶりに会って其れは無いだろう?北代。』
見た所、俺と同じくらいの歳なのか?恰幅が良過ぎて俺より重いだろう。着ているモノは高級そうだが着崩すではなく、だらし無い様に見えるのは店内の照明が暗いから?まぁイイか。 

 『どちら様ですか?失礼ですが自分をご存知のようですが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?』
 まっ………たく分からん。
一応言葉は選んで話さないと。 

すると怪訝な顔をしたが、 

 『なんだよ、分からないのか?まぁ私も若い頃に比べたら少しは変わったかもしれないが、君は相変わらずの様だな。』
やっ…………パリパリ分からん?
何だろ、かなり失礼な奴なのに不思議と腹が立たない。
 可哀想な印象も無い。
どうでもいい、少し話しをしてやるか。 

 『渡部だよ。中学の同級生の、本当に分からないのか?』
 やっぱりさっぱり分からん。

 『申し訳無いが分からん、思い出話しは出来ないが、用件はそれでは無いのでしょう?田辺さん。』
 
 『渡部だ!』




 『メイド長と福ちゃんのポストカードは完売ですニャー。』物販コーナーは全力全開絶好調3Zだったよ。 
 「メイド長、ドジっ子猫ミミメイドを導く。」「メイド長と全猫集合」
「必殺!メイド長‼︎」など後輩ちゃん監修で作ったポストカードが爆売れ、それに釣られて他の委托品も売れ出した。
壁サークル並みで色々手が足らず、我々は
 秘密決算兵器「チビって言うな!幼女メイド姫 十六夜ちゃん」の出勤要請を強行した。私知らないけど。
 今回の痛手は華ちゃんと七神さんがいない、美雪ちゃんとイケメン猫の紅葉郎がいない事だ!
 未成年は働かせられない、十六夜ちゃんは見かけは子供、年齢は大人の合法幼女だ、イケるっス   って後輩ちゃんが二人で物販コーナーを回しだした。ちなみに後輩ちゃんはメイド服がバージョン2らしい。いや、私たちも未成年だよ、後輩ちゃん!

 『あの~ケーブルTV鶴亀で~す。商店街で人気のお店を突撃取材する番組ですが、賑わってますね~。勝手に取材しまーす!』実は事前に打ち合わせ済みなの、なのだけど?!
まさかここまでお客様が来るとは!
 『すいませ~ん、勝手にやっちゃって下さーい!』これ本音。
 店内店外、笑いが起こる。




 『失礼しました、渡部さん。それで
ご用件は?』 田辺は酒屋だっけ?

 『ハァハァ、あぁ。

 そうだ、用件だ。私は忙しい身でね、手早く済ませよう。

 被害届を取り下げてくれ!

 直ぐにだ!』  

 ?

 『被害届?何のですか?』

 『オイオイ、惚けないでくれ?娘が店の前でちょっとゴミを捨てた事を咎めて、大人気無く被害届を出しただろ!』

 『娘さんですか?

 私は被害届なんて、出していませんが。』

 『嘘だ!

 確かにこの店の者に怒られたと言っているそうだ!』

 そうだって、アンタが聞いてないのかよ?

 親なのに?

 『娘さんに直接聞いたのでは無いのですか?

 何か食い違いが有りそうですよ。

 とにかく私は被害届を出していないので取り下げる事は出来ません。』

 『いい加減な事を言って追い返すつもりだな!

 お前が被害届を出した所為で、娘の将来がめちゃくちゃになるんだぞ!

 貴様、責任を取れるのか!』 

 『娘さんの将来が心配なら、
今一度しっかりとご確認なさる事をお勧めします。

 何度も言ってますが、私は被害届は提出していませんので責任を取る事は有りません。

 何方かと勘違いなさっていませんか?

 例えば店を間違えているとか?』

 『貴様、まだ言うか!

 このオタクヤローが!』

 っと言って拳を振り上げ、その手は

 『何をしているのですか!貴方‼︎』

 背後から近づいて来た警備員に掴まれた。

 アレだけ声を荒げれば不審に思われて当たり前だ。 

 『何をする!離せ!私は悪く無い!』
 
 『杖を突いて歩いている様な方に、乱暴な!

 警察に突き出しましょう!』 
 
 『杖?杖がどうした?

 そんな歳では無いぞ!

俺は?!』

 人の話しを聞いた方が良い。

 同じ地下に警備員が在中する警備室が有るのだ、駆けつけるのに30秒も掛からない。

 お隣りだから。

 『離してあげて下さい。

 娘さんを心配するあまり、興奮されただけですから。』

 この後、来客がある、面倒くさい。
 
 『また来る、忘れないからな!』 
 
 田辺さん、来るなら来週くらいにしてほしい。


 『よかったので?』

 『何か変?』

 警備員さんの表情が変わる、山王院から出向してる人か?

 『アレだけすれば、上の店にいくだろう?』

 『どうでしょうか?
 あんな捨て台詞言ってましたし。』

 『なぁ?なんか上の方、賑わってないか?』





 『はーいっ!それではわたくし「マット松戸」が、カラダをはった猫カフェ実況レポートをお届けしま~~すっニャン!』

 あの芸人さん、何故か上半身、裸で店内に寝そべり、お腹や胸などに猫大好きペット用フードを盛り、 
 「芸人猫まみれ、餌やり我慢大会」
なるモノを始めようとしてるの!
 キモ汚くて、そんなの食べさせないでください!

 ただ、猫たちは1時間程前に昼食を食べ終えてるから嫌な予感がした、あちらは絵的に猫が群がって「キャー、助けてー。」のシーンを想像したんだと思うの。 


 成らなかったの、お腹いっぱいとかじゃない。

 体臭?

 芸風?

 芸人さん、ウチの子たちから怯えられてるみたい。

 誰も近づいて行かない。

 ついには仲間を守るかの様に、あの福ちゃんと保護猫でお店で一番の巨漢のキジトラの「石松」が芸人の松戸さんを威嚇し始めた。   

 二人とも男前だ!カッコイイ!
 
 『はーい、猫ちゃんたちに嫌われたマットさんは罰ゲームでーす。』(棒読み)

 何故か「チビって言うな!幼女メイド姫 十六夜ちゃん」が登場した。可愛い♡
 何故かカンペを持って「続きはCMの後かも?」と書いてある?

 「開封した猫缶はスタッフを代表してマット松戸さんが美味しく頂きます。」とCM後に現れた十六夜ちゃんのカンペには書いてあった。
 十六夜ちゃん、多分それ十六夜ちゃんが読むんですよ。可愛く。 
 目が死んだお魚の様だけどね!
 でも、動きはキレキレ!猫と一緒にキャットダンス!かな?

 アシスタントディレクターさんと後輩ちゃんがあちらでとっても悪い笑顔してる。 
 『視聴者から「汚くモノ見せるな」ってクレーム来た時はどうなるかとヒヤヒヤしたけど君の機転で反響凄いよ、あの子誰?って。』 
 『ふふふ、商店街のイベントが諸事情で延期に成り、腐ってやがった決算兵装であります。これから定期的にウチのお店を取材してくれるなら、もう一兵装投入する準備が有ります。モノホンのJSレイヤーで有ります!』 
 『えー!それアリかも?でも未成年の、しかも小学生はさすがにマズイよ。労働基準とか、条例とか?』 
 『ふふふのふ。そこも抜かり無いであります。彼女はオーナーの娘さん、おウチのお手伝いをしているだけで有ります。』   

 その頃、近くの古着屋「わるぷるKiss」では、我らが My Sister Princess 二葉ちゃんが歓喜してたの?  
 『素晴らしい、素晴らしいですわ!店長さん、いえ、エリコお姉様!』 
 『お嬢様に喜んで頂き、此方こそ喜びの極み。』 
 皆んな悪ノリしてない?後で華ちゃんに怒られる~!


 
 騒々しい客が帰って、二時間くらい経った頃、古本の仕分けを何とか終わらせて来客に備えた。
 店長があちこちで買い取って宅配便で送ってくる。たまに漫画、多分緩衝材の代わりに間に入れておくのだろう、割と古いモノだと探しているマニアもいる。
 この辺は俺の裁量でいいそうだ。
 ネットで他の店の買い取り額や価格を調べて値付けの参考にする。
 今、仕分けが終わったばかりの本を、店の隅っこで吟味している常連客がいる。
 俺と同世代だと思う、なんでも子供の頃、漫画禁止な御家庭だったらしい。上の喫茶店の常連でもある。
 ほっとこう。上手くすれば全部買っていくから。そんな時に、

 『ごめん下さい、』あ~。待ち人ではなく、多分田辺さんの回し者だな。 
 『こちら、北代さんのお店でよろしかったでしょうか?』 面倒い。 
 『違いますけど?何か?』 
 『ハイ、わたくし駅前の弁護士事務所の方から来ました…えっ違うんですか?』
 『ハイ違います。』 なんだ?まさか? 
 『あの~北代さん、北代 建一さんではないのですか?』 
 『北代は自分ですが、ここは他の人の店で自分はただの留守番です。』
 『じゃあ、貴方が北代さんでよろしいですね?!』その辺調べてないのか? 
 『ハイ、北代ですが、何か?』
 『何かって?ふざけないで下さい、そう言う態度だと後で後悔する事になりますよ。』お前がな。 
 『はぁ、そうですか?で何か自分にご用で?』予想外してくれよ。 
 『はぁ、わたくし本日は渡部氏からの依頼で参りました、渡部氏は貴方を名誉毀損と暴行傷害で訴えるそうです。』よし、やったー! 
 『そんな事して大丈夫ですか?田辺さんからどう伺ったかは知りませんが、警察に偽証罪で捕まりますよ。』 
 『渡部氏は貴方が心から謝罪するなら告訴せず、代わりに…は?偽証?』 
 『代わりに娘さんの被害届を取り下げろですか?
 貴方、本当に弁護士ですか?今回の件、ちゃんと把握してますか?』あ~、気づかれたか? 
 『な、何を言うんですか?本当に
本当の弁護士ですよ!失礼な!』詰んだよ。  さて、歌って貰おう。 

 『どうぞ、訴えて下さい。確たる証拠が有るなら。
 そもそも自分は被害を訴えていませんから、取り下げるモノが無い。
 娘さんを訴えた人物を警察で確認して来てはいかがですか?』  
 『またその様な嘘を!では貴方以外に誰が被害届を出したのですか?』 
 『貴方、本当に駅前の弁護士事務所の弁護士さんですか?
 調べて頂ければ簡単にわかる事ですよ?
 そういえばまだお名前を伺ってないですね?』
 『しつこいですね!サイ、んん、「サトウ」です。ええ、駅前事務所の弁護士だと何度も説明してますよ。
 ここまで馬鹿にした態度では和解は難しいですね!』こんなモンか? 
 『どうでしょう、一応警察の方を呼ぶのは?』
 『は?何をおしゃっているのですか?警察を呼ばれて困るのは北代さん、貴方ですよ!分かりますか?
 折角の渡部さんの御厚意を踏み躙っているのですよ⁉︎』 
 
 『ククク、ふふははは!もういい。ケンちゃん、勘弁してくれ。は、腹が痛っつつ、ぶははは。』   
 奥で漫画に夢中で存在感薄い、常連の三条さんが笑いだした。 
 『な、何ですか?貴方!人が真面目な話しをしているのに失礼ですよ!』 
 『ああ、それは失礼した。ただ貴方も相当失礼では?被害届を出したのは、この上の喫茶店ですよ。この店、今日久しぶりに開いてたのでね。
長居してしまいましたよ。』

 『は?何ですか?それは?いい加減な嘘で私を騙そうとしてますね!貴方も偽証罪で訴えてますよ!』 
 『それは貴方でしょう。「サトウ」さん、この御二方は嘘はなに一つ言ってません。ね、三条先生。』
 『おや、お巡りさん。今日は何か?』
 
 もう「サトウ」さんは随分前から顔色が悪かった、追い込まれている事に気づき始めたから。
 それでもここまで声を上げていた。その根性は褒めてあげたい。
 駅前の「三条弁護士事務所」に「サトウ」や「サイトウ」と言う弁護士がいるかは確認の必要は無さそうだ。 
 ただ、慣れてる様子なので、過去に何度かこの方法を使っているのだろう。

 『は、はな、はなしがまとまらない様ですので、日を改めて…また、伺いますので。』
 
 『そうはいかないだろ、「サトウ」さん。』
 


 『さて、先日の件で再度確認したい事がありまして、「ねこ」がいないんですけど?ご存知ですか。北代さん?』
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