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いらっしゃいませ!ようこそ『森の猫さま』へ。

俺の妹が猫カフェ店長になった件〜の続き 学園編?明かされる真実?

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 気が付いたら双子の妹が商店街で人気の猫カフェの店長になっちまったよ。
兄として見守るしかないよな。 

 『舞斗、誰に話しかけているんだ?イマジナリーな友人なら家で親睦を深めなよ。学校だと人目があるし、妹さんたちに迷惑が掛かるかも、』 
 暫定的親友の「五道 士」は今日も容赦ない。でも悪い気はしない。 
 幼少期から口の悪い叔父に鍛えられているのだ。現在進行形で。 
 この程度、小鳥の囀り、子猫の鳴き声だ…そんなに可愛くは無いな。

 『士くんはすごいね!なんか難しい事知ってるね。ナニ?そのイマジナリーなんとかって?舞斗は知ってる?』 
 元幼馴染な親友、「真琴」って苗字なんだっけ? いや馬鹿じゃない、違うんだ。アイツ最近、親戚の家に正式に養子縁組して苗字変わったんだ。 
 「森川 真琴」 そう、それそれ。
 放課後、俺たちは教室の俺の席の周りで時間を潰していた。
 ある級友に話があるから待っていてくれと頼まれたからだ。俺達三人に。
 実はあまりこの三人だけで、学園内で固まっていたく無いのだ。
 先日、アダチ君からこんな密告が有った。どうやら一部の女子生徒の間で、と言っても中~高等部の全学年中だから割と大勢だと思う。
 俺達を掛け算した薄い本が出回っている。
 らしいでは無い、出回っているのだ。
 さらにこの三人に、「一文字 華月」をプラスするかで論争が起きている。
 らしいでは無い、論争が起きているのだ。
大丈夫なのか?ウチの学校は? 女子たちは?
 
 「一文字 華月」

 ちなみに華月は俺や華の幼馴染と言っていい。
 覚えてるだろうか?子供の頃に古流武術の道場に入り浸った事が有り、その道場の子供たちと友達になった事を話したはずだ。
 つまりその友達が華月ともう一人なのだが、高等部進級の時に外部受験で高等部に二人入学してきた。
 知ってる顔を見かけてか、別のクラスながら新学期初日に校門前で久しぶりに…
 勝負を挑まれた。 

何処からか、風林火山な木刀だして逆手一文字の形、俺、無手で。

 体育教師が走って止めに来た。 
 『こんな所で何をしている!ほかの生徒に迷惑だと思わんのか!放課後、グランド貸してやるからそこでやれ!』…ちゃんと止めてください、先生。(この人、親父の後輩だった。)

 この事がきっかけで俺は元からだが、華月は学園で名前が知れ渡る。 
 見た目が目立つので尚更だ。 
 ウチの学校、高等部は服装自由で、よほど酷い服装でなければほぼOK。
 こいつ、白い洋ランで登校してんだよ。どこの車田キャラだよ。さらっとした体躯に整った顔立ちは美少年、
道場の家訓で髪を胸が隠れるぐらい伸ばしてる、それをポニテみたいに後ろでまとめている、真田紐で。
 時代劇モノのアプリ乙女ゲーにいそうな容姿だ。
 そりゃ、学園の腐女子たちの乙女ツボ押し乱打だ。

 でもさ、ソレなら格別論争がHIITしないんだよ。盛り上がりはするけど。



 あのさ、こいつ、 
 女子なんだ、女の子なんだよ。  
 男装の麗人なんだよ。
 本当はいわゆる美少女なんだよ!



 ソレ知ったの、皆んなで区民プールに行った小五の時、
 髪下ろして、スク水着てた。舞華と華たちと一緒に更衣室使ってたから、俺だけその時まで女の子って気がつかなく、男の子だと思ってたその事自体も隠して、 
 
 『なんだよ、その髪形、似合うじゃん。』って、女の子と知って慌てているのを
「水着姿を見て照れてる風」に誤魔化した。

 華月を見てたら
 『ば、馬鹿!エッチ!コッチを見るな!』と言われてしまった。
最初会ったの小学校入学前だったし。
 
 お胸、舞華たちと比べてはいけない、比べるダメ絶対。

 しかしながらも、美少年イコール美少女剣士?
別の女子勢力からは「第三の華」とか称されてるとアダチ君が言ってた。
ん、第一、第二がいるのか?


 ん?アダチ君って誰だって? 

 「足立 まみ」、舞華たちが後輩ちゃんと呼んでいる下級生で、舞華が店長の猫カフェでもバイトしてるし、ウチで生まれた子猫の里親になってくれたり、
 何かしらのドタバタ騒ぎには毎度巻き込まれてるので、
 もう身内感覚だ、ボケたらツッコミ、冗談も言い合う距離感だ。 
 ただ、呼び方には俺なりに気をつけたつもりだ。 
 「ちゃん付け」とか「呼び捨て」は有らぬ詮索をされそう。「さん付け」は距離感がある、
 ちょいオタク感を出して、
 「アダチ君」にした。
 コレなら同じ趣味の友達っぽい。

本人からは、
 『先輩から「アダチ君」って呼ばれるの、なんか「男の娘」みたいで、
なんか新しい自分を見つけたみたいっス。』なんか思ったのと違う。

 まぁ、ソレとコレは置いといて、約束の時間だ。
 
『ごめんなさい、待たせたかな?』

 ちょっと息を切らせて教室に入って来たのは、

 『委員長、そんなに焦らなくて平気だよ。待ったとしても五分か、十五分強だし』 

 士って、俺以外にもそんな感じなんだな、相手女子なのに。 

 『本当ごめんね!顧問の堀之内先生、実家で御不幸が有ったとかで急に帰られて。』

 堀之内って脳筋な、親父の後輩の体育教師だな。

 『話しは顧問がいないと出来ない話し?』

 なんか機嫌ワルな士、何か察してるな。 

 『それは大丈夫、だと思う。』 

 『ふ~ん、割といい加減だね、まぁ一応話しを聞かせてくれる、断るにしても内容は知りたいし。』 

  委員長、えって顔してるよ。士はコレが通常モード、まわりと余り話さないから知られて無いだけ。

 見た感じ物腰が柔らかい優しそうな好青年に見えるので誤解されやすいが、間違いなく友達、俺と真琴しかいない。 

 頭がいいから口では敵わない。大概論破だ、友達も出来ない訳だ。 

 華ならあえて負けて、相手がいい気になったところで上手く誘導して利用する、敵を作らない諸葛孔明ちゃんだ。 

 五道の家は医者の家系らしいから頭の出来は俺なんかと比べるまでも無い、
 ただ五道家の話しは偶々、親父が知ってた。
 士本人からは家の事、家族の事は一度でも話した事が無い。まぁ無理に聞く事でも無いし。

 『委員長、士君はツンデレさんなんだよ。心の中では言い過ぎてごめんなさいって思ってるよ。』どこのイマジンかな?的なアシストは
「マコっちゃん」の愛称がぷりちーな真琴だったりする。
中等部二年の時に、中途編入してきた元幼馴染だ。
 『委員長、僕らに話しって何?僕は二人みたいに器用じゃないし、お役に立てるかな?』 
 何気に引き受ける気、有ります。真琴、ことわるのも時には必要だからな。
 
 『実は四人に協力して欲しい事が有って。』
 『ことわ~るっ!』俺は即答した!
 今四人って言った、今四人って言った、今四人って言った、今四人って言った、今四人って言った、あと一人はアイツか!
 教室の窓から飛び出し、逃げた。気配がした。俺にしかわからないアイツの気配が!


 『北代くん、ここ三階…』
 『アイツ、たまにやるぞ。ショートカットだって。まるで蜘蛛男か蝙蝠男だな。』

委員長には後で謝る、グランドを横断し、クラブ棟の裏に回り込んでやり過ごす。
走れ!北代 舞斗、タマよりも速く!(タマ、3歳♂黒虎、保護猫、猫カフェ「森の猫さま」で会えるよ。) 
 
ふと振り返って校舎を見たら、俺が飛び降りた窓から華月がまさに飛び出した!
 俺はダイレクトに地面に着地したが、アイツは何がロープ状のモノを使い、さながら忍者か、レンジャー部隊の様に着地した。
思わず見惚れてしまい足を止めていたが、アイツがこちらに疾風の如く追って来たので、再び全力全開で逃げた。
また勝負だとか、面倒だ。
相手は女の子なんだよ。加減を間違えて怪我でもさせたら責任を取らなくては、

 なんて考えていたら、


 『マイットーォ!なぜ逃げる!』 
 
 華月、足を止め、仁王立ちで叫んでいた、束ねていた髪はほどけ、肩で息をしてハァハァしてる、どうやら髪を束ねていた真田紐を使って降りて来たらしい。息切れしてる今が勝機と三度走りだし……たかった。 

 ヤベ、やっちまった。






 華月が
 泣いてた。  泣かしてしまった。



 口をギュッと間一文字に噛み締めて、こっちを真っ直ぐ睨んで泣いていた。
 俺は180度旋回し、華月の前まで近づくと、

 土下座した、頭突きでグランドに地割れを作る勢いで、 
 『すまん。泣くな。』

 『舞斗、何故逃げた。私から何故逃げた!』 
 
 やや涙声だが力強さは変わらず、でも怒っている感じは無かった。 

 『舞斗は私の事が嫌いなのか?』  

 ん、あんだって? 

 『私の事が嫌いだから逃げたのか?』  
 
 俺は顔を上げて華月の顔を見た。

 泣いたせいか目の下が腫れぼったい。

 ちょいぷにっとして可愛い? 

 『何言ってんだ?お前。』 

 『私の事が嫌いだから逃げたのかと訊いているんだ!』

 『華月の事が嫌いとか関係無いゾ。
 勝負とか面倒だから逃走したまでだ!』

 『私が嫌いだから勝負を避けたのだろう!』 

 『お前に怪我とかさせたらいけないから避けたんだ。
 嫌いならボッコボッコにする。
 俺はそうゆう男だ、知ってるだろ、ガキの頃からの付き合いだし。』 

 『怪我がなんだ!
 そんな事今まで気にせず勝負していたではないか?

 それに私がお前に怪我の心配される程弱いなどありえない!』 



 『弱いよ、華月は俺より弱い。』 

 『な、何を言うか!そんな事は決して…』 

 『有るゾ、だって華月、女の子だから。』


 『……な、お、女の子だだ、だとー!』 

 『オゥ、何だ、やっぱりその髪形も似合うじゃないか。あん時みたいだ。』 

 華月の顔が、赤くなる。 

 『ふ、ふざけるな、私が女だから弱いなど理由になるか!嘯くのもいい加減にしろ!』 

 俺は諦めて、いや、覚悟を決めて、
アレをやる事にした。 

 『そだな、確かに女の子だから弱いって言うのは俺の視点だから。

 なら華月、これならどうだ?』 

 『なんだ?何をする気だ?』 

 『華月、お前幾つ「口伝」を使える?』 

 『く、でん?…待て、お前何をする気だ!』 

 『北代式、一文字流活殺術 「口伝 洛陽」』 



 

 『アイツら、グランドの真ん中で何、痴話喧嘩してるんだ?』 

 『あ、一文字さん、様子が変だよ?倒れそう。きゃ、何々、舞斗、お姫様抱っこで一文字さん受け止めたよ。カッコいい。』 

 『あのあの、私たちはどうしたらいいか教えてくださーい!』 

 『ん、何だ、誰か二人に近づいていくぞ?アレは…生徒会長。』   




 『ん~ん、うまく加減したんだけど、おーい華月~ぃ。』 

 『舞斗!』 

 『お、何だ華か、実はな…』

 バッチーン、俺は華から平手打ちをもらった。 

 『この件の関係者、生徒会室に集めなさい。』 

 『あい…。』




 『ん、ここは? 』

 『か、華月ちゃ~ん、良かった~!』 

 『ひな、ん、ここは?』 

 目を覚ますと横に「ひな」がいた。

 「滝井 ひなた」、数年前から同居している従姉妹で今では姉妹の様に仲がいい。
 泣いている、心配してくれたようだ。

 『保健室だよ、華月ちゃん痛いところない?』  

 どうやら、保健室のベッドに寝かされていたようだ、痛いところと聞かれて起き上がり、触って確認したが

 『いたいところっと、ん!えっ!!』

 驚いて叫びそうになる。 

 服を着てない! 

 いや正確には病院で入院した時に支給される診察着を着せられている、下着は下だけだった。

 胸はいつも付けているモノが無い。 

 『どう?いたいところある?』 

 『なんで?ひな、コレはどうなってる?』 

 キョトンとして見ていたひなが、やっと気づいた。 

 『これのこと?』

 綺麗に畳まれた「さらし」、 

 『苦しいと思って外しました。』 

 『ひ~な~た~、返して~。』 

 すると、保健室に誰か来た様だ? 

 『ひなちゃん、華月ちゃん目が覚めた?』

 北代 舞華だった。 

 『あっ店長。はい、今さっき起きました。で、如何でした?ありました?』 

 『フフのフ、さすが我が校の被服部。

 中々良いモノが有りました。
 でわ!』
 
 何だ、どうなってる? 

 『ひな?舞華?何、何をするつもりだ?』 

 『ヒヒヒ、華月ちゃん、観念するのだ!』 

 『華月ちゃん、私たちが華月ちゃんに魔法をかけてあげる。だからじっとして。』 

 『な、なんだ。
 ま、待った。待ってくれ?
 
 キャー‼︎』  

 



 『舞斗!見損なったわ!相手がどんなに強くても怯まないところは貴方らしいけど、女の子に手をあげるなんて最低よ!』 

 『手は出してないんだが、もちろん足もだ!』 

 『屁理屈なんて男らしくないわ!そういう問題では有りません!』 
 
 生徒会室では、山王院 華生徒会長が北代 舞斗をシメていた、言葉攻めだ。 
 ほかに、森川 真琴、五道 士、委員長の高橋 美波、中々居た堪れない状況である。 

 今回、放課後、校舎から飛び降りる生徒がいた。グランドの真ん中で揉めてる生徒がいた。

 まだ校舎にいた文化系クラブやグランドにいた体育系クラブの生徒から多数の通報が生徒会に寄せられた。

 何らかの対処をしないと二人を守れない、どうする?

 そんな時、いつも助けてくれる幸運の女神は彼女だった。

 『失礼します。』

 女神の露払いが如く、生徒会室の扉を開ける役員の男子?

 『華ちゃん、お待たせー! さぁシンデレラ、ずずいと入りたまえ~。』 

 舞華に手を引かれて滝井ひなたに背中を押されて、

 生徒会室に現れたのは、長い黒髪が美しい、何処ぞのお嬢様的な、清楚な印象を受ける女性だった。

 明るい白のレースのブラウスに黒髪に合わせた黒のキャミワンピース、少し落ち着いた大人ぽっい服装に、
ややヒールの高いショートブーツは色がブラウンしかなかったのはナイショ。言わなきゃわからないし。

 ヒールの高い靴は履き慣れていないのか、歩き方が頼りなさげで守ってあげたい感じがまた良い。

 さすが私の相棒!
 心のなかで舞華に最大の賛辞を送る華、まずは彼女からだ…と思ってた矢先、

 『良かった!華月、大丈夫そうだな。』  

  えっ?
 
 『お、お兄ちゃん!そういうとこだよ、本当、ダメダメだよ。最低最悪だよ。』 

 『舞斗!貴方、女の子扱いしておいて、今言わなければいけない事はそれなの?最低よ!』 

 『俺、なんで責められてんだ?』 
 
 『えっ!彼女、一文字さんなの?すごく綺麗で大人ぽっい。』 

 『見間違えた…女性とは、服装でここまで変われるモノなのか? もっとも元の服装がアレだから、振り幅がデカい。』

 『ファッション部こと被服研究部に協力をお願いしました。
 あとヘアケア、髪長くて綺麗だと思ってたら意外と毛先枝毛で、整えてるのに皆んなから色々借りたの。
 大変だったけど、どうかな?』 

 なるほど、生徒会室の外に多数の気配を感じる。
 おそらく舞華に協力してくれた被服研や女子の友人だろう、ならばコレは最大に利用しよう。 

 『今回の裁きを言い渡します!』

 何故か外の廊下からおーとかキャーとか聞こえた。 

 『一文字 華月、貴女は校舎三階の窓から飛び降りると言う危険な行為をし、その後グランド内で騒ぐなど多くの生徒に多大な迷惑と心配を掛けました。

 それに対する釈明はありますか?』 

 『いいえ、如何なる処罰もお受けします。』 

 『よろしい、では、』 

 一瞬、皆の息を飲む音が聞こえるくらい静かになった。

 シーン

 『一文字 華月、貴女には今学期、男子用学生服での登校を禁じ、女性らしく我が校に恥じない服装で学園生活を過ごす事を「生徒会 会長 山王院 華」が命じます!    

 願わくば今着ているような素敵で女の子な服装を希望しますわ。』   
  
 ワーー!っと廊下から歓声が聞こえた。

 『華さま、素敵ー!』
 
 『会長ー!見事な大岡裁きデスッ!』

 『舞華ちゃんもお手柄よー!』

 『一文字さーん、こっち見て~!』 
 

 気付くと生徒会室のドアが開いて、一部の生徒がなだれ込んだ。

 廊下には結構な人数がいそうだ。

 しかも今のやり取りが校内放送されていた。

 まだ校舎やグランドにクラブ活動中の生徒がかなりいたらしい。

 誰かな?生徒会室の校内放送用マイクのスイッチONにしたのは(棒読み)。

 『待ってくれ、華!いや生徒会長。』 
 
 『何かしら、華月、いえ一文字さん。』

 ニコり。 意味深に。 

 『その、処罰は受けるとは言え、コレはあの、困る。
 私にはその、女子らしい服装なんて、さっぱり分からないし、こんなその女性用の服なんて、一着も持っていないのだ。』
 
 『大丈夫だよ!華月ちゃん!』 

 ひなたが両手で華月の両手を握りしめて、華月の瞳を見つめる。

 きゅん、バタッ!

 
 覗いていた一部の女子がときめ死んだ。

 いや倒れただけだが。

 この時一部の女子の間で新しいカップリングが派生した。
 
 『私が華月ちゃんを助けるよ。だって華月ちゃんは従姉妹で友達で家族だもん、華月ちゃんに似合う服、一緒に探そうよ!
 あのね、私がバイトしてるお店の近くに素敵な古着屋さんが有るの。リメイクとかもしてくれるし、
 私たちのお小遣いでも古着だから割とたくさん買えると思うの。』 

 ひなたの話しをみんな静かに聞いていた。

 女子の中には感極まり啜り泣く者まで…どうしよう、世界が優しい。

 居た堪れない。 

 『そういう事なら、今着て頂いている服は被服研究部からプレゼント致しますわ!』 

 『よろしいの?櫻井さん』 

 『被服研の成果を全校にアピールして頂くと思えばこんな素晴らしいモデルは居ませんわ!』 

 華に負けず劣らず、芝居染みた口調で話すのは被服研の部長「櫻井友実」、ちなみに「森猫」の常連客らしい。 

 『 っと言う事だから華月、今日から実行するから、みんなもそれでいいかしら?』

 言うなり生徒会室に雪崩れ込んだ野次馬な生徒たちに問いかける生徒会長。 
 
 拍手と歓声が「異議なし」を告げていた。 

 『さぁ、問題解決ね!みんな集まってくれてありがとう!あまり騒ぐとまた騒動に成るから解散して!』 

 笑い声に混じりながら、みんなの「はーい!」が聞こえた。

 そしてそれぞれの場所に戻っていった。 

 立ち去りながら 

 『会長、素敵。お姉様って呼びたい。』 

 『一文字さん、綺麗ね。ファンクラブ作らない?』 

 『オイ!人手集めろ!また会長や舞華ちゃんに迷惑掛けやがって、シメるぞ、今度こそ!』 人それぞれですね。


 『良かった、私なんか感動しちゃった。』 

 泣いてるし美波ちゃん。

 『いや、ダメだろ、委員長。特に貴女は、』

 士が気付いた。

 『えっ、何が?』

 『会長もですよ、まさか幼馴染だから舞斗の事、うやむやにしたんですか?』  
 
 『あら、さすが五道君ね。気が付いた?』 

 『茶化さないで下さい。』

 『違うのよ。舞斗の場合、足りないのよ。』  

 『何が違うんだ?何が足りないんですか?知能ですか?IQですか?偏差値ですか?』 

 『ぷっ、ご、五道君、おもしろい。』 

 『余裕ですね、会長?真面目に伺っているのデスが。』

 『士、ひどくないか?』 

 『ごめんね、五道君。華ちゃんって、お兄ちゃんが絡んだギャグだと沸点低くて。』 

 『五道君、私なんの事かわかんないよ。』  

 生徒会室に残っている全員が微妙に別方向を向いている、そんな中で 

 『士君、舞斗に足らないのは、「時間」だよ。懲罰日数を消化する「時間」が足らないんだ。』  

 『はっ?真琴、今なんて』

 『五道君と華月とひなちゃんと千道君は高等部からだから、その辺り知らないのは仕方ないのかしら?』 

 当の本人は爽やかな笑顔で後ろ頭、ぽりぽり掻いてる。恥ずかしいのか、誉めてないぞ。
  
 『もう直ぐ下校の時間だから、要点だけ話すわね。』 
 みんな気付いたかな? 

 『この舞斗は中等部から色々トラブルを起こして、罰としてトイレ掃除一週間とか、プール掃除とか、グランドの草むしりとか、ソレが溜まりに溜まって在学中に消化出来ないかもしれないの。』

 士はもう一度舞斗を見る、ぽりぽりしてる。バカだ、バカがいた。 

 『一体何をしたらそんな事になるんだ?』 
 『ん~?』
 小鳩が首を傾げるように悩んでいる。
タダのバカじゃない。超とか、スーパーとか、グレートとか付けてやる。 

 『妹の私が言うのもアレなんだけど、よく絡まれるのよ。不良さんとか、暴走族さんとか、チンピラさんとか、ヤクザさんとか、マフィアさんとか、秘密結社さんとか。』 
 『盛ってないか?妹さん。後半、中学生のケンカのレベルじゃないよな?』 
 『ケンカじゃない、権藤さんはラーメン奢ってくれただけで、カルロスは上手いケバブ屋が何処かで一緒に食べ歩きしたら囲まれただけだし、博士とは一緒に地域猫にご飯あげる仲間だ。』
 『後半のがエピソード有るのかよ!』 何処から何処まで本当の事だよ。全て予想の斜め上からはりけんぼるとを咬まして来る。
 『そこでポイント制を取り入れる事にしました。』 
 『玩具の缶詰とか白いお皿がもらえるとか、舞斗好きだよね。』 
 『真琴は黙ってくれ、いい子だから。』
 『君たちはいつもこんな感じかい?変わらないなぁ。』
 『副会長、今依頼はどんなモノが有るかしら?』 
 『依頼?…ポイントってまさか!』
 『依頼内容でランク分けして、難易度の高い依頼ほど高ポイント!一ポイントを一日に換算して残り懲罰日数を減らしていく事にしたの。』
 『会長、壁の落書きを消す、迷子のペット探し、老人ホームの慰問など有りますが、』どこの冒険者ギルドだよって、ツッコミ入れるつもりが内容がほっこりして気が抜けた。 

 『あの会長、それ私からも依頼出来ますか?』 そうか!委員長の頼み事を依頼にすれば良い。ポイントが稼げる!
 『生徒からの、特に部活動に関するモノは受け付けていません。
高橋部長、中等部から在籍している貴女ならその理由はご存知のだと思っていましたが。』 
 高橋部長?この委員長が?どこの部長なんだ?あと少し棘のある言い方のコイツ、副会長?キャラかぶりだろ、俺と。
 『ごめんなさい!私、そんな変な事言いましたか?』
 『千道副会長、女の子には優しく話さないと、生徒会の支持率に影響しますよ。』 
 『界くん、本当はすごく優しくて真面目な人なんです。きっと華月ちゃんが素敵に変身したから驚いてキツい言い方になっちゃったんです。』滝井ひなたが庇う、二人は親しいのか? 
 『五道君、舞斗が例えば運動系の部活に助っ人に入ったらどうなるかしら?』 
 『まぁ大活躍でしょ?甲子園で優勝とは行かなくとも、個人競技ならかなりの成績を残せると思えます。』 
 『三階から飛び降りても平気で、すぐに全力全開で疾走出来る。捕手さえ舞斗の投げた球を受け止め続けられるのなら優勝でしょ。誰も打てないし、全てにおいて規格無視なのよ。』 
 『まるで見ていたかの様な物言いですね。ならサッカーでも柔道でもやらせてみては?』 
 『見たのよ。三年前、中等部の舞斗が高等部に混ざって他校との親睦試合に投手として参加したの、出鱈目な投げ方でハイスピードなストレート、三球三振、三者凡退。攻める側も守る側も自分が何の為に辛い練習を重ねて来たかわからなくなるの。試合が進むに連れてね。』 すると、
 『最初はね、盛り上がってたんだ、「俺が最初に打ってやるぞー!」「次こそホームランだ!」って、
でも試合の途中から段々とやる気がなくなって、七回の相手チームの攻撃で、ベンチにいたウチのキャプテンがグランドの舞斗に駆け寄って「もういい、やめてくれ!」「こんな事頼んだ俺が浅はかだった。」って。』
 真琴がまるで子供に童話を読み聞かせる母親の様に話してくれた。  
 『その時のキャプテンは投手で、自分の不注意で怪我してお兄ちゃんの事は以前から知っていたけど、ここまで次元が違うとは思わなかったの。』 
 『試合続行は不可能、選手みんな、心が折れたのだから。丘の黒船は味方も倒したのよ。加減知らずだから。』 
 『仮に、何かの大会で好成績を納めても、それはチームの成果ではなく、舞斗の実力の一部です、本当の意味で選手の為にはなりません。』ん?
 『詳しいな?副会長。千道だっけ?舞斗って呼び捨てだけど親しいのか?』するとひなちゃんが
 『わたし達、いとこ同士なの!』って、一文字 華月ちゃんと千道 界くんの手を取り、満開花丸な笑顔で答える。 いい子だな、この子。
 『それから部活動への介入はやめてもらいました。』 界くん副会長、お顔が赤いな。
 
 『それでも私は、北代君たちにお願いしたいです。児童福祉部を助けて下さい!』 
 
 『なんで俺たちなんだ?』 

 『児童福祉部は北代君のお母さんが作ったんです!』

   『違うわ。』華会長、ちょい怖。何で?  
 『ほ、本当です!顧問の堀之内先生が言ってましたし、過去の活動記録に、「北代 新名」って名前も有りました。この人が北代君のお母さんですよね?だからこそ私は…』  
『黙りなさい!』 華、こわ。
 『会長、これは堀之内先生のミスリードでは?もっとも高橋部長も常識的に考えて気付かないのも「お馬鹿さん」ですよ。』 界、なんか知ってるな。華、ため息を吐き、口を開く。
 『その名前まで持ちだすなんて、高橋さん。』 
 『華ちゃん、私が話すよ。あのね高橋さん、
「北代 新名」って私たちの父の妹、つまり叔母、私や華ちゃんの憧れで大好きなニーナ叔母さまなの。
今は結婚されて「羽柴 新名」だけど、
私たちの母の名前は「久美」、旧姓は「竹下」、この学園初の女子生徒会長だった人なの。』  

 『もっともその頃は「山代学園」ではなく、「藤ノ宮高等学校」でしたけど、それと「北代 新名さん」は二代目女子生徒会長でした。御二方とも生徒、教師、地域からもかなり支持されていたそうです。』 
 『詳しいな、副会長。少し退くわ。』 
 『誉め言葉として受け取りますよ、五道くん。ちなみに「竹下会長」の前年はひなたの父上が、「新名会長」の前年は華月の父上が生徒会長でした。
二人共、女子生徒からの支持が高かったそうです。』最後の情報いらん!
 『高橋さん、いいかしら?』
 『は、はい、会長、その私、勘違いして…あの、』 
 『私、部活動はしていないの。何処の部にも所属していない。舞斗とは別の理由でね。分かるかしら? 』少し優しい表情になった華会長。 委員長、今度こそ慌てず考えるんだ、答えのヒントはここまでの中に有る筈だ!
 『せ、生徒会長だからですか?生徒会長だからみんなに公平な立場だから、ですか?』 
 『それだと80点、どうしてもそう取られてしまうの、会長が所属しているから優遇されてるって。部費とか部室とか。多少の不祥事も揉み消してるんじゃないかって。』 
 『そこまで厳しいんですか?生徒会長って!』 
 『いえ、そこまで律しているのは、山王院会長と先程の四人の会長だけです。実際居たんですよ、会長の特権を悪用した下衆が。』 

 『実際、児童福祉部は母さんが作ったのか?』 
 『いえ、竹下会長が発足したのは「ボランティア活動部」です。ただし部長を勤めたのは別の方ですが、「時村 藍」さん。
今は結婚されて「明神 藍」さん。』 
 『明神ってあの?』
 『ハイ、物理の「明神 速斗」先生です。在学中からベストマッチだったとか。』
 『ちなみに速斗叔父は俺の闘拳の師匠だ。っで、自動小銃は?』 
 『児童福祉部な!そっちは?知ってるんだろ、副会長。』 
 『新名会長が町の児童養護施設に学園祭で行われたチャリティバザーの売り上げ金を寄付した記録が有ります。
その辺りの事実とボランティア部の活動を都合の良くまとめ、さもボランティア部から派生した様に偽造したのが以前の福祉部です。
堀之内先生はボランティア部と福祉部を混同してると思われます。』 
 『以前のって何、ヤナ感じしか無いけど?』委員長の顔色が良く無い。
 『もういいだろう、士。界もそんなに喋って、喉渇くだろ?みんなも一息入れようゼ。舞華、お茶ない?
華、これ以上は一般生徒に聴かせて大丈夫な話しなのか?』

 『そうね、でも今ここいる生徒ってほぼ身内だし、美波さんにも辛い事だけど本当の事を知った上で聞きたいの。』

 『あの、いいだろうか?』借りてきたお嬢様状態な華月がOz Oz手を上げた。
 『その話し、私たちが生まれた前後に有ったこの学園の「黒歴史」の事ではないか?』 この際だから口調も「ですわ」とかになると可愛いのに。
 『そんな禍々しいモンなのか?』 
 『言い得て妙ですが、まさにその辺りですね。』オイオイ、マジかよ。
 『なら、今の私達には全く盛って関係ない!そうだろう、華!みんな!』 ヅカだ、そんな単語がよぎる。 
 『おそらく、数年前に学園の名前が変わった事に関係あるのだろうが、それだって私達が入学する前の話しだ!呪いの如く、いつまで囚われているなんて馬鹿げている!』何故か華月、委員長の手を取り、会長に詰め寄る。 
 
『会長、頼みがある。』
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