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ボクと姉と妹と。
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新しい妹が我が家に来て、一週間が経った頃、
「ほ、本当ですか?
学校に行っても良いんですか?」
「えぇ、メイヤと同じクラスだそうよ。
なのでこれから【ランドセル】を買いに【駅前商店街】に行きましょうね。」
日頃の買い物などは、近くの個人商店で間に合うけど、ランドセルともなるとそうもいかない。
何気にメイデールさんも張り切っている様だ。
マイヤちゃんはメイヤちゃんより少し歳は下なのだけど、おそらく精神的な年齢は彼女の方がかなり上かも知れない。
コチラの世界の常識も一年間【施設】で学習していたらしいので「信号機、赤は止まれ、緑は進め!」も理解している。
産まれた時から一応両親が居たメイヤと、物心ついた時には家畜の如く扱われていたマイヤ、苦労した分その差は中々埋まることは無いのかも知れない。
少なくとも【師匠】に育てられてからは、家族の暖かみは知ったと思う…
「…なら、ワ…タシの…車で行こ…う!」
…まだ…フランさ…んがいる?
って自動車運転出来るの?
実はこの数日、我が家に泊まっては工場にある研究室で、マイヤちゃんの義眼の作製に立ち会ってくれていたようだ。
【富士見ケミカル】では、義手や義足の開発も手掛けているそうで、マイヤちゃんの為に【義眼】を特注で制作してくれたのだけど、ちょっと困った事が起きていた?
「…あのコレは、師匠の形見なので…」
と、言って、義眼を付けても、眼帯を外さないのだ。
革製の眼帯は校則違反になるかな?
そんな彼女に義母メイデールさんは、
「大切なモノをずっと持っていたい気持ちは分かるわ、なら尚更無くしたら大変でしょ?」
そう言って用意しておいた小さな木箱を彼女に渡した。
鍵がかかる様になっている。
「鍵は二つ有るから、一つはマイヤが首から下げていなさい。
もう一つはお母さんが持っているから。
木箱は【仏間の仏壇】にしまっておきましょう。
ここなら、良い霊が護ってくださるから。」
「…仏壇、亡くなった人を偲ぶ【家庭用祭壇】ですね、わかりました、そうします!」
…なるほど、あながち間違って無いけど?
「マイヤ、ランドセルの色はメイヤとおそろいでピンクにしよ!」
「あ、あの姉さん、ボク、紫が良いかも?」
…マイヤは【ボクっ娘】だった。
しかも、今は何故か俺の子供の頃のTシャツとジーンズを着て、まるで男の子の様だ!
なんでも、動き易いからだとか?
まぁそんなに気に入ってるなら止めないけどね。
実際、男の子の格好だと、耳のギザギザも、目の傷痕もワイルドでカッコ良く見えてしまうから不思議だ?
元々整った顔立ちの中性的な魅力のあるお子様だったし。
「…皆んな、乗っ…た?
…じゃあ、…れっつごぅ。」
女性陣が全て出掛けた所で、俺と父さんは縁側で【リバーシ】に興じていた?
父さんがやりたいと誘って来たのだ。
「アッチの世界では、コイツが結構流行っていてな。
随分と儲けさせてもらったんだ。」
「賭けてたの?」
「勝った方は多く取った石の分だけ、コインをいただく事が出来る。
父さんが思いついたルールでな、このゲーム自体は少し前から広まっていったそうだ。」
「父さんって、リバーシ強かったの?」
「いや、ハッタリが功を奏しただけだ。」
「どういう事?」
「酒場でな、リバーシ最強を唱う奴がいて、【異世界】から来たリバーシの開祖を倒したとか言っていたんで、賭けを持ちかけたんだ。」
「…ソレで勝ったんだろ?
なんかイカサマでもしたの?」
「そんなトコロかな、最強と言うからハンデをよこせと、お互い四隅四つを使わずにゲームをする事にしたんた。
最初は余裕を見せていたが、普段と勝手が違うので、十数枚差を付けて父さんが勝ったんだ。」
「すごいじゃないか?」
「脳トレゲームで似た様なのが有ってな。
向こうは四隅を取る重要性が分かって無かったまでの事さ。
その後、元のルールに戻しても、相手は酷く動揺して楽勝だったさ。
お陰でメイヤに蜜菓子を買ってやれたさ。」
可愛いそうに、そのリバーシ王?
そういえば昔、俺の携帯ゲーム機を借りてなんかやっていた事有ったっけ?
「将棋とか麻雀は流行って無かったの?」
「流行っていたが、父さんはルールを知らんからな、ハハハハ!」
「…なぁ、この間の続き、聞かせてくれないかな?
ま、マイヤの…を潰した奴の事を?」
あの日、あまりの衝撃的な話しで俺の脳細胞がオーバーヒートして… では無く、メイデールさんが気分を悪くてして話しを中断したからだ。
丁度、女性陣はいない。
「…そうだな、この話は【施設】のスタッフがあの子の事を気遣いながら、少しづつ事情を聞いて、そこに父さんがアチラて知り得た知識を元に解明した事だ。」
相変わらずまわりくどいのは、父さんも話す事に心の準備が必要なのだろう?
「あの子が【師匠】と修行の旅であちこちの【ダンジョン】を巡っていた時に、【勇者】たちと遭遇したそうだ。
彼等はマイヤを人質にして、【師匠】に投降する様に命じたそうだ。」
「ちょっと待ってくれ、何で勇者たちはそんな事を?」
「師匠には【懸賞金】が掛けられていたんだよ、しかも以前勇者たちが警護していた貴族を殺しているんだ、【師匠】は。」
…【異世界】って奴は、そんなに殺伐としているのかよ!
「【師匠】は直ぐに投降したそうだ、が懸賞金の支払いは【生死問わず】だったらしい。
勇者たちは【師匠】を嬲り殺しにしようとした。
反撃したら弟子の命は無いと言ったらしい。
冗談では無い、本気だと言って勇者がマイヤの目に剣を突き刺したそうだ。」
「なっ?
な、なぁその勇者って、本当にコッチの世界から転移した人間なのかい?
そっちの世界生まれの別の勇者じゃないのか?」
この世界で産まれた人間が、そんな残酷な事が平気で出来るとは、とても思えない?
「お前、勇者を何だと思っている?」
父が悲しそうな顔で聞いて来た?
「そりゃ、愛と正義と平和の為に戦うヒーローだろ?
ソレが仕事なんじゃないのか?」
俺は自信を持って、そう答えた。
それは父に対して思っていた事でも有る
「…仕事ってのは、まぁ間違いでは無いな。
ただ、【勇者】と言う職業は無い。
【勇者】と言うのは、【称号】だ。
おいそれと名乗れるモノでは無い。」
「【称号】って?」
「その国の王が任命したり、大司教が神からの声を聞いて正式に「貴方は神より勇者に選ばれた。」と伝えたりするもので、自分で勝手になれるモノでは無いんだ。」
「だから、王様が自分の国の誰かを…
そうか、その為の【勇者召喚】なのか…、
でも、大司教サマはこの世界の人間を…
もしかして、その勇者は【異世界転生者】だったりする?」
「カンが良いな、おそらくな。
とにかく勝手に【勇者】を名乗れは【重罪】、下手すれば【死罪】だ。
ニセ勇者なんて、割に合わない事は誰もしないさ。
コレは父さんがアチラで様々な国々を見て来た事で知り得た事だ。
自ら名乗れるモノなんて、剣士が【大剣豪】、魔法使いが【大魔導士】くらいなモンだな?
実力がソレに見合うかは別だが、他者から【二つ名】を付けられしている人物は要注意だったな。」
…つまり、【勇者】は限りなくコチラの世界から転移、又は転生した人物で有る可能性が高い?
「…つまり、罪人の娘だから、暗殺者だから、里親になるのをやめたのか、その【里親候補】さんは?
なんかしっくり来ないな?」
「まぁ待て、まだ話しには続きがある。
その【勇者パーティー】の一人が、マイヤを捕まえていた【勇者】の事を「リョーコ」と呼んでいたそうだ。」
「勇者は女なのか⁈」
ん、【リョーコ】?
涼子、了子、日本人かな?
「最初に里親を申し出てくれた人物は武道家でな、お前と同じく【異世界失踪認定】を受けた家族がいるそうだ。
その方はマイヤの容姿も過去の事情も全て受け入れて、【本当の親】として育てていきたいと言ってくれていたんだ。
武道家の自分なら、ソレが出来ると…」
「でも、途中で辞退したんだろ?
なんでさ?」
「…最初にも言ったが、今まで話した事は、マイヤから時間をかけて、少しずつ話してもらった事だ。
時には一週間は何も聞かず、気持ちを落ち着かせたりしていたそうだ。
一度に話したら、あの子こころが壊れてしまうかもと、【施設】のスタッフは最善を尽くした…
【勇者】の名前が分かったのはその一番最後だ。」
マイヤは震えながら話してくれたそうだ、スタッフがもういいと言うのを、
『この耳が千切れたのは、【勇者】が、ボクが逃げない様にと耳を掴んでいたので、自分で引き千切ったんです!
【師匠】に駆け寄ると、この眼帯を渡してくれました。
眼球の代わりに【魔法石】が隠してあって、ソレを地面に叩きつけると…
目が眩むくらい眩しくて…
気がつくとこの世界に居ました。』
「 …と、一気に話すあの子を、誰も止める事が出来なかったそうだ。」
その時、俺はある一人の男性の顔を思い出していた。
その人も我孫子道さんと同じく、俺を養子にしたいと言っていたらしい?
家が道場だとか…
「最後にあの子はこう言ったそうだ。
『勇者リョーコ、絶対許さない!
師匠やボクにした事と同じ目に合わせてやる!』
とな、ソレを聞いたからだ。」
「…その里親さん、【勇者リョーコ】の…… 」
「…娘のした非道な行いを詫びる為、最初は引き取るつもりだったんだ。」
「…でも、やめた。
なんで?」
「…全ては父さんの所為だ。」
「あっ!
メイヤちゃんだ、ヤッホー!」
「カコちゃん、リンちゃん、ヤッホー!」
ショッピングセンターでクラスメイトにあったメイヤ。
「メイヤちゃん、お買い物?」
「うん、皆んなでマイヤのランドセルを買いに来たの。」
「マイヤ…ちゃん?」
「この子だよ!」
友達に妹を紹介すると、
「か、カッコいい!」
「イケメンだ!」
「メイヤ姉さんのお友だちですか、ボクはマイヤといいます。
日頃、姉さんがお世話になり、ありがとうございます。
この度、ボクも同じクラスに通える事になりました。
姉共々、よろしくお願いします。」
「しかも、王子サマみたい!」
「礼儀正しい、クラスのバカ男子とは比べものにならないよ!」
「あら、メイヤちゃん お友だちですか?」
「あう?」
「」
「あ、お母さん、サクラ姉ちゃん!
うん、カコちゃんとリンちゃんだよ!」
「こ、こんにちは!
(わぁ~美人ママさんと噂の美人お手伝いさんだ!)」
「わ、わたしたたち、メイヤちゃんのクラスメイトでしっ、…か、噛んじゃった…グスっ。」
(猫耳チビちゃん、チョーカワイイ!)
日野家女性陣勢揃いにびっくり緊張のお友だち達なのでした。
この件がもう翌日クラスで話題になるのは当たり前の事でした。
「二人は何しにココに来たの?」
「えっとね、今日二階の書店コーナーでね、漫画家さんのサイン会が有るんだよ‼︎」
「漫画家サン?
どんな漫画を描いてる人なの?」
ちょっと興味が有るメイヤだったが、
「あのね、『転生したのにスランプだった剣士!』って言う【異世界ファンタジー物】だよ!」
とリンちゃんが、
ソレを聞いてマイヤが苦言を口にした、
「…剣士がスランプだなんて、情け無いですね?」
「…そうだね、でもソコが面白いって、今度アニメになるかもなんだよ!」
カコちゃんもやや同意したが、【アニメ化】するくらいだから面白いと擁護した。
【異世界】から来た義姉妹には、どの辺が面白いのかわからないけど?
「二人とも、ランドセルはもう買ったから、お友だちとサイン会に行って見てはどうですか?」
サクラさんが気を利かせて提案してくれた。
「…私も…ついて…行こう。
…その…漫画なら、知ってい…るし。」
「メイヤちゃん…誰、この子?」
「フランちゃんは東京から来たお友だちだよ、凄い頭が良いの!
メイヤたちよりお姉さんなんだよ?」
(へぇ、5、6年生かな?)
「私たちは、屋上の「仲良し広場」で休んで居ますから、終わったら来て下さいね。」
「うん!」
「ハイ、わかりました。」
「…おけ。」
【異世界】からやって来た女の子たちが【異世界転生漫画】に興味を持つ?
何のコント?
「もう、こんなに並んでるよ!」
「カコちゃん、走ると危ないの!」
「大丈っぶぁああ!」
「おっと、大丈夫ですか、カコさん?」
躓いて転びそうになる姉の友達を、鮮やか軽やか爽やかに、抱き寄せて助ける、よく出来た妹。
「えっ、あ、あの、ありがとう…ござい…ます。」 ぽっ!
「良かった、カコさんにお怪我が無くて。」
「メイヤちゃん、マイヤくんって、女の子だよね?
弟って事、無いよね?」
「うん、女の子だけど?」
あ~ぁ、カコちゃん可哀想に?
初恋が女の子とは?
…友達の悲哀を嘆くリンちゃんと、
「マイヤ…ちゃん、無自…覚な優しさは…罪なの!」
あの子の行く末に一末の不安を感じ取ったフランだが、
その反面、内心では面白いモノが観れたとご満悦なのだ。
「ほ、本当ですか?
学校に行っても良いんですか?」
「えぇ、メイヤと同じクラスだそうよ。
なのでこれから【ランドセル】を買いに【駅前商店街】に行きましょうね。」
日頃の買い物などは、近くの個人商店で間に合うけど、ランドセルともなるとそうもいかない。
何気にメイデールさんも張り切っている様だ。
マイヤちゃんはメイヤちゃんより少し歳は下なのだけど、おそらく精神的な年齢は彼女の方がかなり上かも知れない。
コチラの世界の常識も一年間【施設】で学習していたらしいので「信号機、赤は止まれ、緑は進め!」も理解している。
産まれた時から一応両親が居たメイヤと、物心ついた時には家畜の如く扱われていたマイヤ、苦労した分その差は中々埋まることは無いのかも知れない。
少なくとも【師匠】に育てられてからは、家族の暖かみは知ったと思う…
「…なら、ワ…タシの…車で行こ…う!」
…まだ…フランさ…んがいる?
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【富士見ケミカル】では、義手や義足の開発も手掛けているそうで、マイヤちゃんの為に【義眼】を特注で制作してくれたのだけど、ちょっと困った事が起きていた?
「…あのコレは、師匠の形見なので…」
と、言って、義眼を付けても、眼帯を外さないのだ。
革製の眼帯は校則違反になるかな?
そんな彼女に義母メイデールさんは、
「大切なモノをずっと持っていたい気持ちは分かるわ、なら尚更無くしたら大変でしょ?」
そう言って用意しておいた小さな木箱を彼女に渡した。
鍵がかかる様になっている。
「鍵は二つ有るから、一つはマイヤが首から下げていなさい。
もう一つはお母さんが持っているから。
木箱は【仏間の仏壇】にしまっておきましょう。
ここなら、良い霊が護ってくださるから。」
「…仏壇、亡くなった人を偲ぶ【家庭用祭壇】ですね、わかりました、そうします!」
…なるほど、あながち間違って無いけど?
「マイヤ、ランドセルの色はメイヤとおそろいでピンクにしよ!」
「あ、あの姉さん、ボク、紫が良いかも?」
…マイヤは【ボクっ娘】だった。
しかも、今は何故か俺の子供の頃のTシャツとジーンズを着て、まるで男の子の様だ!
なんでも、動き易いからだとか?
まぁそんなに気に入ってるなら止めないけどね。
実際、男の子の格好だと、耳のギザギザも、目の傷痕もワイルドでカッコ良く見えてしまうから不思議だ?
元々整った顔立ちの中性的な魅力のあるお子様だったし。
「…皆んな、乗っ…た?
…じゃあ、…れっつごぅ。」
女性陣が全て出掛けた所で、俺と父さんは縁側で【リバーシ】に興じていた?
父さんがやりたいと誘って来たのだ。
「アッチの世界では、コイツが結構流行っていてな。
随分と儲けさせてもらったんだ。」
「賭けてたの?」
「勝った方は多く取った石の分だけ、コインをいただく事が出来る。
父さんが思いついたルールでな、このゲーム自体は少し前から広まっていったそうだ。」
「父さんって、リバーシ強かったの?」
「いや、ハッタリが功を奏しただけだ。」
「どういう事?」
「酒場でな、リバーシ最強を唱う奴がいて、【異世界】から来たリバーシの開祖を倒したとか言っていたんで、賭けを持ちかけたんだ。」
「…ソレで勝ったんだろ?
なんかイカサマでもしたの?」
「そんなトコロかな、最強と言うからハンデをよこせと、お互い四隅四つを使わずにゲームをする事にしたんた。
最初は余裕を見せていたが、普段と勝手が違うので、十数枚差を付けて父さんが勝ったんだ。」
「すごいじゃないか?」
「脳トレゲームで似た様なのが有ってな。
向こうは四隅を取る重要性が分かって無かったまでの事さ。
その後、元のルールに戻しても、相手は酷く動揺して楽勝だったさ。
お陰でメイヤに蜜菓子を買ってやれたさ。」
可愛いそうに、そのリバーシ王?
そういえば昔、俺の携帯ゲーム機を借りてなんかやっていた事有ったっけ?
「将棋とか麻雀は流行って無かったの?」
「流行っていたが、父さんはルールを知らんからな、ハハハハ!」
「…なぁ、この間の続き、聞かせてくれないかな?
ま、マイヤの…を潰した奴の事を?」
あの日、あまりの衝撃的な話しで俺の脳細胞がオーバーヒートして… では無く、メイデールさんが気分を悪くてして話しを中断したからだ。
丁度、女性陣はいない。
「…そうだな、この話は【施設】のスタッフがあの子の事を気遣いながら、少しづつ事情を聞いて、そこに父さんがアチラて知り得た知識を元に解明した事だ。」
相変わらずまわりくどいのは、父さんも話す事に心の準備が必要なのだろう?
「あの子が【師匠】と修行の旅であちこちの【ダンジョン】を巡っていた時に、【勇者】たちと遭遇したそうだ。
彼等はマイヤを人質にして、【師匠】に投降する様に命じたそうだ。」
「ちょっと待ってくれ、何で勇者たちはそんな事を?」
「師匠には【懸賞金】が掛けられていたんだよ、しかも以前勇者たちが警護していた貴族を殺しているんだ、【師匠】は。」
…【異世界】って奴は、そんなに殺伐としているのかよ!
「【師匠】は直ぐに投降したそうだ、が懸賞金の支払いは【生死問わず】だったらしい。
勇者たちは【師匠】を嬲り殺しにしようとした。
反撃したら弟子の命は無いと言ったらしい。
冗談では無い、本気だと言って勇者がマイヤの目に剣を突き刺したそうだ。」
「なっ?
な、なぁその勇者って、本当にコッチの世界から転移した人間なのかい?
そっちの世界生まれの別の勇者じゃないのか?」
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「お前、勇者を何だと思っている?」
父が悲しそうな顔で聞いて来た?
「そりゃ、愛と正義と平和の為に戦うヒーローだろ?
ソレが仕事なんじゃないのか?」
俺は自信を持って、そう答えた。
それは父に対して思っていた事でも有る
「…仕事ってのは、まぁ間違いでは無いな。
ただ、【勇者】と言う職業は無い。
【勇者】と言うのは、【称号】だ。
おいそれと名乗れるモノでは無い。」
「【称号】って?」
「その国の王が任命したり、大司教が神からの声を聞いて正式に「貴方は神より勇者に選ばれた。」と伝えたりするもので、自分で勝手になれるモノでは無いんだ。」
「だから、王様が自分の国の誰かを…
そうか、その為の【勇者召喚】なのか…、
でも、大司教サマはこの世界の人間を…
もしかして、その勇者は【異世界転生者】だったりする?」
「カンが良いな、おそらくな。
とにかく勝手に【勇者】を名乗れは【重罪】、下手すれば【死罪】だ。
ニセ勇者なんて、割に合わない事は誰もしないさ。
コレは父さんがアチラで様々な国々を見て来た事で知り得た事だ。
自ら名乗れるモノなんて、剣士が【大剣豪】、魔法使いが【大魔導士】くらいなモンだな?
実力がソレに見合うかは別だが、他者から【二つ名】を付けられしている人物は要注意だったな。」
…つまり、【勇者】は限りなくコチラの世界から転移、又は転生した人物で有る可能性が高い?
「…つまり、罪人の娘だから、暗殺者だから、里親になるのをやめたのか、その【里親候補】さんは?
なんかしっくり来ないな?」
「まぁ待て、まだ話しには続きがある。
その【勇者パーティー】の一人が、マイヤを捕まえていた【勇者】の事を「リョーコ」と呼んでいたそうだ。」
「勇者は女なのか⁈」
ん、【リョーコ】?
涼子、了子、日本人かな?
「最初に里親を申し出てくれた人物は武道家でな、お前と同じく【異世界失踪認定】を受けた家族がいるそうだ。
その方はマイヤの容姿も過去の事情も全て受け入れて、【本当の親】として育てていきたいと言ってくれていたんだ。
武道家の自分なら、ソレが出来ると…」
「でも、途中で辞退したんだろ?
なんでさ?」
「…最初にも言ったが、今まで話した事は、マイヤから時間をかけて、少しずつ話してもらった事だ。
時には一週間は何も聞かず、気持ちを落ち着かせたりしていたそうだ。
一度に話したら、あの子こころが壊れてしまうかもと、【施設】のスタッフは最善を尽くした…
【勇者】の名前が分かったのはその一番最後だ。」
マイヤは震えながら話してくれたそうだ、スタッフがもういいと言うのを、
『この耳が千切れたのは、【勇者】が、ボクが逃げない様にと耳を掴んでいたので、自分で引き千切ったんです!
【師匠】に駆け寄ると、この眼帯を渡してくれました。
眼球の代わりに【魔法石】が隠してあって、ソレを地面に叩きつけると…
目が眩むくらい眩しくて…
気がつくとこの世界に居ました。』
「 …と、一気に話すあの子を、誰も止める事が出来なかったそうだ。」
その時、俺はある一人の男性の顔を思い出していた。
その人も我孫子道さんと同じく、俺を養子にしたいと言っていたらしい?
家が道場だとか…
「最後にあの子はこう言ったそうだ。
『勇者リョーコ、絶対許さない!
師匠やボクにした事と同じ目に合わせてやる!』
とな、ソレを聞いたからだ。」
「…その里親さん、【勇者リョーコ】の…… 」
「…娘のした非道な行いを詫びる為、最初は引き取るつもりだったんだ。」
「…でも、やめた。
なんで?」
「…全ては父さんの所為だ。」
「あっ!
メイヤちゃんだ、ヤッホー!」
「カコちゃん、リンちゃん、ヤッホー!」
ショッピングセンターでクラスメイトにあったメイヤ。
「メイヤちゃん、お買い物?」
「うん、皆んなでマイヤのランドセルを買いに来たの。」
「マイヤ…ちゃん?」
「この子だよ!」
友達に妹を紹介すると、
「か、カッコいい!」
「イケメンだ!」
「メイヤ姉さんのお友だちですか、ボクはマイヤといいます。
日頃、姉さんがお世話になり、ありがとうございます。
この度、ボクも同じクラスに通える事になりました。
姉共々、よろしくお願いします。」
「しかも、王子サマみたい!」
「礼儀正しい、クラスのバカ男子とは比べものにならないよ!」
「あら、メイヤちゃん お友だちですか?」
「あう?」
「」
「あ、お母さん、サクラ姉ちゃん!
うん、カコちゃんとリンちゃんだよ!」
「こ、こんにちは!
(わぁ~美人ママさんと噂の美人お手伝いさんだ!)」
「わ、わたしたたち、メイヤちゃんのクラスメイトでしっ、…か、噛んじゃった…グスっ。」
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日野家女性陣勢揃いにびっくり緊張のお友だち達なのでした。
この件がもう翌日クラスで話題になるのは当たり前の事でした。
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とリンちゃんが、
ソレを聞いてマイヤが苦言を口にした、
「…剣士がスランプだなんて、情け無いですね?」
「…そうだね、でもソコが面白いって、今度アニメになるかもなんだよ!」
カコちゃんもやや同意したが、【アニメ化】するくらいだから面白いと擁護した。
【異世界】から来た義姉妹には、どの辺が面白いのかわからないけど?
「二人とも、ランドセルはもう買ったから、お友だちとサイン会に行って見てはどうですか?」
サクラさんが気を利かせて提案してくれた。
「…私も…ついて…行こう。
…その…漫画なら、知ってい…るし。」
「メイヤちゃん…誰、この子?」
「フランちゃんは東京から来たお友だちだよ、凄い頭が良いの!
メイヤたちよりお姉さんなんだよ?」
(へぇ、5、6年生かな?)
「私たちは、屋上の「仲良し広場」で休んで居ますから、終わったら来て下さいね。」
「うん!」
「ハイ、わかりました。」
「…おけ。」
【異世界】からやって来た女の子たちが【異世界転生漫画】に興味を持つ?
何のコント?
「もう、こんなに並んでるよ!」
「カコちゃん、走ると危ないの!」
「大丈っぶぁああ!」
「おっと、大丈夫ですか、カコさん?」
躓いて転びそうになる姉の友達を、鮮やか軽やか爽やかに、抱き寄せて助ける、よく出来た妹。
「えっ、あ、あの、ありがとう…ござい…ます。」 ぽっ!
「良かった、カコさんにお怪我が無くて。」
「メイヤちゃん、マイヤくんって、女の子だよね?
弟って事、無いよね?」
「うん、女の子だけど?」
あ~ぁ、カコちゃん可哀想に?
初恋が女の子とは?
…友達の悲哀を嘆くリンちゃんと、
「マイヤ…ちゃん、無自…覚な優しさは…罪なの!」
あの子の行く末に一末の不安を感じ取ったフランだが、
その反面、内心では面白いモノが観れたとご満悦なのだ。
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根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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