スマートシステムで異世界革命

小川悟

文字の大きさ
上 下
222 / 224
第8章

第11話 一番悪い奴!

しおりを挟む
朝食までの数時間、クレアと色々と暴走して、昨日の事も含めて色々とスッキリした。

テク魔車の座席で朝食を食べに行くと、イーナさんは心配そうな顔で迎えてくれた。私はスッキリとした表情でイーナさんにお礼を言う。

「昨日は心配させたようで、すまなかったね。一晩寝たら色々とスッキリしたから大丈夫だよ」

イーナさんは私の様子を見て、本当に大丈夫そうだと感じたのかホッとした表情を見せてくれた。

ク、クレアさん、隣からジト目で睨まないでぇ~!

目の端で少しだけクレアのそんな表情が見えた。すぐに目を逸らしたのに横からジト目で睨む圧を感じるぅ~。

「でも、本当に良かったです! 私は獣人だから理不尽な目に遭っても仕方がありません。でもアタル様は人族で、みんなのために一所懸命なのにあんな風に……」

イーナさんは話しながら更に腹を立てたのか、怒りながら涙を目に浮かべ始めた。

うん、ほんまにええバニーちゃんやぁ!

「私の前で獣人だからとか、人族だからとかはダメだよ。バニー、……ゲフン、イーナさんが理不尽な目に遭ったら、私が守ってあげるからね」

「は、はい……」

あれ、私はまた変なこと言っちゃった!?

イーナさんは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに返事をしてくれた。

ク、クレアさん、またジト目で睨まないでぇ~!

今度は顔を全く見ていないが、この圧は間違いないだろう……。

焦っているとノックしてルーナさんが入ってきた。

「失礼します。外にハロルド様が……」

こんなに朝早くハロルド様が?

「旦那様、実は昨晩」

クレアは私が部屋に行ってからの事を説明してくれた。

私はこの町や国を亡ぼすようなことはしない……と思う。

それはともかく、クレアの気持ちも嬉しいが、ハロルド様がクレアや私を大切に考えてくれていることも嬉しかった。

でも……、なんでそこまで大袈裟な話になっているんだ!

落ち込んだけど、それは私の個人的な考えでしかない。国やカービン伯爵と相容れないならエルマイスターに引き込もれば良い。それも頼まれた仕事はきちんとしてからのつもりだった。

納得できないようなことは地球でも良くあることだ。
ボッチを卒業しようと会社を辞めようとした時も、1年の話し合いだけでなく、その後2年も契約で縛られたくらいだ。雇い主や顧客からの要求のほうが大変だった気がする。

「旦那様、ハロルド様は無理な要求はしないと思います」

クレアが真剣な表情で頼んできた。

いやいや、ハロルド様に対して不満はないから、そんな顔で頼まなくても大丈夫だよ。

私は普通に了承してハロルド様に会うことにしたのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


朝食も終わっていたのでハロルド様を呼んでくるようにルーナさんに頼んだ。すぐにハロルド様が来たのだが、私の顔を見てホッとした表情を見せていた。

なんだろう、自殺するとでも思ったのかな?

「元気になったようじゃな。やはり儂の思っていた通りじゃ!」

「閣下、だから問題ないとでも?」

クレアが少し冷たく言った。

「い、いや、それは違うぞ。今回の事は当事者のカービン伯爵も反省しておる。殿下も今回の事でアタルに迷惑を掛けたと言っていた」

え~と、大袈裟になっていません?

クレアは私を心配してくれていると思うけど、問題を大きくしている気が……。

「本当ですか?」

「本当じゃ!」

ハロルド様はジョルジュ様や領主様達と、どのような事を話し合ったのか詳しく説明してくれた。

説明を聞きながら腑に落ちないことがいくつかあった。

「今回の事はカービン伯爵の失態だと認めるということですね?」

クレアがハロルド様に念を押すように尋ねている。

「そうじゃ!」

ハロルド様が答えたが、私はそこまで大事になっていることに驚いていた。

まあ、たまに扱いが酷いと思うこともあったが、それを変えてくれるようなので助かる。今回の事は私も非常に納得がいかなかったが、手違いもあったので仕方ないと思う。それも解決して、今後は同じことがないのなら、結果的に良かったと思った。

「今回のことは私も許しがたいことだと思います。でもカービン伯爵様も反省して、殿下や他の領主様も考えているようです」

クレアが水に流して欲しそうに話した。

それは別に問題ないと思い答える。

「いや、私も今回のことはもう気にしていないよ」

今回の事はね……。

「そうかぁ、アタルの事だから儂は大丈夫と言っていたのじゃ。アタルはそんな小さいことで大騒ぎしないと儂は信じていたのじゃ!」

でも住民を脅すのは小さいことじゃないと思う。

「はははは、これで面倒な役割は終わりじゃ! アタル、儂がしっかりとカービン伯爵やエドワルドの奴に謝罪させるから、安心するのじゃ!」

クレアもホッとした様子だ。

しかし、それだけでは解決しなければならないことが残ってしまう。

「ハロルド様、今回のことはそれで問題ありません。しかし、いくつか納得できないことがあるのですが?」

「なんじゃ? 他に何かあるのか?」

私の話にハロルド様は心当たりがないようだ。

「私は間違いや失敗は誰でもするものだと思います」

「その通りじゃ!」

「罰を受けたり、叱られて反省したりすれば許されるべきだと思います」

「そうじゃ、その通りじゃ!」

ハロルド様は嬉しそうに答え、クレアも納得しているようだ。

「許されたのに、そのことで騒いで、噂を広めるのは良くないと思います」

「うむ、そうじゃな」

「ましてや、そのことを持ち出して、その人物を貶めるのは良くない。絶対にするべきではない!」

「お、おう、そうだと儂も思うぞ……」

ハロルド様は同意してくれたが、私の真剣な表情を見て戸惑っている。

「クレアはどう思う?」

私はクレアの考えを確認する。

「それは人として恥ずべき行為だと思います!」

うんうん、そうだよねぇ~。

「今回の問題の発端は、私の前にした失敗を広めるという恥ずべき行為をした人物に問題があったのではないですか?」

「あっ!」

おっ、クレアも気付いてくれたようだねぇ。

それに、犯人も気付いてくれたようだぁ。

ハロルド様が渋い顔をしている。当然そうなるよねぇ~。

「ま、待つのじゃ。確かに儂は話をしたが、本当のことを教えてやっただけで……」

「あれ、先ほどのハロルド様の返事と違いますねぇ。許されたのに、それを広めて今回の事態を引き起こしたハロルド様。クレア、どうかな?」

「いや、そのぉ、確かに……、良くないと……」

「ま、待て! 確かにそうじゃが、丘を吹き飛ばすのは常識外れの行為じゃ。だから……」

「ほう、あの件で私は叱られたし反省しました。でもことある毎に持ち出されましたねぇ。いやいや、反省して許されたのに、こんな目に遭って、その原因を広めた当人は一切反省していない。そんなことが許されるのかなぁ?」

私は珍しく意地悪な感じで話した。
豪快で頼りになるハロルド様だが、時には子供のように暴走する。そんなハロルド様から何度も叱られていたのに、そのことを使って他の領主たちを脅していたのだ。

エドワルドさんが、あれほど私の事を警戒するような行動に出ていたのも、たぶんハロルド様が原因と言えるだろう。

ま、まあ、グラスニカの出来事の大半は神々の暴走であり、私はその火消し役だった気もする。それも私のせいだと思われているとしたら、やはり納得できない。

「す、すまなかったのじゃ! 驚く奴らの顔を見たら楽しくて、ちょっと脅してしまったのじゃ。いや、儂も驚いたから同じようにと……」

くっ、このハロルド様クソじじいは確信犯じゃねえかぁ!

「閣下、それはあまりにも……」

クレアもジト目でハロルド様クソじじいを睨んでいる。

ようやく誰が一番悪いか分かったのである。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...