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第8章
第9話 誰が悪い?
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ハロルド達はジョルジュについて屋敷に戻ってきた。そして屋敷に着くとジョルジュがカービン伯爵に命令する。
「話ができる部屋を用意しろ。アタル殿と一緒に行動していた兵士で何があったのか話せる者を呼んでくれ!」
カービン伯爵は何か言おうとしたが、それを飲み込んで使用人たちに指示を始めた。
すぐに屋敷にある広い会議室が用意され、ジョルジュと主だった貴族が会議室に移動した。
全員が席に着くとカービン伯爵が真っ先に話し始めた。
「殿下、私は確かにアタル殿に人を近づけないように指示しました。ですが、アタル殿の指示に従うようにも指示を出していたのです。なぜこのような事になったのか、私も混乱しています」
カービン伯爵の話を聞いてジョルジュは答える。
「カービン伯爵の話は分かった。まずは当事者である兵士達の話を聞いてみよう」
ジョルジュはまずはクレアの話した状況が間違いないか確認することにした。
エルマイスターでクレアとは同じ屋根の下で暮らし、何度も一緒に訓練してきた。だから嘘をついているとは思わなかった。それでも両方の話を聞くべきだと考えたのだ。
すぐに兵士が3人、使用人に案内されて会議室に入ってきた。兵士は居並ぶ王子や貴族に緊張した表情を見せる。
ジョルジュはできるだけ普通に3人に尋ねた。
「何があったのか詳しく説明してくれ」
兵士の1人が代表して報告を始めた。時折確認するようにジョルジュが質問すると、兵士は丁寧に答えていた。
カービン伯爵は報告を聞きながら、驚いたり怒りを見せたりしていた。子供まで追い払っていたと聞いたときは、悔しそうにしながらも悲しそうな表情を見せていた。彼もやり過ぎた指示だったと反省していたのだ。
「報告を聞いてみたが、クレアの主張に間違いはなかったようだな……。それと確認だが、カービン伯爵からどのような指示をされたのだ?」
クレアの主張に間違いないということは、カービン伯爵家に非があるとジョルジュは考えていた。そして今回の事が現場の暴走だったのか確認するために尋ねた。
「はい、目立たないようにアタル様一向に人を近づけないようにと、アタル様の指示には従うように言われました」
ジョルジュは兵士の話を聞いて、目立たないようにはできていないと思ったが、そもそも人を近づけないようにすれば目立ってしまうのは仕方ないかと考える。そしてアタルの指示に従うように言われたのであれば、明らかに兵士たちの失態だと思った。
「なぜだ、なぜアタル殿の指示に従わなかった!?」
カービン伯爵は立ち上がり兵士達に尋ねた。兵士達は少し目を大きく開いたが、すぐに俯いて謝罪した。
「申し訳ありません。すべては隊長である私の指示でございます。他の兵士は私の指示に従っただけです」
その場にいるほとんどの者が、その兵士の失態だと確信していた。しかし、そんな簡単な話ではないと誰もが感じていた。
アタルはエルマイスターに実質的には所属する人物で、カービン伯爵の依頼で作業しようとしていたのである。そしてそれ以上に問題なのは、ここにいるほとんどがアタルという人物の重要度を理解していたのだ。
ジョルジュも、今回の失態が単純に現場の失態ではすまされることではないと考えていた。カービン伯爵もそのことを理解しているのか、悲しそうな表情をして呟いた。
「なんでそんな愚かなことを……」
「申し訳ありません。すべては私の責任です。どうか、どうか私の首だけで、お許しをお願いします!」
「いえ、私も首を差し出します! だからカービン家にだけは……」
「私も、だからお願いします!」
兵士3人が土下座して自分達の非を認め、自分の命で償うから自分の仕えるカービン伯爵家に類が及ばないように懇願していた。
ジョルジュは彼らを非常に良い兵士だと感じていた。そして、アタルなら彼らの死など望まないと分かっていた。しかし、王族として彼らの極刑と、何かしらカービン伯爵家に罰を与える必要があるとも自覚していた。
ずっと黙って話を聞いていたハロルドが彼らに尋ねた。
「お主たちはカービン伯爵から何を優先するように言われた?」
ハロルドの質問の意図がジョルジュには分からなかった。しかし、兵士はその質問に答えることなく話した。
「い、いえ、悪いのは私達です。どうか私達を罰してください!」
ハロルドは気の毒そうに彼らを見つめたが、さらに細かく尋ねた。
「人払いを最優先するように指示されたのではないのかのぉ。だからアタルのお願いを断ったのではないのか?」
ハロルドの追及に兵士達は動揺した表情を見せた。
その様子を見てジョルジュはハロルドの質問の意図がようやく分かった。
兵士達は2つの指示を受けた。だが現場ではどちらかを選択しないといけなくなり、優先度の高い指示に従ったということだ。そうなると兵士達に非はない!
ジョルジュがカービン伯爵に視線を向けると、彼は涙をボロボロと流していたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
兵士はうな垂れて涙を流し始めていた。それ以外の誰もがカービン伯爵を見る。カービン伯爵は普段の知的で冷静な雰囲気は無くなり、ボロボロと涙を流していた。
「彼らに罪はない……。悪いのは全て私だ……」
カービン伯爵は兵士達を見つめながら、呆然と呟くように話した。そして、立ち上がると兵士達に頭を下げて謝罪する。
「お前達すまなかった! 私やカービン伯爵家を守ろうとしてくれたのだな。愚かな主で申し訳ない」
彼はそこまで言うと、ジョルジュ殿下の方に見て話した。
「殿下、ハロルド殿が言われた通り、彼らには最優先でアタル殿達に人を近づけないように指示していました。絶対にそばを離れるなとも……。彼らはアタル殿に頼まれても私の指示で……。すべては私の責任です!」
ジョルジュはカービン伯爵の態度を見て、彼が臣下に罪を着せようとしたのではないと感じた。
アタルの行動を警戒してそんな指示を出していたが、余裕のなかった彼はそこまで気付くこともなかったのだろう。
しかし、結果的には大して状況は変わらなかった。いや、当主の失態だとすると状況は悪化したと言っても過言ではない。
陛下や宰相からはアタル殿に便宜を図り、彼の行動を阻害する者には王家として罰を与えるように言われていたのだ。
重苦しい気持ちで、カービン伯爵を一時的に拘束するように命令を下そうとした。しかし、先にハロルドが予想外の事を言い出した。
「カービン伯爵も問題じゃが、一番悪いのはエドワルドじゃ!」
「なっ、ど、どうして私が悪いのだ!?」
ハロルドの発言にエドワルドは焦ったように聞き返した。
「お前が極端にアタルを警戒して愚痴を溢すから、カービン伯爵がこんな失態をしたのじゃ。だからお主が一番悪い!」
「何を言うかぁ! 最初に愚痴を溢して、アタル殿の事を油断すると大変だと脅したのはお主ではないか!」
「わ、儂は、注意しただけじゃ。アタルは油断すると何かしらやらかすのじゃ。だがその後始末をすぐしないとダメじゃ。それが大変だったと教えたが、儂は結果的には良かったと思ってアタルには感謝しているのじゃ!」
エドワルドの反論にハロルドは焦って説明をした。しかし、今度はゼノキア侯爵まで参戦してくる。
「待て、ハロルドの話は変じゃぞ。散々我々を脅していたが、アタル殿を褒めているところなど聞いたことがない!」
「そうじゃ、一番悪いのはお前ではないか。お前が散々脅かしたから、カービン伯爵が間違った行動に出たのじゃ!」
エドワルドはゼノキア侯爵の話に乗った。
「何じゃとぉ! よし、決闘じゃあ、決闘でどちらが正しいか決めるぞ!」
「ハロルド! それは狡いぞ。力押しで決めたら、エドワルドがハロルドに勝てるはずがないじゃろう。まずは全員に意見を聞いてみろ。まあ、そうすればハロルドが悪いことにはなりそうじゃがのぉ」
ゼノキア侯爵がエドワルドを庇うようなことを言い出して、ハロルドが一番悪いという流れになってきた。ハロルドが更に反論しようとしたが、そこにジョルジュが間に入って話した。
「確かにハロルドも悪いが、グラスニカ侯爵にも問題がある。そして、そんな2人の発言に影響されて行動したカービン伯爵も悪い。全員がもう一度アタル殿の対応について冷静に考えるべきではないか?」
ジョルジュの話にハロルドとエドワルドは叱られた子供のようにシュンとなる。
「殿下の言う通りですな。誰が悪いとか問題があるとか騒ぐ前に、もう一度冷静に考える必要があるでしょうなぁ」
ゼノキア侯爵の話にジョルジュは大きく頷いたのであった。
「話ができる部屋を用意しろ。アタル殿と一緒に行動していた兵士で何があったのか話せる者を呼んでくれ!」
カービン伯爵は何か言おうとしたが、それを飲み込んで使用人たちに指示を始めた。
すぐに屋敷にある広い会議室が用意され、ジョルジュと主だった貴族が会議室に移動した。
全員が席に着くとカービン伯爵が真っ先に話し始めた。
「殿下、私は確かにアタル殿に人を近づけないように指示しました。ですが、アタル殿の指示に従うようにも指示を出していたのです。なぜこのような事になったのか、私も混乱しています」
カービン伯爵の話を聞いてジョルジュは答える。
「カービン伯爵の話は分かった。まずは当事者である兵士達の話を聞いてみよう」
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すぐに兵士が3人、使用人に案内されて会議室に入ってきた。兵士は居並ぶ王子や貴族に緊張した表情を見せる。
ジョルジュはできるだけ普通に3人に尋ねた。
「何があったのか詳しく説明してくれ」
兵士の1人が代表して報告を始めた。時折確認するようにジョルジュが質問すると、兵士は丁寧に答えていた。
カービン伯爵は報告を聞きながら、驚いたり怒りを見せたりしていた。子供まで追い払っていたと聞いたときは、悔しそうにしながらも悲しそうな表情を見せていた。彼もやり過ぎた指示だったと反省していたのだ。
「報告を聞いてみたが、クレアの主張に間違いはなかったようだな……。それと確認だが、カービン伯爵からどのような指示をされたのだ?」
クレアの主張に間違いないということは、カービン伯爵家に非があるとジョルジュは考えていた。そして今回の事が現場の暴走だったのか確認するために尋ねた。
「はい、目立たないようにアタル様一向に人を近づけないようにと、アタル様の指示には従うように言われました」
ジョルジュは兵士の話を聞いて、目立たないようにはできていないと思ったが、そもそも人を近づけないようにすれば目立ってしまうのは仕方ないかと考える。そしてアタルの指示に従うように言われたのであれば、明らかに兵士たちの失態だと思った。
「なぜだ、なぜアタル殿の指示に従わなかった!?」
カービン伯爵は立ち上がり兵士達に尋ねた。兵士達は少し目を大きく開いたが、すぐに俯いて謝罪した。
「申し訳ありません。すべては隊長である私の指示でございます。他の兵士は私の指示に従っただけです」
その場にいるほとんどの者が、その兵士の失態だと確信していた。しかし、そんな簡単な話ではないと誰もが感じていた。
アタルはエルマイスターに実質的には所属する人物で、カービン伯爵の依頼で作業しようとしていたのである。そしてそれ以上に問題なのは、ここにいるほとんどがアタルという人物の重要度を理解していたのだ。
ジョルジュも、今回の失態が単純に現場の失態ではすまされることではないと考えていた。カービン伯爵もそのことを理解しているのか、悲しそうな表情をして呟いた。
「なんでそんな愚かなことを……」
「申し訳ありません。すべては私の責任です。どうか、どうか私の首だけで、お許しをお願いします!」
「いえ、私も首を差し出します! だからカービン家にだけは……」
「私も、だからお願いします!」
兵士3人が土下座して自分達の非を認め、自分の命で償うから自分の仕えるカービン伯爵家に類が及ばないように懇願していた。
ジョルジュは彼らを非常に良い兵士だと感じていた。そして、アタルなら彼らの死など望まないと分かっていた。しかし、王族として彼らの極刑と、何かしらカービン伯爵家に罰を与える必要があるとも自覚していた。
ずっと黙って話を聞いていたハロルドが彼らに尋ねた。
「お主たちはカービン伯爵から何を優先するように言われた?」
ハロルドの質問の意図がジョルジュには分からなかった。しかし、兵士はその質問に答えることなく話した。
「い、いえ、悪いのは私達です。どうか私達を罰してください!」
ハロルドは気の毒そうに彼らを見つめたが、さらに細かく尋ねた。
「人払いを最優先するように指示されたのではないのかのぉ。だからアタルのお願いを断ったのではないのか?」
ハロルドの追及に兵士達は動揺した表情を見せた。
その様子を見てジョルジュはハロルドの質問の意図がようやく分かった。
兵士達は2つの指示を受けた。だが現場ではどちらかを選択しないといけなくなり、優先度の高い指示に従ったということだ。そうなると兵士達に非はない!
ジョルジュがカービン伯爵に視線を向けると、彼は涙をボロボロと流していたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
兵士はうな垂れて涙を流し始めていた。それ以外の誰もがカービン伯爵を見る。カービン伯爵は普段の知的で冷静な雰囲気は無くなり、ボロボロと涙を流していた。
「彼らに罪はない……。悪いのは全て私だ……」
カービン伯爵は兵士達を見つめながら、呆然と呟くように話した。そして、立ち上がると兵士達に頭を下げて謝罪する。
「お前達すまなかった! 私やカービン伯爵家を守ろうとしてくれたのだな。愚かな主で申し訳ない」
彼はそこまで言うと、ジョルジュ殿下の方に見て話した。
「殿下、ハロルド殿が言われた通り、彼らには最優先でアタル殿達に人を近づけないように指示していました。絶対にそばを離れるなとも……。彼らはアタル殿に頼まれても私の指示で……。すべては私の責任です!」
ジョルジュはカービン伯爵の態度を見て、彼が臣下に罪を着せようとしたのではないと感じた。
アタルの行動を警戒してそんな指示を出していたが、余裕のなかった彼はそこまで気付くこともなかったのだろう。
しかし、結果的には大して状況は変わらなかった。いや、当主の失態だとすると状況は悪化したと言っても過言ではない。
陛下や宰相からはアタル殿に便宜を図り、彼の行動を阻害する者には王家として罰を与えるように言われていたのだ。
重苦しい気持ちで、カービン伯爵を一時的に拘束するように命令を下そうとした。しかし、先にハロルドが予想外の事を言い出した。
「カービン伯爵も問題じゃが、一番悪いのはエドワルドじゃ!」
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「お前が極端にアタルを警戒して愚痴を溢すから、カービン伯爵がこんな失態をしたのじゃ。だからお主が一番悪い!」
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「わ、儂は、注意しただけじゃ。アタルは油断すると何かしらやらかすのじゃ。だがその後始末をすぐしないとダメじゃ。それが大変だったと教えたが、儂は結果的には良かったと思ってアタルには感謝しているのじゃ!」
エドワルドの反論にハロルドは焦って説明をした。しかし、今度はゼノキア侯爵まで参戦してくる。
「待て、ハロルドの話は変じゃぞ。散々我々を脅していたが、アタル殿を褒めているところなど聞いたことがない!」
「そうじゃ、一番悪いのはお前ではないか。お前が散々脅かしたから、カービン伯爵が間違った行動に出たのじゃ!」
エドワルドはゼノキア侯爵の話に乗った。
「何じゃとぉ! よし、決闘じゃあ、決闘でどちらが正しいか決めるぞ!」
「ハロルド! それは狡いぞ。力押しで決めたら、エドワルドがハロルドに勝てるはずがないじゃろう。まずは全員に意見を聞いてみろ。まあ、そうすればハロルドが悪いことにはなりそうじゃがのぉ」
ゼノキア侯爵がエドワルドを庇うようなことを言い出して、ハロルドが一番悪いという流れになってきた。ハロルドが更に反論しようとしたが、そこにジョルジュが間に入って話した。
「確かにハロルドも悪いが、グラスニカ侯爵にも問題がある。そして、そんな2人の発言に影響されて行動したカービン伯爵も悪い。全員がもう一度アタル殿の対応について冷静に考えるべきではないか?」
ジョルジュの話にハロルドとエドワルドは叱られた子供のようにシュンとなる。
「殿下の言う通りですな。誰が悪いとか問題があるとか騒ぐ前に、もう一度冷静に考える必要があるでしょうなぁ」
ゼノキア侯爵の話にジョルジュは大きく頷いたのであった。
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