スマートシステムで異世界革命

小川悟

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第7章

第5話 不機嫌なハロルド

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朝食は当然のように王子夫妻とエルマイスター家が一緒に食べている。もうこれが日常になっているようで、ミュウとシャルも普通に馴染んでいる。

なんだかなぁ~。

そして何故かハロルド様とグラハドール様は屋敷ではなく従業員宿舎で寝泊まりしていた。それも、二人で一部屋という、信じられない状況となっているのだ。

ハロルド「今日も朝食が終わったらすぐに訓練を始めようかのぉ」
ジョルジュ「もちろんだ、ハロルドとこれほど実力に差ができるとは……」
ハロルド「フォッフォッフォ、まだまだ殿下には負けられませんからのぉ」
グラハドール「老齢のハロルド様にこれほど……」

筋肉馬鹿3人トリオは、相変わらず高濃度魔力訓練に嵌まっているようだ。

「お義父様、そろそろ執務をして頂かないと困ります!」

レベッカ夫人が珍しく本気で怒っているのが分かる。

「何を言うのじゃ! 油断したらすぐに殿下に追いつかれてしまう。そうなれば引退することになるのじゃぞ!?」

「引退すれば良いではありませんか? その方が安心して訓練に励めるということですよ」

ハロルド様の答えに、朝食のスープが凍り付きそうなほど冷たい視線と言葉でレベッカ夫人が言い放つ。

くっ、あの視線を向けられたら生命力を吸われそうだ!

「ふむ、確かにそうじゃのぉ。引退すれば好き勝手に訓練ができそうじゃ!」

しかし、筋肉馬鹿にはサキュバスのスキルは通用しなかった。

「じょ、冗談はやめてください! 役人は仕事が滞って困ると、私に苦情を言ってくるんですよ!」

「う、うむ、さすがにそれはまずいのぉ。今日の午前中の訓練は中止にするしかあるまい……」

最低限の領主として自覚はあるようだ。

「ハロルド、仕方ないから訓練は私とグラハドールで頑張るよ!」

それを言ってはダメだと思うなぁ~。

「ダ、ダメじゃ。儂が居ないのに訓練なんか許さん!」

おいおい、相手は王子じゃないのかぁ?

「いやいや、ハロルドは仕事をしないとダメだろう。領主としてするべきことをしないとなると、陛下に報告しないとダメだからなぁ」

え~と、ジョルジュさん、完全に煽っているよね?

「儂は今すぐ領主を辞めるのじゃ! 臨時でレベッカに領主になってもらうのじゃ!」

「いい加減にしなさい! お義父様、そんなことが許されると思っているのですか? それに、あなた達が訓練するから、兵士から訓練所を使えないと抗議が来ているんですよ。そもそも殿下はエルマイスターに何をしにきたんですか!」

わ、私は関係ないよね……?

さすがにハロルド様とジョルジュ様は反省するような顔をした。

「アタル、この三人を訓練所へ入れないようにしてちょうだい!」

「アタル、そんなことはできないじゃろ!?」
「アタル殿、それだけは、止めてくれ!」

2人が必死に頼み込んでくる。

「え~と、はいっ、設定しました!」

レベッカ夫人に逆らえるもんかぁ!

「う、裏切ったのか……」「そ、そんなぁ~」

そんな顔をしてもダメェーーー!

筋肉馬鹿2人にウルウルと見つめられても、レベッカ夫人に逆らえるはずがないでしょ。

で、でも、逆らって、今晩あの冷たい視線で、ゲフン……。

「アタル殿、私は?」

「えっ、もちろん一緒に設定しましたよ?」

グラハドール様も落ち込んでしまった。

「お義父様は今日一日、しっかりと執務をやってください! きちんとできなければ、明日も訓練は禁止にします。セバス、監視を頼みましたよ」

「はい、お任せください」

ハロルド様はセバスさんに助けてもらおうと、懇願する視線を送るが、セバスさんはとり合おうとしなかった。

まずは筋肉馬鹿1が撃沈した。

「殿下はエルマイスターに来てから視察した内容を書類にして提出してください。こちらも内容次第では訓練を禁止にします!」

「そんなぁ~」

それはそれで大変だと思う。
ジョルジュさんはエルマイスターに来てから、屋敷と訓練所の往復しかしていない。グラスニカから移動するときに聞いた、公的ギルドやダンジョン町、ダンジョン買取所の視察など一切していないからだ。

そして筋肉馬鹿2が撃沈した。

「あなたもですよ?」

グラハドールさんも大きく目を見開いたあと、テーブルに突っ伏してしまった。

ついに筋肉馬鹿3も撃沈した。

うん、最強はレベッカ夫人ということで間違いないでしょう。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ジョルジュは公的ギルド本部の視察や、町中の関連施設を回り、視察を終えるたびに報告書を馬車で作らされていた。

ハロルドは公的ギルドの執務室で、役所システムを使って提出した書類を確認して決済をしていた。

減ることのない報告書や決裁書類に、面倒になり手抜きをするとすぐに、セバスがその書類の内容を尋ねてくる。そこでいい加減な答えを返すと、訓練禁止期間が延びると言われ、真面目に書類仕事をするしかなかった。

ようやく昼休憩になったが、書類は一向に減る気配がなかった。ハロルドは日頃からもう少し仕事もするべきだったと反省する。

「ハロルド様、冒険者ギルドから再三面会を求めてきています。昼食後は彼らと面会するように調整してあります」

「嫌じゃ! どうせ、グラスニカに行くときに会ったあの馬鹿じゃろ。もう会ったから必要ない!」

「それはいけません。慣例としてギルドマスターが着任した時に領主と面談することになっています。形だけでもしておかないと、エルマイスター家を責める口実を与えることになりかねません!」

セバスに強く言われ、それでも文句を言うハロルドだった。しかし、レベッカに報告すると言われ渋々だが了承するのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ヤドラスは有頂天になっていた。

いつまでも進まない現状に業を煮やし、朝から自分で面会をお願いしに役所に訪れた。するとあっさりと面会の約束を取り付けたのである。それに公的ギルドで面会をすると言われ、より機嫌がよくなっていた。

エルマイスター発展のきっかけだと思える公的ギルドには、何度も調査をしようと試みていた。しかし、公的ギルドの建物のある区画に入るだけで、冒険者ギルドの職員は摘まみだされていたのである。

人伝にしか情報が入らなかった公的ギルドに入れるのは、ヤドラスは自分が話をつけたからだと、面会までずっと言っていた。

面会には裏職員1名とレンドも同行させている。レンドを連れて行くのはレンドや相手の反応を見て、内通しているのか確認するためである。だが内心では仕事のできる自分の姿を、レンドに見せつけたかっただけであった。

「お前がいくら努力しても入れなかった公的ギルドに、私が連れて行ってやるんだから感謝しろ!」

ヤドラスは嫌味たっぷりにレンドに話しかける。

「もちろんです。私も一度は中を見たくて仕方ありませんでした。本当にありがとうございます!」

公的ギルドの建物の前で、レンドは本当に嬉しそうにヤドラスにお礼を言った。それを聞いたヤドラスは、レンドがエルマイスター家と内通しているのかどうか、余計に分からなくなってしまったのである。

3人で中に入ると、建物内は冒険者ギルドとは比較にならないほど洗練されていた。3人は圧倒されるような気持になりながらも、受付にハロルドに会いに来たと伝える。すぐに3人は3階にあるハロルドの執務室に通されたのである。


   ◇   ◇   ◇   ◇


3人が部屋に入ると、ハロルドは何か空中を見つめてブツブツと呟いていた。3人にはわからないがハロルドしか見えない役所システムで書類を確認していた。

「そちらのテーブルでお待ちください」

セバスが3人に声を掛ける。部屋には簡易的な応接セットと、それとは別に8人ほどが打ち合わせのできるテーブルが用意されていた。3人は言われた通りテーブル席に座り、セバスの用意した飲み物を飲んで待つ。

最初に飲み物に手を付けたのはレンドだった。飲み物は健康ドリンクだったので、飲むと同時に疲れが吹き飛び驚きの表情を見せる。ヤドラスはそんなレンドを軽蔑するように見ていた。貧乏人には飲んだことのないお茶を出されて驚いていると思ったのだ。
裏職員は出先で飲食をしないように心掛けているので、一切興味を示さなかった。

ヤドラスが健康ドリンクを飲むとすると、ちょうどハロルドがテーブルに歩いてきた。

「それで、用事はなんじゃ?」

ハロルドは立ったまま不機嫌そうにそれだけ尋ねた。ヤドラスは内心でムッとしていたが、表情に出さずに答える。

「辺境伯様に、ギルドマスターとして着任したご挨拶に伺いました」

「そうか、それはご苦労なことじゃのぉ。儂は忙しい。悪いがこれで終了じゃ!」

ハロルドは形だけはこれで終わったと思って、席に座ることなく振り返って執務に戻ろうとした。それを見てヤドラスは焦って声を掛ける。

「お、お待ちください!」

「なんじゃ? 儂は忙しいと言ったと思うのじゃがのぉ。慣例の挨拶以外に忙しい儂を引き止めたのだから、それなりの話じゃろうのぉ。あまりにもくだらない話をされたら、この場で首を切り落としてやるぞ?」

ヤドラスは驚きで何も言い返せなかった。相手が慣例の挨拶だけを済ませようとするとは想像もしていなかった。そして色々話をしようと、世間話から交渉の糸口でもと考えていたヤドラスは、ハロルドの喜びそうな話など考えていなかったのである。

3人はすぐに部屋から追い出され、公的ギルドの建物からも追い出されるのであった
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