スマートシステムで異世界革命

小川悟

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第6章 塩会議

閑話10 神々の思惑

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神界ではこの世界で初めての現象に神々が騒ぎ始めていた。

アタルの造った像にそれぞれの神の加護が宿ったのである。
これまで神の加護は基本的に生物に加護を与えるものであった。それも加護を与える条件も厳しく、神力を多大に消耗していたのだ。

それがほとんど神力を消耗することなく、生物ではない神像に加護が宿ったことも驚きであった。

その神像ともいうべき像を介して、人に加護を与えることが容易にでき、必要とする神力も少なくて済んだのである。それだけではなく神罰や加護者との精神の同調《シンクロ》など、神々さえ知らない現象が次々と起きたのである。

「なんで妾だけ加護が与えられないのじゃ~!」

転生の女神が愚痴を溢すが、誰も答えようとはしない。

「これまで地上へ神々《われわれ》が関与できなかった状況が一変するぞ!」

叡智の神が悦びとも不安ともとれる表情で話した。

「それほど単純な話ではないわよ。それぞれの神の像を作れば加護が宿るわけではないのよ」

そう話したのは光の女神であった。

「確かに光の女神像は、そこら中に存在するが加護を宿したことはなかったな……」

権能の神がその事を指摘した。

「あれは、私なんかじゃないわよ! 使徒としてこの世界に呼んだ賢者が魔王を討伐した後に聖女に頼まれて造ったのよ。だけど自分好みに色々とデフォルメして、胸が変に大きくなったりして、正直気持ち悪いわ!」

光の女神は嫌そうに話した。

「やはり忠実に神々《われわれ》を再現しないと、加護が与えられないということか?」

「それは違うと思うわ。実際に生命の女神像は少し違うのよね」

「そうじゃ! あれはアタルが勝手に理想を付けたしておるのじゃ! 実際の乳はもっと垂れておるし、大きさもびみょ~うに大きくなっているのじゃ!」

叡智の神の発言に、光の女神は否定した。そして、それに同意するように転生の女神が具体的に違いを指摘した。

「そ、それは、私の胸が垂れ始めていると言っているのでしょうか?」

生命の女神はこめかみをヒクつかせながら、笑顔で転生の女神に言い寄る。

「ち、違うのじゃ。ただ違いがあると言いたかっただけなのじゃ……」

転生の女神は笑顔だが、生命の女神の見えないオーラに恐怖して、最後は聞こえないくらい声が小さくなっていた。

そんなやり取りを気にせず光の女神は話を続けた。

「そんな細かいことはどうでも良いじゃないかしら。要するにアタルが心から必要だと感じて像を創って、その像の神が気に入って、その願いを叶えようとしたことが重要じゃないかしら?」

「そ、そうですね……。確かにあの時は、アタル様の考えと私の気持ちも同じでした。像も非常に気に入ったのを覚えています」

生命の女神も納得できることがあるのか、何度も頷いて答えた。

「な、何故じゃ! 妾もアタルの気持ちが痛いほどわかったのじゃ。だから、亡くなった子供を少しでも良い環境に転生されるように願ったのじゃ」

「問題はあの像を転生の女神様が気に入っていなかったからではありませんか?」

「そうだな。確かもっと胸を大きくしろとか、くだらないことを言っていたのを覚えているぞ」

生命の女神の話に叡智の神が同意した。

「ま、待って欲しいのじゃ。それはアタルが悪いのじゃ! 妾の胸を小さくするとは、神を愚弄するような行為ではないか!?」

「あれでも大きすぎると私は思った……」

権能の神がボソリと呟いた。

それから暫くは話し合いをするような雰囲気ではなくなってしまった。転生の女神が駄々っ子のように権能の神をポカポカ叩き始め、周りが必死に転生の女神を慰めることになったからである。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ようやく状況が収まるとまた別の問題が発生していた。

「文字神話に次々とメッセージが入ってきています……」

生命の女神を驚きの表情で神用のスマート画面を開いてうんざりした表情で呟いた。そして戦神や武神の上半身裸でポージングした画像を神々に見えるようにした。

「これを参考に神像を創るようにアタル様に神託して欲しいと……」

生命の女神は呆れた表情で説明する。

「現状ではアタルに勝手に神託を送らないように、私と生命の女神、光の女神のうち2人の許可が必要にしているからだろう。そして実際に神託でまめにやり取りをしているのが生命の女神だからだろうな」

叡智の神も呆れたように話した。

「まあ、アタルの考えを確認して、神像の検証は進めた方が良いかもしれん。だが、その像だけは個人的には見たくないがな」

権能の神は目の前の戦神と武神の画像を指差して、また呟くように話した。

「ですが、文字神話には先日の文化交流で、地球の主神様に我々を生贄に捧げたのだから、それぐらいは優遇してくれと……」

生命の女神は文化交流で彼らがどのような目に遭ったのか、確認する意味でも光の女神に尋ねるように言った。

光の女神は生命の女神の意図を理解して、その時の状況を思い返しているのか遠い目をしながら呟く。

「そうね……。最終的には彼らもそれほど嫌な思いはしていないと思うけど……、でも彼らの望みを叶えたくなるのは何故かしらね……」

話の内容と光の女神の表情を見て、その場にいた神々は気の毒そうに、ムキムキポーズをする2柱の姿を同情するように見つめた。

「せめてそれぐらいはしてあげましょうか……」

生命の女神が呟くと、誰もが無言で頷いた。

「それはダメじゃ!」

突然、主神のノバが姿を現した。そして大きな声で神々を叱りつける。

「「「ノバ様!」」」

その場にいた神々は慌てて声を上げるとすぐに跪いた。

「よい、普通に話を聞くのじゃ」

主神ノバに言われ、神々は普通に立ち上がった。

「話がある。お前達も座るがよい」

主神ノバは先に椅子に座ると、神々に座るように促した。神々は素直に従う。

神々が座ったことを確認すると、主神ノバは一度全員を見渡してから話し始めた。

「良いか、神像を創るのはアタルの意思に任せるようにするのじゃ。神々《われわれ》が関与することを禁止する、良いな?」

「「「はい!」」」

「アタルから要望があった場合は、その神と神託を許してやればよい。しかし、必ず誰か監視するようにな。あの筋肉馬鹿共は注文を付けそうじゃからのぉ」

黙って神々は頷く。

「それと、お前達は神像ができても神々が暴走しないように、その場合の規則作りをして欲しい。後で儂が確認して禁忌を含めて理《ことわり》とする。あれほど冷静な生命の女神が暴走するくらいじゃからのぉ。フォッフォッフォ~」

生命の女神の顔が赤くなるのを他の神々も気付いて笑顔になる。理《ことわり》にすれば規則ではなく、この世界の法則になる。それはそれぞれの神ですら破ることはできなくなるのだ。

「しかし、アタルの存在はそれこそ文化交流そのものじゃのぉ。それこそ神々の文化交流が必要か考え直すかのぉ」

この話に一番狼狽えたのが権能の神であった。
主神ノバは権能の神の全てを見通すような目で見つめた。権能の神は内心で酷く動揺して慌てて目を伏せるのであった。

「フォッフォッ、じゃがのぉ、地球の主神様が非常に喜んでおるのじゃ。もう少し文化交流は続けるとしようかのぉ」

それを聞いて神々は、今回と同じ生贄や新たな生贄についても必死に考え始めるのであった。
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