スマートシステムで異世界革命

小川悟

文字の大きさ
上 下
191 / 224
第6章 塩会議

第52話 神に感謝を?

しおりを挟む
結局、テク魔車は一番無難な町中用テク魔車を公開して使うことになった。王子夫妻は私達と一緒に移動したのだが、子供のように2人が騒いで喜んで大変だった。クレアは護衛兵士に説明して大変そうだった。

神像区画に到着してテク魔車から降りると、ジョルジュ様とメリンダ様は驚いて目の前の光景に見入っている。

噴水の周りを子供たちが楽しそうに走り回り、さらに空気さえ綺麗になった感じがする。

な、なんか神聖な雰囲気が増していない!?

何となくではあるがそんな感じがするぅ。

前からゆっくりとアーニャ夫妻が近づいてくる。

「私はこの地の管理を任されていますアーニャです。こちらは夫のドッズです」

え~と、アーニャさんも少し雰囲気が変わった?

鑑定してみるが特に変化は……、あったぁ!

「私は第2王子のジョルジュです。そして隣に居るのが妻のメリンダです」

「メリンダです。急にきてごめんなさいね」

「いえ、先程サバル様が先触れに来ていただきました。ですが、子供たちが騒々しくして申し訳ありません」

遠巻きに子供たちが我々を見て色々と話している。護衛兵士さんも近づかないように気を使ってはいるが、さすがに子供相手に強面で注意するわけにもいかないので、困っている感じだ。

「あのおねえさん、めがみさまと同じぐらいきれぇ!」
「でも、オッパイは小さいぞ!」
「「「たしかに!」」」
「おじさんは、じゅうじんさまみたいにつよそぉ!」
「ばか! じゅうじんさまは、もっとつよそうだぞ!」
「ドッズおじさんのほうが、つよそうだよ!」
「ひとぞくだから、たいしたことないよ!」

こ、子供は遠慮を知らないなぁ……。

ジョルジュ様は、またおじさんと言われて落ち込んでいる。

「「本当に申し訳ありません!」」

アーニャ夫妻が申し訳なさそうに跪いて謝罪した。

「だ、大丈夫。気にしないで」

メリンダ様も胸の事が気になったのか、少し話し方に動揺が見える。

俺はそれ以上に気になったので、慌ててアーニャさんに駆け寄る。

「ダメですよぉ。お腹の子に良くありませんよ!」

鑑定に妊娠とあったので心配になった。よく分からないが地面に跪くのはお腹が冷えて良くないと思ったのである。

しかし、アーニャさんは呆然として口を開いている。ドッズさんは驚きの表情でアーニャさんを見つめている。

あれ、渡した魔道具で確認していないのか?

「あら、お子さんを授かっているのね、羨ましいわ……。気にしないで立ち上がってください。子供の話くらいで怒ったりしませんよ」

メリンダ様は少し寂しげな笑顔で、アーニャさんに話しかける。遅れて出てきたハロルド様達は何が起きているのか分かっていないようだ。

「も、もしかして、渡した魔道具で確認していないの?」

アーニャさんにそう話すと、アーニャさんは焦ったように何か確認し始め、すぐに涙を流してドッズさんに抱き着いた。

「子供を授かったのよ! 妊娠しているわ!」

「ほ、本当か!? うおーーん!」

いやいやいや、待て、待て、待ってぇーーー!

ドッズさんが喜びのあまりアーニャさんを持ち上げて振り回している。

「止めろぉ! お腹の子に何かあったらどうする!」

「アンタ! 何してるんだい!」

焦って注意すると、ドッズさんは固まったように動きを止めた。抱き上げられた状態のアーニャさんは一緒に喜んでいたくせに、ドッズさんの頭を叩いて怒っている。

「い、いや、子供はずいぶん前に諦めていたから、嬉しくて……。グスッ、すまん!」

ドッズさんは優しくアーニャさんを地面に降ろすと、涙ぐみながら謝罪した。

「ほ、本当だよ……。アタル様に女神様の恩恵の話は聞いていたけど、まさかこんなに早く、グスッ、子供を授かるなんて……」

気持ちは分かるが、やり過ぎだなぁと微笑ましく二人を見つめる。しかし、隣では別の意味で笑顔を見せるジョルジュ様とメリンダ様がいた。

メリンダ「私にも女神様の恩恵を……」
ジョルジュ「妻にも女神様の恩恵を……」

気合の入った表情で2人は呟くのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


その後、アーニャ夫妻の案内で生命の女神像の前に全員が移動した。

「女神様に自分の望みを祈るのではなく。この世のすべての事に感謝して、それからお望みを女神様にお願いすることをお勧めします。もし可能ならこれから正しい行いをする思いや、あなたが受けた恩恵を他の人達に分け与える気持ちも同時に伝えると良いかもしれません」

アーニャさんが丁寧に説明する。
これは私がアーニャさんお願いした事だ。自分の都合だけ神様にお願いするのではなく、神様だけではなくすべてに感謝の気持ちを持って欲しい。そして、少しでも願いが叶ったら、その幸せを他の人に分け与えて欲しい。それこそが平和で幸せな世の中になるのではと思ったのだ。

まあ、あの神様達に頼っては危険な気もする。

転子『し、失礼なのじゃーーー!』

うん、一番信用できない神様登場!

ジョルジュ様とメリンダ様は真剣な表情で生命の女神像の前に歩み寄ると、跪いて両手を合わせて祈りを捧げ始めた。

予想以上に2人は真剣に何か祈っているようで、静かに時間が流れる。

そして暫くすると、ステンドグラスから入ってくる光が女神像に反射して、まるで2人に光が注ぐような感じで、キラキラと光が2人を包んだ。

それを見ていた護衛兵士や付き人、エドワルドさんが青い顔をして跪いて何やら謝罪の言葉を言い始めた。

ハロルド様など一部の人間は驚きで口を開いて固まっていた。

少しして光が陰ったのかキラキラが無くなると、ジョルジュ様とメリンダ様が同時に顔を上げ、お互いに笑顔で見つめ合った。

2人は立ち上げって振り返り、これまでとは違ってスッキリとした表情で全員を見渡した。

「「ありがとう!」」

2人が同時にお礼を言った。誰もがお礼を言われる理由も分からずに戸惑っている。

私だけは何となく、2人は彼らに対してではなく、色々なことすべてに感謝の気持ちを口に出しただけだと感じたのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


町中用テク魔車を使って戻ってくると、王子夫妻と別れ、私達は自分達のテク魔車に戻った。護衛の兵士さんはテク魔車の中を確認しようともしないし、なぜか怯えるような表情を見せるだけだった。

王子夫妻が来られたので、エルマイスターに明日帰る予定は延期になった。明日に改めて予定を教えてもらうことになった。

グラスニカ侯爵の屋敷では、応接室に王子夫妻と領主たちがお茶を飲んで休んでいた。

「いやぁ、ハロルドの報告書を見た時は、大げさに報告されていると思っていたのだがなぁ」

ジョルジュは笑顔でそう話した。

「まあ、そう思うのも当然じゃのぉ」

「こんなのは見なければ信じられん! だが、目の当たりに見たいとは思わないぞ……」

ハロルドは頷きながら同意したが。エドワルドは勘弁してほしいという感じで話した。

「そうだな……。だが、まさか報告が過少にされているとは……」

ジョルジュも複雑そうな表情で話した。ハロルドは王都の息子経由で報告していたが、すべてを報告したわけではなかった。それに、ジョルジュが聞いた報告以降も次々と新しい事実が起きている。それすらも過少で報告していたのである。

「ですが、証拠もなく全て報告したとしても、余計に信じられないでしょう。今回の塩会議に参加して大変でしたが良かったと思っています」

ゼノキア侯爵が丁寧にジョルジュに話す。カービン伯爵も頷いている。

「ハロルド、明日までに私の報告書を用意する。朝一で王都に送ってくれ」

「お任せください」

ジョルジュの依頼もこれまでには考えられない話である。離れた王都に報告書を送るのは時間がかかるのが当然であった。それが送れば即座に相手に届くのである。すでに各領主には、それが可能な魔道具が渡されているのである。

誰もが驚きの事実に毎日直面していて、感覚が少し麻痺しているのであった。
しおりを挟む

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ 

★☆ 書籍化したこちらもヨロシク! ☆★

★☆★☆★☆ 『転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。』 ☆★☆★☆★

▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 



ツギクルバナー
感想 154

あなたにおすすめの小説

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...