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第6章 塩会議
第43話 領主vs商業ギルド①
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ヤドラス子爵家のネストルと契約を交わして、彼が自領に帰ると言うので見送りをする。馬車が見えなくなるとオルアットは会議室に戻り、ギルドマスター達と話をする。
「午後に領主様から話があると連絡がきてる。話し合いはうちがするさかい、あんた達は同じように後ろで立っとったらええわ」
どうせ彼らはすでにギルドマスターから解任済みである。顔合わせということで連れて行くが、彼らに交渉を任せるつもりはなかった。
「しかし、大丈夫なんでしょうか? ネストル様の計画と今後の商業ギルドの方針はどうするのでしょうか?」
グラスニカ支部のギルドマスターが尋ねた。
「まあ、あんた達は黙って一緒におってくれるだけでかまへん」
オルアットはギルドマスター達に何も期待していなかった。
そしてギルドマスター達もオルアットから完全に信用が無くなっていると感じていた。名誉挽回の機会も貰えないことに落ち込んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
オルアットがギルドマスター4人を連れてグラスニカ領主の屋敷に着くと、すぐに会議室に通された。
オルアットの目の前には、ネストルから聞いた通り、ゼノキア侯爵とカービン伯爵まで揃っていた。
「グラスニカ侯爵、ゼノキア侯爵、他の方たちもお久しぶりでございます。商業ギルドのグランドマスターであるオルアットです」
オルアットが会議室に入ってくると、ハロルド達は驚いた表情を見せていた。エドワルドやゼノキア侯爵、カービン伯爵は王都で何度も直接会って話したことがあり、ハロルド達も会ったことがあるからだ。
「まさかオルアット殿が一緒に来られるとは驚きだな」
ゼノキア侯爵がオルアット見てそう言った。その横ではエドワルドとハロルドが小さな声で話し始めた。
エドワルド「どうする、予定通り進めるのか?」
ハロルド「ふむ、どうするかのぉ」
カーク「オルアット殿が居るなら、取引の話を先にしたらどうですか?」
カークが迷っている2人に助言した。それを聞いて頷いたエドワルドはゼノキア侯爵とカービン伯爵に小声で説明した。
(先に!? 取引以外にも話があるのか?)
オルアットは目の前の領主たちの行動に少し戸惑っていた。しかし、それを表に出すことなく笑顔を見せ続ける。
「すまんな。オルアット殿まで居るとは思わなかったので少し戸惑ってしまった。だが、今後の取引について、商業ギルドのグランドマスターであるオルアット殿が居て、まとめて話ができるのは助かる」
エドワルドは改めてオルアット達に向かって話した。オルアットは笑顔を見せながら答える。
「今朝早うにヤドラス子爵家のネストル様が商業ギルドに来られて、塩会議の結果と、今後の塩の販売について話しを聞いてますぅ。備蓄した塩を放出されるとか。販売価格や販売方法の資料についても見せて頂いていますぅ。商業ギルドとしては塩の価格が下がるのは大歓迎やけど、塩は安定供給がごっつ大事や思いますぅ。その辺はいけるんでっしゃろか?」
「まあ、当面は問題ないじゃろ。バカが変な事をしなければ良いのじゃがのぉ」
ハロルドはオルアットの話に惚けた感じで答える。オルアットはその余裕そうな表情を見て、やはりエルマイスターで塩が確保できるのだと思った。
「我々も塩の供給のことは真剣に考えておる。お主たちもヤドラスから話を聞いたのではないか?」
探るようにゼノキア侯爵がオルアットに尋ねる。ネストルがどのような事を商業ギルドに話したり、依頼したりしたのが気になったのだ。
「さあ、ネストル殿から商業ギルドに詳細は教えて頂けまへんやったなぁ」
オルアットはネストルとの契約内容を話すつもりはない。オルアットは彼らと敵対するつもりはないが、変にネストルと仲が良いと思われても困る。
そして予想通りなら、この場に居る領主たちがネストルを嵌めようとしているはずである。結果的には領主たちに味方するようなものだと考えていた。
「そうか、……それでも資料は見せてもらったのではないか?」
エドワルドはネストルに渡した資料を、彼が商業ギルドに見せたのではと思い尋ねた。
「はい、ネストル様から見せて頂いてますぅ」
それを聞いてカークは笑顔になる。もしかして自分達の思惑通りネストルが動いたのではないかと思ったのだ。
「それなら話が早い。今後の塩の販売と各領地の特産物などの価格も相談して決めてある。商業ギルド用の資料も用意してあるので確認してくれ」
エドワルドはそう話すと、使用人に指示してオルアットやギルドマスター達へ資料を配らせた。
資料を受け取ると彼らはすぐに内容を確認し始める。
「なんと、こんなに安くなるのか!?」
「これなら、今までより安く手に入ることになるぞ!」
ギルドマスター達は資料の最初にあった価格表を見て、塩だけでなく各領地の特産物の価格に驚いていた。
実はこれまで各領地の農産物の大半が、ヤドラス家経由で隣国に輸出されていた。そのせいで供給量が減り、ヤドラス家が儲けを上乗せすることで必然的に農産物も価格が高くなっていたのである。
ギルドマスター達は、塩を含めて農産物の価格が下がれば流通量も増え、結果的に儲かると思った。そしてこれまでとの価格差も大きいので、商業ギルドで価格を調節すればさらに儲けられると考えたのである。
しかし、オルアットだけは真剣に価格一覧以降の内容を確認していた。そして、商業ギルドにとって危険な内容であると感じていた。
オルアットは資料を読み終えると、能天気に騒ぐギルドマスター達を睨みつけて黙らせた。そしてエドワルドの方に顔を向けると、エドワルドが話し始める。
「これまでは塩を手に入れるために農産物まで高くなっていた。しかし、今回は備蓄した塩を放出することで、農産物も適正価格で販売される。住民たちも喜んでくれるはずだ」
エドワルドの話を聞いて、オルアットは確かにそうだろうと思った。しかし、問題は商業ギルドが儲けられるのかということである。幾つも気になることがあるが、まずは最初の疑問点を尋ねる。
「この資料で塩はどの領でも同じ価格で、他領や町から出す場合は3倍もの価格になるとありますぅ。たしかに備蓄から出すんやったらこのような対処は必要やろうと思いますわ。
せやけど、他の農産物やらを持ち出す場合にも2割程度の値上げをしては、他領ではさらに運送費やらの経費が掛かりますぅ。これまでの価格が高かったさかい、そやかて安なるかもわかりまへんが、結果的にそない値下げにはならへんのやおまへんか?」
商業ギルドとしては、特産品を他領に持ち出して、少しでも利益を上げたいのである。これでは関税があるのと変わらない。領主たちが決めたのなら仕方ないことではあるが、商業ギルドは差分の利益が下がるので歓迎できる話ではない。
「それは生産地を保護するためにあるのじゃ。土地柄で生産している農産物も多いから、それらを保護してさらに発展させるための費用にするのじゃ。それと、今回塩会議に参加した領地間での輸送費を含めた販売額になる。
例えばグラスニカ特産の小麦をカービン領で購入すると2割ほど高くなるだけじゃ。商業ギルドはそれを買うだけだから問題はあるまい」
横からゼノキア侯爵が説明した。それを聞いてギルドマスター達はホッとした表情を見せる。
これまでも領主間で取引して、領主が輸送した小麦を商業ギルドが買い取るようなことも普通にしていたのである。
特に流通で経費が掛かりやすく自領での農産物の生産が少ないエルマイスターは、他領から農産物を領主間で購入するのが普通であったのだ。
オルアットは単純に安心しているギルドマスター達を、もう一度睨みつける。簡単に自分達の気持ちを相手に知られるのは商人としては失格である。喜んだ姿を見せれば、相手はそれを見て次回の取引で値上げしてくることもあるのだ。そんな商人の基本を忘れているギルドマスター達に呆れていた。
そして、資料を最後まで読まずに納得していることにも呆れていた。この資料が契約書なら、非常識な条件などがついていたらどうするのだと思った。
商業ギルドの質の低下を感じながら、オルアットは一番気になっていたことを質問する。
「資料にある公的ギルドとは何でしょうか?」
愚かなギルドマスター達は何のことか分からず、不思議そうな顔をしているだけだった。
オルアットはエルマイスターについて集めた情報の中で、一番商業ギルドにとって不安に感じていたのは公的ギルドである。
その公的ギルドが資料に書かれていたので、非常に気になって尋ねるのであった。
「午後に領主様から話があると連絡がきてる。話し合いはうちがするさかい、あんた達は同じように後ろで立っとったらええわ」
どうせ彼らはすでにギルドマスターから解任済みである。顔合わせということで連れて行くが、彼らに交渉を任せるつもりはなかった。
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そしてギルドマスター達もオルアットから完全に信用が無くなっていると感じていた。名誉挽回の機会も貰えないことに落ち込んでいた。
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オルアットの目の前には、ネストルから聞いた通り、ゼノキア侯爵とカービン伯爵まで揃っていた。
「グラスニカ侯爵、ゼノキア侯爵、他の方たちもお久しぶりでございます。商業ギルドのグランドマスターであるオルアットです」
オルアットが会議室に入ってくると、ハロルド達は驚いた表情を見せていた。エドワルドやゼノキア侯爵、カービン伯爵は王都で何度も直接会って話したことがあり、ハロルド達も会ったことがあるからだ。
「まさかオルアット殿が一緒に来られるとは驚きだな」
ゼノキア侯爵がオルアット見てそう言った。その横ではエドワルドとハロルドが小さな声で話し始めた。
エドワルド「どうする、予定通り進めるのか?」
ハロルド「ふむ、どうするかのぉ」
カーク「オルアット殿が居るなら、取引の話を先にしたらどうですか?」
カークが迷っている2人に助言した。それを聞いて頷いたエドワルドはゼノキア侯爵とカービン伯爵に小声で説明した。
(先に!? 取引以外にも話があるのか?)
オルアットは目の前の領主たちの行動に少し戸惑っていた。しかし、それを表に出すことなく笑顔を見せ続ける。
「すまんな。オルアット殿まで居るとは思わなかったので少し戸惑ってしまった。だが、今後の取引について、商業ギルドのグランドマスターであるオルアット殿が居て、まとめて話ができるのは助かる」
エドワルドは改めてオルアット達に向かって話した。オルアットは笑顔を見せながら答える。
「今朝早うにヤドラス子爵家のネストル様が商業ギルドに来られて、塩会議の結果と、今後の塩の販売について話しを聞いてますぅ。備蓄した塩を放出されるとか。販売価格や販売方法の資料についても見せて頂いていますぅ。商業ギルドとしては塩の価格が下がるのは大歓迎やけど、塩は安定供給がごっつ大事や思いますぅ。その辺はいけるんでっしゃろか?」
「まあ、当面は問題ないじゃろ。バカが変な事をしなければ良いのじゃがのぉ」
ハロルドはオルアットの話に惚けた感じで答える。オルアットはその余裕そうな表情を見て、やはりエルマイスターで塩が確保できるのだと思った。
「我々も塩の供給のことは真剣に考えておる。お主たちもヤドラスから話を聞いたのではないか?」
探るようにゼノキア侯爵がオルアットに尋ねる。ネストルがどのような事を商業ギルドに話したり、依頼したりしたのが気になったのだ。
「さあ、ネストル殿から商業ギルドに詳細は教えて頂けまへんやったなぁ」
オルアットはネストルとの契約内容を話すつもりはない。オルアットは彼らと敵対するつもりはないが、変にネストルと仲が良いと思われても困る。
そして予想通りなら、この場に居る領主たちがネストルを嵌めようとしているはずである。結果的には領主たちに味方するようなものだと考えていた。
「そうか、……それでも資料は見せてもらったのではないか?」
エドワルドはネストルに渡した資料を、彼が商業ギルドに見せたのではと思い尋ねた。
「はい、ネストル様から見せて頂いてますぅ」
それを聞いてカークは笑顔になる。もしかして自分達の思惑通りネストルが動いたのではないかと思ったのだ。
「それなら話が早い。今後の塩の販売と各領地の特産物などの価格も相談して決めてある。商業ギルド用の資料も用意してあるので確認してくれ」
エドワルドはそう話すと、使用人に指示してオルアットやギルドマスター達へ資料を配らせた。
資料を受け取ると彼らはすぐに内容を確認し始める。
「なんと、こんなに安くなるのか!?」
「これなら、今までより安く手に入ることになるぞ!」
ギルドマスター達は資料の最初にあった価格表を見て、塩だけでなく各領地の特産物の価格に驚いていた。
実はこれまで各領地の農産物の大半が、ヤドラス家経由で隣国に輸出されていた。そのせいで供給量が減り、ヤドラス家が儲けを上乗せすることで必然的に農産物も価格が高くなっていたのである。
ギルドマスター達は、塩を含めて農産物の価格が下がれば流通量も増え、結果的に儲かると思った。そしてこれまでとの価格差も大きいので、商業ギルドで価格を調節すればさらに儲けられると考えたのである。
しかし、オルアットだけは真剣に価格一覧以降の内容を確認していた。そして、商業ギルドにとって危険な内容であると感じていた。
オルアットは資料を読み終えると、能天気に騒ぐギルドマスター達を睨みつけて黙らせた。そしてエドワルドの方に顔を向けると、エドワルドが話し始める。
「これまでは塩を手に入れるために農産物まで高くなっていた。しかし、今回は備蓄した塩を放出することで、農産物も適正価格で販売される。住民たちも喜んでくれるはずだ」
エドワルドの話を聞いて、オルアットは確かにそうだろうと思った。しかし、問題は商業ギルドが儲けられるのかということである。幾つも気になることがあるが、まずは最初の疑問点を尋ねる。
「この資料で塩はどの領でも同じ価格で、他領や町から出す場合は3倍もの価格になるとありますぅ。たしかに備蓄から出すんやったらこのような対処は必要やろうと思いますわ。
せやけど、他の農産物やらを持ち出す場合にも2割程度の値上げをしては、他領ではさらに運送費やらの経費が掛かりますぅ。これまでの価格が高かったさかい、そやかて安なるかもわかりまへんが、結果的にそない値下げにはならへんのやおまへんか?」
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「それは生産地を保護するためにあるのじゃ。土地柄で生産している農産物も多いから、それらを保護してさらに発展させるための費用にするのじゃ。それと、今回塩会議に参加した領地間での輸送費を含めた販売額になる。
例えばグラスニカ特産の小麦をカービン領で購入すると2割ほど高くなるだけじゃ。商業ギルドはそれを買うだけだから問題はあるまい」
横からゼノキア侯爵が説明した。それを聞いてギルドマスター達はホッとした表情を見せる。
これまでも領主間で取引して、領主が輸送した小麦を商業ギルドが買い取るようなことも普通にしていたのである。
特に流通で経費が掛かりやすく自領での農産物の生産が少ないエルマイスターは、他領から農産物を領主間で購入するのが普通であったのだ。
オルアットは単純に安心しているギルドマスター達を、もう一度睨みつける。簡単に自分達の気持ちを相手に知られるのは商人としては失格である。喜んだ姿を見せれば、相手はそれを見て次回の取引で値上げしてくることもあるのだ。そんな商人の基本を忘れているギルドマスター達に呆れていた。
そして、資料を最後まで読まずに納得していることにも呆れていた。この資料が契約書なら、非常識な条件などがついていたらどうするのだと思った。
商業ギルドの質の低下を感じながら、オルアットは一番気になっていたことを質問する。
「資料にある公的ギルドとは何でしょうか?」
愚かなギルドマスター達は何のことか分からず、不思議そうな顔をしているだけだった。
オルアットはエルマイスターについて集めた情報の中で、一番商業ギルドにとって不安に感じていたのは公的ギルドである。
その公的ギルドが資料に書かれていたので、非常に気になって尋ねるのであった。
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