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第6章 塩会議
第41話 それぞれの方針
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屋敷に戻ってきたハロルド達は、疲れていたがそのまま会議室に移動する。
「これ以上は何も起きないでくれ……」
部屋に入るとエドワルドは心の底から祈りを込めて呟いた。
「儂も同じような事を毎日祈っていたのぉ~」
ハロルドは同情するように話した。
「私は神や神罰を、それこそスキルや魔道具の勘違いではないかと疑っていました。しかし、あれを見てしまうと……」
カービン伯爵が複雑な表情で話した。
「あれがアタル殿なんじゃな。見た目はそれこそ頼りない感じだが、あの嘘のような行動で神の加護を制御しておった」
ゼノキア侯爵は深呼吸でさせて、あのキラキラ光り出したアーニャ夫妻たちを思い浮かべながら話した。
「あやつはどれほど非常識な事をしているのか、自覚も自重もしておらんから困るのじゃ!」
ハロルドは思い出したようにアタルの行動を説明する。
「あれが神の意思なんでしょうか? やっていることは間違いなく使徒と思いたくなります。しかし、アタル殿はそんな風には見えません」
カークも戸惑いながら話した。凄い事をしているのに、必死に自分が悪くないと言い訳する姿は使徒とは思えないのだ。
「だから困るのじゃ。結果的には素晴らしいことをしているのに、アタルの行動を目の当たりにすると叱りつけたくなるのじゃ。使徒を叱りつけると考えると笑えてくるがのぉ」
「確かに怒鳴りつけたくなる……」
ハロルドの話を聞いて、エドワルドは同意するように呟いた。そして他のみんなも同じように感じていたのか頷いている。
「愚痴を溢していても何も始まりません。必要な事を済ませて、早く普通の日常に戻りましょう」
「そうだ、早めに色々終わらせて、アタル殿にはグラスニカから帰ってもらおう! ハロルド、健康ドリンクをくれ。すぐに残りの話し合いを終わらせるぞ!」
カークの提案にエドワルドは同意してやる気をだす。これ以上自分の領地で想定外のことが起きて欲しくないのだ。他の者も同じ考えなのか、ハロルドの出した健康ドリンクを全員が飲んで話し合いを始めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「塩の件は我々の考えた備蓄塩の販売方法を書面でネストル殿に渡すだけですね。後は奴がどう動くのか様子見になります」
カークがまず塩の件について話し始めた。
塩は準備が整い次第、一斉に値下げして各領地で販売を始めることになった。しかし、領外へ輸出する場合は価格を3倍にする。そして無断で町から持ち出した場合は10倍の罰金を科すことにしたのだ。
備蓄塩が無くなる頃には新たな方針を始めることになる。
「そうじゃのぉ、あの馬鹿がこちらの思惑通りの行動をしてくれると助かるのじゃがのぉ」
ハロルドは今後の行く末を考えて呟いた。
「ヤドラス家が誠実に仕事をしていたのなら、彼らはそれほど困らないでしょう。不当な利益を得ていたなら、それなりに追い詰められることになりますから、こちらの思惑通り動かなくても問題はありませんよ」
カービン伯爵は内心ではヤドラス家のことは信用していないが、明確な証拠が無いので中立的な発言をする。
「しかし、もしこれまで我々を騙していたのなら、思惑通り動いて欲しいなぁ」
エドワルドは内心ではヤドラス家が不正を働いていたと信じているので、できるだけ追い詰めたいと思っていた。
「まあ、あとはヤドラス家の考え次第じゃ。我々は粛々と計画を進めようではないか?」
ゼノキア侯爵はまとめるように全員の顔を見渡して発言した。皆は頷いて同意する。
「教会の件はどうしますか?」
カークが全員に尋ねる。
「それは儂の方で対処しよう。やはり当事者のグラスニカ侯爵が前面に出れば、向こうは納得しないじゃろう。教会と国へは儂が報告して、どうするか調整する。クレイマン司教とデジテル司教、そして聖騎士団の副団長であるイスタは儂が預かって、犯罪者として王都に連れて行こう」
「それでは、残りはグラスニカで預かっておきましょう。国としてどうするか決まるまでは、処罰や刑の執行はしないようにします」
教会の件は政治的にも微妙な事である。国とは別組織であるのはもちろんだが、この国の教会でも上位のクレイマン司教が絡んでいることもある。それに神罰の事を国や教会が信じるのか不安もあるのだ。
「しかし、教会との争いになりそうですなぁ」
カービン伯爵は複雑そうな表情で話した。これまでもこの国では教会とはそれほど良好な関係ではなかった。今回の件で益々揉めそうだと誰もが考えていた。
「問題はグラスニカではそれほどポーションを必要としていませんが、この領の教会の人間がほとんど捕縛されましたから、ポーションが全く手に入りそうにないことですね」
教会がポーションの製造の拠点としてしか機能していないことは誰もが理解している。ポーションは必要な物だからこそ、これまで教会が好き勝手やってこれたのである。
「それについてはアタルに相談してみよう。すでにエルマイスター領ではポーション職人を何人か確保しているのじゃ。たぶんグラスニカぐらいの必要量なら何とかなるじゃろ」
ハロルドがそう話すと、エドワルドは嬉しそうに笑顔を見せた。しかし、ゼノキア侯爵とカービン伯爵が驚きの表情で尋ねる。
「ま、まさかポーション作成までアタル殿はできるのか?」
「ポーション職人まで確保を……」
「んっ、なんじゃ話してなかったかのぉ。それに、さっき飲んだ健康ドリンクはポーションを薄めたような物じゃぞ?」
エドワルドとカークも驚いた表情を見せる。ポーションをアタルが作れるとは聞いていたが、健康ドリンクがまさかポーション系の飲み物だとは聞いていなかったのだ。
「ふぅ~、アタル殿は使徒だと益々信じたくなるのぉ。あれでもう少し威厳や自重があればのぉ~」
ゼノキア侯爵は半分呆れたように呟いたが、全員が同じように思ったのである。
◇ ◇ ◇ ◇
町で騒動が起きていると知らないヤドラス子爵家のネストルは、商業ギルドの応接室で商業ギルドのグランドマスターと対面していた。
ネストルが商業ギルドにやってくると、受付の職員は内心では混乱していた。
グランドマスターの突然の訪問に混乱しているのに、今度はヤドラス子爵家の嫡男が訪問してきたのである。これまでヤドラス家との商談は、ギルドマスターが出向いてするので、商業ギルドにヤドラス家の者が来たことはなかったのだ。
これまで最重要顧客として商業ギルドが対応した相手が、向こうから乗り込んできたのである。すぐに応接室に案内して、グランドマスターと一緒にいるギルドマスターに連絡を入れたのである。
「私は商業ギルドのグランドマスターをさせてもうているオルアットですわぁ。今日はどのようなご用件でっしゃろか?」
ネストルは初めて会うオルアットに戸惑っていた。
目の前に居る男は人を引き込む笑顔を見せているが、威厳や貫禄は感じなかった。しかし、いつもはへらへらと笑顔を見せるギルドマスター達は、オルアットの座るソファの後ろで立っている。それも、必死に笑顔を自分に向けようとしているが、顔色は悪く笑顔は引きつっているのだ。
「し、塩会議のことで少し相談があってな……」
いつものようにギルドマスター達に、強引にお願いという命令をしようと乗り込んできたのだ。しかし、相手がグランドマスターとなると強引に無理を押し通すわけにはいかない。
「せやったら、私がお話を聞かせていただきますわぁ」
ネストルは迷っていた。
塩会議の結果は商業ギルドにとっては歓迎できる話ではない。しかし、代わりの儲け話や将来の先行きを話せば、協力してくれるだろうと考えていた。そして、場合によってはギルドマスターよりグランドマスターに協力してもらえば、より最高の結果になる。悩んだ末にネストルは結論を出すと、グランドマスターと交渉を始めるのだった。
「これ以上は何も起きないでくれ……」
部屋に入るとエドワルドは心の底から祈りを込めて呟いた。
「儂も同じような事を毎日祈っていたのぉ~」
ハロルドは同情するように話した。
「私は神や神罰を、それこそスキルや魔道具の勘違いではないかと疑っていました。しかし、あれを見てしまうと……」
カービン伯爵が複雑な表情で話した。
「あれがアタル殿なんじゃな。見た目はそれこそ頼りない感じだが、あの嘘のような行動で神の加護を制御しておった」
ゼノキア侯爵は深呼吸でさせて、あのキラキラ光り出したアーニャ夫妻たちを思い浮かべながら話した。
「あやつはどれほど非常識な事をしているのか、自覚も自重もしておらんから困るのじゃ!」
ハロルドは思い出したようにアタルの行動を説明する。
「あれが神の意思なんでしょうか? やっていることは間違いなく使徒と思いたくなります。しかし、アタル殿はそんな風には見えません」
カークも戸惑いながら話した。凄い事をしているのに、必死に自分が悪くないと言い訳する姿は使徒とは思えないのだ。
「だから困るのじゃ。結果的には素晴らしいことをしているのに、アタルの行動を目の当たりにすると叱りつけたくなるのじゃ。使徒を叱りつけると考えると笑えてくるがのぉ」
「確かに怒鳴りつけたくなる……」
ハロルドの話を聞いて、エドワルドは同意するように呟いた。そして他のみんなも同じように感じていたのか頷いている。
「愚痴を溢していても何も始まりません。必要な事を済ませて、早く普通の日常に戻りましょう」
「そうだ、早めに色々終わらせて、アタル殿にはグラスニカから帰ってもらおう! ハロルド、健康ドリンクをくれ。すぐに残りの話し合いを終わらせるぞ!」
カークの提案にエドワルドは同意してやる気をだす。これ以上自分の領地で想定外のことが起きて欲しくないのだ。他の者も同じ考えなのか、ハロルドの出した健康ドリンクを全員が飲んで話し合いを始めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「塩の件は我々の考えた備蓄塩の販売方法を書面でネストル殿に渡すだけですね。後は奴がどう動くのか様子見になります」
カークがまず塩の件について話し始めた。
塩は準備が整い次第、一斉に値下げして各領地で販売を始めることになった。しかし、領外へ輸出する場合は価格を3倍にする。そして無断で町から持ち出した場合は10倍の罰金を科すことにしたのだ。
備蓄塩が無くなる頃には新たな方針を始めることになる。
「そうじゃのぉ、あの馬鹿がこちらの思惑通りの行動をしてくれると助かるのじゃがのぉ」
ハロルドは今後の行く末を考えて呟いた。
「ヤドラス家が誠実に仕事をしていたのなら、彼らはそれほど困らないでしょう。不当な利益を得ていたなら、それなりに追い詰められることになりますから、こちらの思惑通り動かなくても問題はありませんよ」
カービン伯爵は内心ではヤドラス家のことは信用していないが、明確な証拠が無いので中立的な発言をする。
「しかし、もしこれまで我々を騙していたのなら、思惑通り動いて欲しいなぁ」
エドワルドは内心ではヤドラス家が不正を働いていたと信じているので、できるだけ追い詰めたいと思っていた。
「まあ、あとはヤドラス家の考え次第じゃ。我々は粛々と計画を進めようではないか?」
ゼノキア侯爵はまとめるように全員の顔を見渡して発言した。皆は頷いて同意する。
「教会の件はどうしますか?」
カークが全員に尋ねる。
「それは儂の方で対処しよう。やはり当事者のグラスニカ侯爵が前面に出れば、向こうは納得しないじゃろう。教会と国へは儂が報告して、どうするか調整する。クレイマン司教とデジテル司教、そして聖騎士団の副団長であるイスタは儂が預かって、犯罪者として王都に連れて行こう」
「それでは、残りはグラスニカで預かっておきましょう。国としてどうするか決まるまでは、処罰や刑の執行はしないようにします」
教会の件は政治的にも微妙な事である。国とは別組織であるのはもちろんだが、この国の教会でも上位のクレイマン司教が絡んでいることもある。それに神罰の事を国や教会が信じるのか不安もあるのだ。
「しかし、教会との争いになりそうですなぁ」
カービン伯爵は複雑そうな表情で話した。これまでもこの国では教会とはそれほど良好な関係ではなかった。今回の件で益々揉めそうだと誰もが考えていた。
「問題はグラスニカではそれほどポーションを必要としていませんが、この領の教会の人間がほとんど捕縛されましたから、ポーションが全く手に入りそうにないことですね」
教会がポーションの製造の拠点としてしか機能していないことは誰もが理解している。ポーションは必要な物だからこそ、これまで教会が好き勝手やってこれたのである。
「それについてはアタルに相談してみよう。すでにエルマイスター領ではポーション職人を何人か確保しているのじゃ。たぶんグラスニカぐらいの必要量なら何とかなるじゃろ」
ハロルドがそう話すと、エドワルドは嬉しそうに笑顔を見せた。しかし、ゼノキア侯爵とカービン伯爵が驚きの表情で尋ねる。
「ま、まさかポーション作成までアタル殿はできるのか?」
「ポーション職人まで確保を……」
「んっ、なんじゃ話してなかったかのぉ。それに、さっき飲んだ健康ドリンクはポーションを薄めたような物じゃぞ?」
エドワルドとカークも驚いた表情を見せる。ポーションをアタルが作れるとは聞いていたが、健康ドリンクがまさかポーション系の飲み物だとは聞いていなかったのだ。
「ふぅ~、アタル殿は使徒だと益々信じたくなるのぉ。あれでもう少し威厳や自重があればのぉ~」
ゼノキア侯爵は半分呆れたように呟いたが、全員が同じように思ったのである。
◇ ◇ ◇ ◇
町で騒動が起きていると知らないヤドラス子爵家のネストルは、商業ギルドの応接室で商業ギルドのグランドマスターと対面していた。
ネストルが商業ギルドにやってくると、受付の職員は内心では混乱していた。
グランドマスターの突然の訪問に混乱しているのに、今度はヤドラス子爵家の嫡男が訪問してきたのである。これまでヤドラス家との商談は、ギルドマスターが出向いてするので、商業ギルドにヤドラス家の者が来たことはなかったのだ。
これまで最重要顧客として商業ギルドが対応した相手が、向こうから乗り込んできたのである。すぐに応接室に案内して、グランドマスターと一緒にいるギルドマスターに連絡を入れたのである。
「私は商業ギルドのグランドマスターをさせてもうているオルアットですわぁ。今日はどのようなご用件でっしゃろか?」
ネストルは初めて会うオルアットに戸惑っていた。
目の前に居る男は人を引き込む笑顔を見せているが、威厳や貫禄は感じなかった。しかし、いつもはへらへらと笑顔を見せるギルドマスター達は、オルアットの座るソファの後ろで立っている。それも、必死に笑顔を自分に向けようとしているが、顔色は悪く笑顔は引きつっているのだ。
「し、塩会議のことで少し相談があってな……」
いつものようにギルドマスター達に、強引にお願いという命令をしようと乗り込んできたのだ。しかし、相手がグランドマスターとなると強引に無理を押し通すわけにはいかない。
「せやったら、私がお話を聞かせていただきますわぁ」
ネストルは迷っていた。
塩会議の結果は商業ギルドにとっては歓迎できる話ではない。しかし、代わりの儲け話や将来の先行きを話せば、協力してくれるだろうと考えていた。そして、場合によってはギルドマスターよりグランドマスターに協力してもらえば、より最高の結果になる。悩んだ末にネストルは結論を出すと、グランドマスターと交渉を始めるのだった。
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