スマートシステムで異世界革命

小川悟

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第6章 塩会議

第25話 ゼノキア侯爵の来訪

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翌日から本格的に色々動き出していた。しかし、私は朝から領主屋敷の敷地内にテク魔車を移動させていた。ハロルド様が見える場所に居るように言い出したからだ。

公的ギルド用の建物で、エルマイスターから一緒に来た職員や、グラスニカ領の役人や兵士、獣人の顔役や人族の顔役まで集まって、改革の計画が進んでいる。私は可能な作業一覧を提出して、後は指示に従うだけになってしまった。

何となく危険人物扱いされた気もするが、気にしたら負けだ!

それに時間があるならミュウとキティだけでなく、ケモミミ孤児の子供たちと遊ぼうと思った。しかし、真剣な表情でラナとクレアに止められてしまった。

うん、暫くは大人しくしよう!


   ◇   ◇   ◇   ◇


午後になると公的ギルドの建物に呼び出された。計画書がすでに出来上がっていて、公的ギルドの職員と作業計画について話をする。

ハロルド様からできるだけ私が目立たないようにと通達が入っているようで、作業時には人払いをしてくれるそうだ。すでに周辺からの退去は進めているようで、今日の夕方には退去が終わると説明される。

「そんなに早く退去ができるのですか?」

不思議に思い職員に尋ねる。

「はい、元々この周辺は老朽化したことで、基本的に侵入することも禁止されている場所だったようです。無断で住み着いていた人は数も少なく、別の場所を提供したことで、すぐに移動を始めたようです。一番多かったのが子供たちですが、そちらはすでにアタル様が……」

も、問題なさそうだね……。

「アタル様のご都合に合わせて、グラスニカの兵士も人払いに協力してくれることになっています。ご都合はいかがでしょうか?」

「う~ん、今すぐでも問題ないけど、夕方以降はどうだろう。午後の内に建物を準備しておきますので、実質解体作業だけなのですぐに終わりますよ。ただ素材が足りないので2回に作業を分けてもらえますか?」

職員の人は驚いた顔になる。エルマイスターでも同じような作業をしていたはずだ。まあ、さすがにこの規模になると、ダンジョン町の作業を見ていない彼らが、驚くのも仕方ないかぁ。

在庫の素材だけではすべての建物の準備はできない。最初に解体した素材で、2回目の建物を用意すれば余裕だと思う。それに1回で全てを終わらせるには魔力量が足りない可能性がある。作業だけなら問題ないが、スマートシステムの生産工房で建物を造るのに魔力が大量に必要になる。

「わ、わかりました。グラスニカの兵士に人払いの依頼をします。実際に時間はどれくらいかかりそうですか?」

「う~ん、解体の数も多そうなので2時間、いや3時間はほしいですねぇ」

「さ、3時間ですか!?」

「はい、もっと早くできるかもしれませんが、3時間は欲しいですね。長すぎますかね?」

「い、いえ、大丈夫です。それでは早急に調整します!」

これなら今晩と明晩で全ての作業は完了するだろう。

午後から生産工房で建物を幾つも作り始める。魔力回復のためにずっとモモン飴とアプル飴を舐めながら作業していた。

甘い匂いに誘われて、ミュウとキティがいつの間にか俺に近づき、匂いのする口の中を2人が交互に匂いを嗅いできたようだ。

それを私とキスしているように見えたようで、ラナに突然叱られてしまった。

私は悪くないのに……。

誤解されないように2人にも飴を渡して作業を続けるのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


執事がハロルド達の話し合っている会議室にノックをして入ってきた。

「エドワルド様、お客様が到着なさいました」

塩会議は明後日からである。参加者は遅くとも明日までには到着してもらうのが通例である。

塩会議はグラスニカ、エルマイスター、エイブルの3人と輸入の窓口になるヤドラスで始めた会議である。エイブルはエイブル領以北の領への塩販売の窓口にもなっている。

王都側のカービンは塩会議で決まった塩をグラスニカ経由で購入していたのだが、昨年から塩会議に参加するようになった。

塩の値段の高騰により参加するようになったカービン伯爵だったが、値上げの理由を追求するハロルド達とヤドラスとの間に入るような発言が多かった。中立な立場ではあるのだが、ハロルド達にとっては邪魔な存在でもあった。

今回のハロルド達の計画に引き込むかどうかも迷っているのである。

引き込まなければヤドラスを完全に追い詰めることは難しい。しかし、こちらの思惑がヤドラスに伝われば計画の目的は非常に薄れてしまう。

できれば塩会議前にカービン伯爵と話をしたいと思っていたのだ。

「それで、誰が到着したのだ?」

エドワルドは執事に確認する。

「はい、カービン伯爵が到着しました」

執事の返答を聞いて3人はホッとした。

「それと、ゼノキア侯爵が何故かご一緒に……」

3人は予想外の名前を聞いて驚いた。ゼノキア侯爵は中立派の重鎮で、カービン伯爵領の下に領地がある。これまで塩会議には参加せず、王都でヤドラスの調査を王家に進言した時も明確な証拠がなければ賛成できないと主張した人物である。

「ヤドラスに担ぎ出されたかのぉ」

ハロルドは残念そうに話した。

「それは無いのではありませんか。ゼノキア侯爵は堅物ですが、国を一番と考えている人物です。ヤドラスに与するとは思えません!」

カークは自分の考えを話した。

「そうかもしれんが、カービン伯爵のように結果的にヤドラスの味方のような主張をする可能性もある……」

ヤドラス経由で入ってくる塩の3分の1以上が、ゼノキア侯爵とその仲間の貴族たちが買い上げている。王都を挟んで反対側は別の国からの輸入に頼っている。

ハロルド達の計画を進めるとしても、ゼノキア侯爵がヤドラス側についてしまうと、効果は半減することになる。ヤドラスを追い詰めることが難しくなってしまうのだ。

3人は複雑な表情で俯いてしまう。

「とりあえず、今回の塩会議にゼノキア侯爵が何故参加するのか、真意を確認せんことにはのぉ」

ハロルドの話に2人は頷いた。

取り敢えず2人を迎えるために3人は玄関に向かうのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


玄関に3人が到着すると、すぐにカービン伯爵とゼノキア侯爵が到着した。

「遠い所お疲れ様です。まさかゼノキア侯爵まで来られるとは驚きです。すぐに部屋に案内しますので旅の疲れを癒してください」

エドワルドはハロルドの時とは違い、丁寧に挨拶して2人を迎える。

「先触れも出さずに訪問してすまない。塩の問題は国の問題だ。いつまでも人任せにしてはできん。今回は私も参加させてもらうぞ」

ゼノキア侯爵はそう話した。彼はハロルド達より老齢で、文官タイプだが体格はそこそこで、眼力の強い人物であった。

「突然塩会議に参加されると言われて、私の領地にゼノキア侯爵が来られました。急遽一緒に訪問させていただき、グラスニカ侯爵には突然となって申し訳ない。急に決まって少しでも早めに訪問することになったので、先触れが間に合いませんでした」

カービン伯爵は申し訳なさそうに話した。彼は年齢的にはカークよりも随分と若い。数年前に先代が亡くなって、代替わりしていたのである。

「問題ありません。その程度なら対応は可能です。塩会議としてもゼノキア侯爵が参加されてるとなれば、本当の意味での塩会議になります」

エドワルドは笑顔を見せながら、カービン伯爵とゼノキア侯爵に話した。2人は頷きながら感謝を述べ、すぐにゼノキア侯爵が提案をしてきた。

「急いできたのは理由がある。申し訳ないがすぐにも話をしたいのだが可能かな?」

ハロルド達は深刻そうに話すゼノキア侯爵を見て驚いた。

(((何かあったのか?)))

3人は同じことを考えながら、エドワルドが答える。

「ちょうど会議室でハロルドとカークも一緒に色々と相談をしていたところです。よろしければそちらで話しませんか?」

「頼む」

ゼノキア侯爵からどのような話があるのか想像もできないが、3人も方針を決めるのにちょうど良いと考えるのであった。
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