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第5章 公的ギルド
第39話 腹の探り合い
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教会の最奥の部屋に大司教デュロスと冒険者ギルドのグランドマスターであるランドール、商業ギルドのグランドマスターであるオルアットが揃っていた。
世界的な規模の組織に所属する、この国の最高権力者が集まったのである。
「今日はどういった話ですかな。この3人が揃うなど珍しい状況ですなぁ」
最初に話したのはオルアットであった。彼は呼ばれた理由が全く分からなかった。今回の話し合いは大司教のデュロスとランドールが相談して開催したのであった。
「エルマイスター領のことは何か聞いているか?」
ランドールがオルアットに尋ねる。
「エルマイスター領? あぁ、先日あそこの司祭が水で薄めたポーションを商業ギルドに持ち込んだ件ですな」
「そんな古い話しか知らないのか?」
デュロスが不機嫌そうにオルアットに聞き返す。
「エルマイスター領については、私の所にはそれぐらいしか情報が入っていませんなぁ」
オルアットは嫌味っぽくデュロスに答える。
「そうか、……商業ギルドは全く情報が入っていないようだな。協力するかもわからぬ奴に、情報をタダで教えることになるだけだ。やはり商業ギルドは外して対策を考えようではないか」
デュロスはオルアットの態度を見て決断すると、ランドールに向かって話した。
教会はワルジオの件が王都に知らせが届いたが、教会内部の権力闘争が始まってしまった。
ようやく大司教の派閥の審問官を派遣することで調整が終わると、別の報告が舞い込んできた。審問官を派遣する寸前に、エルマイスター家がポーションを独自に手に入れている可能性が高いと報告が入ったのだ。
そうなってくると本格的に対策が必要になる。
それも教会が何十年、いや、百年単位で教会が隠してきた秘密と利益が崩壊する可能性すらある報告だったのだ。
教会は商業ギルドとの敵対も本気でする覚悟があった。それほど深刻な状況だったのだ。
「そうだな……、商業ギルドは特に揉めていないのなら、逆に敵対することになる可能性もあるのか……」
ランドールとしては、商業ギルドまで敵対勢力になることは避けたかった。だから商業ギルドにも声を掛けたのだ。
だが短期的に見れば、商業ギルドはエルマイスター辺境伯と協力して、ダンジョン素材を市場に流せば儲かるはずである。
我々と協力する理由がなければ、商業ギルドは儲かるほうへ手を貸す可能性が高い。そうなれば情報だけ与えて、商業ギルドが敵対するとしたら最悪の展開である。
安易に商業ギルドを呼んだのは、自分の判断ミスかと考え始めていた。
冒険者ギルドは過去の売り上げの誤魔化しが表ざたになることは問題である。
別にエルマイスター領だけであれば、エルマイスター領から撤退すれば良い。しかし、国中や世界中にこの問題が広がることだけは避けなければならない。
すでにこの国のすべての支部に証拠を処分する通達は出してある。
それに、もうひとつの秘密は冒険者ギルドだけの問題ではない……。
ランドールが真剣な表情で考え込む様子を見て、オルアットは対応を変えることにした。
「ま、待ってもらえますぅ!? 何やら物騒な話になっていませんかぁ」
オルアットは教会も冒険者ギルドも、何故か追い詰められている雰囲気を感じた。
教会とはポーションの分配などで揉めることがあるので、折角なら少しでも有利に話をしたいと考えていた。先日の一件は交渉で使えると思って発言したのだ。
しかし、自分の知らない情報で、2人が追い詰められているとなると、いつもの交渉ではまずいと考えたのである。
そして、これほど緊迫した雰囲気であれば、その情報の価値は非常に高いと思えた。そして、上手くすればその情報は儲けられると考えて、一歩下がることにしたのだ。
「大司教さん、すんまへんなぁ。先日の一件で支部から何度も苦情がきてましてん。対処に苦労してあんな言い方になってしまいましたわぁ。ほんますんませぇん!
わてら商業ギルドは、教会とも冒険者ギルドとも、仲良ぉしたいと思ってますねん。もちろん協力しますぅ。そないな冷たいこと言わんといてぇなぁ~」
急に商人モードで話すオルアットに、デュロスとランドールはお互いに目を合わせてると、ランドールが話し始める。
「実はエルマイスター辺境伯と冒険者ギルドが揉めて、ギルドマスターを代えることになった。しかし、代えたギルドマスターがまたエルマイスター辺境伯と揉めて、また代える事態になったのだ」
「教会もお前の知っているその件で、エルマイスター辺境伯と揉めることになった。だから協力しようと考えたのだ」
オルアットは2人の話を聞いて不自然だと感じた。その程度のことで自分が呼ばれるのはおかしい。まるで誤魔化すような話し方だと思ったのだ。
最初の対応を失敗したと思いながら、これ以上は情報を出してこないと判断する。
「そうですかぁ~、それは大変ですなぁ。商業ギルドに協力できることがあれば、なんでも仰ってください」
オルアットは話しながら、エルマイスター領の情報を大至急集めようと考えていた。
「あぁ、その時は頼む」
ランドールはそう答えたが、大司教デュロスは返事もしなかった。
オルアットはやはり失敗したと思ったが、関係改善を図るためにはエルマイスター領の情報が不可欠と考えるのであった。
その後、商業ギルドのオルアットを先に返して、大司教デュロスとランドールは協力し合うことは合意した。しかし、具体的に協力できることがなく、お互いの腹の探り合いになるだけだった。
◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに戻ってきたランドールはすぐにマクリアを呼び出した。
「お呼びでしょうか?」
「ヤドラスとタルボットは準備をしているか?」
「はい、なぜかアーコンも一緒に何やら相談していたようですが、2人はすでに別々に準備を始めているようです」
ランドールはそれを聞くと少し微笑んで話す。
「アーコンは魔道具が気になるのだろう。あいつはそれしか興味がないからな」
マクリアは話を聞いて納得する。
「教会と商業ギルドとの話し合いはどうでしたか?」
「ダメだな。腹の探り合いだけだ。教会は協力すると言っているが、ポーション以外で役に立つことはないだろう。商業ギルドは警戒が必要かもしれん。ダンジョンのことも魔道具のことも、商業ギルドはエルマイスター家と協力して儲けに走るかもしれん。警戒するように2人にも話さないとな……」
マクリアはランドールの話に頷いていた。そして少し考えてから質問する。
「タルボットは大丈夫だと思いますが、ヤドラスはエルマイスター家と揉めるのではありませんか?」
話しを聞いたランドールは笑顔で答える。
「クククク、そうだよ、絶対に揉めると思うぞ。エルマイスター家とは関係改善の見込みは薄い。だったら無理に関係を改善する必要はないだろう。ヤドラスが揉めてくれれば本部にも奴の責任として報告ができる。
あんな奴を本部が送ってきたと文句が言えるからな。わはははっ」
「そう言うことなら問題ありませんね」
マクリアは予想通りの返答がもらえたと、驚いた様子はなかった。
「タルボットは大丈夫だと思うが、最悪の結果も想定してくれ」
「はい、念のために視察という名目で、勝手に出かけたことにする準備はできています。行先は全く別の場所にしておきました」
「はははは、なんだ、お前も準備しているじゃないか!」
「念のためです」
2人は同じようなことを考えていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
オルアットは商業ギルドに戻ってくると、大至急エルマイスター領の情報を最優先で集めるように指示する。
指示された職員が部屋を出ていくとサブマスターが、迷いながらオルアットに話をする。
「う、噂なんですが、エルマイスター領のダンジョンで、ダンジョン内に買取所ができたと商人から聞きました。信じられない話だったので、誰かが嘘を流したと思ったのですが……」
「それだ! もう少し情報を集めろ。噂でも構わん、その情報は大変な利益を生むぞ!」
ダンジョン内で建築物が作れるなど、嘘の可能性が高いと普段なら考えただろう。
しかし、冒険者ギルドのランドールの雰囲気を考えると、噂ではなく本当にそのような技術ができた可能性がある。
そして、その技術は商業ギルドにとって莫大な利益になる可能性が高い。
「確かあの近辺では塩会議とかいう会議が開かれているはずだな?」
「は、はい、もうすぐ開催の時期だと思います……」
「その会議に合わせて、私もそちらに行く。すぐに情報と準備をはじめるのだ!」
「はい!」
オルアットは儲けの匂いを敏感に感じて、この機会に情報収集とエルマイスター家との繋がりを持とうと考えるのであった。
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「そんな古い話しか知らないのか?」
デュロスが不機嫌そうにオルアットに聞き返す。
「エルマイスター領については、私の所にはそれぐらいしか情報が入っていませんなぁ」
オルアットは嫌味っぽくデュロスに答える。
「そうか、……商業ギルドは全く情報が入っていないようだな。協力するかもわからぬ奴に、情報をタダで教えることになるだけだ。やはり商業ギルドは外して対策を考えようではないか」
デュロスはオルアットの態度を見て決断すると、ランドールに向かって話した。
教会はワルジオの件が王都に知らせが届いたが、教会内部の権力闘争が始まってしまった。
ようやく大司教の派閥の審問官を派遣することで調整が終わると、別の報告が舞い込んできた。審問官を派遣する寸前に、エルマイスター家がポーションを独自に手に入れている可能性が高いと報告が入ったのだ。
そうなってくると本格的に対策が必要になる。
それも教会が何十年、いや、百年単位で教会が隠してきた秘密と利益が崩壊する可能性すらある報告だったのだ。
教会は商業ギルドとの敵対も本気でする覚悟があった。それほど深刻な状況だったのだ。
「そうだな……、商業ギルドは特に揉めていないのなら、逆に敵対することになる可能性もあるのか……」
ランドールとしては、商業ギルドまで敵対勢力になることは避けたかった。だから商業ギルドにも声を掛けたのだ。
だが短期的に見れば、商業ギルドはエルマイスター辺境伯と協力して、ダンジョン素材を市場に流せば儲かるはずである。
我々と協力する理由がなければ、商業ギルドは儲かるほうへ手を貸す可能性が高い。そうなれば情報だけ与えて、商業ギルドが敵対するとしたら最悪の展開である。
安易に商業ギルドを呼んだのは、自分の判断ミスかと考え始めていた。
冒険者ギルドは過去の売り上げの誤魔化しが表ざたになることは問題である。
別にエルマイスター領だけであれば、エルマイスター領から撤退すれば良い。しかし、国中や世界中にこの問題が広がることだけは避けなければならない。
すでにこの国のすべての支部に証拠を処分する通達は出してある。
それに、もうひとつの秘密は冒険者ギルドだけの問題ではない……。
ランドールが真剣な表情で考え込む様子を見て、オルアットは対応を変えることにした。
「ま、待ってもらえますぅ!? 何やら物騒な話になっていませんかぁ」
オルアットは教会も冒険者ギルドも、何故か追い詰められている雰囲気を感じた。
教会とはポーションの分配などで揉めることがあるので、折角なら少しでも有利に話をしたいと考えていた。先日の一件は交渉で使えると思って発言したのだ。
しかし、自分の知らない情報で、2人が追い詰められているとなると、いつもの交渉ではまずいと考えたのである。
そして、これほど緊迫した雰囲気であれば、その情報の価値は非常に高いと思えた。そして、上手くすればその情報は儲けられると考えて、一歩下がることにしたのだ。
「大司教さん、すんまへんなぁ。先日の一件で支部から何度も苦情がきてましてん。対処に苦労してあんな言い方になってしまいましたわぁ。ほんますんませぇん!
わてら商業ギルドは、教会とも冒険者ギルドとも、仲良ぉしたいと思ってますねん。もちろん協力しますぅ。そないな冷たいこと言わんといてぇなぁ~」
急に商人モードで話すオルアットに、デュロスとランドールはお互いに目を合わせてると、ランドールが話し始める。
「実はエルマイスター辺境伯と冒険者ギルドが揉めて、ギルドマスターを代えることになった。しかし、代えたギルドマスターがまたエルマイスター辺境伯と揉めて、また代える事態になったのだ」
「教会もお前の知っているその件で、エルマイスター辺境伯と揉めることになった。だから協力しようと考えたのだ」
オルアットは2人の話を聞いて不自然だと感じた。その程度のことで自分が呼ばれるのはおかしい。まるで誤魔化すような話し方だと思ったのだ。
最初の対応を失敗したと思いながら、これ以上は情報を出してこないと判断する。
「そうですかぁ~、それは大変ですなぁ。商業ギルドに協力できることがあれば、なんでも仰ってください」
オルアットは話しながら、エルマイスター領の情報を大至急集めようと考えていた。
「あぁ、その時は頼む」
ランドールはそう答えたが、大司教デュロスは返事もしなかった。
オルアットはやはり失敗したと思ったが、関係改善を図るためにはエルマイスター領の情報が不可欠と考えるのであった。
その後、商業ギルドのオルアットを先に返して、大司教デュロスとランドールは協力し合うことは合意した。しかし、具体的に協力できることがなく、お互いの腹の探り合いになるだけだった。
◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに戻ってきたランドールはすぐにマクリアを呼び出した。
「お呼びでしょうか?」
「ヤドラスとタルボットは準備をしているか?」
「はい、なぜかアーコンも一緒に何やら相談していたようですが、2人はすでに別々に準備を始めているようです」
ランドールはそれを聞くと少し微笑んで話す。
「アーコンは魔道具が気になるのだろう。あいつはそれしか興味がないからな」
マクリアは話を聞いて納得する。
「教会と商業ギルドとの話し合いはどうでしたか?」
「ダメだな。腹の探り合いだけだ。教会は協力すると言っているが、ポーション以外で役に立つことはないだろう。商業ギルドは警戒が必要かもしれん。ダンジョンのことも魔道具のことも、商業ギルドはエルマイスター家と協力して儲けに走るかもしれん。警戒するように2人にも話さないとな……」
マクリアはランドールの話に頷いていた。そして少し考えてから質問する。
「タルボットは大丈夫だと思いますが、ヤドラスはエルマイスター家と揉めるのではありませんか?」
話しを聞いたランドールは笑顔で答える。
「クククク、そうだよ、絶対に揉めると思うぞ。エルマイスター家とは関係改善の見込みは薄い。だったら無理に関係を改善する必要はないだろう。ヤドラスが揉めてくれれば本部にも奴の責任として報告ができる。
あんな奴を本部が送ってきたと文句が言えるからな。わはははっ」
「そう言うことなら問題ありませんね」
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「タルボットは大丈夫だと思うが、最悪の結果も想定してくれ」
「はい、念のために視察という名目で、勝手に出かけたことにする準備はできています。行先は全く別の場所にしておきました」
「はははは、なんだ、お前も準備しているじゃないか!」
「念のためです」
2人は同じようなことを考えていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
オルアットは商業ギルドに戻ってくると、大至急エルマイスター領の情報を最優先で集めるように指示する。
指示された職員が部屋を出ていくとサブマスターが、迷いながらオルアットに話をする。
「う、噂なんですが、エルマイスター領のダンジョンで、ダンジョン内に買取所ができたと商人から聞きました。信じられない話だったので、誰かが嘘を流したと思ったのですが……」
「それだ! もう少し情報を集めろ。噂でも構わん、その情報は大変な利益を生むぞ!」
ダンジョン内で建築物が作れるなど、嘘の可能性が高いと普段なら考えただろう。
しかし、冒険者ギルドのランドールの雰囲気を考えると、噂ではなく本当にそのような技術ができた可能性がある。
そして、その技術は商業ギルドにとって莫大な利益になる可能性が高い。
「確かあの近辺では塩会議とかいう会議が開かれているはずだな?」
「は、はい、もうすぐ開催の時期だと思います……」
「その会議に合わせて、私もそちらに行く。すぐに情報と準備をはじめるのだ!」
「はい!」
オルアットは儲けの匂いを敏感に感じて、この機会に情報収集とエルマイスター家との繋がりを持とうと考えるのであった。
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────────────────────────────
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