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第5章 公的ギルド
第22話 レンドとハロルド①
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朝からレンドは領主のハロルドに挨拶するために中央役所に出向いていた。
同行しているのは護衛として連れてきたアジスだけだった。
カヌムはさすがに連れて来られないし、他の職員を連れて来ても意味はないと判断したのである。
シンプルな作りの応接室だが、ソファも座り心地も良く居心地の良い部屋だった。
すぐに老齢の執事が体格の立派な老人を部屋に連れてきた。
「エルマイスター辺境伯のハロルドじゃ、これはエルマイスター家の執事長のセバスで、騎士団長のアランは知っておるはずじゃのぉ」
レンドはハロルドが老齢だが体格の良いことに少しだけ驚く。
しかし、顔は笑顔を見せていて恐ろしい雰囲気は一切なかったので、聞いていた話を疑いたくなるぐらいであった。
(しかし、笑顔でやられたと言っていたはずだ。油断はできない!)
「今度、この町の冒険者ギルドでギルドマスターをすることになったレンドと言います。前のギルドマスターとサブマスターが大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
レンドは挨拶と謝罪を同時にした。
調査した段階で前ギルドマスターの犯罪行為はすぐに確認できた。ランベルトに注意されなければ、碌に調査もしていない状態で挨拶に伺い、ハロルドの機嫌を損なっていたと思い、ランベルトに感謝したのである。
「ほほう、今度のギルドマスターはまともな判断ができるようじゃな。しかし、騎士団長に聞いたサブマスターは、前ギルドマスターと同じ匂いがしたと言っていたが、今日は一緒に来ていないのかのぉ?」
レンドも当然その事を聞かれると思っていた。
だからゼヘトにはハロルドの心証が良くなる道具として使う予定でいた。
「実はサブマスターに任命されているゼヘトは、女性や獣人の報酬を誤魔化すような不正をしていました。どうも彼は最近の王都の風潮に影響されていたので、エルマイスター領のような女性や獣人が多い領の常識を理解していなかったようです」
「ふむ、しかし風潮はどうあれ、国の法を無視するのが王都の冒険者ギルドのやり方なのか? 別に我が領の状況とは関係のない話ではないかのぉ?」
レンドは言い方を間違えたと思った。
確かに国の法があるのだから、これでは風潮に流されるギルド職員がいることを問題にされてしまう。
「しかし、実際に商会などの依頼だけでなく、貴族の依頼もそのような雰囲気になっています。私もそれが正しいと思っていませんが、王都では考慮しないと貴族や役人から叱られる始末です」
「確かにそれは国の問題でもあるな。しかし、そのような人物をサブマスターとして我が領に送ってくる、冒険者ギルドも問題ではないのかのぉ?」
それにはレンドも同じ気持ちだった。
「確かにそうではありますが、私はあまり腕っぷしが強いわけではありません。だから、腕っぷしの強いサブマスターを付けたのでしょう。しかし、あれほどの愚か者だと私も王都のグランドマスターも考えてもみませんでした。
町に入る際にも、報告書にあった審査についても碌に読んでなかったようで、騎士団長のアラン様までご迷惑をお掛けしました。
彼はサブマスターを解任して、冒険者ギルドの犯罪者として王都に送って罰を受けさせることにしました」
レンドは「冒険者ギルドの犯罪者」の部分を強調して話した。ゼヘトをハロルドに尋問されては不味いからだ。
「まあ、それは構わないが、ギルドマスターが犯した罪を冒険者ギルドはどうするのだ?」
レンドはゼヘトの件が軽く流されてホッとした。
前ギルドマスターのした行為については、グランドマスターからは少しでも冒険者ギルドの負担を減らすように言われていたが、現状では無理だと思っていた。
「被害者の賠償とエルマイスター領の被害に対して冒険者ギルドが全額賠償します!」
レンドはハロルドに自分の考えを話した。
「では冒険者ギルドを代表して間違いなく責任を取ってくれるのだな?」
レンドは返事をしようとして少し違和感があった。
もう少し正確に責任範囲を明確にしようと考えて返答する。
「前ギルドマスターの犯した罪を、新ギルドマスターとして責任をもって賠償することをお約束します」
レンドが答えると、ハロルドは考え込んでしまった。それを見たセバスが書類をハロルドに渡しながらハロルドに耳打ちする。
「うん、そうじゃな」
ハロルドはそうセバスに答えると、書類をレンドに渡してきた。
「これが前ギルドマスターによる被害の合計になる。すでに被害を受けた所には儂が代わりに支払っておるから、その書類の全額をエルマイスター家に払ってくれれば良い」
レンドは渡された書類を見て、内心では動揺していたが、それを表情には出さなかった。
書類にはエルマイスター家から依頼を受けながら、前ギルドマスターが何もしてこなかった費用に利息まで足され、更にはその穴埋めとして兵士を使った分まで請求されていた。
そして、怪我させた少女の治療費や賠償金まである。
過剰請求だと内心で思うが、仕方ないという思いもある。
それ以上に納得いかないのは前ギルドマスターが連れてきた冒険者が行った犯罪の賠償まで請求されていたのである。
「こ、この冒険者の分もですか?」
「そうじゃ、すでに前ギルドマスターが王都から連れてきた冒険者たちに、犯罪をしても自分が処理すると言ったことは、本人からも証言を取れている。間違いなく前ギルドマスターの犯罪行為じゃ」
レンドはそれでも前例のない要求に戸惑った。
しかし、笑顔だったハロルドが真面目な顔で自分の様子を窺っていることに気付き、これで済むなら安いものだと決意を固める。
「りょ、了解しました。近日中にこの金額をお持ちします」
するとセバスが無言でハロルドに書類を渡していた。
「借用書にギルドマスターとして署名をしてくれ。支払いに時間が掛かれば当然利子も付く、現状で我々は冒険者ギルドを完全に信用はできないからのぉ」
レンドはそこまで冒険者ギルドを信じないのかと思ったが、逆の立場なら自分も信じないだろうと考えて借用書を確認する。
特に内容に問題無いのでサインをした。
これで前ギルドマスターの件は終わりになるとレンドは考えて、次の交渉を始めようとした。
しかし、先にハロルドが話し始める。
「前ギルドマスターの件は支払いをしてくれれば終わりじゃ。しかし、それ以前のギルドマスターや冒険者ギルドの仕出かしたことも話し合いたいのぉ」
レンドはもしかしたらと思っていたが、これほどストレートに言われるとは思わなかった。レンドとしては惚けるしか方法はない。
「それは何の事でしょう? そのような事はグランドマスターから聞いていませんが?」
「ほう、まさか惚けるつもりか?」
ハロルドの顔から完全に笑顔がなくなったのを見て、レンドは間違いなく冒険者ギルドのやってきたことをそれなりに知っていると思った。
しかし、認める訳にはいかないし、どの程度知られたのか調べるようにグランドマスターから依頼されていた。
「申し訳ありませんが、本当に何のことかわかりません」
レンドは頭を下げながら謝罪する。
頭を上げるとハロルドがセバスから何かを受け取っていた。あれは門で受けた審査の魔道具に似ているが、少しだけ形が違うと考えていた。
「悪いがこれに手を置いて答えてくれるか? 冒険者ギルドを完全に信用できない。この魔道具で真偽を確認できるのじゃ」
「………」
レンドはそんな魔道具は聞いたことがなかった。
しかし、カヌムの所属や裏ギルドの職員を見破った審査の魔道具も、見たことも聞いたこともなかったが、あの魔道具は間違いなく鑑定をしていたと信じられたのだ。
その魔道具に近いものを出されては、信じるしか今はできなかった。
「ハロルド様、私としては前ギルドマスターの件以外をもし知っていたとしても、私の立場では認めることはできませんし、認めたとしても私に何ができましょう。その件は王都のグランドマスターに対応して頂くしかありません!」
レンドはほとんど認めたような発言だと自分でも理解している。しかし、明確に認めることも、それを償う事もできないとハロルドに理解してもらいたかった。
ハロルドは話を聞いて、また考え込んでしまった。
実はセバスから受け取った魔道具は、審査の魔道具と同じもので、真偽を確認などできない。しかし、ハロルド達は口を割らせるために嘘の話をしたのである。
静かな沈黙が部屋を包み込むのであった。
同行しているのは護衛として連れてきたアジスだけだった。
カヌムはさすがに連れて来られないし、他の職員を連れて来ても意味はないと判断したのである。
シンプルな作りの応接室だが、ソファも座り心地も良く居心地の良い部屋だった。
すぐに老齢の執事が体格の立派な老人を部屋に連れてきた。
「エルマイスター辺境伯のハロルドじゃ、これはエルマイスター家の執事長のセバスで、騎士団長のアランは知っておるはずじゃのぉ」
レンドはハロルドが老齢だが体格の良いことに少しだけ驚く。
しかし、顔は笑顔を見せていて恐ろしい雰囲気は一切なかったので、聞いていた話を疑いたくなるぐらいであった。
(しかし、笑顔でやられたと言っていたはずだ。油断はできない!)
「今度、この町の冒険者ギルドでギルドマスターをすることになったレンドと言います。前のギルドマスターとサブマスターが大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
レンドは挨拶と謝罪を同時にした。
調査した段階で前ギルドマスターの犯罪行為はすぐに確認できた。ランベルトに注意されなければ、碌に調査もしていない状態で挨拶に伺い、ハロルドの機嫌を損なっていたと思い、ランベルトに感謝したのである。
「ほほう、今度のギルドマスターはまともな判断ができるようじゃな。しかし、騎士団長に聞いたサブマスターは、前ギルドマスターと同じ匂いがしたと言っていたが、今日は一緒に来ていないのかのぉ?」
レンドも当然その事を聞かれると思っていた。
だからゼヘトにはハロルドの心証が良くなる道具として使う予定でいた。
「実はサブマスターに任命されているゼヘトは、女性や獣人の報酬を誤魔化すような不正をしていました。どうも彼は最近の王都の風潮に影響されていたので、エルマイスター領のような女性や獣人が多い領の常識を理解していなかったようです」
「ふむ、しかし風潮はどうあれ、国の法を無視するのが王都の冒険者ギルドのやり方なのか? 別に我が領の状況とは関係のない話ではないかのぉ?」
レンドは言い方を間違えたと思った。
確かに国の法があるのだから、これでは風潮に流されるギルド職員がいることを問題にされてしまう。
「しかし、実際に商会などの依頼だけでなく、貴族の依頼もそのような雰囲気になっています。私もそれが正しいと思っていませんが、王都では考慮しないと貴族や役人から叱られる始末です」
「確かにそれは国の問題でもあるな。しかし、そのような人物をサブマスターとして我が領に送ってくる、冒険者ギルドも問題ではないのかのぉ?」
それにはレンドも同じ気持ちだった。
「確かにそうではありますが、私はあまり腕っぷしが強いわけではありません。だから、腕っぷしの強いサブマスターを付けたのでしょう。しかし、あれほどの愚か者だと私も王都のグランドマスターも考えてもみませんでした。
町に入る際にも、報告書にあった審査についても碌に読んでなかったようで、騎士団長のアラン様までご迷惑をお掛けしました。
彼はサブマスターを解任して、冒険者ギルドの犯罪者として王都に送って罰を受けさせることにしました」
レンドは「冒険者ギルドの犯罪者」の部分を強調して話した。ゼヘトをハロルドに尋問されては不味いからだ。
「まあ、それは構わないが、ギルドマスターが犯した罪を冒険者ギルドはどうするのだ?」
レンドはゼヘトの件が軽く流されてホッとした。
前ギルドマスターのした行為については、グランドマスターからは少しでも冒険者ギルドの負担を減らすように言われていたが、現状では無理だと思っていた。
「被害者の賠償とエルマイスター領の被害に対して冒険者ギルドが全額賠償します!」
レンドはハロルドに自分の考えを話した。
「では冒険者ギルドを代表して間違いなく責任を取ってくれるのだな?」
レンドは返事をしようとして少し違和感があった。
もう少し正確に責任範囲を明確にしようと考えて返答する。
「前ギルドマスターの犯した罪を、新ギルドマスターとして責任をもって賠償することをお約束します」
レンドが答えると、ハロルドは考え込んでしまった。それを見たセバスが書類をハロルドに渡しながらハロルドに耳打ちする。
「うん、そうじゃな」
ハロルドはそうセバスに答えると、書類をレンドに渡してきた。
「これが前ギルドマスターによる被害の合計になる。すでに被害を受けた所には儂が代わりに支払っておるから、その書類の全額をエルマイスター家に払ってくれれば良い」
レンドは渡された書類を見て、内心では動揺していたが、それを表情には出さなかった。
書類にはエルマイスター家から依頼を受けながら、前ギルドマスターが何もしてこなかった費用に利息まで足され、更にはその穴埋めとして兵士を使った分まで請求されていた。
そして、怪我させた少女の治療費や賠償金まである。
過剰請求だと内心で思うが、仕方ないという思いもある。
それ以上に納得いかないのは前ギルドマスターが連れてきた冒険者が行った犯罪の賠償まで請求されていたのである。
「こ、この冒険者の分もですか?」
「そうじゃ、すでに前ギルドマスターが王都から連れてきた冒険者たちに、犯罪をしても自分が処理すると言ったことは、本人からも証言を取れている。間違いなく前ギルドマスターの犯罪行為じゃ」
レンドはそれでも前例のない要求に戸惑った。
しかし、笑顔だったハロルドが真面目な顔で自分の様子を窺っていることに気付き、これで済むなら安いものだと決意を固める。
「りょ、了解しました。近日中にこの金額をお持ちします」
するとセバスが無言でハロルドに書類を渡していた。
「借用書にギルドマスターとして署名をしてくれ。支払いに時間が掛かれば当然利子も付く、現状で我々は冒険者ギルドを完全に信用はできないからのぉ」
レンドはそこまで冒険者ギルドを信じないのかと思ったが、逆の立場なら自分も信じないだろうと考えて借用書を確認する。
特に内容に問題無いのでサインをした。
これで前ギルドマスターの件は終わりになるとレンドは考えて、次の交渉を始めようとした。
しかし、先にハロルドが話し始める。
「前ギルドマスターの件は支払いをしてくれれば終わりじゃ。しかし、それ以前のギルドマスターや冒険者ギルドの仕出かしたことも話し合いたいのぉ」
レンドはもしかしたらと思っていたが、これほどストレートに言われるとは思わなかった。レンドとしては惚けるしか方法はない。
「それは何の事でしょう? そのような事はグランドマスターから聞いていませんが?」
「ほう、まさか惚けるつもりか?」
ハロルドの顔から完全に笑顔がなくなったのを見て、レンドは間違いなく冒険者ギルドのやってきたことをそれなりに知っていると思った。
しかし、認める訳にはいかないし、どの程度知られたのか調べるようにグランドマスターから依頼されていた。
「申し訳ありませんが、本当に何のことかわかりません」
レンドは頭を下げながら謝罪する。
頭を上げるとハロルドがセバスから何かを受け取っていた。あれは門で受けた審査の魔道具に似ているが、少しだけ形が違うと考えていた。
「悪いがこれに手を置いて答えてくれるか? 冒険者ギルドを完全に信用できない。この魔道具で真偽を確認できるのじゃ」
「………」
レンドはそんな魔道具は聞いたことがなかった。
しかし、カヌムの所属や裏ギルドの職員を見破った審査の魔道具も、見たことも聞いたこともなかったが、あの魔道具は間違いなく鑑定をしていたと信じられたのだ。
その魔道具に近いものを出されては、信じるしか今はできなかった。
「ハロルド様、私としては前ギルドマスターの件以外をもし知っていたとしても、私の立場では認めることはできませんし、認めたとしても私に何ができましょう。その件は王都のグランドマスターに対応して頂くしかありません!」
レンドはほとんど認めたような発言だと自分でも理解している。しかし、明確に認めることも、それを償う事もできないとハロルドに理解してもらいたかった。
ハロルドは話を聞いて、また考え込んでしまった。
実はセバスから受け取った魔道具は、審査の魔道具と同じもので、真偽を確認などできない。しかし、ハロルド達は口を割らせるために嘘の話をしたのである。
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