スマートシステムで異世界革命

小川悟

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第5章 公的ギルド

第15話 差別と不正

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レンド達がギルドの受付に到着すると、女性冒険者が大きな声で受付に抗議していた。

「この依頼書の金額が正しいと言っているだろ!」

「何事です!」

レンドが大きな声で女性冒険者を怒鳴りつける。

女性冒険者は1人ではなく10人以上が受付付近に固まっていた。レンドは彼女たちが王都から護衛として雇った冒険者であることに気が付いた。

抗議していたのはC級冒険者のルーナで、一緒に居るのは彼女のパーティーといつも一緒に行動している女性冒険者で、半分以上が獣人であった。

レンドは王都からの移動で護衛を雇おうとしたが、あまりにも急すぎる話と辺境までの護衛ということで、質の悪い冒険者しか希望者がいなかった。

今回は質の悪い冒険者を連れて行けないため、そういった冒険者を排除すると護衛が雇えなくて困っていた。

そんな時に彼女らが依頼を受けたのである。

ルーナの実力はB級以上、それもA級といっても問題ない実力であった。
しかし、王都では女性冒険者や獣人の冒険者は、正当に評価されることはない。その為に実力があろうと、彼女はC級より上がることはなかった。

「依頼書の金額とギルドの記録と金額が違うと言われたんだよ! 私はアンタと直接話して値下げも受け入れたじゃないか。それなのにギルドの記録と違うとはどういうことだ!」

レンドは女性や獣人が冒険者をしていることを実は嫌っていた。しかし、彼女たちは実力もあるので雇うことにしたのだ。

しかし、王都では彼女たちは露骨に差別されていた。
他の冒険者は1日金貨3枚で食事と宿の提供が条件だったが、彼女たちには1日金貨2枚で、食事や宿は自分持ちにすることを条件で雇ったのである。

「これは……、これはギルド側の間違いでしょう。1日銀貨2枚で食事や宿も本人負担などあり得ません!」

ランベルトがギルドの記録を見て驚いている。

「間違いじゃない! そんなクズ共にギルドが大金を払うもんか!」

ゼヘトがランベルトを怒鳴りつける。
レンドはそれを見て、またゼヘトがしたと気が付いた。彼女たちと話し合った後、ゼヘトに手続きを頼んでいたからだ。

レンドもやり過ぎだと思ったが、女性や獣人が相手なので、この場ではゼヘトを追求せず、後で追及することにする。

「とりあえずその金額で受け取っておけ。調査して手違いがあれば修正する」

「なっ、なんだと!」

レンドは彼女たちが、いつも通り引き下がるだろうと軽く考えていた。しかし、彼女たちの表情を見てその判断は間違っていたと気付く。

そして、それは彼女だけではなかった。

「本当にそのような事をエルマイスター領でするのですか!?」

ランベルトの顔は怒りで震えていた。レンドはさすがに不味いと思ったが、その前にゼヘトがランベルトを怒鳴りつける。

「お前は口を出すな! これが冒険者ギルドの方針だ!」

「そうですか。冒険者ギルドはそこまで腐ってしまったのですね……」

ランベルトは悲しそうに呟いた。

「キサマァーーー! ギルドを馬鹿にしたなぁ!」

ゼヘトは興奮して武器を手にした。それを見て女性冒険者たちも武器を手にする。

「待て!待て! 武器を下ろせ!」

レンドは焦って女性冒険者を止める。

「大丈夫です。武器を下ろしてください」

不思議な事にランベルトが女性冒険者を止めた。

「ゼヘト、いい加減にしろ! ここで騒ぎを起こしたら兵士が来るぞ!」

レンドはそれが不味いと思ったし、ゼヘトも言われてすぐに門での事を思い出したのか、焦って入口の方を見た。

「あなた達はそれを持って領主様の所に行きなさい。ここの領主様なら冒険者ギルドの不正を証明してくれます」

ランベルトが女性冒険者に予想外の提案をする。

これにはレンドが焦り出す。
これはどう見ても明らかに冒険者ギルドのミスなのは間違いない。それに自分も関わっているのだ。

「貴様はギルドを裏切るのか!」

ゼヘトがランベルトに詰め寄って行く。

「裏切る? これほど明確な不正が目の前で起きていて、それを見逃せと言うのですか? それを裏切りと言うのなら私は裏切りますよ!」

ランベルトの堂々とした宣言に、ゼヘトは顔を真っ赤にして激怒して、また武器を手にした。

「やめてぇーーー! そんな事したらまた兵士たちが来るのよぉ! また目の前で首を刎ねられるのは見たくない!!!
こんな不正、領主様は絶対に許さないわ! そうよ、あなた達が不正をして、また兵士が乗り込んできて、あんたは何度も何度も殴られるのよ。そしてポーションで治して、また何度も何度も、もういやぁぁぁ!」

受付をしていた女性が半狂乱になり叫び出した。それを聞いてゼヘトだけでなくレンドや他の冒険者たちも顔色を変える。

「私は前のギルドマスターに不正をやめるように何度も忠告しました。その結果は報告書で出していますよね。また同じことをするのですか?」

ランベルトが冷たく言い放つ。

「ギルドマスターさん、悪いけどこれほど露骨な不正に、俺達も関与したくねぇぞ」

なんとA級冒険者のアジスたちまで冷たく言われてしまう。

「待ってくれ! 不正を見逃したわけではない。しっかり調査してからと私は言っただけだ!」

レンドは必死に言い訳をする。

「それなら、まずは依頼書通りに支払うべきではありませんか?」

ランベルトが痛い所を突いてくる。

「もう良いよ。調査と言ってうやむやにする気なんだよ。だいたいギルマスが依頼料を値切って金額を決めたんだよ。ギルマス本人が関与している可能性が高いんだ。ここの領主様ならしっかりと調査してくれそうだね」

女性冒険者がそう言うとギルドを出て行こうとする。

「イヤァーーー! 私も出て行くぅーーー!」

受付の女性が必死に受付を這い上がり、ギルドから逃げ出そうとする。

それを見てレンドも覚悟を決める。

「済まなかった! 許してくれ!」

レンドは女性冒険者に頭を下げる。ギルドマスターのプライドなど関係なかった。

女性冒険者も少し驚いた顔をしたが、それでも冷たく言い放つ。

「もう誤魔化されないさ。あんた達が兵士たちにされることを見て楽しんでやるさ!」

「そうか……、ゼヘト、私はお前に手続きをするように頼んだはずだ。この依頼書は私が彼女と話した内容だ。まさか、サブマスターのお前が不正関与しているとは信じたくなかった」

レンドはゼヘトにすべての責任を押し付けるしか騒動を収めることができないと決断したのだ。

「冒険者ギルドの大失態にもなるし、王都のギルドにも迷惑が掛かる。だから、目立たないように処罰しようと思ったが、それは無理のようだ」

「ま、待ってくれ。ちょっとした手違いで、」

「お前は今日だけで、どれほどの手違いをしてきた。全員が迷惑を受けているぞ」

「だけど、」

「サブマスターの地位を解任して、調査が終わるまで拘束する。アジス、抵抗するようなら殺しても構わん!」

「なっ!」

アジスたちが武器を手にしてゼヘトを囲む。
ゼヘトはこれまでのやり方が、ここでは全く通用しない事にようやく気付き、逃げられないと悟って武器を捨て、拘束されるのを受け入れた。

「頼む! しっかりと調査する。依頼書通りに報酬も払う。だから冒険者ギルド内で事を収めてくれ!」

レンドは女性や獣人に頭を下げている自分が情けなかった。

「断るよ! 前に私の仲間が強姦されて殺された時も、ギルド職員は同じことを言って犯人の冒険者を拘束した。でも、数日後にはそいつは解放されていたのさ。誰があんた達を信頼するもんか!」

レンドは拳を握りしめ、怒りを抑えて対応を考える。

(この俺がお前達に頭を下げているんだぞ! くそっ、しかし何とかしないと!?)

「犯人は確定しているようなので、詳細な調査と処罰をする契約をギルドマスターとしてください。そしてギルドマスターは冒険者ギルドの不正を認める書類も書いてください。
その上で、今回の報酬は他の冒険者は金貨3枚ですが、経費を含めて金貨4枚を彼女たちの報酬として、賠償金としてさらに金貨4枚を払う。だから1日金貨8枚をギルドから払う事にする。
その代わり契約を守られている限り、今回の件をギルド外部に話さないでください」

ランベルトが破格の条件を出したが、レンドは悪くないと思った。
ゼヘトの処罰はするつもりだったし、現状ではこの件にエルマイスター家に介入されなければ問題ない。

予想以上の良い提案に、女性冒険者たちも迷っている。しかし、ルーナは興奮しているのか納得していない表情であった。

「待ってくれ。1日金貨10枚出す。今回は私の中途半端な判断で迷惑を掛けた。それぐらいは出させてくれ」

これには女性冒険者から喜びの声が上がる。今回は15日間の護衛になるから一人当たり金貨150枚も払われるのだ。

他の女性冒険者が喜んだので、ルーナも妥協するしかなかった。

「わかった。でも、契約書はアンタが作ってくれ」

何とかこの場で全てが終わってホッとするレンドだった。
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