スマートシステムで異世界革命

小川悟

文字の大きさ
上 下
112 / 224
第5章 公的ギルド

第13話 想定外の状況

しおりを挟む
「ぜ、全員武器を捨てろ! 絶対に逆らうんじゃない!」

レンドは駆け引きどころではないと考え、まずはエルマイスター家と事を構えないようにしようとする。

「お待ちください、私達の間違いでした。すべて指示に従いますので穏便にお願いします!」

レンドは騎士に向かって頭を下げる。冒険者たちも慌てたように武器を放り出した。

「おいおい、なんか勘違いしていないか? 我が領の兵士は丁寧な対応したのに、難癖を付けてきたのはそちらだろう?」

「も、申し訳ありません!」

レンドには謝罪するしかできなかった。
この騎士とやり合うより、グランドマスターから聞いた、丸くなったと言われるエルマイスター家の領主であるハロルドと話し合おうと思ったのである。

「それで、そいつは未だに武器を捨てていないが、覚悟はできているんだな?」

信じられない展開に、武器を捨てることも忘れていたゼヘトは、言われてから自分が武器を持ったまま立っていたことに気付いて、慌てて武器を放り出す。

「ゼヘト、あれほどグランドマスターからエルマイスター家と関係改善に努めろと言われたのに、お前は何をやっているんだ!」

「す、すまない……」

すでにゼヘトは真っ青な顔になり震えていた。

レンドもゼヘトを庇うことなど考えていなかった。それどころかすべてをゼヘトの責任としてエルマイスター家に突き出しても構わないとさえ思っていた。

他のギルド職員や冒険者も問題を起こしたゼヘトに非難めいた顔を向けていた。

緊迫した雰囲気にギルド職員の子供で12歳ぐらいの少女が泣き始める。

「ちょうどあのくらいの少女を冒険者が剣で切ったんだよ。それも私と領主のハロルド様の目の前でな!」

それを聞いて冒険者ギルド一行の全員が驚いた。
冒険者とギルド職員はそんな話は聞いていなかった。ただ、前任のギルドマスター達が問題を起こして解任されたとしか聞いていなかったのだ。

レンドとゼヘトも報告は受けていたが書類で読んだだけであり、グランドマスターからは少しでも相手の弱みを見付けて穏便に済ませろと命令されていたのである。

報告書で領主や騎士団長、それに数名の兵士の目前で起きた事件だと書かれていた。

「本当に申し訳ありません。冒険者ギルドでも確認して被害のあった少女にもしっかりと賠償させて頂きます!」

報告には被害にあったのは孤児院の少女で、ポーションによる治療で助かったと書かれていた。レンドは調査という言葉は危険だと感じて、確認という表現で話した。

「それだけじゃないぞ! ギルドマスターが王都から連れてきた冒険者たちは、我が領で暴行や脅迫をしていた。先日もダンジョン内で、女性騎士を襲って返り討ちにあったばかりだ!」

信じられない話に、一行はうな垂れるしかなかった。

レンドも女性騎士を襲った話は初めて聞いた。
そして、信頼回復など非常に難しいと思った。そして、この状況でゼヘトのとった行動は最悪と言えるものだった。

(あそこでゼヘトは送り返すべきだった!)

「これが最後の忠告だ! 冒険者ギルドであろうと、領の方針には従ってもらう!」

「了解しました。全員兵士の指示に従って審査を受けて下さい!」

冒険者もギルド職員も頷いている。

「早速あんた達から審査を受けてくれ」

「わかりました。その前に騎士様のお名前を聞いて宜しいでしょうか?」

レンドはこの騎士は危険だと判断して、今後は他の者にも警戒するように指示するために名前を尋ねた。

「私はエルマイスター領の騎士団長でアランだ」

もしかして騎士団長ではないかとレンドは考えていた。最悪の相手と交渉しようとしたようだ。

グランドマスターからは領主のハロルドより、騎士団長のアランのほうが危険だと忠告されていたのである。

領主のハロルドは、将軍を辞めてから大人しくなったと、王都では言われていた。その代わりに、ハロルドの副官として一緒に戦争にも参加していたアランは、一番危険だと思われていたのである。報告書にも冒険者の首を刎ねたと書かれていた。

「それは失礼しました。騎士団長のアラン様と知らずに無礼な事を言ってしまいました。これから注意しますので、よろしくお願いします」

しかし、アランからは返事もしてもらえなかった。代わりに変な道具を指差してアランは命令する。

「この魔道具に手を置け」

見たことのない魔道具にレンドは手を置くのを躊躇して質問する。

「す、すみません。こんな魔道具は見たことがありません。これはどんな魔道具なんでしょうか?」

もしかして叱られるかと思ったが、アランは笑顔で答えてくれる。

「嘘を確認する魔道具だよ。犯罪をしていればすぐに分かるぞ。フハハハ!」

そんな魔道具があると聞いたことはない。アランの笑いから冗談を言っている可能性も考える。

「そんな魔道具は聞いたことがありません。本当なら私にも確認をさせて頂けないでしょうか?」

「ダメだ! エルマイスター家の極秘事項だ。それより早く手を置け」

これ以上はまたトラブルになると思い、素直に魔道具に手を置く。

「ふむ、本当にギルドマスターなんだな……、犯罪の称号は無いようだな…」

アランは魔道具ではなく、その上の何もない空間を見ながら呟いていた。

(本当に? 犯罪の称号!?)

レンドはアランの呟きを聞いて驚く。

(鑑定の魔法と同じなのか!?)

レンドは資料で鑑定の魔法を極めると、犯罪などの称号が確認できると聞いたことがあった。しかし、それを確認できるような魔道具が存在するなど、聞いたこともなかった。

感心していたが、すぐにゼヘトが魔道具に手を置くのを見て不安に駆られる。

(ゼヘトは大丈夫なのか!?)

しかし、アランは少し残念そうな表情をして呟いた。

「てっきり犯罪歴があるかと思ったけどなぁ……」

レンドはその呟きを聞いてホッとする。

しかし、次々と魔道具に手を置くギルド職員を見るたびに不安になる。
今回はエルマイスター家との関係を改善することを優先したために、真面目なギルド職員を連れてきていた。結果的に最良の選択だったとホッとする。

しかし、最後のギルド職員を見て動揺する。彼は裏ギルド職員と呼ばれる内密の調査や非合法活動する職員である。
グランドマスターから今回の調査の為に派遣されてきたのである。

ゼヘトにすら彼のことは知らせていない。

彼は表情を変えることなく魔道具に手を置いた。

「ほう、本当に冒険者ギルドに彼のような存在が居るのだな」

アランは楽しそうに微笑みながら彼を見つめて話した。

レンドはアランが話した時に、彼も一瞬頬が引きつったように見えた。

「町に入る許可は出すが、余計なことして捕まるようなことはするなよ」

(あの魔道具は鑑定の魔道具と同じ!?)

しかし、レンドは鑑定の魔法で嘘が分かるなんて聞いたことがなかった。そして所属先まで分かるのは信じられなかった。

そして最終的に冒険者の中で3人が奥に連れて行かれてしまった。

レンドがアランに質問する。

「あの3人はどうなるのでしょうか?」

「あいつらは殺人の称号持ちだ。尋問することになるが解放されることはないだろう。それに2人は彼の関係者みたいだな」

アランは裏ギルド職員を指差して話す。
レンドは自分が知らない裏ギルド職員が居ることに驚いていた。そしてアランが自分の様子を窺って反応を見ていたことに気付く。

(もしかして非常に危うい状況なのでは!?)

殺人を犯したのが裏ギルド職員だとすると、ギルドマスターであるレンドは、自分も拘束されるのではないかと不安になる。

しかし、アランはそれ以上追及せずにレンド達を通した。

エルマイスター領の冒険者ギルドでギルドマスターをすることの大変さと、グランドマスターから依頼された任務の難しさを感じながら、レンド達は冒険者ギルドへ向かうのだった。
しおりを挟む

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ 

★☆ 書籍化したこちらもヨロシク! ☆★

★☆★☆★☆ 『転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。』 ☆★☆★☆★

▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 



ツギクルバナー
感想 154

あなたにおすすめの小説

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...