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第3章 大賢者の遺産
閑話5 女執事エマ
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【エマ視点】
私はエルマイスター家でメイドをしていた。
お爺様は私にとって伝説と言って良いほどの執事で、幼いころからあこがれていた。
私も必死にお爺様に学び、執事になる事を夢見ていた。
しかし、女執事などエルマイスター家にとってデメリットが多いと、成人した日にハッキリとお爺様に言われてしまう。
それでも私は諦めきれずに、女の幸せをすべて捨てて努力してきた。
弟は王都のエルマイスター家で執事をする父に学ぶために、成人するとすぐに旅立っていった。
私はエルマイスター家でメイドをしながら、執事になる夢を忘れられないでいる。
メイドとしては、新しく来た子に半年もすれば追い抜かれてしまうが、お爺様に執事の裏方の仕事を任されていたので満足だった。
お爺様は、ことある度に私が男だったらと言って下さる。
それは能力を認められたことになるので嬉しいが、女だと言う理由だけで夢がかなえられないと言われているみたいで悲しくもあった。
◇ ◇ ◇ ◇
悶々とする日々を送っていたある日の事、お爺様が素晴らしい人材が見つかったと喜んでいた。
それからは驚く事が次々に私の目の前に起き始める。
想像もしていなかった生活魔法の使い方。
帳簿をある程度任されていたが、予想外の出費と高品質のポーションの入荷。
問題となっていた大賢者屋敷付近の問題解決。
全てが最近この領に来た一人の男の人が係わっていたのだ。
そして暫く経ったある日の事、お爺様に呼び出された。
「エマ、お前はまだ執事になりたいのかい?」
「はい、おじい、セバス様」
職場ではお爺様と呼んで何度も叱られたのだったわ。
「だが、お前が生きている間にエルマイスター家で執事になる事は出来ないよ」
成人した日に言われた事と、同じ事をまた言われてしまう。
あぁ、私はメイドとしては役立たずだから、追い出せるのね……。
夢が叶うまで泣かないと決めていたのに、我慢しようとしても目に涙が溜まっていく。
そんな私をお爺様は優しい笑顔で見つめながら話を続ける。
「他の家の執事にならないかい?」
それはエルマイスター家から追い出すという事だろうか?
どこかの貴族に執事と言う名の妾でもなれと言うのだろうか?
「それは、エルマイスター家を出て行けという事でしょうか?」
あぁ、ついに涙が……!?
頬を伝う涙を感じながら、神様はどんなに努力しても夢は叶わないと言っている気がした。
「違いますよ。確かに執事になれば、エルマイスター家を出て行くことになりますが、エマが望むなら今と同じように私の手伝いをして頂きます。
でも、それは一生執事になれない可能性が高い事を覚悟してください!」
それはどちらにしても執事になれないと言っているのですね!?
妾にされても執事として仕事をさせてくれるのなら、まだ我慢できるかもしれない。
でも……、そんなことあるはずがない!
溢れ出る涙を抑えることなど出来ない。両頬に涙が次々流れていくのが感じられる。
「何か誤解しているようなので説明しますが、エマには大賢者の屋敷に住むアタル様の執事になって欲しいのです。帳簿を見ているあなたなら、アタル様が稀有な存在であることは気が付いていると思いますが、その能力を発揮して頂くためにも、エマに執事として働いて欲しいのです」
驚いて涙が止まる。しかし、それはエルマイスター家の為に自分を売れと言うのだろうか?
「それは妾になり、エルマイスター家の為にアタル様を上手く操作せよという事でしょうか?」
「はっははは、エマはそんな風に考えたのですか。クックッ、私の孫であり執事の才能もあるエマですが、女性としてアタル様を攻略することは難しいでしょうなぁ」
思わず自分の慎ましい胸を思い出して、恥ずかしくなり顔が熱くなるのが分かる。
そんな私を見て、お爺様は慌てたように説明してくれる。
「いやいや、祖父の私から見てもエマは十分に魅力的な女性ですよ。ですが、アタル様はラナとクレア様を同時に娶ることになっているのですよ。
年齢的には少し……、しかし二人が魅力的な女性だとあなたも知っているのではありませんか?」
確かにクレア様はいつも颯爽としていて、なぜ未だに結婚していないのが不思議なくらい魅力的な女性だ。
ラナさんは私にも優しい先輩で、エルマイスター家で働き出してから、本当にお世話になった素敵な女性だ。
二人とも私と違って胸も……。
でも、なぜ私なの!?
お爺様は私の表情を見ながら、少し意地悪そうに笑っている。
「エマ、私はお前の執事としての才能は、息子やお前の弟より高い思っているんだよ。でも、女性と言うだけでお前の能力は正当には評価されないだろう。
でも、アタル様であれば、性別とは関係なく能力で評価して頂ける、私はそう考えているんだ」
本当にそんな事があり得るのだろうか?
「お前が執事として生きて行きたいなら、これほどの機会は今後もないと思う。そして、お前なら自信を持って執事として紹介できる!」
お爺様の顔から笑顔が消え、真剣な表情に変わっていた。
本当に、本当に、そんな事があり得るのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇
あれ程の女性を二人も娶るのなら、さすがに私を妾にする可能性は低いと思い、執事になる事を決心した。
仕える相手が貴族でないなら、本当に執事として働けるのではないかと期待したのだ。
事前にラナさん、ラナ様にお会いして驚いた。驚くほど美しくなられていた。
執事なので後は家の主人であるアタル様の了承を頂かなければならない。
急遽話が進んでいたので、時間的にも足りなく、アタル様の挨拶は結婚の食事会の前になってしまった。
お爺様からアタル様にお願いして頂くと、アタル様はお爺様、セバス様ともやり合う事になると、私に質問してきた。
憧れのおじ、セバス様とやり合うと言われて、逆に夢が広がったようで嬉しくなる。
私はこの家の執事として、憧れていたセバス様と対等に話が出来るんだ!
私がハッキリと答えると、アタル様は私を採用してくれたのだった。
その後すぐに、レベッカ夫人がアタル様に抱き着く事件があった。
セバス様の教え通り、殿方がお悦びになるように少し間を開けて対処したのだけど、抱きつかれた時は嬉しそうにされていたアタル様が、何故かその後に私を睨んできた。
引き離すのが早すぎたのかしら?
戸惑ってセバス様を見ると、セバス様も戸惑った表情をされている。
アタル様は他の殿方と少し違うのかな?
少し手違いがあったのかもしれないが、初日から執事としての職務に励んだのである。
レベッカ夫人の主導で行われた結婚の誓いを見た時、少し、少しだけ女性として生きてみたいと思ってしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日の朝にアタル様は目を充血させて普通に朝食にいらした。
レベッカ様の冗談にも苦笑いしながら答えている。
朝食が終わるとレベッカ様とアリスお嬢様、応援に来ていたメイド達を追い出すように帰らせると、午後から私達に話があると言われる。
昼食後に私とメイド二人、料理人二人とメアベル様が会議室のような部屋で待っているとアタル様と奥様達がやって来た。
「すまないね。これから一緒に過ごしていく事になる皆さんと、役割や規則なども決めたいし、仕事に必要な魔道具を渡したくてね」
アタル様はそう話すと、私とメアベルさんに魔道具を渡して下さり、ラナ様がメイドと料理人に魔道具を渡した。
アタル様はきちんと役割とかを考えて、アタル様とラナ様で相手を考えて別々に渡されたようだ。
アタル様は想像以上に頭が良い!?
感心していると、アタル様が続けて話を始めた。
話は聞いて、驚きの連続だった。
な、なによ、この腕輪は伝説的な魔道具じゃない! もしかして大賢者の遺産なの!?
人を増やして休みを設ける!?
見習い制度って何よ!?
う、嘘でしょ! この屋敷は要塞と同じじゃないのぉ!?
人数が少なくとも魔道具でもしかして楽なのぉ!?
し、仕事はやり易そうだけど……、常識が違い過ぎる!
それから数日は毎日使用人で集まり、仕事の仕方について話し合う。
私はこれまでの自分の常識が崩れていくのを感じたが、ワクワクする気持ちが抑えられなかった。
アタル様に一生仕えようと、決心を固めるのだった。
私はエルマイスター家でメイドをしていた。
お爺様は私にとって伝説と言って良いほどの執事で、幼いころからあこがれていた。
私も必死にお爺様に学び、執事になる事を夢見ていた。
しかし、女執事などエルマイスター家にとってデメリットが多いと、成人した日にハッキリとお爺様に言われてしまう。
それでも私は諦めきれずに、女の幸せをすべて捨てて努力してきた。
弟は王都のエルマイスター家で執事をする父に学ぶために、成人するとすぐに旅立っていった。
私はエルマイスター家でメイドをしながら、執事になる夢を忘れられないでいる。
メイドとしては、新しく来た子に半年もすれば追い抜かれてしまうが、お爺様に執事の裏方の仕事を任されていたので満足だった。
お爺様は、ことある度に私が男だったらと言って下さる。
それは能力を認められたことになるので嬉しいが、女だと言う理由だけで夢がかなえられないと言われているみたいで悲しくもあった。
◇ ◇ ◇ ◇
悶々とする日々を送っていたある日の事、お爺様が素晴らしい人材が見つかったと喜んでいた。
それからは驚く事が次々に私の目の前に起き始める。
想像もしていなかった生活魔法の使い方。
帳簿をある程度任されていたが、予想外の出費と高品質のポーションの入荷。
問題となっていた大賢者屋敷付近の問題解決。
全てが最近この領に来た一人の男の人が係わっていたのだ。
そして暫く経ったある日の事、お爺様に呼び出された。
「エマ、お前はまだ執事になりたいのかい?」
「はい、おじい、セバス様」
職場ではお爺様と呼んで何度も叱られたのだったわ。
「だが、お前が生きている間にエルマイスター家で執事になる事は出来ないよ」
成人した日に言われた事と、同じ事をまた言われてしまう。
あぁ、私はメイドとしては役立たずだから、追い出せるのね……。
夢が叶うまで泣かないと決めていたのに、我慢しようとしても目に涙が溜まっていく。
そんな私をお爺様は優しい笑顔で見つめながら話を続ける。
「他の家の執事にならないかい?」
それはエルマイスター家から追い出すという事だろうか?
どこかの貴族に執事と言う名の妾でもなれと言うのだろうか?
「それは、エルマイスター家を出て行けという事でしょうか?」
あぁ、ついに涙が……!?
頬を伝う涙を感じながら、神様はどんなに努力しても夢は叶わないと言っている気がした。
「違いますよ。確かに執事になれば、エルマイスター家を出て行くことになりますが、エマが望むなら今と同じように私の手伝いをして頂きます。
でも、それは一生執事になれない可能性が高い事を覚悟してください!」
それはどちらにしても執事になれないと言っているのですね!?
妾にされても執事として仕事をさせてくれるのなら、まだ我慢できるかもしれない。
でも……、そんなことあるはずがない!
溢れ出る涙を抑えることなど出来ない。両頬に涙が次々流れていくのが感じられる。
「何か誤解しているようなので説明しますが、エマには大賢者の屋敷に住むアタル様の執事になって欲しいのです。帳簿を見ているあなたなら、アタル様が稀有な存在であることは気が付いていると思いますが、その能力を発揮して頂くためにも、エマに執事として働いて欲しいのです」
驚いて涙が止まる。しかし、それはエルマイスター家の為に自分を売れと言うのだろうか?
「それは妾になり、エルマイスター家の為にアタル様を上手く操作せよという事でしょうか?」
「はっははは、エマはそんな風に考えたのですか。クックッ、私の孫であり執事の才能もあるエマですが、女性としてアタル様を攻略することは難しいでしょうなぁ」
思わず自分の慎ましい胸を思い出して、恥ずかしくなり顔が熱くなるのが分かる。
そんな私を見て、お爺様は慌てたように説明してくれる。
「いやいや、祖父の私から見てもエマは十分に魅力的な女性ですよ。ですが、アタル様はラナとクレア様を同時に娶ることになっているのですよ。
年齢的には少し……、しかし二人が魅力的な女性だとあなたも知っているのではありませんか?」
確かにクレア様はいつも颯爽としていて、なぜ未だに結婚していないのが不思議なくらい魅力的な女性だ。
ラナさんは私にも優しい先輩で、エルマイスター家で働き出してから、本当にお世話になった素敵な女性だ。
二人とも私と違って胸も……。
でも、なぜ私なの!?
お爺様は私の表情を見ながら、少し意地悪そうに笑っている。
「エマ、私はお前の執事としての才能は、息子やお前の弟より高い思っているんだよ。でも、女性と言うだけでお前の能力は正当には評価されないだろう。
でも、アタル様であれば、性別とは関係なく能力で評価して頂ける、私はそう考えているんだ」
本当にそんな事があり得るのだろうか?
「お前が執事として生きて行きたいなら、これほどの機会は今後もないと思う。そして、お前なら自信を持って執事として紹介できる!」
お爺様の顔から笑顔が消え、真剣な表情に変わっていた。
本当に、本当に、そんな事があり得るのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇
あれ程の女性を二人も娶るのなら、さすがに私を妾にする可能性は低いと思い、執事になる事を決心した。
仕える相手が貴族でないなら、本当に執事として働けるのではないかと期待したのだ。
事前にラナさん、ラナ様にお会いして驚いた。驚くほど美しくなられていた。
執事なので後は家の主人であるアタル様の了承を頂かなければならない。
急遽話が進んでいたので、時間的にも足りなく、アタル様の挨拶は結婚の食事会の前になってしまった。
お爺様からアタル様にお願いして頂くと、アタル様はお爺様、セバス様ともやり合う事になると、私に質問してきた。
憧れのおじ、セバス様とやり合うと言われて、逆に夢が広がったようで嬉しくなる。
私はこの家の執事として、憧れていたセバス様と対等に話が出来るんだ!
私がハッキリと答えると、アタル様は私を採用してくれたのだった。
その後すぐに、レベッカ夫人がアタル様に抱き着く事件があった。
セバス様の教え通り、殿方がお悦びになるように少し間を開けて対処したのだけど、抱きつかれた時は嬉しそうにされていたアタル様が、何故かその後に私を睨んできた。
引き離すのが早すぎたのかしら?
戸惑ってセバス様を見ると、セバス様も戸惑った表情をされている。
アタル様は他の殿方と少し違うのかな?
少し手違いがあったのかもしれないが、初日から執事としての職務に励んだのである。
レベッカ夫人の主導で行われた結婚の誓いを見た時、少し、少しだけ女性として生きてみたいと思ってしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日の朝にアタル様は目を充血させて普通に朝食にいらした。
レベッカ様の冗談にも苦笑いしながら答えている。
朝食が終わるとレベッカ様とアリスお嬢様、応援に来ていたメイド達を追い出すように帰らせると、午後から私達に話があると言われる。
昼食後に私とメイド二人、料理人二人とメアベル様が会議室のような部屋で待っているとアタル様と奥様達がやって来た。
「すまないね。これから一緒に過ごしていく事になる皆さんと、役割や規則なども決めたいし、仕事に必要な魔道具を渡したくてね」
アタル様はそう話すと、私とメアベルさんに魔道具を渡して下さり、ラナ様がメイドと料理人に魔道具を渡した。
アタル様はきちんと役割とかを考えて、アタル様とラナ様で相手を考えて別々に渡されたようだ。
アタル様は想像以上に頭が良い!?
感心していると、アタル様が続けて話を始めた。
話は聞いて、驚きの連続だった。
な、なによ、この腕輪は伝説的な魔道具じゃない! もしかして大賢者の遺産なの!?
人を増やして休みを設ける!?
見習い制度って何よ!?
う、嘘でしょ! この屋敷は要塞と同じじゃないのぉ!?
人数が少なくとも魔道具でもしかして楽なのぉ!?
し、仕事はやり易そうだけど……、常識が違い過ぎる!
それから数日は毎日使用人で集まり、仕事の仕方について話し合う。
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