スマートシステムで異世界革命

小川悟

文字の大きさ
上 下
58 / 224
第3章 大賢者の遺産

第26話 謀 略①

しおりを挟む
アランさんとサバルが落ち込んで部屋を出て行くと、レベッカ夫人は質問してきた。

「アタルさん、あの土地はアタルさんに所有権があるし、建物や設備の大半はアタルさんが作っているのだから、ハッキリと拒絶しても良かったんじゃないかしら?」

確かにその通りなんだが、神様に情報を貰って原因はすぐに分かって、問題の解決も住む場所の確保のついでにしているだけである。

その報酬としてあの区画を全部貰うのが申し訳ないと思う気持ちがある。

確かにある意味、神からの賠償だとすると考えると妥当だと考えられなくも無いが、大賢者の屋敷には想像以上に資産価値のある物や、物造りで必要だが手に入れるのが難しい物も沢山あった。

それらを還元しながら、孤児院やクレアさん達の不満を解消できればと考えただけで、深く考えたのは先程彼らに問い詰められたからである。

「まあ、私は貰い過ぎだと思って、領に還元できればと思っていましたので、それを言えば角が立つかと思いましたし、……騎士団や兵士の人に、私に所有権が有ると伝えて良かったんですかね?」

「あぁ~、ダメよ。そんな事しちゃダメなのよ~」

レベッカ夫人が頭を抱えて独り言のように呟くが、なぜかエロく聞こえてしまう。

「その事は後でアタルさんと話をしようと、お義父様と話していたのに……」

レベッカ夫人の独り言が止まらない。

レベッカ夫人は何をしていても色っぽいなぁ~。

そんな事を思いながら考え込んでるレベッカ夫人を眺めていたら、突然彼女は顔を上げて言う。

「アタルさんごめんなさい。私は少し用事が出来たので出かけてきます」

そう言いながら立ち上がると、振り返らずに部屋を出て行ってしまった。

突然の事で驚いたが、レベッカ夫人らしいと思うのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


アランはアタルの話を聞いて、自分達がどんなに自分勝手な思いでいたのか思い知らされた。

そして、自分の息子が嘘までついたことに怒り、悲しんでいた。

エルマイスター家の屋敷からサバルと戻りながら、息子の行いがいつもの戒めでは済ませられないと考えていた。

中央の建物に着くと、兵舎ではなく役所の中にあるハロルド様の執務室に直接向かう。
すれ違う人々が、サバルの様子を見て驚いた表情をしていたが、気にしている余裕などアランにはなかった。

執務室の扉をアランがノックするとハロルドの返事があり、扉を開けて中に入る。

ハロルドはサバルの様子を見て、書類を見ながら話していた者たちに声を掛ける。

「すまぬ急用のようじゃ。引き続き書類の調査をしてくれ」

「はい」

ハロルドにそう言われ、文官たちが振り返るとサバルを見て唾を飲み込み、アランに軽く会釈すると文官は部屋を出て行く。

文官が部屋を出て扉が閉まるのを確認するとアランは謝罪する。

「お忙しい所を申し訳ありません」

「構わん。ちょうど休憩しようと思っていたところじゃ」

そう言いながら、ハロルドはアタルから納品されたウォーターサーバーの所に行き、カップに『ミント健康ドリンク』を入れると一気に飲む。
それからもう一度カップに入れ、もう一つのカップに入れて戻ってくるとアランに片方を渡す。

「これを飲むと疲れが取れるから、調子に乗って仕事をすると後で大変じゃ。体の疲れは取れるが、頭の疲れは取れんようじゃからな」

アランは一礼するとカップの『ミント健康ドリンク』を飲み干す。
落ち込んだ気持ちに効果は無いはずだが、スッと体の疲れが取れると、何故か少し気持ちも少しだけ軽くなる。

「それで、後ろのサバルがそんな状態なのも含めて説明してくれるのじゃろ?」

ハロルドに問われ、アランは先程のアタルとの話し合いの状況の説明を始める。

途中でレベッカが合流して、説明の補足をしながら、あの区画の所有権については極秘だとアランとサバルに言った。

「これほど騎士団が腐っているとは信じたくないのぉ」

アランは騎士団長としてこれほどの屈辱は無かった。

「クレアからは毎日報告を貰っておるが、それこそ彼女たちは訓練どころか、ほとんどが孤児たちの護衛や昼飯の面倒ばかり見ていると報告されておる。
兵士なら魔力量が増やせるような訓練があるならしたくなるはずじゃ。目の前にそれがありながらも、アタルに止められて、彼女らは我慢しているというのに、恥ずかしい話じゃなぁ」

レベッカも頷いて質問する。

「彼女たちに辛く当たったりしていないわよね?」

アランは昨日サバルから報告を受けるまで、知らなかったので特に何かしたわけでは無い。

アランはサバルの方を見ると、サバルは俯いている。それを見て察してしまう。

「その様子だと何かしているようじゃのぅ」

「サバルどういうことだ!」

サバルはまた泣き出してしまったが、説明する。

「と、特に何かしたわけでは、……ただ、自分達だけとか、体を使ってとか、酷い事を兵士たちが……」

「彼女たちは否定しなかったの!?」

レベッカが怒った顔で問い質す。

「ひ、否定していましたが、嘘を言っていると皆が……」

サバルは驚くほど小さくなって説明する。

「ここまで腐ってしまうとは悲しいのぉ」

アランは握った拳から血が滴り落ちている。目が座り今にもサバルを切り殺しそうな表情をしている。

「申し訳ありません。私の監督不行き届きです。それに今回のデマの元は私の息子です。あいつは極刑にしたいと思います。その上で私も処罰を受けたいと思います」

アランの表情から、自らの手で息子を斬首するつもりなのは明白である。

「ふむう、………しかし、何か変じゃのぅ。サバル、クレア達だけ訓練していると言っていたのはアランの息子だけか?」

「いえ、アドルからも同じように聞いています」

「アドルだけか?」

「……アドルから聞いたときには、一緒にニュンヘルとギャンがまるで見て来たように話していました」

ハロルドは少し考えていると、アランが提案する。

「アドルも息子同様に極刑にしましょう。他の2名は尋問して処罰を決めましょう」

「アラン、結論を急ぐでない。それでは何が問題なのか分からぬではないか。どう考えてもアドルがそんな話をするのは変じゃ。あの場に居てアタルが作業の邪魔になるからと聞いていたはずなのに、なぜやつはそんな話をするのじゃ?」

「それは女性優先と聞いて、嫉妬してたのではないでしょうか?」

アランの返答にサバルも頷いている。

「そもそも女性優先と言う話は誰から聞いたのじゃ?」

アランもサバルも不思議そうな表情をする。

「私は息子からの聞き取りで、あの時にアタル殿が言ったのではありませんか?」

「そんな話は出ておらんわ。クレアからそう言った話がアタルからあったと報告を受けているが、他に話さないように言っておいたし、他のアタルの護衛している者たちもそんな事を話せば、自分達の立場が悪くなることは分かっておるはずじゃ」

これにはアランもサバルも驚いた顔になる。

「アタルさんの考えていた女性優先の事を知らずに、誰かが勝手に女性専用と言い出したことが、広まっていたという事ですか?」

レベッカがハロルドに質問する。

「そうなるのぉ~。アランの息子は魔力量が増やせる訓練だから、何とか兵士に訓練させようとして暴走したはずなのに、いつの間に女性専用だと言い出したのじゃ?」

ハロルドが質問すると、サバルが話に割込んで来る。

「ア、アドルと先程話したニュンヘルとギャンが、まるで聞いたかのように、そのように話していました!」

その答えを聞いてハロルドは話をする。

「これはアドル達とお主の息子に、しっかりと事情を聞いてみないとダメなようじゃな!」

その場にいる全員が、思っていた以上に何か裏があるのではと、考え始めるのだった。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...