スマートシステムで異世界革命

小川悟

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第3章 大賢者の遺産

第11話 女性優先?活用?

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ハロルド様とレベッカ夫人との話し合いが、問題なく終わり嬉しくて仕方がなかった。

バリバリの説教をされるのかと思ってたよぉ。

クレアさんと2人で待機所にニコニコと笑いながら向かう。

「アタル様、本当に騎士団の訓練施設を造られるのですか?」

「うん、造る予定だよ。それも女性が優先的に使える施設を造る予定だよ」

「えっ、女性が優先的に使える施設ですか?」

クレアさんが不思議そうに聞いてくる。
でも本当に女性優先の施設を造るのは前から考えていた。護衛の女性たちの話を聞いていて、なぜもっと女性を活用しないのか不思議に思っていたのである。

「男性が戦争や魔物の被害で減少しているのに、無理に男性を騎士団なんかの兵士にするのは変じゃないですか?」

クレアさんは驚いた顔で反論してくる。

「ですが、女性より男性のほうが戦闘に向いているので、当然ではないですか?」

う~ん、差別とかではなく、古くからの慣習や常識に縛られているのかなぁ?

「でも、クレアさんは男性相手でも、それなりに戦えますよね?」

「そ、それはそうですが、私は必死に訓練をしたから、」

「男性は必死に訓練していないのですか?」

クレアさんの話に被せるように質問する。

「そ、それは……」

さすがに反論しにくいかぁ。

「ステータスやスキル、レベルによりその人の能力を表しているのは間違いありませんよね?」

クレアさんは頷いて答える。

「ステータスやスキル、レベルは訓練で良くすることはできますが、適性でステータスの伸び方やスキルの取得に違いがあるのは知っていますか?」

「そ、それは、何となく違いがあるのは分かります。だからこそ女性は戦闘の適性が低いので仕方がないではありませんか!」

クレアさんも不満に思っているのか少し興奮して声が大きくなる。

「本当に女性は戦闘の適性が低いと思います?」

「えっ」

驚いた顔のクレアさんも悪くないなぁ。

いや、そうじゃない!

「確かに女性の力などは男性より最初は低いですが、戦闘に使えるスキルや魔法の適性が低いと思いますか?」

「………」

返事もできないほど驚いている。

「優秀な男性ほど先に亡くなってしまったのに、これほど沢山残っている女性の中に、今の騎士団の男性より、戦闘の適性が高い女性がいないと思いますか?」

クレアさんは歩くのを止めて暫く考え込む。やがて、私の方に近づいて来ると聞いてくる。

「アタル様は戦闘の適性が高い女性がいるとお考えなんですね?」

「う~ん、戦闘の適性が高い女性もいるし、女性のほうが向いている仕事もあると思ったし、能力優先ではなく男性優先の傾向が強いようなので、それが変えられたら良いかなと思いまして」

私の返答を聞いて、更にクレアさんは考え込む。

「……女性が向いている仕事とは何ですか?」

「え~と、向いているという訳ではありませんが、門番も女性兵士のほうが親しみやすいですよね。出入りする大半は犯罪者ではありませんし、全員に戦闘力が高くなくても、問題ないですよね?」

「ですが、危険が……」

「危険はありますが、その為に訓練しますし、男性だけ危険でも良いというのは……。まあ、そう考える女性に無理をさせるつもりはありませんが、それほど女性は精神的に弱いですか?」

「………」

「私の知り合った女性は護衛の人達だけではなく、シャルやミュウ、孤児院の子供たちも私なんかより強そうですよ」

「たしかに……」

簡単に納得されて逆に落ち込む。

クレアさんは呟くと、考えながら歩き出して私を置き去りにする。

慌ててクレアさんを追いかけ、内門を抜けて待機所に向かう一本道に入る。

「ク、クレアさん」

見た目は普通に歩いているクレアさんだが、軽く走らないとついて行けない。

「クレアさん!」

必死に声を掛けるとやっと気が付いてくれた。

クレアさんが考え込むような話は、歩きながらするのは危険だな。

「す、すみません、考え事していたようで……」

恥ずかしいのか、顔を赤らめながら消え入るような声で謝るクレアさんも可愛いかも。

いやいや、今はそんなことを考える時じゃない。

「お願いがあるのですが宜しいですか?」

「はい、なんでしょうか、あっ、もしかしてあの事!?」

えっ、あの事とはどの事? なんでさらに顔が真っ赤に!?

「え~と、クレアさんや護衛の人達は、訓練しようと考えていますよね?」

「えっ、ええ、こんなに良い機会はありませんから」

なぜ質問なのに残念そうな顔をするの?

「それをできるだけ止めてもらえませんか?」

「なっ、それは、……護衛に集中しろと言いたいのですか?」

不満そうにクレアさんが訊いてくる。

「いえいえ、あの壁の中なら護衛の必要はありません。う~ん、あそこで訓練されると、作業に集中できなくなりそうで、……作業を進めると、魔力濃度が変化するので安全に訓練ができなくなる可能性があるし、その事を気にしながら作業するのは……」

どう説明するのが良いか考えながら話をする。

「で、ですが、それは自分たちの責任で訓練しますから、アタル様は気にしなくても」

「気になりますよぉ。それに安全に訓練できる施設を造るのですよ。そこまで慌てる必要はないと思いますが?」

それでもクレアさんは不満そうだ。

「他の人も公平に訓練できる施設を造るのが遅くなりますよ。言い難いですが、自分達だけ訓練できれば良いのですか?」

「それは……」

「それに先程も話しましたが、女性優先の施設にするのですよ」

「でも、これまでなんでも私達は後回しにされてきました。本当に女性優先になる保証はありません!」

必死に食い下がるクレアさんを見て、少し気の毒だとは思うが……。

「保証はありますよ。造るのは私で、あの区画の所有権は私にあるのですよ。その私の意向をハロルド様が無視すると思いますか?」

「た、たしかにそうですね……」

やっと冷静に話ができそうな感じだ。
他の護衛の人からも、女性兵士への扱いがあまり良くないと聞いていた。だからこそ、女性優先の施設を造ろうと思ったのも事実である。

「私は女性がもっと活躍すべきだと思っています。なぜ能力もあり、人数もいる女性を上手く活用しないのか不思議に思いますし、女性が活躍できれば、町や領も発展すると思っています。
その役割を先行して担うのが、クレアさん達ではないでしょうか?」

「………」

また何か考え込み始めたけど大丈夫だよね。

「安心してください。訓練施設が完成したら、私が必ず皆さんが優先的に使えるようにハロルド様にお願いしますし、訓練施設が完成してもすぐには他の人はすぐには利用できないですよね?」

最後にヘタクソなウインクをクレアさんにして見せた。

この私が女性にウインクする日が来るとは……。

クレアさんも私の話を聞いて冷静に考えられたのか、嬉しそうに頷いて笑顔を見せてくれた。


クレアさんと待機所に入ると中には誰も居ない。
奥の扉を開いて外に出ると、カルアさん達が必死の形相で訓練している。まだ昼前だというのに体力があまり残っているようには見えない。

クレアさんは複雑な顔をして私の方を見ると話しかけてきた。

「確かにこれではご迷惑を掛けそうです。皆と話をしたいと思います」

彼女たちのことは任せて、解体作業を始める。近くの建物に入ると昨日と同じように解体しては収納する。

魔力が減ると魔力の濃い場所まで行って魔力を補充する。

何気にクレアさん達の方を見ると、何やら揉めている感じがするが、私にできることは無いので解体を進める。

直ぐに解体も慣れてきて、5軒ほど解体すると昼になったので待機所に向かう。

いつの間にかクレアさん達も待機所の中に移動していたようだ。

待機所に入ると、設置しておいたテーブルに皆が座っていた。

私が入って来たのを見て、クレアさんが立ち上がろうとしたが、それより早くカルアさんが立ち上がって私に尋ねてくる。

「本当に女性優先の施設を造って、私達女性が平等に訓練できるのでしょうか?」

おうふ、恐いくらい真剣に訊いてくるなぁ。

「平等ではないですね」

全員の顔が強張る。

「女性優先だから、女性が優先的に訓練できるようにしますよ」

あれっ、こいつ何を言ってやがる的な顔で私を見てる!?

「え~と、設計書は既にハロルド様に渡してありますが、宿舎も女性用で用意する予定なんですけど……」

「宿舎もですか!」

あれれっ、クレアさんはハロルド様の話し合いに、……女性用とは言ってなかったかぁ。

「あぁ~、そういえばハロルド様にはそこまで説明していなかったかぁ。クレアさんには説明しましたけど、私は女性が活躍できるようにすることが、この町にも領にも良いと思っていますよ。
その辺の事をハロルド様とレベッカ夫人にも話をしないとダメだなぁ」

最後は独り言の愚痴になってしまった。

これほど女性が多くいるのだから、女性を上手く活用しないとダメだと考えるのだった。
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