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5巻
5-3
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「ふふふっ、確かにそうじゃな。私はテンマの愛で救われた! でもカリアーナは……フハハハハッ!」
はい、調子に乗り始めた! まぁでも、ずっと落ち込まれているよりはいいか。
俺はそう思いつつ、みんなを見回しながら言う。
「これからは俺も言いたいことを言うつもりだ。だからみんなも言ってほしい。アンナさんとも最初に話をしていれば、お互いに不快な思いをしなかったと思うしな」
すると、早速アンナさんが手を挙げる。
「では、テンマ様にお願いがあります」
えっ、何!? アンナさんとの問題は解決したはずじゃ……? 怖いんですけど……。
「私はテンマ様のけんぞ……メイドです。呼び捨てにして下さい!」
内容を聞いて、ホッとする。
でも、アンナさんは将来的に女神になるんだよね? そんな人を呼び捨てにしていいのか?
……まぁ、確かにメイドに敬称は不自然だ。しかも、彼女自身が望んでいるのに断る道理もないか。
「うん、分かった。これからはアンナと呼ぶようにするよ」
「ありがとうございます」
よし、これで彼女との問題は完全に解決だ!
……いや、待てよ。よくよく考えると、俺は彼女のことをあまり知らない。
折角だし、聞いておくか。
「アンナは家事以外に、何か出来ることはあるのかい?」
「生活魔術と聖魔術がカンストしていますが……攻撃系の魔法は一切使えません」
えっ、ええええっ、生活魔術がカンスト!? だったらルームが使えるし……それに、聖魔術まで極めているって、超すごいじゃん!
「かんすと? ってどういうこと?」
ピピが不思議そうに首を傾げる。
すると、バルドーさんがピピに優しく説明する。
「カンストとは完全に極めたという意味ですね」
「聖魔術をカンストさせるなんて……古の聖女ですら無理だったはずじゃ……」
ドロテアさんはそう呟いた。
……この質問、二人っきりのときにするべきだったな。
まあ今更後悔しても仕方ないし、それをどう活かしてもらうか考えた方がいいか。
「生活魔術がカンストしているなら、アンナはルームが使えるんだよね?」
アンナはなぜか不思議そうな顔をしながら、「ルーム?」と言いながら小首を傾げる。
すると、ルームの扉が現れた。
「つ、使えました!! なんですかこれ?」
気付いていなかったんかーーーい!
「ルームは、自分専用の亜空間を生み出すことが出来る生活魔法の一種。居住スペースに出来るのはもちろん、中に物資をため込むことも出来る。使用者に触れている状態でないと他の人はルームに入れない仕様になっているから、その空間はアンナのプライベートスペースにすればいいよ。家具とかも必要なら言ってくれ。ただ、いざというときにみんなが避難出来る部屋も用意してくれると助かる」
「わ、分かりました!」
これで、俺がいなくてもみんなの安全が確保出来るな。
やはり話をすることは大切だ。前世の影響で言いたいことを我慢する癖が付いていたけれど、これからは徐々に改善していこう。
「テンマ様、わ、私には何かありましゅ。あっ!」
ジジが緊張しながら尋ねてきたが、噛んでしまったことを恥じて俯いてしまった。
可愛ええなぁ~。
ほっこりしていると、ピピとシルが元気に聞いてくる。
「お兄ちゃん、ピピは!」
『ぼくも~!』
「ピピはもう少し大きくなるまで、可愛い妹でいてほしいかな。危険なことをすると、お兄ちゃんは心配になっちゃうよ。それ以外は……たまに一緒に寝てくれるだけで、お兄ちゃんは幸せだよ。それと、シルは精神的に疲れたときにモフモフさせてくれて、本当にありがとう。いつも癒されているよ」
「『えへへへ』」
ピピとシルは嬉しそうな顔で照れている。
「わ、私は……」
そうだ、結局ジジに答えてあげていなかった。
「昨日ジジに言われて、自分が精神的に疲れていたことに気付けたんだ。そしてジジはそれを癒してくれる存在だとも感じた。こうやってみんなときちんと話そうと思えたのも、ジジのおかげだ。だからこれからも、俺を支えてほしいと思っている!」
「そ、そんな、私なんかが……グスッ」
ジジは感極まって、泣き始めてしまった。
すると、俺らのやり取りを聞いて思うところがあったのか、バルドーさんが口を開く。
「確かに旅に出てから、テンマ様の様子が少しおかしかったかもしれませんなぁ。テンマ様はなんでも簡単に作ってしまわれるので、私も調子に乗ってしまい、テンマ様に仕事をさせ過ぎてしまったところがあります。申し訳ありません」
「いえ。大変ではありましたが、自分のせいで仕事が増えたところもありますし。どころか、バルドーさんがいなければ、もっとロンダを発展させるのも、この旅も大変だったと思います。ただ、もう少しドロテアさんの暴走を止める側に回ってほしかったですけど……」
そんな俺の言葉に、バルドーさんは頬を掻いて苦笑いしながら言う。
「テンマ様はドロテア様の過激な行いを喜んでいそうでしたので、口を出さなかったのですがねぇ」
うぅ、ちょっとしたおふざけ心とスケベ心を読まれていたのかな。
で、でも少し鬱陶しく感じていたのは事実だし……。
「い、いや、騒動を起こさないように注意してほしいというか、なんというか……」
バルドーさんは口ごもる俺を見て、笑う。
「分かりました。目を光らせるようにいたします」
「よ、よろしくお願いします!」
そしてちらっと横を見ると、ミーシャはこの状況でも黙々と食事を続けている。
まあ、確かにミーシャには特に何もないかな。
強いて言えば、村を出たときより微妙に距離が出来た気がするってくらいか……まぁ、訓練のときはいつも通りだし、あえて指摘する必要もないだろう。
『わ、私はどうなのかしら?』
ハルが心配そうに尋ねてきた。
うーん、正直天然トラブルメイカーに何か言っても、暖簾に腕押しだろうし……。
「さて、これからは何かあれば話してほしいし、俺も話すようにする。仲間として絆を深めていこう!」
「「「「「「はい!」」」」」」
『私はどうなのよーーー!』
俺だけでなく、誰もそんなふうに叫ぶハルの相手をすることはなかった。
第6話 まあ、良い感じ?
まだ昼を過ぎたくらいだし、作業を進めようと思ったんだけど……
「みんな、少し待ってくれ。周辺に魔物がまったくいない」
いつものように魔物の間引きの準備をしていたミーシャは動きを止め、ドロテアさんは不思議そうな顔をする。
「ああ、そういうことですか」
バルドーさんは気付いたようだ。
「うん。ドロテアさんの魔法で、周辺の魔物が逃げたみたいだ。この状況だと明日になっても、魔物が戻ってくる可能性は低いと思う」
みんなの視線が、ドロテアさんに集中する。
魔物を間引きするのに留めていたのは、あまりに多く狩ってしまうとその土地の生態系が崩れてしまう可能性があるし、逃げ出した魔物が別の地になだれ込んでしまう可能性があるからだ。
だから、今の状況はあまりよろしくない。
とはいえ、みんなが結束したこのタイミングでドロテアさんを責めるのはなんだかなぁ。
そう思っていると、ドロテアさんが号泣し始める。
「す、すまんのじゃ~。ヒック、わだじはやはり、ヒック、大馬鹿なのじゃ~」
それを見てみんなが、オロオロし始める。
俺は口を開く。
「ドロテアさん、これから仲間として絆を深めていこうと言ったばかりじゃないですか。今更やってしまったことを後悔するより、協力して作業を進めましょう!」
「そうだよぉ~、ドロテアお姉ちゃん」
ピピは優しい……けど、ドロテアさんをそんなふうに呼んでいるの!? そっちの方が衝撃なんだけど!
「大丈夫ですよ。誰にでも失敗はありますから」
ジジは相変わらずいい娘だ。
「うん、問題ない」
ミーシャは残念そうではあるけど……ここでそれを言うほど空気が読めないわけではなくて、よかった。
「とはいえ、逃げた魔物がどこに向かったかは気になりますね。他の町や村に影響が出ていなければければ良いのですが……」
バルドーさん、お、恐ろしいことを言わないで!
ドロテアさんも泣くのを忘れて、顔を真っ青にしているし!
いや、でもこれは先んじて確認しておかないとダメだな。
俺は言う。
「え~と、じゃあ俺は近くの町や村に影響が出ていないか確認してくる。その間に魔法の影響で飛び散った、土や石を集めておいてくれるかな?」
「「「「「「はい!」」」」」」
「み、みんなぁ~申し訳ないのじゃ~!」
テーブルに手をついて、ドロテアさんはまた泣き始めてしまった。
本当に子供みたいな人だなぁ。
俺は頭を撫でながら笑いかける。
「仲間なんだから、助け合うのは当然ですよ」
「デンミャァーーー!」
そ、それは、ダメだぁーーー! 腹の辺りに抱き着いて顔を擦り付けるな!!
む、む、胸がダメなところにぃ~。揺すっちゃダメぇーーーーー!
それからジジもドロテアさんをなぐさめにきてくれて、ドロテアさんはなんとか落ち着いた。
……ふぅ、若い肉体は敏感だから困る。
「そ、それじゃあ、あとは頼むね」
若干腰が引けつつも、俺はフライで飛び立つ。
「テンマァー、よろしく頼むのじゃ~」
ドロテアさんをはじめ、みんなが手を振って見送ってくれる。
気持ちを落ち着けながら、俺はラソーエ男爵領に向かう。
予想通り魔物はラソーエ男爵領内の町へ向かって移動していた。
まだ森の中でよかった。
胸を撫で下ろしながら気配を遮断して上空から接近し、風魔術で魔物を倒してアイテムボックスに収納していく。
二時間ほどで大半の魔物は討伐した。それほど強くない個体はあえて狩らずとも脅威にならないだろうってことで、放っておいているが。
それから念のためコーバル方面へもフライで移動してみると魔物がいたため、こちらも念のために危険そうな奴だけ討伐しておいた。
それから中継地まで戻ってみると、その道中にも魔物がちらほらいるが……まぁ周辺に人が住んでいないから、今討伐する必要はないか。
そうこうしていると、結局夕方近くになってしまった。
俺はガロン川の手前にある建物の屋上に降り立つ。
すると、すぐにドロテアさんが走ってきた。
もしかすると、外を見て俺が戻ってくるのを待っていたのかもしれない。
「ど、どうじゃった?」
「放っておいたら危なかったかもしれませんね。でもあらかた討伐したので、もう大丈夫だと思います」
ドロテアさん達には魔法で飛び散った土や石の片付けをお願いしていたけど、魔導具に付与した収納を使った作業なので、汚れないはずだ。
なのにどうしてこんなに泥だらけなんだよ。
でも、その天然っぽさが可愛い……いや、六十歳! 六十歳! 六十歳!
「ありがとうなのじゃ!」
ドロテアさんが、そう言いながら抱きついてこようとしたので避ける。
すると、彼女は顔面から地面に着地した。
「にゃんで、避けるのじゃ~」
鼻血を出しながら抗議するドロテアさん……可愛いじゃないかーーーーー!
六十歳! 六十歳! 六十歳!
理性を保つため、心の中で何度も呪文を唱えるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
建物の中に入り、みんなを呼んでどこでも自宅に入る。
ダイニングに移動して、全員が着席してから俺は口を開く。
「ラソーエ領とコーバル領には、魔物が向かっていた。でも危険な魔物は一掃したから、すぐに落ち着くと思う。ただ中継地の周辺にも魔物が移動しているんだ。俺は明日から橋の建設と川の整備に着手する。二日ほど掛かりそうだから、みんなには一度馬車で中継地まで戻って魔物を討伐してほしい。ここで待っているだけではつまらないと思うし。頼めるかな?」
「うん、それが良い!」
「分かったのじゃ!」
ミーシャとドロテアさんが即座にそう答えてくれた。だけど――
「ああ、ドロテアさんは一緒に整地作業をしてもらいます。ドロテアさんが魔法を撃ち込んだ場所が池みたいになっちゃったでしょう? そこを整備しなくちゃいけませんし」
「一緒に……二人で……」
ドロテアさんがニヨニヨと変な顔でそんなふうに呟いているが、無視して話を続ける。
「アンナは、ルーム内にみんなが泊まれるようにしてくれないかな。D研の扉は俺が管理出来るところに置いておきたいから、この建物内に移そうと思っているんだ」
「分かりました」
「よし話はまとまったね! それじゃあジジは夕飯の準備をしてくれ。アンナはルームに置く魔導具や家具を渡すから、ついてきて」
俺はそう言うと、自分のルームを開く。
「昼間に言った通り、ルームに他人を入れるには体の一部が触れていないとダメなんだ。出来ればアンナに必要な物を選んでもらいたいんだけど……」
二人っきりになる上に身体的接触が発生することに気付き、語尾が小さくなる。
これまでそういう意味で警戒されていたしな……。
しかし、アンナはにっこり笑う。
「はい、何も問題ありません」
アンナは魅力的な女性だから、そんな表情をされるとドキドキしてしまう。
「そ、そうかい。じゃ、じゃあ手を……」
アンナの手を軽く握り、ルームの扉を出現させる。
すると、彼女は強めに握り返してきた。
逆に危険なんですけどぉーーー!
顔が熱くなるのを感じながら、ルームに入る。
手を離すと、早速アンナが聞いてくる。
「あの、自分のルームの部屋割りの参考にしたいので、テンマ様のルームを見せていただけないでしょうか?」
俺は頷いて、案内を始める。
興味深げに自分のルームを見られると、なんだか恥ずかしいな。
すべての部屋を見終えたあと、アンナはルームの構想を話してくれた。
玄関入ってすぐの場所をリビングダイニングにして、そこから他の部屋に行けるようにするらしい。
「俺は泊まらないけど、みんなが泊まれるように寝室は多めに作ってもらえると助かるかな」
「二人部屋を四つと自分用の部屋、あとテンマ様のルームほど豪華でなくとも、お風呂も欲しいですね」
そんなふうな会話を経て倉庫から魔導具や家具、食料などを取り出してアイムボックスが付与された箱に入れ、ルームを出る。
そして、アンナのルームに移動する。
ルームを出入りする度に手を繋ぐことになるから、なんだか照れくさい。
しかもそう思っていることが、なんとなくアンナにバレている気がするのだ。
くっ、数日で立場が逆転してるじゃんか!
そのあと家具や魔導具を設置してあげて、D研へと戻った。
第7話 共同作業
翌朝、魔物討伐組が中継地に向けて馬車で出発する時間になったので、見送ることにした。
だが、予想外の光景が目に入る。
「ピピちゃんや、横に居るのは何かな?」
「ピョン子も一緒に行くのぉ~」
ピピの手のひらの上に載っているのは、この間従魔にしたと言っていた、ホーンラビットのピョン子だ。
こいつは以前見せてもらったから、知っている。
俺が今聞いているのは、横にいる大きい奴のことだ!
もしかして……鑑定してみよう。
やはり、こいつはドロテアさんの従魔になったピョン吉か。
それにしても……可愛くない!
ピョン吉はホーンラビットの上位種だから、大きいのはいい。
で、でも! 大きいというよりデブなのだ!
それに目つきがふてぶてしい。俺を睨む姿がムカつく。
細かく鑑定すると、こいつの種族がクイーンホーンラビットだと分かる。
クイーンということは雌なのだろうが、やさぐれた中年オヤジみたいだ。
「隣に居るのはドロテアさんのピョン吉だよね。ドロテアさんはここに残るのに、なんでピピと一緒に行くのかな?」
すると、契約者であるドロテアさんが横から言う。
「ピョン吉のレベルを上げておいてほしくて、私が頼んだのじゃ」
上位種だから弱くないとは思うけど、これだけ太っていたら、簡単に魔物の餌になっちゃわない?
俺の内心の不安を察したらしく、バルドーさんが言う。
「ピョン吉はいつも、ミーシャさんの訓練相手をしていますよ」
ええっ、この体形で戦えるの!?
驚きのあまりピョン吉に視線を向けると、小馬鹿にするように笑った……気がする。
ほほう、この俺にそんな態度を取るのか。
俺は、目を細めてピョン吉を改めて見る。
脂が乗っていそうだし、美味そうだな。あっ、もしかして肉は霜降りなんじゃ!?
ピョン吉はビクッと体を震わせた。
ふむ、プルっと揺れる腹の肉が、特に美味そうだな!
そんなことを考えていると、ピョン吉が近づいてくる。
おお、やる気か? だったら食材にしてしまっても構わないよな?
しかし、ピョン吉は襲い掛かって来なかった。それどころか俺の足に体を擦り付け、媚びを売ってくる。
ぬほぉ、シルほどでもないが毛並みが気持ちいい! それに体がぷにぷにとしていて……。
うん、ピョン吉を正式な仲間として認めよう!
「ピョン吉はともかく、ピョン子は大丈夫?」
俺の質問に、またしてもバルドーさんが答えてくれる。
「ピョン子はピピの従魔になってから、ピピに似た感じで成長していますので、大丈夫でしょう」
鑑定してみると……確かに、ピョン子は暗殺者向きの適性とスキルを持っている。
従魔契約をしていると、従魔が契約者に似た成長をするということなのか?
俺の素質はすべてCだし、スキルも満遍なく育てているからシルのステータスを見てもあんまり分からないんだよなぁ。
ともあれ、ピョン子のステータスはもそれなりだし、連れていっても問題なさそうだ。
俺はピピの頭を撫でながら言う。
「気を付けて行ってくるんだよ」
「うん!」
すると、頭の中に聞き覚えのない声が響く。
『姐さん、こいつ生意気だから、俺っちがしめましょうか?』
振り返ると、ワイルドコッコがいた。背丈はミーシャの胸元辺りまでしかない。
恐らくこいつがミーシャの従魔である、ロンガなのだろう。
人のように二本の足で立ち、羽を腕のように組みながら俺を睨んでいる。
念話が使えるのは大したものだが……チンピラみたいだ。
「ほう、ワイルドコッコの肉はまずいと聞いていたが、美味しく調理出来るか試してみるか」
「初めての従魔だけど、テンマがそう言うなら構わない」
俺の言葉に対して、ロンガの後ろにいたミーシャはあっさりと彼を見捨てるようなことを言う。
ロンガは驚き顔で、ミーシャを振り返る。
「テンマは私の師匠。師匠に喧嘩を売るのは大罪。諦める!」
すると、ロンガは驚くような速さで土下座して、揉み手しながら謝罪してくる。
『兄貴、失礼しました! 私はミーシャ姉さんに可愛がってもらっている、ロンガ。矮小なワイルドコッコです。雑用でもなんでもお言い付け下さい!』
「可愛がってない!」
ミーシャの冷たい一言にもめげず、必死に揉み手を続け、俺のご機嫌を取ろうとしてくるロンガ。
この小物感……チンピラ風にしたランガって感じだ。
ちなみにランガはミーシャの姉であるサーシャさんの夫で、俺が開拓村で身を寄せていた家の主だ。俺のステータスの高さを知るまで強気な物言いをしてきていたり、家の最高権力者であるサーシャさんに頭が上がらなかったり、結構小物なんだよな。
「今回は許そう! でも次はないからな」
『ははーーー!』
俺の言葉を受けて、ロンガは逃げるように御者席に跳ぶと、手綱を握り、馬車を出発させた。
鳥なのに運転出来るのはすごいけど、なんだかなぁ~。
◇ ◇ ◇ ◇
馬車が見えなくなったので、ドロテアさんを振り返りつつ、声を掛ける。
「それでは、作業を始めましょうか」
「わ、分かったのじゃ……」
ドロテアさんの顔がなぜか赤いが、まぁいいか。
作業内容を説明する。
「俺が川岸に堤防を造るので、その上を中継地の道路を整備したときと同様に土魔術で舗装して、道を作ってください」
「ていぼうとはなんじゃ?」
「う~ん、ちょっと待って下さいね」
説明するより、見せた方が早いな。
俺は川に移動して土魔術で川幅を少し広げつつ、堤防を作って見せた。
「こんな感じで、川が氾濫しないよう土砂を盛り上げて作った部分を、堤防と言います」
「……これによって川の氾濫を抑えられるのだとは理解出来るが、その上に道を作るのはなぜじゃ?」
「ドロテアさんが魔法を撃ち込んだ場所、池みたいじゃないですか。自然豊かなので、切り拓けば景色も良くなりそうだな、と。折角だからみんなが集まる憩いの場にしたいんですよ」
ドロテアさんは、不思議そうな表情をしている。
もしかして観光地とか娯楽のための場所という発想自体が、この世界にはないのかな?
「よく分からんが、テンマのやることじゃから、意味があるのじゃろう。そ、それに、二人っきりでの共同作業じゃし!」
なんか勝手に盛り上がっているが、まぁ作業をちゃんとやってくれるならいいか。
「それじゃあ、俺はどんどん堤防を造りますから、あとは願いしますね」
「分かったのじゃ!」
はい、調子に乗り始めた! まぁでも、ずっと落ち込まれているよりはいいか。
俺はそう思いつつ、みんなを見回しながら言う。
「これからは俺も言いたいことを言うつもりだ。だからみんなも言ってほしい。アンナさんとも最初に話をしていれば、お互いに不快な思いをしなかったと思うしな」
すると、早速アンナさんが手を挙げる。
「では、テンマ様にお願いがあります」
えっ、何!? アンナさんとの問題は解決したはずじゃ……? 怖いんですけど……。
「私はテンマ様のけんぞ……メイドです。呼び捨てにして下さい!」
内容を聞いて、ホッとする。
でも、アンナさんは将来的に女神になるんだよね? そんな人を呼び捨てにしていいのか?
……まぁ、確かにメイドに敬称は不自然だ。しかも、彼女自身が望んでいるのに断る道理もないか。
「うん、分かった。これからはアンナと呼ぶようにするよ」
「ありがとうございます」
よし、これで彼女との問題は完全に解決だ!
……いや、待てよ。よくよく考えると、俺は彼女のことをあまり知らない。
折角だし、聞いておくか。
「アンナは家事以外に、何か出来ることはあるのかい?」
「生活魔術と聖魔術がカンストしていますが……攻撃系の魔法は一切使えません」
えっ、ええええっ、生活魔術がカンスト!? だったらルームが使えるし……それに、聖魔術まで極めているって、超すごいじゃん!
「かんすと? ってどういうこと?」
ピピが不思議そうに首を傾げる。
すると、バルドーさんがピピに優しく説明する。
「カンストとは完全に極めたという意味ですね」
「聖魔術をカンストさせるなんて……古の聖女ですら無理だったはずじゃ……」
ドロテアさんはそう呟いた。
……この質問、二人っきりのときにするべきだったな。
まあ今更後悔しても仕方ないし、それをどう活かしてもらうか考えた方がいいか。
「生活魔術がカンストしているなら、アンナはルームが使えるんだよね?」
アンナはなぜか不思議そうな顔をしながら、「ルーム?」と言いながら小首を傾げる。
すると、ルームの扉が現れた。
「つ、使えました!! なんですかこれ?」
気付いていなかったんかーーーい!
「ルームは、自分専用の亜空間を生み出すことが出来る生活魔法の一種。居住スペースに出来るのはもちろん、中に物資をため込むことも出来る。使用者に触れている状態でないと他の人はルームに入れない仕様になっているから、その空間はアンナのプライベートスペースにすればいいよ。家具とかも必要なら言ってくれ。ただ、いざというときにみんなが避難出来る部屋も用意してくれると助かる」
「わ、分かりました!」
これで、俺がいなくてもみんなの安全が確保出来るな。
やはり話をすることは大切だ。前世の影響で言いたいことを我慢する癖が付いていたけれど、これからは徐々に改善していこう。
「テンマ様、わ、私には何かありましゅ。あっ!」
ジジが緊張しながら尋ねてきたが、噛んでしまったことを恥じて俯いてしまった。
可愛ええなぁ~。
ほっこりしていると、ピピとシルが元気に聞いてくる。
「お兄ちゃん、ピピは!」
『ぼくも~!』
「ピピはもう少し大きくなるまで、可愛い妹でいてほしいかな。危険なことをすると、お兄ちゃんは心配になっちゃうよ。それ以外は……たまに一緒に寝てくれるだけで、お兄ちゃんは幸せだよ。それと、シルは精神的に疲れたときにモフモフさせてくれて、本当にありがとう。いつも癒されているよ」
「『えへへへ』」
ピピとシルは嬉しそうな顔で照れている。
「わ、私は……」
そうだ、結局ジジに答えてあげていなかった。
「昨日ジジに言われて、自分が精神的に疲れていたことに気付けたんだ。そしてジジはそれを癒してくれる存在だとも感じた。こうやってみんなときちんと話そうと思えたのも、ジジのおかげだ。だからこれからも、俺を支えてほしいと思っている!」
「そ、そんな、私なんかが……グスッ」
ジジは感極まって、泣き始めてしまった。
すると、俺らのやり取りを聞いて思うところがあったのか、バルドーさんが口を開く。
「確かに旅に出てから、テンマ様の様子が少しおかしかったかもしれませんなぁ。テンマ様はなんでも簡単に作ってしまわれるので、私も調子に乗ってしまい、テンマ様に仕事をさせ過ぎてしまったところがあります。申し訳ありません」
「いえ。大変ではありましたが、自分のせいで仕事が増えたところもありますし。どころか、バルドーさんがいなければ、もっとロンダを発展させるのも、この旅も大変だったと思います。ただ、もう少しドロテアさんの暴走を止める側に回ってほしかったですけど……」
そんな俺の言葉に、バルドーさんは頬を掻いて苦笑いしながら言う。
「テンマ様はドロテア様の過激な行いを喜んでいそうでしたので、口を出さなかったのですがねぇ」
うぅ、ちょっとしたおふざけ心とスケベ心を読まれていたのかな。
で、でも少し鬱陶しく感じていたのは事実だし……。
「い、いや、騒動を起こさないように注意してほしいというか、なんというか……」
バルドーさんは口ごもる俺を見て、笑う。
「分かりました。目を光らせるようにいたします」
「よ、よろしくお願いします!」
そしてちらっと横を見ると、ミーシャはこの状況でも黙々と食事を続けている。
まあ、確かにミーシャには特に何もないかな。
強いて言えば、村を出たときより微妙に距離が出来た気がするってくらいか……まぁ、訓練のときはいつも通りだし、あえて指摘する必要もないだろう。
『わ、私はどうなのかしら?』
ハルが心配そうに尋ねてきた。
うーん、正直天然トラブルメイカーに何か言っても、暖簾に腕押しだろうし……。
「さて、これからは何かあれば話してほしいし、俺も話すようにする。仲間として絆を深めていこう!」
「「「「「「はい!」」」」」」
『私はどうなのよーーー!』
俺だけでなく、誰もそんなふうに叫ぶハルの相手をすることはなかった。
第6話 まあ、良い感じ?
まだ昼を過ぎたくらいだし、作業を進めようと思ったんだけど……
「みんな、少し待ってくれ。周辺に魔物がまったくいない」
いつものように魔物の間引きの準備をしていたミーシャは動きを止め、ドロテアさんは不思議そうな顔をする。
「ああ、そういうことですか」
バルドーさんは気付いたようだ。
「うん。ドロテアさんの魔法で、周辺の魔物が逃げたみたいだ。この状況だと明日になっても、魔物が戻ってくる可能性は低いと思う」
みんなの視線が、ドロテアさんに集中する。
魔物を間引きするのに留めていたのは、あまりに多く狩ってしまうとその土地の生態系が崩れてしまう可能性があるし、逃げ出した魔物が別の地になだれ込んでしまう可能性があるからだ。
だから、今の状況はあまりよろしくない。
とはいえ、みんなが結束したこのタイミングでドロテアさんを責めるのはなんだかなぁ。
そう思っていると、ドロテアさんが号泣し始める。
「す、すまんのじゃ~。ヒック、わだじはやはり、ヒック、大馬鹿なのじゃ~」
それを見てみんなが、オロオロし始める。
俺は口を開く。
「ドロテアさん、これから仲間として絆を深めていこうと言ったばかりじゃないですか。今更やってしまったことを後悔するより、協力して作業を進めましょう!」
「そうだよぉ~、ドロテアお姉ちゃん」
ピピは優しい……けど、ドロテアさんをそんなふうに呼んでいるの!? そっちの方が衝撃なんだけど!
「大丈夫ですよ。誰にでも失敗はありますから」
ジジは相変わらずいい娘だ。
「うん、問題ない」
ミーシャは残念そうではあるけど……ここでそれを言うほど空気が読めないわけではなくて、よかった。
「とはいえ、逃げた魔物がどこに向かったかは気になりますね。他の町や村に影響が出ていなければければ良いのですが……」
バルドーさん、お、恐ろしいことを言わないで!
ドロテアさんも泣くのを忘れて、顔を真っ青にしているし!
いや、でもこれは先んじて確認しておかないとダメだな。
俺は言う。
「え~と、じゃあ俺は近くの町や村に影響が出ていないか確認してくる。その間に魔法の影響で飛び散った、土や石を集めておいてくれるかな?」
「「「「「「はい!」」」」」」
「み、みんなぁ~申し訳ないのじゃ~!」
テーブルに手をついて、ドロテアさんはまた泣き始めてしまった。
本当に子供みたいな人だなぁ。
俺は頭を撫でながら笑いかける。
「仲間なんだから、助け合うのは当然ですよ」
「デンミャァーーー!」
そ、それは、ダメだぁーーー! 腹の辺りに抱き着いて顔を擦り付けるな!!
む、む、胸がダメなところにぃ~。揺すっちゃダメぇーーーーー!
それからジジもドロテアさんをなぐさめにきてくれて、ドロテアさんはなんとか落ち着いた。
……ふぅ、若い肉体は敏感だから困る。
「そ、それじゃあ、あとは頼むね」
若干腰が引けつつも、俺はフライで飛び立つ。
「テンマァー、よろしく頼むのじゃ~」
ドロテアさんをはじめ、みんなが手を振って見送ってくれる。
気持ちを落ち着けながら、俺はラソーエ男爵領に向かう。
予想通り魔物はラソーエ男爵領内の町へ向かって移動していた。
まだ森の中でよかった。
胸を撫で下ろしながら気配を遮断して上空から接近し、風魔術で魔物を倒してアイテムボックスに収納していく。
二時間ほどで大半の魔物は討伐した。それほど強くない個体はあえて狩らずとも脅威にならないだろうってことで、放っておいているが。
それから念のためコーバル方面へもフライで移動してみると魔物がいたため、こちらも念のために危険そうな奴だけ討伐しておいた。
それから中継地まで戻ってみると、その道中にも魔物がちらほらいるが……まぁ周辺に人が住んでいないから、今討伐する必要はないか。
そうこうしていると、結局夕方近くになってしまった。
俺はガロン川の手前にある建物の屋上に降り立つ。
すると、すぐにドロテアさんが走ってきた。
もしかすると、外を見て俺が戻ってくるのを待っていたのかもしれない。
「ど、どうじゃった?」
「放っておいたら危なかったかもしれませんね。でもあらかた討伐したので、もう大丈夫だと思います」
ドロテアさん達には魔法で飛び散った土や石の片付けをお願いしていたけど、魔導具に付与した収納を使った作業なので、汚れないはずだ。
なのにどうしてこんなに泥だらけなんだよ。
でも、その天然っぽさが可愛い……いや、六十歳! 六十歳! 六十歳!
「ありがとうなのじゃ!」
ドロテアさんが、そう言いながら抱きついてこようとしたので避ける。
すると、彼女は顔面から地面に着地した。
「にゃんで、避けるのじゃ~」
鼻血を出しながら抗議するドロテアさん……可愛いじゃないかーーーーー!
六十歳! 六十歳! 六十歳!
理性を保つため、心の中で何度も呪文を唱えるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
建物の中に入り、みんなを呼んでどこでも自宅に入る。
ダイニングに移動して、全員が着席してから俺は口を開く。
「ラソーエ領とコーバル領には、魔物が向かっていた。でも危険な魔物は一掃したから、すぐに落ち着くと思う。ただ中継地の周辺にも魔物が移動しているんだ。俺は明日から橋の建設と川の整備に着手する。二日ほど掛かりそうだから、みんなには一度馬車で中継地まで戻って魔物を討伐してほしい。ここで待っているだけではつまらないと思うし。頼めるかな?」
「うん、それが良い!」
「分かったのじゃ!」
ミーシャとドロテアさんが即座にそう答えてくれた。だけど――
「ああ、ドロテアさんは一緒に整地作業をしてもらいます。ドロテアさんが魔法を撃ち込んだ場所が池みたいになっちゃったでしょう? そこを整備しなくちゃいけませんし」
「一緒に……二人で……」
ドロテアさんがニヨニヨと変な顔でそんなふうに呟いているが、無視して話を続ける。
「アンナは、ルーム内にみんなが泊まれるようにしてくれないかな。D研の扉は俺が管理出来るところに置いておきたいから、この建物内に移そうと思っているんだ」
「分かりました」
「よし話はまとまったね! それじゃあジジは夕飯の準備をしてくれ。アンナはルームに置く魔導具や家具を渡すから、ついてきて」
俺はそう言うと、自分のルームを開く。
「昼間に言った通り、ルームに他人を入れるには体の一部が触れていないとダメなんだ。出来ればアンナに必要な物を選んでもらいたいんだけど……」
二人っきりになる上に身体的接触が発生することに気付き、語尾が小さくなる。
これまでそういう意味で警戒されていたしな……。
しかし、アンナはにっこり笑う。
「はい、何も問題ありません」
アンナは魅力的な女性だから、そんな表情をされるとドキドキしてしまう。
「そ、そうかい。じゃ、じゃあ手を……」
アンナの手を軽く握り、ルームの扉を出現させる。
すると、彼女は強めに握り返してきた。
逆に危険なんですけどぉーーー!
顔が熱くなるのを感じながら、ルームに入る。
手を離すと、早速アンナが聞いてくる。
「あの、自分のルームの部屋割りの参考にしたいので、テンマ様のルームを見せていただけないでしょうか?」
俺は頷いて、案内を始める。
興味深げに自分のルームを見られると、なんだか恥ずかしいな。
すべての部屋を見終えたあと、アンナはルームの構想を話してくれた。
玄関入ってすぐの場所をリビングダイニングにして、そこから他の部屋に行けるようにするらしい。
「俺は泊まらないけど、みんなが泊まれるように寝室は多めに作ってもらえると助かるかな」
「二人部屋を四つと自分用の部屋、あとテンマ様のルームほど豪華でなくとも、お風呂も欲しいですね」
そんなふうな会話を経て倉庫から魔導具や家具、食料などを取り出してアイムボックスが付与された箱に入れ、ルームを出る。
そして、アンナのルームに移動する。
ルームを出入りする度に手を繋ぐことになるから、なんだか照れくさい。
しかもそう思っていることが、なんとなくアンナにバレている気がするのだ。
くっ、数日で立場が逆転してるじゃんか!
そのあと家具や魔導具を設置してあげて、D研へと戻った。
第7話 共同作業
翌朝、魔物討伐組が中継地に向けて馬車で出発する時間になったので、見送ることにした。
だが、予想外の光景が目に入る。
「ピピちゃんや、横に居るのは何かな?」
「ピョン子も一緒に行くのぉ~」
ピピの手のひらの上に載っているのは、この間従魔にしたと言っていた、ホーンラビットのピョン子だ。
こいつは以前見せてもらったから、知っている。
俺が今聞いているのは、横にいる大きい奴のことだ!
もしかして……鑑定してみよう。
やはり、こいつはドロテアさんの従魔になったピョン吉か。
それにしても……可愛くない!
ピョン吉はホーンラビットの上位種だから、大きいのはいい。
で、でも! 大きいというよりデブなのだ!
それに目つきがふてぶてしい。俺を睨む姿がムカつく。
細かく鑑定すると、こいつの種族がクイーンホーンラビットだと分かる。
クイーンということは雌なのだろうが、やさぐれた中年オヤジみたいだ。
「隣に居るのはドロテアさんのピョン吉だよね。ドロテアさんはここに残るのに、なんでピピと一緒に行くのかな?」
すると、契約者であるドロテアさんが横から言う。
「ピョン吉のレベルを上げておいてほしくて、私が頼んだのじゃ」
上位種だから弱くないとは思うけど、これだけ太っていたら、簡単に魔物の餌になっちゃわない?
俺の内心の不安を察したらしく、バルドーさんが言う。
「ピョン吉はいつも、ミーシャさんの訓練相手をしていますよ」
ええっ、この体形で戦えるの!?
驚きのあまりピョン吉に視線を向けると、小馬鹿にするように笑った……気がする。
ほほう、この俺にそんな態度を取るのか。
俺は、目を細めてピョン吉を改めて見る。
脂が乗っていそうだし、美味そうだな。あっ、もしかして肉は霜降りなんじゃ!?
ピョン吉はビクッと体を震わせた。
ふむ、プルっと揺れる腹の肉が、特に美味そうだな!
そんなことを考えていると、ピョン吉が近づいてくる。
おお、やる気か? だったら食材にしてしまっても構わないよな?
しかし、ピョン吉は襲い掛かって来なかった。それどころか俺の足に体を擦り付け、媚びを売ってくる。
ぬほぉ、シルほどでもないが毛並みが気持ちいい! それに体がぷにぷにとしていて……。
うん、ピョン吉を正式な仲間として認めよう!
「ピョン吉はともかく、ピョン子は大丈夫?」
俺の質問に、またしてもバルドーさんが答えてくれる。
「ピョン子はピピの従魔になってから、ピピに似た感じで成長していますので、大丈夫でしょう」
鑑定してみると……確かに、ピョン子は暗殺者向きの適性とスキルを持っている。
従魔契約をしていると、従魔が契約者に似た成長をするということなのか?
俺の素質はすべてCだし、スキルも満遍なく育てているからシルのステータスを見てもあんまり分からないんだよなぁ。
ともあれ、ピョン子のステータスはもそれなりだし、連れていっても問題なさそうだ。
俺はピピの頭を撫でながら言う。
「気を付けて行ってくるんだよ」
「うん!」
すると、頭の中に聞き覚えのない声が響く。
『姐さん、こいつ生意気だから、俺っちがしめましょうか?』
振り返ると、ワイルドコッコがいた。背丈はミーシャの胸元辺りまでしかない。
恐らくこいつがミーシャの従魔である、ロンガなのだろう。
人のように二本の足で立ち、羽を腕のように組みながら俺を睨んでいる。
念話が使えるのは大したものだが……チンピラみたいだ。
「ほう、ワイルドコッコの肉はまずいと聞いていたが、美味しく調理出来るか試してみるか」
「初めての従魔だけど、テンマがそう言うなら構わない」
俺の言葉に対して、ロンガの後ろにいたミーシャはあっさりと彼を見捨てるようなことを言う。
ロンガは驚き顔で、ミーシャを振り返る。
「テンマは私の師匠。師匠に喧嘩を売るのは大罪。諦める!」
すると、ロンガは驚くような速さで土下座して、揉み手しながら謝罪してくる。
『兄貴、失礼しました! 私はミーシャ姉さんに可愛がってもらっている、ロンガ。矮小なワイルドコッコです。雑用でもなんでもお言い付け下さい!』
「可愛がってない!」
ミーシャの冷たい一言にもめげず、必死に揉み手を続け、俺のご機嫌を取ろうとしてくるロンガ。
この小物感……チンピラ風にしたランガって感じだ。
ちなみにランガはミーシャの姉であるサーシャさんの夫で、俺が開拓村で身を寄せていた家の主だ。俺のステータスの高さを知るまで強気な物言いをしてきていたり、家の最高権力者であるサーシャさんに頭が上がらなかったり、結構小物なんだよな。
「今回は許そう! でも次はないからな」
『ははーーー!』
俺の言葉を受けて、ロンガは逃げるように御者席に跳ぶと、手綱を握り、馬車を出発させた。
鳥なのに運転出来るのはすごいけど、なんだかなぁ~。
◇ ◇ ◇ ◇
馬車が見えなくなったので、ドロテアさんを振り返りつつ、声を掛ける。
「それでは、作業を始めましょうか」
「わ、分かったのじゃ……」
ドロテアさんの顔がなぜか赤いが、まぁいいか。
作業内容を説明する。
「俺が川岸に堤防を造るので、その上を中継地の道路を整備したときと同様に土魔術で舗装して、道を作ってください」
「ていぼうとはなんじゃ?」
「う~ん、ちょっと待って下さいね」
説明するより、見せた方が早いな。
俺は川に移動して土魔術で川幅を少し広げつつ、堤防を作って見せた。
「こんな感じで、川が氾濫しないよう土砂を盛り上げて作った部分を、堤防と言います」
「……これによって川の氾濫を抑えられるのだとは理解出来るが、その上に道を作るのはなぜじゃ?」
「ドロテアさんが魔法を撃ち込んだ場所、池みたいじゃないですか。自然豊かなので、切り拓けば景色も良くなりそうだな、と。折角だからみんなが集まる憩いの場にしたいんですよ」
ドロテアさんは、不思議そうな表情をしている。
もしかして観光地とか娯楽のための場所という発想自体が、この世界にはないのかな?
「よく分からんが、テンマのやることじゃから、意味があるのじゃろう。そ、それに、二人っきりでの共同作業じゃし!」
なんか勝手に盛り上がっているが、まぁ作業をちゃんとやってくれるならいいか。
「それじゃあ、俺はどんどん堤防を造りますから、あとは願いしますね」
「分かったのじゃ!」
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