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5巻

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 第1話 開発チート



 俺、テンマは森の中で馬車を走らせている。
 ついさっき仲間達とともにレンカ村という場所をって、現在はラソーエ領へと向かっている最中だ。
 とはいえ、ここに至るまでには色々と紆余曲折うよきょくせつがあったんだよな……。


 日本にて三十三歳で命を落とした俺は、十四歳の少年の姿で異世界に転生させられた。
 だが、転生先で簡単に死なないように三ヶ月の研修を受けなくてはならないという決まりがあるらしい。
 それならばと研修を受け始めたのだが……それが終わったのはなんと十五年後。
 しかし、その十五年が無駄だったかといえば、そうではない。
 前世のゲーム知識ちしきを活かして工夫をし続けていたおかげで、俺のステータスが完全にチートじみた数値になったのだから。
 そんな研修を終え、俺が放り出されたのは、テラスという名前の世界にある辺鄙へんぴな村・開拓村の付近。
 俺は開拓村に身を寄せ、一ヶ月半くらいのんびりした生活を送っていたのだが、村に住む狐獣人きつねじゅうじんの美少女・ミーシャに流され、なぜか冒険者になることに。
 とはいえ色々な地をめぐっていたわけではなく、しばらくは辺境の町・ロンダを拠点きょてんに活動していた。
 そこにこしを落ち着けてしまった大きな理由の一つは、仲間が増えたことだろう。
 人間族と兔獣人うさぎじゅうじんのハーフであるジジとピピ姉妹しまい。国の中でも指折りの魔術師で、ロンダの魔術ギルドのギルドマスターを務めていた上に英雄とまで呼ばれるドロテアさん。そしてその姪孫てっそんでありロンダの領主であるアルベルトさんの娘のアーリン。
 一くせも二癖もある彼女達と知り合い、頼まれごとをこなしたり一緒に遊んだりしているうちに、なんだか町を出にくくなっちゃったんだよな。
 まぁ町に居着いたとは言ったって、複製ふくせい出来る空間魔術――ディメンションエリアを用いて生成した、どこでも研修施設――どこ研内に建てたどこでも自宅内で過ごすことが多かった気はする。
 その中にはプールも豪華ごうかな部屋もあるし、かなり便利。
 だが、そのせいでこの間、アーリンがどこでも自宅に彼女とゆかりのある女性達を勝手に泊め続けるという事態が発生した。
 どこでも自宅に滞在たいざいしていたのは、アーリンの母親であるソフィア夫人、冒険者ギルドのマスターであるザンベルトさんの奥さんであるセリアさん、騎士団長のバロールさんの奥さんであるナールさん。見事に権力者ばかりだ。
 とはいえ俺はそれをさほど重く受け止めていなかったのだが、周りは俺が激怒げきどしていると勘違かんちがいして……結果、かなりの大事おおごとになった。
 その結果、何らかのばつを与えないと収拾しゅうしゅうがつかなくなってしまったんだけど……折角せっかく相手が権力者だしってことで、俺は騎士団きしだん拡充かくじゅうや商業の強化といった、町を発展させるための施策を共有した上で、それに伴う煩雑はんざつな作業を任せた。
 それからしばらくしてロンダの町はだいぶ発展したし、そろそろ色々な場所を巡りたいしってことで俺はロンダの町をあとにして、王都を目指すことにしたのだ。


「それにしても、折角ロンダを出たのに、なかなかのんびりと旅を楽しむってわけにはいかないなぁ。ただでさえロンダから王都へ向かう新たな道を作りながらだから大変なのに、トラブル続きで気が休まらない」

 俺は思わずそうこぼす。
 現状、王都へ向かうためにはロンダの北に隣接りんせつするコーバル領を経由しなければならない。
 だが、ロンダ側から門を通る際には高い通行料を支払う必要がある。
 加えて、コーバルを経由するルートは直線的ではないので、余分に時間もかかってしまう。
 それらの問題を解決するべく、ロンダと王都を直線で結んだ際のちょうど中間辺りに位置するラソーエ領へ向かう道を作りながら、王都を目指しているのだ。
 ちなみに二つの領地の間にはガロン川というはばの大きな川も流れているので、後々そこに橋をける必要もある。
 そんなわけで道を作りながらの旅になっているのだが、さすがに道を作っていることはそこまで大っぴらにしていない。
 異世界に来てからしばらくは自分のステータスの高さがバレないよう、自重じちょうしながら過ごしていたのだが、最近それをやめ、この世界を発展させようと決意した。
 しかしそれでもえて目立とうとは思っていない。出来るだけ面倒ごとに巻き込まれないようにしたいという基本スタンスは変わっていない……はずだ。
 だから作業は周囲の町や村の人々が寝静まったあとに、翌日進む分の道を作る、という感じ。
 更には俺が異世界で得た知識を『知識の部屋』という場所に登録した際に使った偽名ぎめい――テックスがその作業を行っていることにした。
 今回の旅に連れてきた仲間は、ミーシャ、ジジピピ姉妹、ドロテアさん、彼女の元冒険者仲間のバルドーさん、シルバーウルフの従魔であるシル、ピクシードラゴンのハルだ。
 あ、アンナさんも一緒ではある。
 彼女は俺をこの異世界に送り込んだ元案内嬢あんないじょう。俺の研修が十五年間も続いたのは、実は彼女のミスが原因だ。で、それが問題になって天界を追われ、結局責任を取る意味で俺の眷属けんぞくになった。
 この世界の神であるテラス様に頼まれてそうしたけど、ずっと警戒され続けているから、仲間と呼べるかは微妙びみょうなところだが。
 ちなみにアーリンは俺が作った道を辿たどるような形でアルベルトさんと一緒に後から王都へ向かうので、今はいない。
 ドロテアさんが今回の旅に同行するのを許した理由の一つが、彼女がそのテックスではないかといううわさが立っていること。上手いことかくみのにさせてもらっているわけだな。
 そんなわけで矢面やおもてに立たなくてもいいのは助かるが、昼間も普通に活動している中で夜も休まらないので、結構疲れる。
 それに加えて、休憩所きゅうけいじょではハルを珍しがった商人達とめてしまうし、俺らがきっかけでコーバル領と戦争になりそうにもなった。
 最終的に横柄おうへいに振るっていたコーバルの奴らが態度を改めてくれることになったので、ロンダにとっても良い結果になっただろうから結果オーライではあったんだけど。
 そんな感じでこれまでの道中はトラブル続きではあったが、作業に関してはこれからの方が楽になるだろう。
 ロンダ領とラソーエ領の中間に位置する村、レンカ村に辿り着くまでは、元あった道を整備するような形だった。だが、それ以降は未開の地。山を切り開きつつ道を作ることになる。
 そう聞くと、より過酷かこくそうに思えるだろうが、周囲の目を気にせずチート能力を振るえるので、むしろ俺としてはやりやすい。
 誰かに見られる心配がないから、昼間にも作業を進められるし。
 ちなみに今日は、商人がラソーエ領を目指す際に立ち寄る中継地を作る予定の場所まで進むのを目標にしている。
 おっと、そんなことを考えている間に、道の果てに到着したようだ。
 しげる木々の手前で馬車をめ、ジジに御者ぎょしゃを代わってもらい、ミーシャ、シル、ハルには木々の中にひそむ魔物をってくるように言う。
 ミーシャは剣を抜くと笑顔で走りだし、シルはそれに続くように小躍こおどりで茂みの中に入っていく。ハルはいやそうな顔を俺に向けてブツブツと文句を言っているみたいだが、断ればデザートや食事が減らされると分かっているのだろう、結局素直に茂みの中へと飛んでいった。
 俺は地図スキルで近くにいた魔物の反応が次々と消えていくのを確認しつつ、作業を始める。
 まず土魔法で道を作る予定の場所一帯の木を根っこから引き抜いてはアイテムボックスに収納し、えぐれた地面を土魔法で固めていく。
 それから、なるべく平坦へいたんな道にした方が移動しやすいため上り坂はけずり、下り坂はめる。
 そして魔物けの魔導具を地面に埋めてから、舗装ほそうした。
 また、三キロごとにトイレと、馬車を何台か停められるスペースを設け、十五キロ進んだところには大きな広場も作った。水飲み場もあるし、食事するためのテーブルや椅子いすなんかもある。
 そこまで作業すると、ちょうど昼時になっていた。
 作ったばかりの広場で昼飯を食べ、また作業を再開する。
 ここからはバルドーさんにも魔物の間引きに参加してもらう。
 バルドーさんは暗殺を得意としていて、仕事の処理能力もかなり高くとても優秀だ。
 ロンダを発展させる際にも助けられたが……いかんせん、キケンな趣味しゅみの持ち主でもある。
 ただ、戦闘の腕は確かなのでミーシャやピピの指導をお願いしているんだよな。
 そんなバルドーさんも加わったことでより魔物を倒す速度は上がったのだが、森のおくに進むにつれて魔物の数も増え、強くなっていく。
 ただ倒すだけなら問題ないけど、俺が道を作るペースに追いついていないな……。
 というわけで、ピピも参加させることにした。
 俺が開発した『テンマ式研修』という育成法は、レベルが低い状態できたえまくった方が効果が出やすいため、ピピには魔物を倒させないようにしていたのだが……やむなしだろう。
 とはいえせめて交戦させる機会を減らそうってことで、ピピはバルドーさんの指導の下、索敵を中心に働いてもらった。


 予定より早く目標としていた場所の付近まで来た。
 俺は他のメンバーをどこ研から呼んでくる。
 どこ研のとびらは同時に二個以上は出しておけないが、一つであれば任意の場所に設置しておけるので、今は馬車の中に設置してあるのだ。

「テンマ、あれはなんじゃ?」

 どこ研から出てきたドロテアさんが、そう質問してくる。
 彼女が指差す先には、高さ四メートルほどの石造りの外壁がいへきがあった。

「え~と、新しく造った村の外壁だけど? まだ村の中身は作れていないけど、ゆくゆくはここをラソーエへ向かう際の中継地点にしようと思ってね」
「そうではない! なんで道もない森の中に、あんな物があるのじゃ!」
「テンマ様が事前に外壁だけを造っておいたのですよ。明日から建物の製作に入る予定です。ただ予想以上に敷地しきちが広いですね……」

 バルドーさんが俺の代わりにそう答えてくれた。だが、最後の方は少し心配そうな口調。
 ロンダの開発が予定より早く進んだので、バルドーさんと相談して『王都への旅が楽になるように中継地にする予定の村の外壁くらいはあらかじめ造っておこう』という話になった。
 フライでここまで飛んできて、ざっくり魔物を狩り、外壁を建てたんだけど……確かにバルドーさんと相談していたより敷地は広くしてしまったな。
 まぁ別に使われていない土地だったし、いいでしょ。

「それに、あれはなんじゃ?」

 次にドロテアさんが指差したのは、外壁の更に奥。
 この村(仮)の向こう側には山やおかつらなっており、その中をる形でトンネルを作った。

「あれは、私も聞いていませんねぇ」

 バルドーさんもトンネルをながめながら、不思議ふしぎそうにつぶやいた。

「あれは、土魔法であなを開けて作ったトンネルですよ。とはいえ邪魔じゃまになりそうな箇所だけトンネルをって通れるようにしただけです。このトンネルだって三十メートルほどですし」

 計画ではあの岩山を迂回うかいするように道を作るという話だった。
 でも、それだと直進するのに比べ、三倍ほどの距離になってしまう。
 それだけの長さの道を作るより、トンネルを掘った方が簡単だという判断だ。
 その方が後々この道を通る人だって楽だろうし。

「テンマ様は非常識のかたまりですなぁ」
「本当にそうじゃ!」

 バルドーさんとドロテアさんから返ってきたのは、あきれたような言葉だった。
 ドロテアさんはともかく、バルドーさんにはめられると思っていただけに、ちょっともやもやする。
『平地を通って遠回りするとコーバルの領地の近くを通らなければなりません。あの辺りは領地の境があやふやだから揉めてしまわないか心配なんですよねぇ』って以前、バルドーさんが言っていた。
 その問題だって、山の中を通れば解決するというのに!
 これはちょっと一言言っておきたい!
 そう思い、口を開きかけたところで――

『ねえねえ、お腹がいたんだけど!』
『ぼくもぉ!』

 食いしんぼうのハルとシルが、空腹をうったえてくる。
 ちなみにハルは元々念話で話せたが、シルは俺が作った魔導具の機能で念話が使えるようになったんだよな。
 やむなく外壁の中に馬車を停め、どこでも自宅に入って食事をすることにした。




 第2話 アンナさんと



 食事を食べ終わり、お茶を飲みながら明日の予定についてみんなに共有する。

「明日は、この村を人が住める状態にするため、色々と動いていければと考えているんだ。まずドロテアさんは、村作りを手伝てつだってほしい。あと、他のメンバーは周辺の魔物を狩ってくれるかな。安全を確保するために、近くの魔物を極力減らしておきたい。頼んだよ」

 ハルは面倒臭そうにしているが、それ以外特に反対らしきリアクションはない。
 少しして、ドロテアさんがニヤッとしながら口を開く。

「私はテンマと二人っきりで共同作業じゃな」

 その言い方はどうなんだ? なんて思いながらジト目を向けていると、ジジが聞いてくる。

「わ、私も狩りをするんですか?」
「ああ、ごめん、ジジとアンナさんはどこ研でいつものように過ごしていてくれ。ピピはどうする?」
「私はミーシャお姉ちゃんと師匠ししょうと一緒に行く!」

 え~と、いつからバルドーさんを『師匠』と呼ぶようになったのかな?
 そんな疑問が浮かぶが、別に今聞くべきことでもない。俺は「そっか、気を付けてね」とピピに言ってから、改めてみんなの顔を見回す。

「まあ、今日はゆっくり休んでくれ。ああ、それとアンナさんは少し話があるから一緒に来てくれないかな?」

 アンナさんとは一度きちんと話をしないといけないと思っていた。
 警戒され、にらまれ続けるのは、正直つらい!
 っていうかそもそも、そうされる理由に心当たりがないし。

「テンマ、夜伽よとぎなら私が先じゃぞ!」

 相も変わらずのドロテアぶしである。
 はあ、なんで夜伽の話になるのやら……あれ、なんかみんな俺を見ている?
 もしかして俺がアンナさんにそんなことをすると思っているのだろうか。
 少々げんなりしながら、俺は言う。

「アンナさんとは、ただ話をするだけですよ」
「なら、ここで話せばよいではないか?」

 ドロテアさんはそう言うが、テラス様の話なんか、ここで出来るかぁー!
 それになんでアンナさんが睨んでくるんだ!! 誰のために気をつかっていると――
 バンッ!
 俺は手の平をテーブルに打ち付けた。

「なんでお前がそんな顔で、俺を睨むんだ!」

 俺はアンナさんを睨みつけながら、怒りをぶつける。
 彼女はくやしそうに下唇したくちびるみしめながら、頭を下げてきた。

「申し訳ありません」
「私が余計なことを言ったのじゃ。すまん」

 ドロテアさんがしおらしく謝ってきたが、今彼女は悪くない。

「これはアンナさんと俺の話です。口出しはやめてください!」

 めずらしくドロテアさんがあせっている。
 しかし俺の怒りの原因であるアンナさんは、まだ俺を睨んできやがる。

「ふぅ~、分かったよ」

 俺が冷静になったと思ったのか、みんなホッとした表情になった。

「頼まれごとだからってアンナさんを連れてきたけど、我慢がまんの限界だ! ここで別れよう。それで良いな?」

 すると、アンナさんはようやく焦ったように謝ってくる。

「そ、それはこまります! どうか、どうかお許しください!」
「テンマ、私が悪かったのじゃ。アンナを――」
「俺は何と言いました?」

 ドロテアさんの話をさえぎるようにして、俺はたずねた。
 さっきこの話には首を突っ込むなとくぎしたばかりなのに、なんで分からないんだ。
 しかし、尚もドロテアさんが何か言おうとするので、俺は語気を強くして言う。

「これ以上口を出すなら、ドロテアさんともお別れです」

 冗談ではないと分かったのか、ドロテアさんはつばみ、だまり込んだ。
 俺はそれを確認してから、アンナさんに向き直る。

「別に俺を好きになれとは言いませんが、理由も分からず睨まれるのは納得出来ないし、これからもずっと一緒に行動するのは辛いです。せめて理由を聞いて解決出来ればと思ったんですが、そんな俺を、あなたは睨んでくるんですね?」
「そ、それは――」
「話し合いすら成立しない相手と一緒に行動出来ない。これが俺の結論です!」
「ま、待って――」
「ああ、言い忘れてました。さすがになんのケアもなく放り出さないので、安心してください。ロンダの町で生活出来るようにアルベルトさんに頼むつもりです。ロンダへも送っていきますし」
「お願いします。あの方におしかりを受けてしまいます。どうか、どうか!」

 アンナさんはそう言いながら、土下座どげざする。
 しかし、『分かればいいんです。それじゃあ一緒に旅をしましょう』とはならない。

「あのお方が誰を指すのかは分かりませんが、その人は俺に嫌がらせをしろと言ったんですか?」
「いえ、そのようなことは……」

 アンナさんは消え入るような声でそう答えた。
 俺は怒鳴どなる。

「だったらなんで俺を睨むんだよ!」

 すると、意外なところから声が上がる。

「テ、テンマ様! 私はその理由について、聞いています」

 えっ、ジジが理由を知っているの!?
 俺がおどろいて振り返ると、ジジは続ける。

契約けいやく魔法か隷属れいぞく魔法みたいなものの影響で、アンナさんはテンマ様に逆らえないんだそうです。それで……無理やりエッチなことをされるのではと、こわがっているようでした」

 はあ~、何それ。俺がそんなことをすると思っていたのかよ!

「俺は無理やり女性にそんなことをするような人間じゃない!」
「はい、私もそう説明したのですが……」

 申し訳なさそうに言うジジに続いて、アンナさんは不貞腐ふてくされたような態度で口を開く。

「だって……だって、最初は私の同行を断ったのに、性奴隷にして構わないと言われてすぐに受け入れたから……」

 確かに性奴隷の話が出て、アンナさんをじっくり足元から頭の先までじっくりと見て……そのあとに受け入れたのは確かだ。
 でも性奴隷にしようと思って受け入れたわけじゃなくて、偶然ぐうぜんで……。

「い、いや、それは勘違いだよ! 断ったらまずいと言われたから……」

 あ、あれ? みんなの視線が冷たい気がするぅ。
 アンナさんは涙目なみだめで叫ぶ。

「好きに命令して良いと言われて、態度がまるっきり変わったじゃない!」

 俺が悪かったのぉーーー!
 みんなの視線が冷たい。言い訳を、言い訳を……。

「ごめんなさい」

 謝るしかなかった。でもせめて俺の言い分も聞いてほしい。

「でも、でも、でも、男なら綺麗きれいな女性がいたら無意識に見ちゃうし、無理やりエッチなことをしようとは思ってないし、そんな勇気なんかないし…………でも、ごめんなさい」

 先ほどまでいだいていた怒りは霧散むさんした。
 どころか、悲しい男のさがと無理やり向き合わされ、落ち込んでしまう。

「テンマよ、だから私がその思いのたけを受け止めてやるのじゃ」

 今はそんなドロテアさんのおふざけ発言が刺さってしまう。
 くっ、殺してくれぇーーーーー!
 内心泣きそうになっていると、アンナさんが言う。

「いえ、中途半端な気持ちでテンマ様につぐなおうと思っていた私が悪いのです。でも……決心がつくまで、もう少し、もう少しだけお待ちください!」

 いやいやいや、そんな決心しなくて良いからぁ。
 ほら、ジジが目に涙をめちゃってるじゃん。

「アンナ、安心するが良い! 私が一手に引き受けるのじゃ!」
「そんなのはダメです! そ、そ、それなら、わ、わ、私が……」

 ドロテアさんに続いてジジも気を遣って名乗り出ようとしてくれているみたいだが、頭から湯気ゆげが出そうなくらい顔が真っ赤になっている。

「なんでしたら、私も一肌ひとはだ脱ぎましょうか?」

 バルドーさーーーーん! そ・れ・は・マジでりませんからぁ!
 収拾が付かなくなってしまったので、「とりあえず解散!」とだけげて、シルと一緒に逃げるように自室に向かう俺だった。


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