転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

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4巻

4-2

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 ……よし、捕獲ほかく出来た。
 光ってはいるが、熱を持っているわけではないんだな。
 ピクシードラゴンはじたばたと暴れながら――

『放しなさい、人間のクセに生意気よ!』

 えっ、えええっ!
 げ出そうと手の中で暴れるピクシードラゴンが念話を使ってきたので、俺は驚いてしまう。

『え~と、会話出来るのかな?』

 俺がそう念話で返すと、ピクシードラゴンは暴れるのを止め、俺の目を見て言う。

『あら、念話が使えるのね。それにしても、レディーを乱暴に扱うのは失礼よ』

 確かにそうかもしれないが……レディーって誰のこと?

『でも、放したらまた体当たりしてくるだろ?』
『だって、私の森の木を勝手に切ったじゃない!』

 あぁ、この森には所有者がいたのか。それは俺が悪い。
 頭を下げる。

『それはすまない。まさかこの森が誰かのものだとは思わなかったんだ』
あやまってむ問題じゃないわ!』
『それはそうかもしれないけど……じゃあ、どうすれば良いかな?』
『死んでびなさい!』

 さすがにそれはきびしすぎるだろ……。
 俺は顔をしかめる。

『さすがに死ぬのは勘弁かんべんかな。そのつもりで攻撃してくるなら、反撃するしかないよ』
『開き直るの!? これだから人族は信用出来ないのよ!』

 そう言うお前は、ドラゴンのクセに随分ずいぶん人間くさい反応をするよな……。
 とは思うが、一旦それは呑み込み、言う。

『ごめん、さすがに死にたくない。そうなると君のことをキュッと殺すしかないよね』
『ま、待ちなさいよ! 私は人族を救った勇者タケルと一緒に魔王を倒した英雄なのよ!』

 俺は首を傾げる。

『それって誰? 有名人?』
『はぁぁぁぁぁ!? 世界を救った勇者のことを忘れるなんて! これだから人族は!』

 世界を救った? いつの話? みんな知ってるの?
 ぶっちゃけ俺は最近転生してきたので、そういったこの世界の常識にうといところがある。
 とはいえ、なんだかそれをこうも強く言われると不快だな……。

『うん、知らない。そんなことより、死にたくないから──』

 声から不機嫌ふきげんさを感じ取ったのか、ピクシードラゴンは俺の言葉をさえぎるように言う。

『待ちなさい! そ、それなら、美味おいしい物を食べさせてくれたら、ゆ、許してあげるわ!』

 そんなことで許してくれるのかよ!?

『本当だろうね? 手を放しても攻撃しない?』

 驚くほど目がおよいでる。
 人間臭い反応だなぁ。
 そう思いながらも、俺は声を低める。

『もし、攻撃してきたら、プチッとしちゃうよ』
『し、しないわよ!』

 怪しいが、これ以上追及しても無意味なので、話を進めることにしよう。

『それで、何が食べたいのかな?』
『そうね~唐揚げにポテトチップス、プリンも食べたいわ。それ以外はダメよ。用意出来なければ……死んで詫びなさい!』

 得意気に言うピクシードラゴンを見て、『なんでそんな食べ物を知っているんだ?』と首を傾げる俺。
 唐揚げはこの世界にあっても不思議ふしぎではないけど、ポテトチップスとプリンはいくらなんでも現代的すぎるだろ!
 もしかして勇者タケルって、転生者なのか!?
 そんなふうに驚く俺を見て、困っていると思ったのだろう。
 ピクシードラゴンは『フフフ、用意出来るかしら?』なんて言いながら、ほくそ笑んでいる。
 俺は、飄々ひょうひょうと言う。

『用意出来るよ。ホロホロ鳥の唐揚げで良いかな?』
『えっ、用意出来るの。本当に? まさかプリンも!?』

 おお、驚きより喜びがまさったのか。
 目がキラキラしている。

『あ~でも……』
『何、出来ないの? 期待させておいて用意出来ないって言うの!?』

 俺は少しめて、言う。

『プリンは、砂糖さとうじゃなくてハニービーの蜂蜜はちみつを使った奴しか作れないんだよね』
『ハ、ハニービーの蜂蜜!?』

 ピクシードラゴンの言葉に、うなずく。

生憎あいにく、砂糖は見つけられていなくてね。だけど、ハニービーの蜂蜜はちみつを使ったプリンは絶品だ。蜂蜜のあまーい香りが、口の中で広がる感じが最高なんだよ』

 ピクシードラゴンさんや、よだれが手にれてますがな。
 慌てて涎をいてから、ピクシードラゴンはそっぽを向く。

『し、仕方がないわね。そ、それで我慢がまんしてあげるわ!』

 そう言ってピクシードラゴンは光るのをやめた。
 光が収まると、体の色がピンクだと分かる。
 手を放すと、その場で……羽ばたくことなく浮いているだと!?
 フライみたいな魔法を使っているのかな?
 そしてピクシードラゴンは約束通り攻撃してくることはなく……というより、涎を垂らしながら催促さいそくするような目でこちらを見てくる。
 俺がルームを開くと、ピクシードラゴンは当然のように肩に乗ってきた。
 ルームは、自分専用の亜空間を生み出すことが出来る生活魔法の一種だ。
 その中にはこれまで得た物資をため込んでいる他、居住スペースもある。
 俺にれている状態でないと他の人はルームに入れない仕様になっているのだが、それを知っているということだろうか……。
 そう考えていると、ピクシードラゴンはえらそうに言う。

『あら、ルームが使えるのね』

 むしろこちらからすると、なぜピクシードラゴンがルームを知っているのかと問いたいところだが、それより気になることがある。
 肩に涎が付いて不快なのだ。
 いち早く肩の上から退いてもらうために、俺は足早にダイニングに向かう。
 そして、収納空間からテーブルの上にホロホロ鳥の唐揚げを出してやる。
 ピクシードラゴンは肩から飛び降りてテーブルに座り、ジッと俺を見てきた。
 ……待てをしてるのか?
 しかし、食べるようにうながしても、こちらを見てくるのみだ。
 これまでの人間らしいいから『もしかして……』と思い、フォークを出してみる。
 すると、ピクシードラゴンはフォークを俺から奪うように掴み、唐揚げを食べ始めた。
 待てじゃなくて、フォークを待っていたのか……。
 あまりの人間臭さに驚きながらフライドポテトやスープ、パン、そしてスプーンやナイフ、マヨネーズやケチャップなんかも出してやった。
 ピクシードラゴンは、やはり普通に食器を使いながら食事する。
 驚きながらも果物のジュースやブルーカウのミルクが入った瓶と、コップを出す。
 すると、飲み物もしっかりコップに注いだ上で飲んでいるではないか。
 中に人間が入っている着ぐるみ?
 もちろんそんなことはないはずだが、そう思ってしまうくらい人間みたいな奴だ。
 結局、三回も唐揚げをお代わりして、ピクシードラゴンはやっと満足した。


 ただ、お目当てのデザートは別腹らしい。
 食事が終わったのを見計らってプリンを出してやると、あっという間に平らげ、お代わりをしてきた。
 結局それも一回では終わらず……結局お代わりの回数は五回。
 しかも、ピクシードラゴンはそれでもまだ食べることをやめない。
 リビングに移動してポテトチップスを出してやると、ピクシードラゴンはソファに座り、嬉しそうにつまみ始めた。
 驚くべき食欲だな……。




 第3話 苦渋くじゅうの決断



 折角せっかくなのでピクシードラゴンに色々と話を聞きたい。
 勇者のこともだし、なぜプリンを知っているのかも気になる。
 どう切り出そうか悩みつつ、ピクシードラゴンの横にこしを下ろすと――

『ねえ、あなた。名前は?』

 俺が質問するよりも先に質問してきた。
 言われてみれば、お互い名乗っていなかったな。

『俺はテンマだ』
『テンマか、ふ~ん』

 ふ~んて! 普通人に名前を聞いたら、その後に自分も名前を名乗るものだろうがぁ!
 絶句する俺を前に、ピクシードラゴンは質問してくる。

『ねえテンマ、最近の人族はプリンとかポテトチップスとかを、普通に食べているの?』

 え、マジで名乗らない感じ?
 そう思って固まる俺に対して、ピクシードラゴンはいらついたように言う。

『ねえ、質問してるでしょ。答えなさいよ!』
『なあ、相手に名前を聞いといて、自分は名乗らないのか?』
『えっ』

 ピクシードラゴンは、固まった。
 俺は重ねて問う。

『名前のない種族なのか? それとも名乗れない理由でもあるのか?』
『あっ!』
『俺は約束を守ったし、木を切ったことはチャラだろ? これから用事もあるし、相手に名前を聞いておいて自分は名乗らないで怒鳴どなるような失礼な奴にく時間なんてないんだ。もう帰ってくれ!』

 そう言ってから立ち上がると、ピクシードラゴンが服のすそを掴んでくる。

『ハルでしゅ』

 えっ、ハルデシュさん? まさかんだ!?
 俺はニヤニヤしながら聞き返す。

『ハルデシュさんですか、ハルさんですか?』

 体がいピンク色になった。
 れてる? 怒ってる?
 そう思って返答を待っていると、ピクシードラゴンは勢い込んで言う。

『ハルよ! 名乗るのが久し振りだったから、噛んじゃっただけじゃない!』

 怒っているようなセリフだが、声に照れが見えるな。
 俺はニヤニヤしながらそう分析しつつ、右手を差し出す。

『よろしくな、ハル』

 するとピクシードラゴン――もといハルの体が、少し赤みがかる。

『ちょっ、ちょっとぉ、年上のレディーに向かって呼び捨ては失礼よ!』
『う~ん、確かに三千歳以上年上の相手だから失礼なのかな? でも種族も違うし、可愛かわいらしいから呼び捨ての方が――』

 ハルは、少し嬉しそうに体を揺らす。

『可愛らしいって……てか、なんで歳を知っているのよ!』
『いや、鑑定で分かるでしょ』
『勝手にレディーの秘密ひみつを見たのね! ま、まさか、スリーサイズまで!?』

 えええっ、鑑定でスリーサイズ分かるの? ……いや、そんなわけあるかぁ!

『それはさすがにネタだよね? スリーサイズは鑑定で分からないし』
『スリーサイズっていう概念がいねんを知っているってことは……あなた転生者ね!』

 びしっとポーズを決めつつ指差してきたけど、別に隠していないんだよな。

『うん、転生者だけど……』

 あっさり認めると、呆れたようにハルが溜息ためいきを吐く。

『そこは「なんで分かったんですか!?」とか、「バレてしまったら仕方がない!」とか、お決まりのセリフを返すところじゃないの?』

 そんなこと言われても……。
 想像以上に面倒臭い奴だ。
 そう思っていると、ハルが半眼を向けてくる。

『今、面倒臭い奴だと思ったでしょ?』
『思っているけど……?』
『私の扱いがひどい! 転生者に会ったのは久しぶりなのよ! もう少し優しくしてくれてもいいじゃないの!』

 おお、ピクシードラゴンもほほふくらませることが出来るんだな。
 そう感心はするが、地球由来の面倒臭い反応に付き合うのにも段々つかれてきた。
 まぁ、どうしてもハルに話を聞きたくなったらまた会いに来ればいいし、今日は帰ってもらうか。

『う~ん、色々聞きたいことはあるけど、これからやらなければならないこともあるし、また今度ゆっくり森に遊びに来るよ』
『それなら、しばらくはあなたについていってあげるわ。色々教えてあげるから、三食昼寝付きで手を打って――』

 俺はハルの言葉を遮るように、勢いよく頭を下げる。

『ごめん! 無理!』

 ただでさえ俺は今、家に居場所がないのだ。
 もうこれ以上、厄介やっかいものを抱えたくない!
 そんなわけでお断りさせていただこうと思ったのだが、ハルは不機嫌そうだ。

『少しくらい考えてくれてもいいじゃない!』

 プリプリ怒るハルを少し可愛いと思ってしまうが、それはダメだ。
 なぜなら――

『希少なピクシードラゴンを連れて、町に戻れるわけないだろ?』
『ふふふっ、それは問題ないわよ。これでどうかしら?』

 ハルは腰に手を当てポーズを決めている。
 え、何も変わっていないけど?
 俺は首を傾げてハルに聞く。

『え~と、それは何をしているのかな?』

 ハルは、驚きの表情を浮かべる。

『わ、私のこと見えてるの? うそでしょ!?』
『えっ、見えているけど……?』

 俺の言葉を聞いて、ハルはソファにして、小さな拳を叩きつける。

『わ、私の姿隠しスキルが看破かんぱされるなんて……』

 あぁ、鑑定したときに、そんなスキル名が書いてあったな。
『ピクシー』という名が付くぐらいだから、そういったスキルを持っていても不思議じゃないか。
 俺には効果がなかったわけだが。
 ソファでうな垂れているハルの肩に手を置いて、はげましてやる。

『気にするな。俺はレベルが高いからかなかっただけだよ』
『そ、そうよね。あんた転生者だもんね。仕方ないわよね! タケル達にも私のスキルは通じなかったし』

 ハルはそこで言葉を切り、仕切り直すように咳払いして、言う。

『そんなわけで、私は姿隠しスキルを持っているから、転生者以外には気付かれないわ。一緒についていっても問題ないはずよ』
『ごめんなさい!』
『がーん!』

 いま普通に『がーん!』って言った? 地球にもそんな奴いねぇよ。

『なんでよ~?』

 食い下がってくるハルに、俺は後ずさりしながら答える。

『ハルとは、たまーーーに会うぐらいが、ちょうど良いかな』

 するとハルは突然俺に突進し、抱きついてきた。
 そして俺の胸に顔を擦り付けながら訴えてくる。

『なんでも教えてあげるしなんでもするから、一日一回プリンを食べさせてほしいの! テンマー! お願いよぉぉぉぉぉ!!』

 今気付いたが、ハルはドロテアさんに似ている。
 危険な臭いがプンプンだ。
 それに……ハルは絶妙に大きすぎて、可愛くない!
 たまに仕草しぐさが可愛いと思いそうになるが、それは幻想だ!
 というわけで、もう関わるのはやめよう。

『じゃあ素材採取があるので、俺は行くよ。ハルも元気でね』
『チッ』

 ハルは舌打ちして、胸元から離れた。
 演技だったのか……。

『仕方ないわね。でも、たまには遊びに来なさいよ!』

 はい、用事があるとき以外は来ません。
 心の中で、そう返事をする俺だった。


 ハルと一緒にルームを出た。
 すると、ハルは優しい口調で言う。

『気を付けて帰りなさいよ。帰りに怪我けがしたり死んだりしたら嫌だからね』

 心底心配しているふうだが、先ほどの舌打ちを忘れる俺ではない。
 どうせ好感度をかせいで、プリンを作ってもらおうって腹だろう。
 ……っていうか死ぬとか縁起えんぎの悪いことを言うんじゃない!

『ハルも元気でな。体には気を付けてくれよ』

 ふふふっ、俺も少しずつ成長しているなぁ。
 気持ちとは裏腹に、慈愛じあいの表情を自然に出せた。


 こうして俺はハルと別れた。
 ようやく一人になれたので、フライでロンダに戻るついでに素材を探す。
 少しして、グレートボアを三頭発見した。

『グレートボアを使えば、極上のとんかつが作れると思うわよ』
『そうだなぁ、三頭も狩れれば、しばらくはボア肉に困らない』

 ……ってちょっと待て。
 なぜハルは俺の隣で、涎を垂らしている。

『ハルさんや』
『何かな? テンマさんや』
『なぜ一緒にいるのかな?』
『念話で意思疎通いしそつう出来るし、プリンも作れる。そんな相手をのがすなんて、あり得ないでしょ』

 ハルは得意気な顔でそう言ってのけた。
 俺は半眼を向ける。

『プリンは作れるけど、ハルに食べさせる理由はないよね?』
『それがあるのよ。私はカカオやコーヒー、そしてバニラを収穫出来る場所を知っているのよ。ああ、それに胡椒こしょうなどの香辛料こうしんりょうもね。それ以外にも、テンマが欲しがりそうな食材がある場所に関する知識だって持っていると思うわ。たぶんテンマがイチから見つけようとしたら、何年もかかるでしょうね』

 思わずだまってしまう。
 そ、その情報は欲しいなぁ~!
 たぶん、勇者と一緒に見つけ出した食材に関する情報なのだろう。
 ラインナップを聞くに、彼はきっと俺と同じ世界か、似た世界から来たんだろうな。
 俺は交渉に入る。

『……プリンを毎日食べさせるのは無理だ。五日に一回が妥当だろう』
『さすがにそれじゃあ少なすぎるわよ。そうね……最低でも、二日に一回は出してちょうだい』
『じゃあプリンは五日に一回出す。それに加えて五日に一回、他のデザートも出すっていうのはどうだ?』
『うーん、四日に一回プリンと、別のデザート一種ならいいわ。どう?』
『……仕方ない。それで手を打とう』
『交渉成立ね』

 こうして、俺はハルと行動をともにすることになった。
 ドロテアさんが二人になるようなものなので苦渋くじゅうの決断ではあったが、食材の情報はそれ以上に大切だ。
 そう自分を納得させつつグレートボアを狩り、俺はハルと一緒に町に向かうのだった。





 第4話 ダンジョン



 町へと飛んでいる途中で、少し離れた場所に岩塩がんえんが採取出来る場所があるとハルが言い出した。
 岩塩は、この世界では貴重きちょう。折角だから採取することにした。
 それにもう日は暮れかかっているし、今日中に町に戻るのは難しいだろう。
 俺はジジに文字念話チャットでそのことを伝える。
 本来この世界において念話は一般的な魔術ではないが、俺は近しい人や、お世話になっている人に念話や収納などあらゆる便利な機能を付与したアクセサリーを渡している。
 それを使えば、離れた場所にいても意思疎通が出来るのだ。
 文字念話チャットを送ってすぐに、ジジから念話がかかってきた。

『テンマ様、帰ってこないのですか?』
『ああ、もう少し採取を続けたいから、今日はルームに泊まろうと考えているんだ。戻るのは明日の昼頃になる予定だよ』

 すると、ジジは不安そうな声で言う。

『本当に、本当ですよね!? まさかどこでも自宅に人が増えたから戻ってこないとかではないですよね?』

 どういうことだ?
 アルベルトさんに、邸宅を作る計画についてジジ達にも伝えるようにお願いしたはずだ。
 俺は少し不審に思いつつも、答える。

『そういうことではないよ。本当に採取が忙しいんだ』

 そんなタイミングで、ハルの声が割り込んでくる。

『ちょっとぉ~、岩塩があるのはこの辺りよ』
『ごめん。忙しいからまた連絡するよ』

 そう告げて、俺はジジとの念話を終えた。
 採取中に念話がかかってきたら集中出来ないので、文字念話チャットは受け取るが、念話を受けつけない設定にして、と。

「キュウ、キュッキュッキュッ、キューウ!」

 突然ハルが変な鳴き声を上げて体当たりをしてきた。
 なぜ念話を使わない!?
 ……あっ! 念話を受け付けなくしたから、ハルの言葉も届かなくなってしまったのか。
 慌ててハル以外の念話だけを拒否する設定に変更する。
 すると、ハルの怒鳴り声が頭の中に響く。


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