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3巻
3-2
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◇ ◇ ◇ ◇
訓練の後、みんなが家のテラスに集まってくる。
辛そうにテラスに上がってきたみんなを代表して、アーリンが口を開く。
「テンマ先生、朝からの訓練でポーションを飲みすぎて誰も昼食を食べられる状態ではありません。先にお風呂に入らせてもらえませんか?」
あ、ポーションの飲みすぎを考慮していなかった。
そういえば最近は昼食を一人で食べていたし、他のみんなが昼食をどうしているのか把握していないからすっかり忘れていた。
それなら先に新居のお風呂に入らせてあげよう。
「じゃあ、新しい家──どこでも自宅のお披露目を兼ねて、先にお風呂に案内するよ。ついてきて!」
俺は先頭に立ち、どこでも自宅の玄関に向かう。
家の名前はD研内にある自宅だからどこでも自宅、というシンプルな成り立ちだ。
どこでも自宅は滝の上部に架かる橋の上に立っている。
玄関の前に到着すると、みんなが驚いてくれるのを期待して振り返る。
そこには先ほどより辛そうにしているみんなの顔があった。
鑑定すると状態異常の表示はないので、単に訓練の疲れが出ているのだろう。
玄関の魔道具で個人を認証して、不審者が入らないようにしていると説明したところで誰も聞いてくれそうにないので、説明は後にする。
綺麗に装飾された大きな扉は、触れただけで左右に開いた。
これは前世の自動扉を参考にして作り上げた魔道具で、シルでも出入りできるように、スライドして開閉する扉だ。
みんなは辛そうにしながらも驚いている。
中に入ると、二階まで吹き抜けになっている広いホールがある。
正面にはリビングに向かう扉、左には二階に続く大きな階段が見えた。
お風呂は二階にあるので、階段を上る。
そして右に進むと、廊下がある。
右手にはいくつかの部屋の扉、左手には暖簾のある入口が二つ並ぶ。
俺は暖簾を指し示して言う。
「ここが新しい風呂だ。左が男性用、右が女性用だ。みんなはそちらから入ってくれ。どちらかの脱衣所に人が入ると、入った人が出てくるまでもう片方には入れないようになっている。浴場は男女共用だから、中で鉢合わせるのを防げるんだ」
これを搭載するか、作っているときに非常に悩んだ。
ラッキースケベが発生しなくなってしまうからな。
ただ、間違って領主の娘であるアーリンを相手にラッキースケベが発生してしまえば、厄介なことになりかねないと考え、そのリスクを排するのを優先した形だ。
「脱衣所がロックされる仕掛けを起動する前に少しの間だけ『女』のほうに入るけど、説明が終わったら俺はいなくなるから、ゆっくりとお風呂に入ってくれ」
俺はそう話すと「女」の暖簾を潜る。
まず脱衣所には五人座れる化粧台が作ってあり、大きな鏡がある。ドライヤーの魔道具も置いた。
できれば訓練のためにも、自分で生活魔術の一種であるブロウを使って髪を乾かしてほしいが、まだ全員上手く温風が出せないので仕方ない。
右手にはロッカーが並んでいるものの、それは飾りというか、雰囲気を出すためだ。
今いるメンバーは全員魔道具に服を収納できるので必要ないからな。
それだけではない。
日本の銭湯のように所々にテーブルセットや長椅子や、ドリンク専用の冷蔵庫も置いている。中には前世の牛乳瓶を模した瓶に入れたブルーカウの牛乳やフルーツ牛乳、様々な果物のジュースが入っている。
それらを一通り説明すると、俺は「そちらの扉から浴場に入れるから楽しんでくれ!」と言い残して、脱衣所を出ようとする。
しかし、後ろから服の裾を引っ張られた。
「テンマも一緒に入る。水着を着れば問題ない」
ミーシャさん、最近のあなたは素晴らしい!
「そ、そうか。確かに浴場の説明をしないと危ないかもなぁ」
俺はそう口にしつつ、みんなの様子を窺う。
ピピは嬉しそうに俺を見ていて、ジジは少し恥ずかしそうにしている。アーリンは気にした素振りもない。
俺は仕方ないなぁと言いながら、外に出て着替える。
そして女子の着替えを待って、浴場へ。
正面は一面ガラス張りになっており、川の上流側が一望できる。プールのような大きな湯船には、小さな滑り台が取り付けてある。また、その他にも様々なお風呂があるのだ。
シルが速攻で大きな湯船に飛び込むと、ピピがそれを追うようにひらひらとした飾りの付いた水着で走ってきた。
「お兄ちゃん、ここのお風呂すごい! シルと遊んでも大丈夫?」
「ああ、でも気を付けるんだよ」
ピピはすぐにシルのほうに向かっていく。
他のみんなは全員ワンピースタイプの水着を着用している。
一応ビキニタイプも渡していたのだが、この世界では受け入れられないのだろうか?
ジジは恥ずかしそうに俺を見ている。
おうふ、ジジはワンピースでもすごい!
訓練で少し筋肉が付いてきたようだ。
かつては胸は大きかったが、あまりいい物を食べられていなかったせいか、それ以外はどこか貧弱な感じでアンバランスなスタイルだった。
しかし今はいくらかバランスの取れたスタイルになり、破壊力が倍増している。
そしてアーリンは……年齢相応、って感じだな。
「まずはポーションを抜きたいよな?」
そう聞くとジジ、アーリン、ミーシャが頷いたのでスチームサウナに案内する。
「これはスチームサウナだ。蒸し風呂と言ったほうが分かるかな?」
するとアーリンが嬉しそうに答える。
「蒸し風呂は王宮にあると聞いただけで見たことがありませんでした。それがこれですか!?」
確かにこの世界の文明の水準を考えると、サウナが一般に普及しているとは思えない。むしろ王宮にあるだけすごいのかもしれない。
俺は頷いてから答える。
「そうだ。汗が大量に出るから、ここでポーションの水分をしっかり抜くことができる」
それを聞いた三人は喜んで中に入っていく。
俺は彼女達を見送ってからシルとピピのもとへ。
滑り台で遊んだりプカプカ浮いたりしながら風呂を堪能した。
五分ほどするとサウナに入っていた三人が出てきて、汗を流してから湯船に浸かる。
それからしばらくのんびりした時間を過ごし、俺はシルとピピとともに一足先に風呂を出た。
シルをモフモフになるまでブラッシングしてから、廊下でみんなが出てくるのを待つ。
風呂上がりのシルモフは至高の時間だな~!
ピピと一緒にシルモフしていたのだが、しばらくしても他の三人は出てこない。
女の子は何かと時間がかかるから仕方ないか。
それから一時間以上経った頃、三人は出てきた。
「テンマ様、お待たせしてすみません」
ジジは本当に申し訳なさそうに謝ってきたが、アーリンとミーシャは気にしていないようだ。
「それより部屋に案内するよ」
そう言って、階段から一番近い部屋の前に行く。
「ここはジジとピピの部屋だよ。他の人は承諾がないと入れない。ジジ、扉に魔力を流せば開くから、試してみてくれないか」
ジジに部屋を開けてもらう。
部屋にはソファや勉強用の机があり、奥には滝側の景色が一望できる大きな窓がある。
「そこの扉の中が寝室になっていて、収納と化粧台もあるよ」
ミーシャもアーリンもジジ達と部屋の中を確認している。ジジが一通り部屋を見て回ると、焦ったように戻ってくる。
「テンマ様、私達にこの部屋は贅沢すぎます!」
「気にしなくても良いよ。これからジジには頑張ってもらうから、部屋ではゆっくりしてほしいんだよ」
それでも申し訳なさそうにするジジは本当に良い子だ。
その後、ミーシャとアーリンも部屋に案内する。
こちらは一人用の部屋だからジジ達の部屋より少し狭いが、基本的には同じような作りになっている。
「一人で寝るのは寂しい」
ミーシャが突然そんなことを言いだした。
これまでは四人一緒の部屋で寝てたしなぁ。
「一番奥に広い部屋があるから使っても良いよ」
俺はそう言って廊下の突き当たりの部屋に案内する。
部屋の中の階段を上がると寝室があるのだが、そこにはキングサイズ二つ分くらいの大きなベッドが置いてある。
「この部屋は自由に使って構わない。一人になりたいときは自分の部屋で寝てもいいし、みんなで話しながら寝たいってことならこの部屋で一緒に寝ればいい」
ピピはベッドで飛び跳ねて遊んでいる。
ミーシャ達も布団の感触を確かめて、ご満悦のようだ。
それから俺らは部屋を出て一階へ下り、今度は玄関の向かいにある扉を開ける。
広いリビングにはソファやテーブルがいくつも置いてある。
また、滝側に大きな窓があり、横にある扉からテラスに出られるのだ。
そしてリビングを挟んで反対側には二十人ぐらいが一緒に食事をとれるダイニングや、大きなキッチンがあり、入口から一番遠い扉の奥は各種工房へと繋がる廊下になっている。
みんなは最初こそ驚いていたが、途中から何か諦めたような、呆れたような顔をしていた。
俺はどこでも自宅の説明をこう結ぶ。
「俺が作ろうと思っていた設備はほとんど作り終えたし、明日から俺も加わって本格的な訓練を始めよう!」
なぜか全員が目を見開いて驚いている。
まだ基礎訓練しかしていないんだけど、みんなの認識は違っていたってことかな?
すると、固まっていたアーリンが、慌てたように相談してくる。
「テ、テンマ先生、ほ、本格的な訓練をする前に、お願いがあるのですが?」
「んっ、何?」
「じ、実は四日後が私と大伯母様の誕生日なんです。貴族にとって十三歳の誕生日は特別で、大伯母様も六十歳という節目を迎えるので家で盛大に祝う予定なんです」
あぁ~、貴族だとそういうのがあるのか。
ドロテアさんには赤いちゃんちゃんこでもプレゼントしてあげようかな!
アーリンは続ける。
「それにジジも三日後に成人を迎えますし、ミーシャさんの誕生日も五日後です。できれば一緒にお祝いできないかな、と」
そうか、意外にみんなの誕生日って近いんだよな。それはしっかり祝ってあげないと!
「良い考えだね。主役なのに申し訳ないんだけど、日程とかはアーリンが調整してくれるかい? 家の都合とかもあるだろうし。本格的な訓練はその後で構わないよ」
そう言うと、アーリンは嬉しそうに頷く。
「ありがとうございます。それでは費用は出しますので、食材の用意をお願いしてもいいですか……?」
無料で良いと言うと怒られそうだな……。
「必要な食材の種類や量、金額もアーリンのほうで調整してくれたら調達するよ。ジジとミーシャの誕生日も兼ねているし、金額に関しては負担にならない範囲でアーリンが決めてくれると助かるな」
アーリンの表情を見ると、微笑んでいるので正解だったようだ。
「分かりました。お任せください」
こうしてどこでも自宅の紹介は終わった。
そしてその後、昼食兼夕食としてホロホロ鳥のフルコースを新しいテラスで食べたのだった。
第4話 エルビス商会の大失態
どこでも自宅のお披露目をした翌日。
俺らはアーリンの提案で、誕生日の準備をするためにロンダの町に行くことになった。
ミーシャとアーリンは冒険者ギルドの納品の際に来ていたが、ジジ達は俺に引き取られてから、初めて町に戻ることになる。
町に移動するのは午後からなので、俺は朝から食材を確保しに行っていた。
まずハニービーの巣に向かい、蜂蜜を採取する。
かれこれ蜂蜜の採取は三度目だ。
甘味は定期的に摂取したくなるし、それに冒険者ギルドにクッキーを差し入れていたからな。
……アーリンの怒り顔が過ったので、頭を横に振り、掻き消した。
そういえば、前回来たときにレッドベアが巣を襲っていたことを思い出す。
あのときは俺の蜂蜜を奪わせるものか! と衝動的に周辺のベア系魔物を殲滅してしまい、後で自分のお茶目? な行動に少し反省したのである。
今回はそんなこともなく、さくっと蜂蜜を回収して森の中にある草原へ向かう。
そこにはブルーカウが群れを作っている。
ブルーカウからは牛乳が採れるのだ。
俺は最初に群れを発見したときのことを思い出す。
嬉しさのあまりスタンで群れごと気絶させた俺は、倒れているとミルクを上手く採取できないことに気付き、土魔法で拘束してしぼるようにした。
しかし、群れのブルーカウからミルク採取していると、群れのリーダーは仲間を助けようと暴れてしまう。首や足から血が流れるのを見ているとさすがに可哀想で、回復魔法を使って怪我を回復しつつ作業を行うようになった。
だが三日に一度ミルクを採りに行く度に同じことを繰り返すので、いっそ討伐して食材として食べてしまうのも一案かと思い直す。
肉の付き方を確認するべくブルーカウリーダーの全身を触る。
ステーキも良いがやはりローストビーフのほうが良いかな……牛タンも美味しいだろうし、タンシチューも良いかも……と考えて正面に回り込んで舌を確認しようとする。
研修時代は牛系の料理にハマって毎食牛料理を堪能していた時期があるくらいには牛肉が好きな俺だが、この世界に来てから牛系の魔物は食べていない。
だから、頭の中は牛タンで一杯だった。
しかし、ふと異変に気付く。
ブルーカウリーダーはなぜか暴れるのをやめて怯えたような目をしているのだ。
どこかで見た覚えがあると思った瞬間に、ブルーカウリーダーと繋がった感覚があった。
またやってもうたー! シルを従魔にしたときの感覚と同じじゃん!
なんて思うがもう遅い。
ブルーカウリーダーの鑑定をすると称号の欄に『テンマの従魔』が追加されていた。
俺は投げやり気味にブルと命名する他ない。
ただ、それ以降は拘束せずともブルが他のブルーカウに命令し、順番にミルクを採取させてくれたので、結果オーライではあるのか……?
そんなことを思い出しながら草原に到着すると、ブルがこちらに走ってくる。
ワンボックスカー並みの巨躯なので、地面が少し揺れている。
群れのブルーカウも後ろから付いてきている。
俺は群れを手の動きで制してから、言う。
「今日からお前達も一緒に暮らすぞ」
D研から出るときは最後にいた場所にしか出られないが、入る場合はどこでも扉を開ける。
俺はD研の扉を開いて、順番に中に入れていく。
シルが中で待っていて、ブルーカウ達を川の上流の草原に案内する手筈になっているのだ。
すでにブルとシルの顔合わせは済んでいる。
最初、シルが涎を垂らしてブルーカウの群れを見ていたので心配していたが、ブルが俺の従魔だと分かってからは、残念そうにしながらも仲良くしてくれている。
さて、移動しながらホロホロ鳥やフォレストボアも獲っていたおかげで、食材の準備は大体終わったから、いったんD研に戻るとするか。
ちなみにロンダの市場に初めて行ったときに購入したワイルドコッコの有精卵は魔力を与えてやると無事に孵化した。
しかし卵が産めるようになるまで最低でも半年かかるらしいので、D研内の森の中で放し飼いにしている。
普通は成長する前に森に放すと、他の魔物に捕食されるのでやめるように言われたが、他の魔物がいないD研内であれば問題ないはずだ。
どこでも自宅のほうへ戻る途中で、早めに訓練を終えたらしいアーリン達を見付けた。
「訓練はもう終わったんだね。これから町の近くまで移動するから、向こうに着いたらこっちに呼びに来るよ」
俺がそう声をかけると、アーリンが頷く。
「はい、私達はこれからお風呂に入って準備します。その間に移動してもらうことになるので、お手数をおかけしてしまいますが、すみません。その代わり、町に着いたら先生は家でゆっくりしていてください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
俺はジジの誕生日とミーシャの誕生日祝いに関する食事以外は、ほぼ何もせずどこでも自宅でゆっくりすると宣言しているのだ。
それからどこでも自宅へ向かう女子を見送ったタイミングでシルが戻ってきたので、一緒に町に向かうことにする。
◇ ◇ ◇ ◇
D研を出て散歩感覚で森の中をロンダの町に向かっていく中で、ホロホロ鳥を八羽ほど獲ることができた。
そしてロンダの町に近い場所まで到着する。
いつもならここら辺でD研から仲間を出すのだが、冒険者が何組もいるのが分かったので、少し戻ってみんなが風呂から出たのも確認して彼女達を呼ぶ。
「いつもの場所と違う?」
ミーシャはすぐに気が付いたようだ。
「いつもの場所に冒険者がいたから仕方なくね」
そう話すと彼女は納得したように頷いている。
アーリンは「そう言えば」と話し出す。
「ザンベルト大叔父様が、私達の誕生日を祝うために他領から人が来ると言ってました。それにテックスとして登録した内容について、大伯母様を色々な方が訪問しているようですわ」
知識の部屋にて俺は研修で得た知見を登録した。
その際にテックスという匿名で登録して、ドロテアさんを窓口に設定したんだよな。
ドロテアさんに押し付けて申し訳ないと思う気持ちと、計画通りになって良かったと思う気持ちがあり、少し複雑な気分だ。
そんなことを考えながらゆっくりと町へ向かって歩く途中、門の前に馬車がたくさん並んでいるのが見える。
普段はしていない検問までしているようだ。
近くまで行って並ぼうとしたが、アーリンに止められる。
「先生、私達は顔を知られていますので、並ばなくても大丈夫です」
俺らはその言葉に従う形で、並んでいる人達を横目に見ながら門に向かう。
しかし、途中で目つきの鋭い商人が声をかけてきた。
「そこの君、一緒にいる白いウルフは君の従魔かい?」
「ええ、そうですよ」
従魔のタグが見えていると思うし、聞くまでもないだろうに。
思わずそっけなく答えてしまう。
「ふむ……白い毛並みのウルフなんて見たことがない。その従魔の種族を教えてくれるかい?」
教えられるわけないだろう!
ギルマスのザンベルトさんから、シルの種族がシルバーウルフだと知られないようにしろと言われているんだ。
「すみません。教えることはできません」
そう答えると、護衛と思われるガラの悪そうな冒険者の男が口を挟む。
「おいおい、旦那が丁寧に聞いているのに、その返事はねえだろ!」
少し腹が立つが、揉め事は避けたい。
俺はちらりと視線を送り、言う。
「従魔の情報を聞くのはマナー違反のはずですが?」
ザンベルトさんからもシルの種族を聞いてくる人がいたら、そう答えるように言われていた。
「テイマーのガキが、生意気なことを言うんじゃねぇ!」
俺は馬鹿らしくなり、無視して歩き出す。
すると、商人は焦ったように俺の肩を掴む。
「ちょっと待ってくれないか? その従魔を金貨三枚で譲ってくれないかね?」
譲れ? 金貨三枚!?
大事な家族だぞ! 金で譲れるわけないだろうが!
訓練の後、みんなが家のテラスに集まってくる。
辛そうにテラスに上がってきたみんなを代表して、アーリンが口を開く。
「テンマ先生、朝からの訓練でポーションを飲みすぎて誰も昼食を食べられる状態ではありません。先にお風呂に入らせてもらえませんか?」
あ、ポーションの飲みすぎを考慮していなかった。
そういえば最近は昼食を一人で食べていたし、他のみんなが昼食をどうしているのか把握していないからすっかり忘れていた。
それなら先に新居のお風呂に入らせてあげよう。
「じゃあ、新しい家──どこでも自宅のお披露目を兼ねて、先にお風呂に案内するよ。ついてきて!」
俺は先頭に立ち、どこでも自宅の玄関に向かう。
家の名前はD研内にある自宅だからどこでも自宅、というシンプルな成り立ちだ。
どこでも自宅は滝の上部に架かる橋の上に立っている。
玄関の前に到着すると、みんなが驚いてくれるのを期待して振り返る。
そこには先ほどより辛そうにしているみんなの顔があった。
鑑定すると状態異常の表示はないので、単に訓練の疲れが出ているのだろう。
玄関の魔道具で個人を認証して、不審者が入らないようにしていると説明したところで誰も聞いてくれそうにないので、説明は後にする。
綺麗に装飾された大きな扉は、触れただけで左右に開いた。
これは前世の自動扉を参考にして作り上げた魔道具で、シルでも出入りできるように、スライドして開閉する扉だ。
みんなは辛そうにしながらも驚いている。
中に入ると、二階まで吹き抜けになっている広いホールがある。
正面にはリビングに向かう扉、左には二階に続く大きな階段が見えた。
お風呂は二階にあるので、階段を上る。
そして右に進むと、廊下がある。
右手にはいくつかの部屋の扉、左手には暖簾のある入口が二つ並ぶ。
俺は暖簾を指し示して言う。
「ここが新しい風呂だ。左が男性用、右が女性用だ。みんなはそちらから入ってくれ。どちらかの脱衣所に人が入ると、入った人が出てくるまでもう片方には入れないようになっている。浴場は男女共用だから、中で鉢合わせるのを防げるんだ」
これを搭載するか、作っているときに非常に悩んだ。
ラッキースケベが発生しなくなってしまうからな。
ただ、間違って領主の娘であるアーリンを相手にラッキースケベが発生してしまえば、厄介なことになりかねないと考え、そのリスクを排するのを優先した形だ。
「脱衣所がロックされる仕掛けを起動する前に少しの間だけ『女』のほうに入るけど、説明が終わったら俺はいなくなるから、ゆっくりとお風呂に入ってくれ」
俺はそう話すと「女」の暖簾を潜る。
まず脱衣所には五人座れる化粧台が作ってあり、大きな鏡がある。ドライヤーの魔道具も置いた。
できれば訓練のためにも、自分で生活魔術の一種であるブロウを使って髪を乾かしてほしいが、まだ全員上手く温風が出せないので仕方ない。
右手にはロッカーが並んでいるものの、それは飾りというか、雰囲気を出すためだ。
今いるメンバーは全員魔道具に服を収納できるので必要ないからな。
それだけではない。
日本の銭湯のように所々にテーブルセットや長椅子や、ドリンク専用の冷蔵庫も置いている。中には前世の牛乳瓶を模した瓶に入れたブルーカウの牛乳やフルーツ牛乳、様々な果物のジュースが入っている。
それらを一通り説明すると、俺は「そちらの扉から浴場に入れるから楽しんでくれ!」と言い残して、脱衣所を出ようとする。
しかし、後ろから服の裾を引っ張られた。
「テンマも一緒に入る。水着を着れば問題ない」
ミーシャさん、最近のあなたは素晴らしい!
「そ、そうか。確かに浴場の説明をしないと危ないかもなぁ」
俺はそう口にしつつ、みんなの様子を窺う。
ピピは嬉しそうに俺を見ていて、ジジは少し恥ずかしそうにしている。アーリンは気にした素振りもない。
俺は仕方ないなぁと言いながら、外に出て着替える。
そして女子の着替えを待って、浴場へ。
正面は一面ガラス張りになっており、川の上流側が一望できる。プールのような大きな湯船には、小さな滑り台が取り付けてある。また、その他にも様々なお風呂があるのだ。
シルが速攻で大きな湯船に飛び込むと、ピピがそれを追うようにひらひらとした飾りの付いた水着で走ってきた。
「お兄ちゃん、ここのお風呂すごい! シルと遊んでも大丈夫?」
「ああ、でも気を付けるんだよ」
ピピはすぐにシルのほうに向かっていく。
他のみんなは全員ワンピースタイプの水着を着用している。
一応ビキニタイプも渡していたのだが、この世界では受け入れられないのだろうか?
ジジは恥ずかしそうに俺を見ている。
おうふ、ジジはワンピースでもすごい!
訓練で少し筋肉が付いてきたようだ。
かつては胸は大きかったが、あまりいい物を食べられていなかったせいか、それ以外はどこか貧弱な感じでアンバランスなスタイルだった。
しかし今はいくらかバランスの取れたスタイルになり、破壊力が倍増している。
そしてアーリンは……年齢相応、って感じだな。
「まずはポーションを抜きたいよな?」
そう聞くとジジ、アーリン、ミーシャが頷いたのでスチームサウナに案内する。
「これはスチームサウナだ。蒸し風呂と言ったほうが分かるかな?」
するとアーリンが嬉しそうに答える。
「蒸し風呂は王宮にあると聞いただけで見たことがありませんでした。それがこれですか!?」
確かにこの世界の文明の水準を考えると、サウナが一般に普及しているとは思えない。むしろ王宮にあるだけすごいのかもしれない。
俺は頷いてから答える。
「そうだ。汗が大量に出るから、ここでポーションの水分をしっかり抜くことができる」
それを聞いた三人は喜んで中に入っていく。
俺は彼女達を見送ってからシルとピピのもとへ。
滑り台で遊んだりプカプカ浮いたりしながら風呂を堪能した。
五分ほどするとサウナに入っていた三人が出てきて、汗を流してから湯船に浸かる。
それからしばらくのんびりした時間を過ごし、俺はシルとピピとともに一足先に風呂を出た。
シルをモフモフになるまでブラッシングしてから、廊下でみんなが出てくるのを待つ。
風呂上がりのシルモフは至高の時間だな~!
ピピと一緒にシルモフしていたのだが、しばらくしても他の三人は出てこない。
女の子は何かと時間がかかるから仕方ないか。
それから一時間以上経った頃、三人は出てきた。
「テンマ様、お待たせしてすみません」
ジジは本当に申し訳なさそうに謝ってきたが、アーリンとミーシャは気にしていないようだ。
「それより部屋に案内するよ」
そう言って、階段から一番近い部屋の前に行く。
「ここはジジとピピの部屋だよ。他の人は承諾がないと入れない。ジジ、扉に魔力を流せば開くから、試してみてくれないか」
ジジに部屋を開けてもらう。
部屋にはソファや勉強用の机があり、奥には滝側の景色が一望できる大きな窓がある。
「そこの扉の中が寝室になっていて、収納と化粧台もあるよ」
ミーシャもアーリンもジジ達と部屋の中を確認している。ジジが一通り部屋を見て回ると、焦ったように戻ってくる。
「テンマ様、私達にこの部屋は贅沢すぎます!」
「気にしなくても良いよ。これからジジには頑張ってもらうから、部屋ではゆっくりしてほしいんだよ」
それでも申し訳なさそうにするジジは本当に良い子だ。
その後、ミーシャとアーリンも部屋に案内する。
こちらは一人用の部屋だからジジ達の部屋より少し狭いが、基本的には同じような作りになっている。
「一人で寝るのは寂しい」
ミーシャが突然そんなことを言いだした。
これまでは四人一緒の部屋で寝てたしなぁ。
「一番奥に広い部屋があるから使っても良いよ」
俺はそう言って廊下の突き当たりの部屋に案内する。
部屋の中の階段を上がると寝室があるのだが、そこにはキングサイズ二つ分くらいの大きなベッドが置いてある。
「この部屋は自由に使って構わない。一人になりたいときは自分の部屋で寝てもいいし、みんなで話しながら寝たいってことならこの部屋で一緒に寝ればいい」
ピピはベッドで飛び跳ねて遊んでいる。
ミーシャ達も布団の感触を確かめて、ご満悦のようだ。
それから俺らは部屋を出て一階へ下り、今度は玄関の向かいにある扉を開ける。
広いリビングにはソファやテーブルがいくつも置いてある。
また、滝側に大きな窓があり、横にある扉からテラスに出られるのだ。
そしてリビングを挟んで反対側には二十人ぐらいが一緒に食事をとれるダイニングや、大きなキッチンがあり、入口から一番遠い扉の奥は各種工房へと繋がる廊下になっている。
みんなは最初こそ驚いていたが、途中から何か諦めたような、呆れたような顔をしていた。
俺はどこでも自宅の説明をこう結ぶ。
「俺が作ろうと思っていた設備はほとんど作り終えたし、明日から俺も加わって本格的な訓練を始めよう!」
なぜか全員が目を見開いて驚いている。
まだ基礎訓練しかしていないんだけど、みんなの認識は違っていたってことかな?
すると、固まっていたアーリンが、慌てたように相談してくる。
「テ、テンマ先生、ほ、本格的な訓練をする前に、お願いがあるのですが?」
「んっ、何?」
「じ、実は四日後が私と大伯母様の誕生日なんです。貴族にとって十三歳の誕生日は特別で、大伯母様も六十歳という節目を迎えるので家で盛大に祝う予定なんです」
あぁ~、貴族だとそういうのがあるのか。
ドロテアさんには赤いちゃんちゃんこでもプレゼントしてあげようかな!
アーリンは続ける。
「それにジジも三日後に成人を迎えますし、ミーシャさんの誕生日も五日後です。できれば一緒にお祝いできないかな、と」
そうか、意外にみんなの誕生日って近いんだよな。それはしっかり祝ってあげないと!
「良い考えだね。主役なのに申し訳ないんだけど、日程とかはアーリンが調整してくれるかい? 家の都合とかもあるだろうし。本格的な訓練はその後で構わないよ」
そう言うと、アーリンは嬉しそうに頷く。
「ありがとうございます。それでは費用は出しますので、食材の用意をお願いしてもいいですか……?」
無料で良いと言うと怒られそうだな……。
「必要な食材の種類や量、金額もアーリンのほうで調整してくれたら調達するよ。ジジとミーシャの誕生日も兼ねているし、金額に関しては負担にならない範囲でアーリンが決めてくれると助かるな」
アーリンの表情を見ると、微笑んでいるので正解だったようだ。
「分かりました。お任せください」
こうしてどこでも自宅の紹介は終わった。
そしてその後、昼食兼夕食としてホロホロ鳥のフルコースを新しいテラスで食べたのだった。
第4話 エルビス商会の大失態
どこでも自宅のお披露目をした翌日。
俺らはアーリンの提案で、誕生日の準備をするためにロンダの町に行くことになった。
ミーシャとアーリンは冒険者ギルドの納品の際に来ていたが、ジジ達は俺に引き取られてから、初めて町に戻ることになる。
町に移動するのは午後からなので、俺は朝から食材を確保しに行っていた。
まずハニービーの巣に向かい、蜂蜜を採取する。
かれこれ蜂蜜の採取は三度目だ。
甘味は定期的に摂取したくなるし、それに冒険者ギルドにクッキーを差し入れていたからな。
……アーリンの怒り顔が過ったので、頭を横に振り、掻き消した。
そういえば、前回来たときにレッドベアが巣を襲っていたことを思い出す。
あのときは俺の蜂蜜を奪わせるものか! と衝動的に周辺のベア系魔物を殲滅してしまい、後で自分のお茶目? な行動に少し反省したのである。
今回はそんなこともなく、さくっと蜂蜜を回収して森の中にある草原へ向かう。
そこにはブルーカウが群れを作っている。
ブルーカウからは牛乳が採れるのだ。
俺は最初に群れを発見したときのことを思い出す。
嬉しさのあまりスタンで群れごと気絶させた俺は、倒れているとミルクを上手く採取できないことに気付き、土魔法で拘束してしぼるようにした。
しかし、群れのブルーカウからミルク採取していると、群れのリーダーは仲間を助けようと暴れてしまう。首や足から血が流れるのを見ているとさすがに可哀想で、回復魔法を使って怪我を回復しつつ作業を行うようになった。
だが三日に一度ミルクを採りに行く度に同じことを繰り返すので、いっそ討伐して食材として食べてしまうのも一案かと思い直す。
肉の付き方を確認するべくブルーカウリーダーの全身を触る。
ステーキも良いがやはりローストビーフのほうが良いかな……牛タンも美味しいだろうし、タンシチューも良いかも……と考えて正面に回り込んで舌を確認しようとする。
研修時代は牛系の料理にハマって毎食牛料理を堪能していた時期があるくらいには牛肉が好きな俺だが、この世界に来てから牛系の魔物は食べていない。
だから、頭の中は牛タンで一杯だった。
しかし、ふと異変に気付く。
ブルーカウリーダーはなぜか暴れるのをやめて怯えたような目をしているのだ。
どこかで見た覚えがあると思った瞬間に、ブルーカウリーダーと繋がった感覚があった。
またやってもうたー! シルを従魔にしたときの感覚と同じじゃん!
なんて思うがもう遅い。
ブルーカウリーダーの鑑定をすると称号の欄に『テンマの従魔』が追加されていた。
俺は投げやり気味にブルと命名する他ない。
ただ、それ以降は拘束せずともブルが他のブルーカウに命令し、順番にミルクを採取させてくれたので、結果オーライではあるのか……?
そんなことを思い出しながら草原に到着すると、ブルがこちらに走ってくる。
ワンボックスカー並みの巨躯なので、地面が少し揺れている。
群れのブルーカウも後ろから付いてきている。
俺は群れを手の動きで制してから、言う。
「今日からお前達も一緒に暮らすぞ」
D研から出るときは最後にいた場所にしか出られないが、入る場合はどこでも扉を開ける。
俺はD研の扉を開いて、順番に中に入れていく。
シルが中で待っていて、ブルーカウ達を川の上流の草原に案内する手筈になっているのだ。
すでにブルとシルの顔合わせは済んでいる。
最初、シルが涎を垂らしてブルーカウの群れを見ていたので心配していたが、ブルが俺の従魔だと分かってからは、残念そうにしながらも仲良くしてくれている。
さて、移動しながらホロホロ鳥やフォレストボアも獲っていたおかげで、食材の準備は大体終わったから、いったんD研に戻るとするか。
ちなみにロンダの市場に初めて行ったときに購入したワイルドコッコの有精卵は魔力を与えてやると無事に孵化した。
しかし卵が産めるようになるまで最低でも半年かかるらしいので、D研内の森の中で放し飼いにしている。
普通は成長する前に森に放すと、他の魔物に捕食されるのでやめるように言われたが、他の魔物がいないD研内であれば問題ないはずだ。
どこでも自宅のほうへ戻る途中で、早めに訓練を終えたらしいアーリン達を見付けた。
「訓練はもう終わったんだね。これから町の近くまで移動するから、向こうに着いたらこっちに呼びに来るよ」
俺がそう声をかけると、アーリンが頷く。
「はい、私達はこれからお風呂に入って準備します。その間に移動してもらうことになるので、お手数をおかけしてしまいますが、すみません。その代わり、町に着いたら先生は家でゆっくりしていてください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
俺はジジの誕生日とミーシャの誕生日祝いに関する食事以外は、ほぼ何もせずどこでも自宅でゆっくりすると宣言しているのだ。
それからどこでも自宅へ向かう女子を見送ったタイミングでシルが戻ってきたので、一緒に町に向かうことにする。
◇ ◇ ◇ ◇
D研を出て散歩感覚で森の中をロンダの町に向かっていく中で、ホロホロ鳥を八羽ほど獲ることができた。
そしてロンダの町に近い場所まで到着する。
いつもならここら辺でD研から仲間を出すのだが、冒険者が何組もいるのが分かったので、少し戻ってみんなが風呂から出たのも確認して彼女達を呼ぶ。
「いつもの場所と違う?」
ミーシャはすぐに気が付いたようだ。
「いつもの場所に冒険者がいたから仕方なくね」
そう話すと彼女は納得したように頷いている。
アーリンは「そう言えば」と話し出す。
「ザンベルト大叔父様が、私達の誕生日を祝うために他領から人が来ると言ってました。それにテックスとして登録した内容について、大伯母様を色々な方が訪問しているようですわ」
知識の部屋にて俺は研修で得た知見を登録した。
その際にテックスという匿名で登録して、ドロテアさんを窓口に設定したんだよな。
ドロテアさんに押し付けて申し訳ないと思う気持ちと、計画通りになって良かったと思う気持ちがあり、少し複雑な気分だ。
そんなことを考えながらゆっくりと町へ向かって歩く途中、門の前に馬車がたくさん並んでいるのが見える。
普段はしていない検問までしているようだ。
近くまで行って並ぼうとしたが、アーリンに止められる。
「先生、私達は顔を知られていますので、並ばなくても大丈夫です」
俺らはその言葉に従う形で、並んでいる人達を横目に見ながら門に向かう。
しかし、途中で目つきの鋭い商人が声をかけてきた。
「そこの君、一緒にいる白いウルフは君の従魔かい?」
「ええ、そうですよ」
従魔のタグが見えていると思うし、聞くまでもないだろうに。
思わずそっけなく答えてしまう。
「ふむ……白い毛並みのウルフなんて見たことがない。その従魔の種族を教えてくれるかい?」
教えられるわけないだろう!
ギルマスのザンベルトさんから、シルの種族がシルバーウルフだと知られないようにしろと言われているんだ。
「すみません。教えることはできません」
そう答えると、護衛と思われるガラの悪そうな冒険者の男が口を挟む。
「おいおい、旦那が丁寧に聞いているのに、その返事はねえだろ!」
少し腹が立つが、揉め事は避けたい。
俺はちらりと視線を送り、言う。
「従魔の情報を聞くのはマナー違反のはずですが?」
ザンベルトさんからもシルの種族を聞いてくる人がいたら、そう答えるように言われていた。
「テイマーのガキが、生意気なことを言うんじゃねぇ!」
俺は馬鹿らしくなり、無視して歩き出す。
すると、商人は焦ったように俺の肩を掴む。
「ちょっと待ってくれないか? その従魔を金貨三枚で譲ってくれないかね?」
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大事な家族だぞ! 金で譲れるわけないだろうが!
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