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3巻

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 第1話 研修成果



 俺、テンマは今、空間ごと複製できる空間魔術――ディメンションエリアを用いて生成したどこでも研修施設――どこ研内の仮設住居にて、みんなの夕飯を作っている。
 料理の最中ってつい考え事をしてしまうんだよな。
 俺はこれまでの出来事を振り返る。


 日本で三十三歳の時に命を落とした俺は、十四歳の少年の姿で異世界に転生させられることに。
 転生先で簡単に死なないように三ヶ月の研修を受けることになったのだが、ふたを開けてみればそれが終わったのはなんと十五年後。
 しかし、その中であらゆる工夫をしたおかげで、俺のステータスはなかなかチートなことになってしまった。
 研修後、俺が放り出されたのは、テラスという名前の世界にある辺鄙へんぴな村・開拓村の近く。
 右も左も分からぬ環境に戸惑ったが、開拓村は気のいい人ばかりで、素性すじょうの知れない俺にも良くしてくれた。
 そして一ヶ月半くらい村でのんびりした生活を送った後、そこで出会った狐獣人きつねじゅうじんの美少女であるミーシャと一緒に村を出て、冒険者として活動することになったのだ。
 俺はその後のめまぐるしい展開を思い出して、溜息ためいきを吐く。
 そう、開拓村を出て立ち寄った辺境の町、ロンダでは思いがけず大分目立ってしまっている。
 まず、偶然立ち寄った孤児院から錬金術の才能にけた少女であるジジをきたえるために雇い、その妹であるウサ耳幼女――ピピも養うことになった。
 これはいい。目立つようなことではないし、何より俺の意思で彼女達を迎え入れたからな。
 問題はそれ以外だ。
 国の中でも指折りの魔術師かつロンダの魔術ギルドのギルドマスターで、英雄とまで呼ばれるドロテアさんに、強く興味を持たれてしまったのが運の尽き。
 彼女の研究バカっぷりに振り回された挙句、ロンダの領主の娘であるアーリンの家庭教師まですることになってしまったのである。
 状況に流されすぎてしまったことに今更ながら後悔してみるが、もう遅い。
 ……とはいえ、この状況が最悪かと言えばそうでもない。
 これまでは自分とミーシャのデータしか取れなかったため、それ以外の種族・素質がどう成長できるのかを知れるのは願ってもないことだ。
 この世界には素質というものがあり、アルファベットで表示される。力の素質が高ければ力持ちになりやすく、魔術の素質が高ければ魔法系のスキルに秀でやすい、といった具合。
 またスキルごとにも素質がある。SSSが最大プラス補正。Cが補正なし。D、E、F、G、Hはマイナス補正で、Hが最大マイナス補正となる。補正が強いほどそのスキルは得やすいのだ。
 俺はどの分野も特化させず、バランスを重視する設定にしていて、すべてのスキル素質がC。だから、素質がCより上の人間は、俺より強くなる可能性を秘めていると言える。
 また、種族素質というものもある。
 種族素質は高ければ高いほど各能力値の初期値やスキル素質が高くなるのだ。
 俺は種族素質もCで、アーリンは俺と同じ人族だけど種族素質がS。
 彼女のような素質を持つ人物がこの世界にたくさんいるとなると、俺もうかうかしていられないが……現状それほど心配はしていない。
 なぜならこの世界の人々はそれほど育成方法に頓着とんちゃくしていないから。
 俺はまず各数値を育ててからレベルアップさせることで、より効率よく能力の上限を引き上げるような育成方法をとっているが、それをドロテアさんに伝えたところ、大層驚かれた。
 どうやらテラスで生きる者達は数値の上がり方を検証するというより、ただレベルアップにのみ注力しているらしい。育成においてその差は大きいと思う。


 現にアーリンとジジの育成を始めて十日経ったが、満足のいく研修結果が出ている。
 アーリンはともかくジジは錬金術と、そして料理の素質が高かったから勢いで雇っただけで、ミーシャほど急いで研修をさせる必要はない。
 体力の少ない彼女にはまず、人並み程度の体力をつけてもらおうと考えていたのだが、ジジはたった十日の研修で大人並みの体力や力をつけて、今では必ず料理の手伝いもしてくれる。
 しかし、不器用なのは変わらないので怪我けがすることも多い。
 今もジジは俺の隣で野菜を切ってくれているのだが――

「あっ! また指を切っちゃいました。えへへ」

 どうやらまた手をすべらせたようだ。
 って言うか、血がドバドバ出ているじゃん!

「ど、どうしよう。すぐに治療しないと!」

 俺が焦りながら言うと、ジジは首を傾げて不思議そうな顔で俺を見る。
 くぅ~、メガネっ姿も可愛いじゃねえか!
 そう、普段ジジは裸眼なのだが、料理や錬金術用に解析効果を付与したメガネを渡してある。今も料理中だからメガネをしており、普段と違った可愛さを感じる。
 ジジは一緒に生活するようになって食生活が充実したのか、徐々に顔色や肌艶はだつやまで健康的になっていた。それにより可愛らしさや女の子らしさが増して、ふとした拍子に俺はドキッとしてしまう。

「テンマ様は不思議ですね。訓練のときは平気で怪我させるのに、これぐらいで驚くなんて変ですよ。うふふふ」

 いや、確かにそうだけど……。
 研修の中には物理攻撃耐性スキルを取得させるために、わざと怪我をさせる訓練もある。
 でもジジは冒険者になるわけではないので、そこまでさせるつもりはない。アーリンも貴族のお嬢様で護衛もいるから、物理攻撃耐性スキルは必要ないと、俺はそもそも考えていたのだ。
 それなのに、研修にハマったミーシャが彼女達にもそういったトレーニングをするよう促したことで、結果全員がハードな訓練をする事態になっている。
 というのも、人が増えたので俺はどこ研内に本格的な自宅を早く作るため、その作業に専念していて、アーリンやジジの研修についてはある程度ミーシャに任せていたのだ。
 一日目は俺がざっくりと研修の説明をしつつしごき、翌日からは完全にミーシャが主導という流れである。
 そして三日目の夜に俺がミーシャに夜間訓練をつけようと訓練場所に行くと……そこには怪我をしたアーリンとジジ、そして仁王立ちするミーシャがいた。
 彼女は俺を見つけると得意気な表情で、「訓練において怪我させる必要性を自分で説明するのが難しいから、代わりに話してくれ」と言ってきたのである。
 いや、必要性を説く前に訓練に入るなよ……なんならアーリンやジジにそんな訓練は必要ないよ、なんて思いながらも、怪我することで物理攻撃耐性スキルが取得できることや、HPの大幅な減少によりHP最大値が増えることを説明した。
 アーリンやジジはつらそうにしながらも納得したようで、それから夜間訓練に当たり前に参加するようになったのだ。
 ジジは落ち着いた表情で収納から回復ポーションを出し、指にかける。
 すぐに傷は治ったが、俺はいたわりの言葉をかける。

「慌てる必要はないから、怪我しないようにゆっくりと野菜を切るんだよ!」
「はい!」

 ジジは元気よく返事をすると、たどたどしい手つきで再び野菜を切り始めた。
 それを見ながら、俺がジジに野菜の切り方を上手く伝えられていれば……と落ち込む。
 とはいえ前世からボッチで、女の子とのコミュニケーションスキルが皆無な自分にはこくな話だな、と思ってしまうけれど。
 そうそう、ピピからも四日目に参加したいとお願いされて、今では彼女も研修に加わっている。
 正直俺としては、研修は大変だからピピには子供らしく遊んでいてほしいという心持ちだった。
 だからやんわりと断ろうとしたんだけど……鑑定してみると、ピピは従魔のシルバーウルフであるシルと毎日のように走り回って遊んでいることで、各種能力値やスキルまで取得していたのである。これは人族ではありえないことだ。
 遊びの延長のような形なら良いかと思い、参加させることにした。
 ……仲間外れにされているように思ってしまったなら可哀想だしね。
 それから数日、ピピのステータスの変化を観察しているんだが、ミーシャの研修結果と合わせて考えると、種族によって成長の仕方が違うことが分かった。
 まず能力値の『力』のステータスの上昇率は俺、ミーシャ、ピピのような順だ。
 つまり狐獣人のミーシャや兎獣人うさぎじゅうじんのピピは人族より力がつきにくいのだと分かる。
 逆に能力値の『素早さ』の成長の仕方はピピ、ミーシャ、俺と逆の結果になる。
 スキルに関しては、ミーシャやピピは気配遮断や気配察知などを早く取得できた。
 狐獣人は静かに忍び寄って獲物をしとめるような戦い方が最も適した種族特性タイプで、兎獣人は逃げ足の速さや気配を消すことに長けているので、ヒットアンドアウェイが得意な種族特性タイプだと考えられる。
 まだ検証例が少ないので推測にはなるが、種族によって得手不得手に関するある程度の傾向が見られると考えて良さそうだ。
 そんなこともあって、今は俺としてもピピの研修に関してはちょっと乗り気になってしまっている。
 とはいえさすがにポーションを調合して作った専用のドーピング薬を作って渡すのみで、毒薬と麻痺薬は渡してはいないし、直接指導もしていないけど。

「……よし、上手くできたな!」

 そこまで考えたタイミングで夕飯が完成したので、俺はジジと料理を食卓に運ぶのだった。




 第2話 俺が元凶なの?



 翌日、今日も朝から家の建設をしていると、アーリンが近づいてきた。
 彼女は年齢的にはミーシャやジジより年下だけど、貴族家のお嬢様でしっかりしているから自然に女子のまとめ役になった。
 訓練の手順やお風呂に入る時間まで、アーリンが全員の予定を管理して、シルの食事に関してもピピに指示を出している。
 そのおかげで俺は夜間訓練だけ参加すれば良いので、正直助かっているのだが……。

「テンマ先生、お話があるのですがよろしいでしょうか?」

 アーリンがなんとなく怒っているような気がする。
 しかし、俺には怒られることをした記憶はない。

「あ、ああ、大丈夫だよ」

 つい口ごもりながらもそう答えると、アーリンは真剣な表情で話を始める。

「テンマ先生は素晴すばらしい能力と知識をお持ちだと、私は思っています」
「あ、ありがとう」

 められているのに、褒められている感じがしない。

「頭の回転も速く、誰に対しても非常に寛容かんようで優しいです」
「う、うん」

 するとアーリンは意を決したように俺に人差し指を突きつけ、言う。

「でも、人としては最低かもしれません!」

 えっ、ええぇーーー! どういうことぉ!?

「失礼なのは承知の上、このままではテンマ先生が周りの人から嫌われてしまうと思ったので、忠告させていただこうと決心しました!」

 人から嫌われる! それって前世と一緒じゃん!


 俺はうかがうように口を開く。

「く、訓練が厳しすぎた、の、かな?」

 しかし、アーリンは首を横に振る。

「訓練が厳しいのは当たり前です! それに厳しい訓練も、テンマ先生は必要性を丁寧に説明してくださいますし、説明の通りの結果が出ているので、誰も不満を持ってなどいません!」

 それじゃあ、何が不満なんですかーーー!
 頭を抱える俺を見て溜息を吐き、アーリンは言い放つ。

「問題なのはテンマ先生の性格です!」

 それって、研修が厳しいとかよりよっぽど最悪じゃん!
 愕然がくぜんとする俺に、アーリンは続ける。

「テンマ先生は色々な人に優しくしていますが、まずそれが大問題です!」

 それは良いことじゃないの?
 疑問に思ってアーリンのことを見ると、彼女は再度溜息を吐く。

「はぁ~……テンマ先生は分かっていないようですね!」

 アーリンはそう言うと、気合を入れるように俺をしっかりと見て口を開く。

「私は何度か冒険者ギルドに行く際にご一緒させていただきましたが、行く度にお土産みやげとしてクッキーやジャーキーをギルド職員に渡していますよね?」
「は、はい」

 俺はいつの間にか正座しながらアーリンの話を聞いていた。

「ギルド職員の人がジャーキーをお土産に渡されると、残念そうな反応をしているのに気付いていますか?」

 それには気付いているので頷く。

「そうなのですね。でも、無償むしょうでロンダの町でも人気のジャーキーをもらっておいて、残念そうにするギルド職員になぜ怒らないのですか? いえ、別に怒らなくてもいいです。そんな失礼な反応をされているのに、お土産をなぜ今も渡しているのですか?」
「甘味の方が貴重だから、ジャーキーがそれより喜ばれないのは仕方ないかなって……それにジャーキーは人気があるけど、俺はすぐに作れるから大した物じゃない……」

 そう答えると、アーリンは目をり上げて反論してきた。

「だからテンマ先生は人に嫌われることになるんです! テンマ先生は相手のことを考えているようで、まったく理解していません! 無償で物をもらい続ければ、相手にとってそれが普通になってしまいます。すると相手の要求はどんどん過剰かじょうになり、テンマ先生がそれに応えられなくなってやめてしまうと、今度はそんなテンマ先生に相手は腹を立て、文句を言い、離れていくんです!」

 言われてみれば、思い当たることがありすぎる。
 あれっ、これ前世でも同じことをしていたような気がするぞ……!?
 アーリンは更に言葉を重ねる。

「ミーシャさんと一緒に行動することになった経緯けいいも聞きましたが、それを聞いたとき私はミーシャさんを嫌いになりそうでした。村や家族ぐるみでテンマ先生を利用しようとしているのが明白じゃないですか! 深く考えもせずそれに乗ったミーシャさんは最低だと思いました。でも、そうさせたのはテンマ先生が中途半端に優しいからです! ハッキリと断ればミーシャさんもあきらめたし、彼女の家族もそこまでしなかったんじゃないですか?」

 アーリンがそう思っていそうだなということには気付いていたけど……。

「確かにその通りだが、ミーシャとはきちんと話し合ったから問題ないはずだよ」

 俺の言葉に、アーリンは頷いた。

「それを聞いたから、ミーシャさんを嫌いにならずに済みました。今のミーシャさんには甘えはないし、テンマ先生にお世話になった分をいつかお返ししたいって言っているのを聞いたから、今では仲良しです」

 そ、そうなんだ……。
 胸をで下ろす俺に、アーリンは次なる疑問を投げかけてくる。

「ジジちゃんのことはどうお考えですか? 彼女は本当に一途いちずで頑張り屋です。でもジジちゃんは不器用。そんな彼女をあえて料理をさせるために雇ったと言われても釈然としません。家族なんて言いながら、同情して雇っただけじゃないでしょうか? それとも本当にエッチなことを考えているのですか?」

 俺は少し考える。
 アーリンが言っていることは間違っているのだが、どう説明したものか……。
 あまり自分のチートさを人に知られたくはないけれど、これはたぶん正直に言わないと納得してもらえないよな。
 考えをまとめてから俺は口を開く。

「それについては誤解だよ。ジジには本当に料理をしてもらおうと考えていたし、他にも家事を任せるつもりだよ。それに錬金術も覚えてもらおうと思っているんだ」
「で、でも、ジジちゃんは不器用だから……」
「その通り、ジジは他の人より少し不器用だね。そして体力も力もないから、練習の時間だってそう長くは取れない。でも、体力と力は研修で鍛えればなんとかなるし、頑張り屋のジジなら不器用さも努力でカバーできると俺は信じているんだ」
「でも、それならもっと良い人が──」

 なおも食い下がるアーリンの言葉を制して、俺は言う。

「ごめんね、人には言ったことがないけど、俺には人の素質が分かるんだ。だからジジの料理と錬金術の素質がすごいんだって確信できる」
「……本当ですか?」

 アーリンはいぶかしげな視線を向けてくるが、俺は胸を張る。

「ああ、本当だよ。そしてアーリンの魔術師としての素質や適性もすごいと思っている。そうじゃなければ、領主の娘と関わるなんていうリスクの高い案件、依頼でも断っていただろうなぁ」

 アーリンは元々大きな目を更に大きく開いて驚いている。

「私はてっきり、お父様や大伯母おおおば様に頼まれて仕方なく私のことを……」

 そうか、と俺は思い至る。
 こうして色々と聞いてきたのは、自分がもしかしたら俺の邪魔になってしまっているんじゃないかという不安もあったんだろう。
 ミーシャよりも、ジジよりも、領主の娘である自分を引き受けることのリスクが高いことは彼女自身が一番知っているのだ。
 俺はつとめて優しい口調で言う。

「アーリンがさっき話してくれた、俺の性格や中途半端な優しさが良くないことは、自分でも思い当たる節があるし、反省したよ。言い辛いことをハッキリと言ってくれてありがとう。確かに俺は流されるような形で、ミーシャやアーリンを訓練することにした。でも稽古けいこをつけようと思った一番大きな理由は優しさじゃなく、ドロテアさんと同じ探求心だよ。俺とは違う素質を持った二人が、どんな成長をするのか検証したかったんだ。俺の個人的な欲求で二人を利用しようと思った。結果的に二人のためにもなると自分に言い訳しているけれど、罪悪感はある。だから食事や装備を提供してるんだ。そんな俺をアーリンは軽蔑けいべつするかい?」

 アーリンは少し動揺した表情を浮かべたが、しっかりと俺の目を見て答えてくれた。

「ちょっとテンマ先生のことを誤解していたようです。なぜ大伯母様に対してだけ、少し厳しいのか分かった気がします。要するに大伯母様と同類――研究のことになると他のことを考えない研究馬鹿なんですね?」

 えぇ~と、そこまでひどくないと思うけど……。
 俺は予想外なところからのダメージに、よろめきそうになりながらも反論する。

「た、確かにそうとも言えるけど、ドロテアさんほど暴走はしていないつもりなんだけど……」

 すると、それにはアーリンも頷いた。

「そうですね。確かに大伯母様は、他人の迷惑を考えないところがありますね。まだテンマ先生は相手のことを考えているのかもしれません……」

 ほうと溜息を吐く仕草を見ながら俺は思う。この子は本当に十二歳なのだろうか、と。
 そんな俺の内心など知らず、アーリンは思考を整理し終えたのだろう、晴れやかな表情で手をパンと打ち鳴らす。

「分かりました! 正直、人のいテンマ先生に、無理やり両親や大伯母様が頼んだから、私の訓練をしてくれていて、申し訳ないと思っていたんです。でも、テンマ先生が検証をする意味もあるのだと知って、心が軽くなりました」

 ……切り替えの早い子のようだ。
 俺はおずおずと言う。

「そ、そうだね。あと周りに嫌われそうなことをしてしまっていたら、お、教えてくれると助かるかな」
「了解です! ではこれから交渉事などは事前に相談してください。先日のカロン商会との契約みたいな調整もできますし、父との研修の依頼料の交渉もお任せください。今回の依頼料は研修の経費や成果から考えると安すぎます」

 この間、知識などの権利を登録できる『知識の部屋』でこの世界にはない燻製くんせいの方法をカロン商会名義で記録するようお願いした。その際、金が欲しいわけでもなかったので無償むしょうで情報を渡そうとしたのだが、一緒にいたアーリンが途中から仕切ってくれたのだ。
 その結果、表面的にはカロン商会の権利としながらも、実質俺の権利として登録できた。
 研修の依頼料にしたって、俺としてはどちらでも良いのだが、先ほどアーリンに言われた通りほどこしすぎてしまう結果になると後が怖い。お願いすることにしよう。

「よ、よろしくお願いします」
「無償で人に物を渡すときは、必ず私の許可を取ってくださいね!」
「わ、分かりました……」

 対外的なことはアーリンが仕切ってくれることになり、頼りになるなと思いながらも彼女が少し怖くなる俺だった。





 第3話 どこでも自宅完成!



 アーリンから説教をされた日から更に十日経過した。
 あれから冒険者ギルドに二度ほど納品に行ったが、お土産を渡すことはしなかった。
 二度目にお土産を渡さず帰ろうとすると、受付嬢のルカさんがそれとなくお土産を催促さいそくしてきたが、後ろに控えるアーリンが視線を送ってきたので、俺はハッキリと返事した。

「ハニービーの蜂蜜はちみつは簡単に手に入る物ではありませんし、ジャーキーはカロン商会で商品化の準備を始めているのでお土産としてはもう渡せません! 一通り挨拶あいさつも済んだと思いますので、我々だけ毎回お土産を渡していたら、賄賂わいろみたいで他の冒険者に変に思われてしまいそうで困るので……」

 そんな感じで後半はもにょもにょしてしまったが、俺としては頑張ったほうだと思う。
 また、この十日間の間にカロン商会は無事に小型の燻製施設を完成させた。しかし試作品を食べたが、自分の作ったジャーキーと食べ比べると美味しくない。
 とはいえ味付けが塩だけの調味液で作ったにしては、食べられる物にはなっていた。
 カロンさんも既存の干し肉より商品として魅力的だと自信を持っているようだ。
 ついでにフォレストボアのベーコンやホーンラビットの腸詰ちょうづめを教えると、それにも挑戦したいと気合たっぷりで答えてくれた。
 最後にカロンさんから、俺の作った商品を広めないようにお願いされて、アーリンからももう人に配ってはいけないとくぎを刺されてしまったのである。
 それくらい俺でも心得ていたよ……たぶん。
 アーリンはこの間言っていた通り彼女の父親と交渉して、訓練依頼を一度完了扱いにして、改めて依頼を受け直す形で着地させた、とのこと。
 一ヶ月で金貨三十枚での契約だったところを、金貨三百枚にしようと交渉していたが、辺境の准男爵家じゅんだんしゃくけではさすがに払えないので、一ヶ月金貨百枚に決まった。アーリンは納得していないようだ。
 自分の家だというのにシビアだな、なんて考えてしまう俺である。
 そういった外交的なところをアーリンが担ってくれたために、俺は負担が減り、家の建設に集中できる……と思っていた。しかし研修が進むごとにポーションを使う量が多くなる上に、ピピが研修に参加するようになったこともあって、研修用のポーションを作るための素材が足りなくなってしまった。だから半日は素材採取に時間を取られてしまっている。
 それでもコツコツと建設を進めてつい昨日、やっと家が完成した。
 内装を整えていない部屋もあるが、お披露目ひろめできる状態になったので、今日は午後から披露会をするつもりだ。


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