24 / 315
2巻
2-8
しおりを挟む
◇ ◇ ◇ ◇
ミーシャと昼食を食べ、シルの首輪に仮の従魔タグをつけて町に向かう。
今日はヨルンさんではない人が門番を務めているみたいだ。
最初こそ門番さんはシルに警戒していたが、首輪と従魔タグを確認すると笑顔で通してくれた。
そして冒険者ギルドに向かって通りを歩いていると、住人達がシルを珍しそうに見てくる。
首輪をつけているせいか怯えてはいないようだな。それならいいか。
シルも町に興味があるのか、キョロキョロと周りを見ている。
数分後に、冒険者ギルドに到着した。
受付に向かう前に、掲示板からホロホロ鳥の依頼を剥がす。
受付にはルカさんとディーナさんがいるが、ルカさんの受付に行く。
「ルカさん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
横を見ると、ルカさんだけじゃなくディーナさんも顔色が悪いことに気付く。
どうしたんだろう?
するとルカさんは、心底しんどそうに口を開く。
「昨日のジャーキー? だったかしら? あれがエールに合いすぎて、飲みすぎたのよぉ」
するとディーナさんも話に加わる。
「あれはフォレストウルフの肉とは思えないわ。悪魔の食べ物よ」
そっか、二日酔いで体調が悪いのかぁ。
その話を聞いて悪戯心がむくむくと頭をもたげる。
俺はジャーキーを十本ほど収納から出して、言う。
「そうですか、気に入ってくれたようなのでお二人にお土産で渡そうと思っていたんですが、やめときますかねぇ」
すると、ルカさんがジャーキーを鷲掴みにした。
その力は、先ほどまでぐったりしていた人間のものだとは思えない。
「ディーナは要らないみたいだから、私がその分をもらうわ!」
ディーナさんも慌てて近づいてきて、ルカさんとジャーキーの取り合いを始めた。他のギルド職員は何事かと驚いて見ている。
面白い絵面が見られたことに満足した俺は、ジャーキーをもう十本、収納から出した。
「気に入ったならお二人で分けてください。それと他のギルド職員にも分けてあげてくださいね」
するとルカさんはジャーキー欲しさに必死になったことを恥じてか、頬を赤らめながら言う。
「テンマ君は本当に優しいわね。昨日は変な誤解をしてごめんなさい。それで今日は、その依頼の精算とそこの従魔ちゃんの登録をしたくて来たのかしら?」
俺は頷いて、収納からホロホロ鳥を三羽とフォレストウルフの皮と魔石を三頭分出す。
するとルカさんは嬉しそうな声を上げる。
「テンマ君は本当にホロホロ鳥を獲るのが得意みたいねぇ。グストが村でご馳走になったと聞いて羨ましかったのよ」
「そのうちお土産で差し上げますよ」
ルカさんにそう話した瞬間、すべての職員の視線が俺に集中する。
何これ怖い! みんなどんだけホロホロ鳥が好きなの⁉
ギルド内ではホロホロ鳥を渡したら絶対にダメだな!
そんなふうに俺が怯えているのを余所に、ルカさんはほくほく顔だ。
「うふふふっ、よろしくねぇ。じゃあ査定している間に従魔登録しちゃいましょう!」
ルカさんはそう言いながら、何かの魔道具を出して受付から出てきた。
「真っ白なウルフなんて珍しいわね。可愛くてモフモフしていて……特異体かしら?」
そう話しながら仮登録タグを魔道具に嵌めている。
『ぼく、かわいい?』
『もちろん可愛いさ』
シルに念話で答えると、シルは嬉しそうに尻尾を左右に振った。
そんなシルをちらりと見ながら、ルカさんは俺に聞いてくる。
「従魔登録をするのに、この魔道具を従魔の体に触れさせる必要があるの。この子、触っても怒ったりしない?」
俺はシルのほうを向く。
『この人に噛み付くなよ?』
『ぼく、そんなことしないよぉ』
「大丈夫です」
俺の返事を聞いて、ルカさんはシルの体に魔道具をゆっくり触れさせた。
「痛くないからねぇ~、はい。これで従魔登録は完了よ。この従魔タグを……」
ルカさんは話の途中でタグを見て固まってしまった。
「テンマ君、悪いけど会議室に来てくれる?」
「えっ、ええ、それは構いませんが……」
俺達は何が起きているのか分からないまま会議室に放り込まれてしまった。
すると、すぐにギルマスがやってきた。
「はぁ~、テンマ君は色々としでかしてくれるねぇ」
ギルマスは呆れた様子で溜息をついているが、今回ばかりは本当に心当たりがない。
そんな俺の様子を見て、ギルマスはもう一度溜息をつく。
「その従魔はシルバーウルフの幼体だと報告があったけど、間違いないかな?」
「え~と、僕はヨクワカラナイナー」
思わず目を泳がせて、かつ片言で答えてしまった。
……そ、そういうことか。タグにシルの種族名が表示されてしまったんだ。
「シルバーウルフの幼体は必ず親と一緒にいるはずなんだ。ウルフ系の魔物は仲間意識が強いからね。もしテンマ君が偶然にも親がいないときにこの子を従魔にしたんだとしたら、親が臭いを追ってテンマ君を襲うか、この町に来る可能性もあるんだよ」
ギルマスはそう言って鋭い視線を向けた。
「ソウナンダー」
やってもうたーーー!
「それでテンマ君は親を見かけていないのかな?」
おうふ、これは誤魔化すと逆に問題が大きくなりそうだぁ。
「モウイナイト、オモウナー」
「それはテンマ君が討伐したと判断して良いのかな?」
「ウン、ソウ」
「何か証明できる物はあるかな?」
話だけでは信じてもらえないっぽい。俺は仕方なく収納から二つの魔石を出した。
『パパとママのにおいがするぅ』
シルは匂いに反応して、嬉しそうに尻尾を振っている。
「ふぅ~、もうしまっていいよ……」
ギルマスが安心したように言ったので、俺はすぐに魔石を収納した。
「テンマ君、言っておくけど、その子を従魔にしているとトラブルに巻き込まれる可能性が高いよ。シルバーウルフはBランクの魔物だけど、二頭一緒だとAランク扱いになる。加えて普通ウルフ系の魔物は群れで行動しているはずだしね」
うん、確かに大きな群れだった気がするぞ。
「そんなシルバーウルフの幼体は、育てればそれなりの戦力になる。更にウルフ系の魔物を従えて群れを作らせれば、それなりどころではないとんでもない戦力になるわけだ。そんな従魔がいるとなれば、欲しがる人はたくさんいるだろう。だから、その子がシルバーウルフであると知られないようにしたほうがいいよ」
俺はギルマスの言葉に頷く。
「テンマ君はシルバーウルフを二頭も討伐していることを考えると、Aランク以上の実力を持っているのは間違いない。とはいえ、書類上のランクはFランクだ。それを理由に襲ってくる馬鹿もいる。そのこともよく理解してほしい」
うん、絶対にバレないようにしよう!
俺はそう決意しつつ、魔道具で種族を誤魔化すような物が作れないか考え始めた。
第14話 ドロテアさん
冒険者ギルドの会議室で納品した素材の明細とお金を受け取ったところでギルマスが口を開く。
「テンマ君達は昼食を食べたかい?」
「はい、もう済ませています」
「じゃあ、今から魔術師ギルドに行けるかい?」
「はい大丈夫です。ミーシャも大丈夫だよな?」
そう尋ねるとミーシャはしばらく考えてから答えた。
「私は魔術師ギルドに用事がない。シルと狩りに行く!」
ああ、そういうことかぁ。
ミーシャは魔術師ギルドに行っても話を聞くだけだ。それよりも訓練をしたいのだろう。
ミーシャは順調に研修脳になっているな。
D研の存在をギルマスに話すことはできない。となるとミーシャは俺と別行動で狩りに行くと思われるわけだ。本来なら初級冒険者であるミーシャが一人で出歩くことをギルマスは快く思わないだろう。しかし、ギルマスはシルがシルバーウルフであると知っている。そんなシルと一緒だからと、ギルマスは特に止めなかった。
俺はそれを見て、言う。
「まだ魔術師ギルドとの約束まで時間はありますよね? ミーシャとシルを送ってきます。少し待ってもらえますか?」
ギルマスは不思議そうな顔をする。
わざわざ送るのはやや過保護に見えるからな……とはいえD研には俺がいないと入れないので、仕方がないのだ。
「確かに約束した時間まではまだあるし、問題はないけど……」
「それじゃあ、ちょっと行ってきます!」
追及されると困るので、急いで会議室を出る。
そして町を出て人気のない場所まで移動し、D研内にミーシャ達を送り届けた。
こうして一人になった俺は、冒険者ギルドに戻るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ギルドの扉を開けると、ギルマスは受付の中でルカさん達と話しているところだった。
扉が開く音に気付いてこちらに目線を遣り、俺の姿を見ると片手を上げる。
「随分早いね、もう大丈夫かい?」
「はい、どこに行くのか、大まかな方向を確認したかっただけなので」
そう答えると、ギルマスは「そうか」と答えた。
それから俺はギルマスと一緒に魔術師ギルドに向かう。
やはり昨日確認した通り、魔術師ギルドは商業ギルドと同じ建物の中にあるらしい。
ギルマスは商業ギルドに入ると、黙って三階まで上がっていく。そこには魔術師ギルドと書かれたプレートが天井から吊るされており、奥には受付がある。
ギルマスが魔術師ギルドの受付にいた女性に声をかけると、すぐに奥の会議室に案内される。
会議室で少し待っていると、三十代中盤の女性を先頭に、女性が二人と男性が一人、部屋の中に入ってきた。
お互いに向かい合うように座ると、先頭で入ってきた女性が話を始める。
「私が魔術師ギルドと錬金術師ギルドのギルドマスターを兼任しているドロテアじゃ」
ドロテアさんは気品があり、妖艶な感じの女性だ。モデルのようにスタイルも完璧である。
しかし、話し方はどこか古めかしいというか、お婆さん臭いというか……。
そこで俺は思い出す。確か魔術師ギルドのギルドマスターって冒険者ギルドのギルマスのお姉さんだったはずだよな、と。
ギルマスは白髪もあるし、皴だって少なくない。四十代後半から五十代ぐらいだと思っていた。
どう見てもドロテアさんのほうが若く見える。
なんならギルマスの娘と言われても信じられるくらいだ。
「坊主がこの資料を書いたテンマか?」
ドロテアさんは話しながら紙束をパタパタと振っている。
「中身が見えないので分かりませんが、冒険者ギルドのギルドマスターであるザンベルトさんに資料を渡したのは私です」
ドロテアさんは納得したように頷くと、話を続けた。
「あ~、ここにはギルドマスターが複数いるから、名前で呼んでくれて構わないよ。それでいいな、ザンベルト?」
「ええ、姉さん、問題ありません」
本当に姉弟だぁーーー!
この世界では、前世と老化の仕方が違うのだろうか?
そんなことを考える俺に気付く様子もなく、ドロテアさんは続ける。
「テンマは目立ちたくないと言っていたと聞いておる。それに情報を精査する前に公になったりしたら混乱を招きそうじゃ。というわけで商業ギルドからマルセルという者を呼んでおいた。こやつの契約魔法という魔法は、会議の内容が漏洩するのを防ぐことができる。これでどうじゃ?」
おぉ、契約魔法か……俺も使えるようになりたい!
まぁそれは別の機会だな。
俺はひとまず頷く。
「はい、それで構いません。お手数をおかけして申し訳ありません」
「ふむ、弟からテンマは非常識な奴じゃと聞いておったが、礼儀はしっかりしているようじゃな。マルセル、用意した契約書を出せ!」
マルセルと呼ばれた恰幅の良い男性は契約書を三通出して、俺の目の前に並べた。
「すでにドロテア様達三名とザンベルト様は署名してあります。ですのでテンマ様、内容のご確認をお願いします。問題なければ署名をしてください。私は契約が完了しましたら退席します」
おぉ~、思った以上にしっかりしているようだ。
内容を確認すると守秘義務についてしっかりと書かれていた。
守秘義務を破ろうとしただけで頭痛がして、それでも破ろうとすると痛みが強くなっていき、最終的には死に至ると書いてあった。
少し怖いが、間違って話そうとした時点で頭痛で警告してくれるなら問題ないだろう。
これ、ミーシャに使いたいんだけど……やっぱり俺も契約魔術スキルを習得するべきかもしれない。
「内容には問題ありません」
俺はそう答え、三枚の書類に署名をする。
書類を受け取ったマルセルさんが詠唱すると、書類の一枚が青い炎を出して燃え上り、灰すら残さず消えてしまった。そして残り二枚の契約書は青白く光った。
「これで契約は締結されました。契約を破棄する場合は、残りの二枚に署名した全員が血判を押した上で、契約解除の魔法を使う必要があります」
そんな説明をして、マルセルさんは頭を下げ、そそくさと会議室から出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇
契約を結び終えて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
これで今回のことで目立ちすぎることはないだろう。
「それではテンマ、資料の内容について話をしたいが構わぬか?」
俺が頷くと、ドロテアさんは話を続けた。
「順を追って確認していこうかのう。まずは資料の中の『身体強化の習得と訓練』についてじゃの。これは武術系のスキルなので、冒険者ギルドか騎士団で検証を行うことになるじゃろうな。ここでの検証は省かせてもらうのじゃ」
俺はザンベルトさんを見て頷いた。
「次に『最大魔力量の増加について』じゃ。これはザンベルトから資料を受け取って、すぐに我々三人で検証した。すると、確かに最大魔力量が増えたのを確認できたのじゃ!」
おおぉ~、すでに検証してくれているとは仕事が早い!
ドロテアさんは真剣な顔で言う。
「魔術師ギルド、いや、世界の歴史が変わるかも知れぬほどの結果じゃよ。命の危険がある故禁忌とされていた魔力枯渇によって最大魔力量を増やせるとは驚愕の事実じゃ!」
まあ、命を懸けてまでそんなことを試す人は、普通いないだろう。
俺だって死ぬことがない研修施設だったから試せたんだし。
「とはいえ、まだすべての内容を検証できたわけではないのじゃ。魔力枯渇耐性スキルに関しては存在自体聞いたことがないからの。魔力枯渇が禁忌になっていたので当然といえば当然じゃが。それに最大魔力量の増加率に関しては具体的に書かれている箇所もあるが、検証例が少なすぎるしの。これには別の資料の『素質について』が絡んでいるんじゃろうが、もう少しサンプルケースが欲しいところじゃ」
今のところ検証できてるのは、俺の素質だけだからな。
ドロテアさんの口ぶりは、段々と熱を帯びていく。
「今話した『素質について』や『スキルと魔法のレベル』『生活魔術の習得』は一見古の大賢者の物語を少し具体的に説明した二番煎じか、眉唾物の内容に思えそうじゃが、まとめて読むと非常に真実味があるしの!」
古の大賢者の物語ってなんだ? なんて考える俺を余所に、ドロテアさんは一旦話を区切って、一冊の本を俺の目の前に叩きつけるように置く。
「そして、私の中で一番の衝撃だったのは、これじゃ! 『育成方法について』! ここに書いてある内容はこれまでの常識を根本的に変えてしまうことばかりじゃった。これまでは能力を上げるにはレベルアップが大前提とされていた。だがここには、基礎能力を先に上げるべきだと書かれておる。そんなことを考えた者はいないのじゃ!」
それは前世のゲームを参考にしたからこそ発想できた方法だと言える。
この世界の人間が気付くのは難しいだろう。
ドロテアさんは大きく息を吐く。
「もしこれらの仮説が真実だとすると、我々のこれまでの考えは根本的に間違っていたことになる。認めたくない気持ちもあるが、知ることができて良かったとも考えられるのぅ。とはいえ、それだけ大きな、影響力のある発見じゃ。内容の検証には時間をかける必要がある……が、それにかかる手間を少々省く裏技もまた、あるのじゃ」
そう言うとドロテアさんは俺をジッと見つめてきた。
「お主のステータスやスキルを見せてもらえぬか?」
「それはお断りさせてもらいます!」
確かに俺のステータスを見れば俺のまとめた知識によってどれだけの成果が出ているのか大まかに分かる。ただ、俺の能力がチート級なのがバレてしまう!
すぐに断ったことにドロテアさんは驚いているようだ。
「なぜじゃ! 見せなければ、この内容は認められなくなるのじゃぞ!」
認められなくなる? 何か勘違いしていないか?
「え~と、根本的に誤解があるようですね。私は一度もこの内容を認めてほしいと言ったことはありません。ザンベルトさんに登録してほしいとお願いされただけです」
俺がちらりと視線を送ると、ザンベルトさんも頷いてくれた。
「もしそうじゃとしても、今この場は契約で口外できぬようになっておる。ここでステータスやスキルを教えても問題はあるまい」
いやいや、問題大ありです! 俺のステータスやスキルがチートだということは自覚しているんだ! そんなの見せられるかぁ!
なんてさすがにギルマス二人を前にしてそんなことは言えないので、俺はなるだけ考えを整理して話すことにした。
「そうですね……人にステータスやスキルを教えるのは、自分の弱点を教えることになります。今日初めて会ったドロテアさんや、最近お会いしたばかりのザンベルトさんに教えるのは大きなリスクですよ。それにお互いのことをよく知ったとしても、ステータスやスキルのすべてを教えるなんて、私は絶対にしません!」
「しかし――」
「姉さん、テンマ君の話は至極まっとうだよ!」
ザンベルトさんがドロテアさんを窘める。
俺はその機を逃さずたたみかける。
「いや~、残念ながら認めてもらえないようですね。もう帰ってもいいですかね?」
ザンベルトさんに向けて言ったのだが、ドロテアさんが慌てて止めに入る。
「ま、待ってくれ。もう一つ確認する方法があるのじゃ!」
へぇ~、他にも方法があるんだ?
「このまま登録の手続きをしてくれぬか?」
ん、登録? どういうこと?
そういえば登録してほしいとザンベルトさんが言っていたことを思い出した。話の流れからすると登録するだけで検証できるのだろうか?
第15話 馬鹿のじゃきたぁ!
俺がよく分かっていないことを察したのだろう、ドロテアさんが説明してくれた。
整理すると、以下の通りだ。
まず文書の内容の五割以上が間違っていると登録できない。
そして登録に値する情報は、次のように評価される。
『正しさ』 :登録内容がどれほど正しいかで評価される。
SSS - 間違いがない
SS - 内容の九割五分が正しい
S - 内容の九割が正しい
A - 内容の八割が正しい
B - 内容の七割が正しい
C - 内容の六割が正しい
D - 内容の五割が正しい
『充実度』 :タイトルに対しての内容の充実度によって評価される。
充実度の明確な基準はドロテアさんも完全には分からないようだ。『正しさ』と同じようにSSSが最高で順に充実度が低くなり、Dは一番充実度が低いということらしい。
説明を聞いてまず驚いた。前世でもそんな高度なシステムはなかったからだ。大まかに必要なことだけ説明してくれただけのようなので、他にも機能があるのかもしれない。
ふと顔を上げると、俺が驚いているのをドロテアさんが微笑んで見ていた。
……なんか負けた気がする。
あれ? でも、最初からこれだけで十分だったんじゃ?
だって資料を登録するだけで『正しさ』と『充実度』が分かるなら、さっさと登録すればいい。俺のステータスを確認する必要はないはずだ。
俺は右手をスッと上げる。
「ひとつ確認したいのですが、よろしいですか?」
「なんじゃ?」
「登録するだけでそこまで分かるのなら、ステータスやスキルを見るよりよっぽど確実に検証できますよね?」
ザンベルトさんは申し訳なさそうな表情をしているし、ドロテアさんは目が泳いでる。
ドロテアさんはなんで最初から登録のことを言わなかったんだろう。
そんな疑いの目でドロテアさんを見つめると、ドロテアさんは早口でしどろもどろな説明をする。
ミーシャと昼食を食べ、シルの首輪に仮の従魔タグをつけて町に向かう。
今日はヨルンさんではない人が門番を務めているみたいだ。
最初こそ門番さんはシルに警戒していたが、首輪と従魔タグを確認すると笑顔で通してくれた。
そして冒険者ギルドに向かって通りを歩いていると、住人達がシルを珍しそうに見てくる。
首輪をつけているせいか怯えてはいないようだな。それならいいか。
シルも町に興味があるのか、キョロキョロと周りを見ている。
数分後に、冒険者ギルドに到着した。
受付に向かう前に、掲示板からホロホロ鳥の依頼を剥がす。
受付にはルカさんとディーナさんがいるが、ルカさんの受付に行く。
「ルカさん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
横を見ると、ルカさんだけじゃなくディーナさんも顔色が悪いことに気付く。
どうしたんだろう?
するとルカさんは、心底しんどそうに口を開く。
「昨日のジャーキー? だったかしら? あれがエールに合いすぎて、飲みすぎたのよぉ」
するとディーナさんも話に加わる。
「あれはフォレストウルフの肉とは思えないわ。悪魔の食べ物よ」
そっか、二日酔いで体調が悪いのかぁ。
その話を聞いて悪戯心がむくむくと頭をもたげる。
俺はジャーキーを十本ほど収納から出して、言う。
「そうですか、気に入ってくれたようなのでお二人にお土産で渡そうと思っていたんですが、やめときますかねぇ」
すると、ルカさんがジャーキーを鷲掴みにした。
その力は、先ほどまでぐったりしていた人間のものだとは思えない。
「ディーナは要らないみたいだから、私がその分をもらうわ!」
ディーナさんも慌てて近づいてきて、ルカさんとジャーキーの取り合いを始めた。他のギルド職員は何事かと驚いて見ている。
面白い絵面が見られたことに満足した俺は、ジャーキーをもう十本、収納から出した。
「気に入ったならお二人で分けてください。それと他のギルド職員にも分けてあげてくださいね」
するとルカさんはジャーキー欲しさに必死になったことを恥じてか、頬を赤らめながら言う。
「テンマ君は本当に優しいわね。昨日は変な誤解をしてごめんなさい。それで今日は、その依頼の精算とそこの従魔ちゃんの登録をしたくて来たのかしら?」
俺は頷いて、収納からホロホロ鳥を三羽とフォレストウルフの皮と魔石を三頭分出す。
するとルカさんは嬉しそうな声を上げる。
「テンマ君は本当にホロホロ鳥を獲るのが得意みたいねぇ。グストが村でご馳走になったと聞いて羨ましかったのよ」
「そのうちお土産で差し上げますよ」
ルカさんにそう話した瞬間、すべての職員の視線が俺に集中する。
何これ怖い! みんなどんだけホロホロ鳥が好きなの⁉
ギルド内ではホロホロ鳥を渡したら絶対にダメだな!
そんなふうに俺が怯えているのを余所に、ルカさんはほくほく顔だ。
「うふふふっ、よろしくねぇ。じゃあ査定している間に従魔登録しちゃいましょう!」
ルカさんはそう言いながら、何かの魔道具を出して受付から出てきた。
「真っ白なウルフなんて珍しいわね。可愛くてモフモフしていて……特異体かしら?」
そう話しながら仮登録タグを魔道具に嵌めている。
『ぼく、かわいい?』
『もちろん可愛いさ』
シルに念話で答えると、シルは嬉しそうに尻尾を左右に振った。
そんなシルをちらりと見ながら、ルカさんは俺に聞いてくる。
「従魔登録をするのに、この魔道具を従魔の体に触れさせる必要があるの。この子、触っても怒ったりしない?」
俺はシルのほうを向く。
『この人に噛み付くなよ?』
『ぼく、そんなことしないよぉ』
「大丈夫です」
俺の返事を聞いて、ルカさんはシルの体に魔道具をゆっくり触れさせた。
「痛くないからねぇ~、はい。これで従魔登録は完了よ。この従魔タグを……」
ルカさんは話の途中でタグを見て固まってしまった。
「テンマ君、悪いけど会議室に来てくれる?」
「えっ、ええ、それは構いませんが……」
俺達は何が起きているのか分からないまま会議室に放り込まれてしまった。
すると、すぐにギルマスがやってきた。
「はぁ~、テンマ君は色々としでかしてくれるねぇ」
ギルマスは呆れた様子で溜息をついているが、今回ばかりは本当に心当たりがない。
そんな俺の様子を見て、ギルマスはもう一度溜息をつく。
「その従魔はシルバーウルフの幼体だと報告があったけど、間違いないかな?」
「え~と、僕はヨクワカラナイナー」
思わず目を泳がせて、かつ片言で答えてしまった。
……そ、そういうことか。タグにシルの種族名が表示されてしまったんだ。
「シルバーウルフの幼体は必ず親と一緒にいるはずなんだ。ウルフ系の魔物は仲間意識が強いからね。もしテンマ君が偶然にも親がいないときにこの子を従魔にしたんだとしたら、親が臭いを追ってテンマ君を襲うか、この町に来る可能性もあるんだよ」
ギルマスはそう言って鋭い視線を向けた。
「ソウナンダー」
やってもうたーーー!
「それでテンマ君は親を見かけていないのかな?」
おうふ、これは誤魔化すと逆に問題が大きくなりそうだぁ。
「モウイナイト、オモウナー」
「それはテンマ君が討伐したと判断して良いのかな?」
「ウン、ソウ」
「何か証明できる物はあるかな?」
話だけでは信じてもらえないっぽい。俺は仕方なく収納から二つの魔石を出した。
『パパとママのにおいがするぅ』
シルは匂いに反応して、嬉しそうに尻尾を振っている。
「ふぅ~、もうしまっていいよ……」
ギルマスが安心したように言ったので、俺はすぐに魔石を収納した。
「テンマ君、言っておくけど、その子を従魔にしているとトラブルに巻き込まれる可能性が高いよ。シルバーウルフはBランクの魔物だけど、二頭一緒だとAランク扱いになる。加えて普通ウルフ系の魔物は群れで行動しているはずだしね」
うん、確かに大きな群れだった気がするぞ。
「そんなシルバーウルフの幼体は、育てればそれなりの戦力になる。更にウルフ系の魔物を従えて群れを作らせれば、それなりどころではないとんでもない戦力になるわけだ。そんな従魔がいるとなれば、欲しがる人はたくさんいるだろう。だから、その子がシルバーウルフであると知られないようにしたほうがいいよ」
俺はギルマスの言葉に頷く。
「テンマ君はシルバーウルフを二頭も討伐していることを考えると、Aランク以上の実力を持っているのは間違いない。とはいえ、書類上のランクはFランクだ。それを理由に襲ってくる馬鹿もいる。そのこともよく理解してほしい」
うん、絶対にバレないようにしよう!
俺はそう決意しつつ、魔道具で種族を誤魔化すような物が作れないか考え始めた。
第14話 ドロテアさん
冒険者ギルドの会議室で納品した素材の明細とお金を受け取ったところでギルマスが口を開く。
「テンマ君達は昼食を食べたかい?」
「はい、もう済ませています」
「じゃあ、今から魔術師ギルドに行けるかい?」
「はい大丈夫です。ミーシャも大丈夫だよな?」
そう尋ねるとミーシャはしばらく考えてから答えた。
「私は魔術師ギルドに用事がない。シルと狩りに行く!」
ああ、そういうことかぁ。
ミーシャは魔術師ギルドに行っても話を聞くだけだ。それよりも訓練をしたいのだろう。
ミーシャは順調に研修脳になっているな。
D研の存在をギルマスに話すことはできない。となるとミーシャは俺と別行動で狩りに行くと思われるわけだ。本来なら初級冒険者であるミーシャが一人で出歩くことをギルマスは快く思わないだろう。しかし、ギルマスはシルがシルバーウルフであると知っている。そんなシルと一緒だからと、ギルマスは特に止めなかった。
俺はそれを見て、言う。
「まだ魔術師ギルドとの約束まで時間はありますよね? ミーシャとシルを送ってきます。少し待ってもらえますか?」
ギルマスは不思議そうな顔をする。
わざわざ送るのはやや過保護に見えるからな……とはいえD研には俺がいないと入れないので、仕方がないのだ。
「確かに約束した時間まではまだあるし、問題はないけど……」
「それじゃあ、ちょっと行ってきます!」
追及されると困るので、急いで会議室を出る。
そして町を出て人気のない場所まで移動し、D研内にミーシャ達を送り届けた。
こうして一人になった俺は、冒険者ギルドに戻るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ギルドの扉を開けると、ギルマスは受付の中でルカさん達と話しているところだった。
扉が開く音に気付いてこちらに目線を遣り、俺の姿を見ると片手を上げる。
「随分早いね、もう大丈夫かい?」
「はい、どこに行くのか、大まかな方向を確認したかっただけなので」
そう答えると、ギルマスは「そうか」と答えた。
それから俺はギルマスと一緒に魔術師ギルドに向かう。
やはり昨日確認した通り、魔術師ギルドは商業ギルドと同じ建物の中にあるらしい。
ギルマスは商業ギルドに入ると、黙って三階まで上がっていく。そこには魔術師ギルドと書かれたプレートが天井から吊るされており、奥には受付がある。
ギルマスが魔術師ギルドの受付にいた女性に声をかけると、すぐに奥の会議室に案内される。
会議室で少し待っていると、三十代中盤の女性を先頭に、女性が二人と男性が一人、部屋の中に入ってきた。
お互いに向かい合うように座ると、先頭で入ってきた女性が話を始める。
「私が魔術師ギルドと錬金術師ギルドのギルドマスターを兼任しているドロテアじゃ」
ドロテアさんは気品があり、妖艶な感じの女性だ。モデルのようにスタイルも完璧である。
しかし、話し方はどこか古めかしいというか、お婆さん臭いというか……。
そこで俺は思い出す。確か魔術師ギルドのギルドマスターって冒険者ギルドのギルマスのお姉さんだったはずだよな、と。
ギルマスは白髪もあるし、皴だって少なくない。四十代後半から五十代ぐらいだと思っていた。
どう見てもドロテアさんのほうが若く見える。
なんならギルマスの娘と言われても信じられるくらいだ。
「坊主がこの資料を書いたテンマか?」
ドロテアさんは話しながら紙束をパタパタと振っている。
「中身が見えないので分かりませんが、冒険者ギルドのギルドマスターであるザンベルトさんに資料を渡したのは私です」
ドロテアさんは納得したように頷くと、話を続けた。
「あ~、ここにはギルドマスターが複数いるから、名前で呼んでくれて構わないよ。それでいいな、ザンベルト?」
「ええ、姉さん、問題ありません」
本当に姉弟だぁーーー!
この世界では、前世と老化の仕方が違うのだろうか?
そんなことを考える俺に気付く様子もなく、ドロテアさんは続ける。
「テンマは目立ちたくないと言っていたと聞いておる。それに情報を精査する前に公になったりしたら混乱を招きそうじゃ。というわけで商業ギルドからマルセルという者を呼んでおいた。こやつの契約魔法という魔法は、会議の内容が漏洩するのを防ぐことができる。これでどうじゃ?」
おぉ、契約魔法か……俺も使えるようになりたい!
まぁそれは別の機会だな。
俺はひとまず頷く。
「はい、それで構いません。お手数をおかけして申し訳ありません」
「ふむ、弟からテンマは非常識な奴じゃと聞いておったが、礼儀はしっかりしているようじゃな。マルセル、用意した契約書を出せ!」
マルセルと呼ばれた恰幅の良い男性は契約書を三通出して、俺の目の前に並べた。
「すでにドロテア様達三名とザンベルト様は署名してあります。ですのでテンマ様、内容のご確認をお願いします。問題なければ署名をしてください。私は契約が完了しましたら退席します」
おぉ~、思った以上にしっかりしているようだ。
内容を確認すると守秘義務についてしっかりと書かれていた。
守秘義務を破ろうとしただけで頭痛がして、それでも破ろうとすると痛みが強くなっていき、最終的には死に至ると書いてあった。
少し怖いが、間違って話そうとした時点で頭痛で警告してくれるなら問題ないだろう。
これ、ミーシャに使いたいんだけど……やっぱり俺も契約魔術スキルを習得するべきかもしれない。
「内容には問題ありません」
俺はそう答え、三枚の書類に署名をする。
書類を受け取ったマルセルさんが詠唱すると、書類の一枚が青い炎を出して燃え上り、灰すら残さず消えてしまった。そして残り二枚の契約書は青白く光った。
「これで契約は締結されました。契約を破棄する場合は、残りの二枚に署名した全員が血判を押した上で、契約解除の魔法を使う必要があります」
そんな説明をして、マルセルさんは頭を下げ、そそくさと会議室から出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇
契約を結び終えて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
これで今回のことで目立ちすぎることはないだろう。
「それではテンマ、資料の内容について話をしたいが構わぬか?」
俺が頷くと、ドロテアさんは話を続けた。
「順を追って確認していこうかのう。まずは資料の中の『身体強化の習得と訓練』についてじゃの。これは武術系のスキルなので、冒険者ギルドか騎士団で検証を行うことになるじゃろうな。ここでの検証は省かせてもらうのじゃ」
俺はザンベルトさんを見て頷いた。
「次に『最大魔力量の増加について』じゃ。これはザンベルトから資料を受け取って、すぐに我々三人で検証した。すると、確かに最大魔力量が増えたのを確認できたのじゃ!」
おおぉ~、すでに検証してくれているとは仕事が早い!
ドロテアさんは真剣な顔で言う。
「魔術師ギルド、いや、世界の歴史が変わるかも知れぬほどの結果じゃよ。命の危険がある故禁忌とされていた魔力枯渇によって最大魔力量を増やせるとは驚愕の事実じゃ!」
まあ、命を懸けてまでそんなことを試す人は、普通いないだろう。
俺だって死ぬことがない研修施設だったから試せたんだし。
「とはいえ、まだすべての内容を検証できたわけではないのじゃ。魔力枯渇耐性スキルに関しては存在自体聞いたことがないからの。魔力枯渇が禁忌になっていたので当然といえば当然じゃが。それに最大魔力量の増加率に関しては具体的に書かれている箇所もあるが、検証例が少なすぎるしの。これには別の資料の『素質について』が絡んでいるんじゃろうが、もう少しサンプルケースが欲しいところじゃ」
今のところ検証できてるのは、俺の素質だけだからな。
ドロテアさんの口ぶりは、段々と熱を帯びていく。
「今話した『素質について』や『スキルと魔法のレベル』『生活魔術の習得』は一見古の大賢者の物語を少し具体的に説明した二番煎じか、眉唾物の内容に思えそうじゃが、まとめて読むと非常に真実味があるしの!」
古の大賢者の物語ってなんだ? なんて考える俺を余所に、ドロテアさんは一旦話を区切って、一冊の本を俺の目の前に叩きつけるように置く。
「そして、私の中で一番の衝撃だったのは、これじゃ! 『育成方法について』! ここに書いてある内容はこれまでの常識を根本的に変えてしまうことばかりじゃった。これまでは能力を上げるにはレベルアップが大前提とされていた。だがここには、基礎能力を先に上げるべきだと書かれておる。そんなことを考えた者はいないのじゃ!」
それは前世のゲームを参考にしたからこそ発想できた方法だと言える。
この世界の人間が気付くのは難しいだろう。
ドロテアさんは大きく息を吐く。
「もしこれらの仮説が真実だとすると、我々のこれまでの考えは根本的に間違っていたことになる。認めたくない気持ちもあるが、知ることができて良かったとも考えられるのぅ。とはいえ、それだけ大きな、影響力のある発見じゃ。内容の検証には時間をかける必要がある……が、それにかかる手間を少々省く裏技もまた、あるのじゃ」
そう言うとドロテアさんは俺をジッと見つめてきた。
「お主のステータスやスキルを見せてもらえぬか?」
「それはお断りさせてもらいます!」
確かに俺のステータスを見れば俺のまとめた知識によってどれだけの成果が出ているのか大まかに分かる。ただ、俺の能力がチート級なのがバレてしまう!
すぐに断ったことにドロテアさんは驚いているようだ。
「なぜじゃ! 見せなければ、この内容は認められなくなるのじゃぞ!」
認められなくなる? 何か勘違いしていないか?
「え~と、根本的に誤解があるようですね。私は一度もこの内容を認めてほしいと言ったことはありません。ザンベルトさんに登録してほしいとお願いされただけです」
俺がちらりと視線を送ると、ザンベルトさんも頷いてくれた。
「もしそうじゃとしても、今この場は契約で口外できぬようになっておる。ここでステータスやスキルを教えても問題はあるまい」
いやいや、問題大ありです! 俺のステータスやスキルがチートだということは自覚しているんだ! そんなの見せられるかぁ!
なんてさすがにギルマス二人を前にしてそんなことは言えないので、俺はなるだけ考えを整理して話すことにした。
「そうですね……人にステータスやスキルを教えるのは、自分の弱点を教えることになります。今日初めて会ったドロテアさんや、最近お会いしたばかりのザンベルトさんに教えるのは大きなリスクですよ。それにお互いのことをよく知ったとしても、ステータスやスキルのすべてを教えるなんて、私は絶対にしません!」
「しかし――」
「姉さん、テンマ君の話は至極まっとうだよ!」
ザンベルトさんがドロテアさんを窘める。
俺はその機を逃さずたたみかける。
「いや~、残念ながら認めてもらえないようですね。もう帰ってもいいですかね?」
ザンベルトさんに向けて言ったのだが、ドロテアさんが慌てて止めに入る。
「ま、待ってくれ。もう一つ確認する方法があるのじゃ!」
へぇ~、他にも方法があるんだ?
「このまま登録の手続きをしてくれぬか?」
ん、登録? どういうこと?
そういえば登録してほしいとザンベルトさんが言っていたことを思い出した。話の流れからすると登録するだけで検証できるのだろうか?
第15話 馬鹿のじゃきたぁ!
俺がよく分かっていないことを察したのだろう、ドロテアさんが説明してくれた。
整理すると、以下の通りだ。
まず文書の内容の五割以上が間違っていると登録できない。
そして登録に値する情報は、次のように評価される。
『正しさ』 :登録内容がどれほど正しいかで評価される。
SSS - 間違いがない
SS - 内容の九割五分が正しい
S - 内容の九割が正しい
A - 内容の八割が正しい
B - 内容の七割が正しい
C - 内容の六割が正しい
D - 内容の五割が正しい
『充実度』 :タイトルに対しての内容の充実度によって評価される。
充実度の明確な基準はドロテアさんも完全には分からないようだ。『正しさ』と同じようにSSSが最高で順に充実度が低くなり、Dは一番充実度が低いということらしい。
説明を聞いてまず驚いた。前世でもそんな高度なシステムはなかったからだ。大まかに必要なことだけ説明してくれただけのようなので、他にも機能があるのかもしれない。
ふと顔を上げると、俺が驚いているのをドロテアさんが微笑んで見ていた。
……なんか負けた気がする。
あれ? でも、最初からこれだけで十分だったんじゃ?
だって資料を登録するだけで『正しさ』と『充実度』が分かるなら、さっさと登録すればいい。俺のステータスを確認する必要はないはずだ。
俺は右手をスッと上げる。
「ひとつ確認したいのですが、よろしいですか?」
「なんじゃ?」
「登録するだけでそこまで分かるのなら、ステータスやスキルを見るよりよっぽど確実に検証できますよね?」
ザンベルトさんは申し訳なさそうな表情をしているし、ドロテアさんは目が泳いでる。
ドロテアさんはなんで最初から登録のことを言わなかったんだろう。
そんな疑いの目でドロテアさんを見つめると、ドロテアさんは早口でしどろもどろな説明をする。
438
お気に入りに追加
8,709
あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。