転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

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2巻

2-5

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「もう一度行くぞ!」

 それからも何度もミーシャがギリギリ避けられる攻撃を繰り返す。
 失敗した場合は、容赦なく攻撃を体に当てる。
 それでも訓練し続けられるよう、怪我はヒールで治し、体力が減ってくるとスタミナヒールで体力を回復した。
 ミーシャも最初は腰が引けていたが、途中からは怪我してもすぐに治されることに安心したのか、目の色を変えて集中して向かってくるようになった。
 痛みや恐怖に慣れると、実戦でも緊張や恐怖で縮まることがなくなる。それに痛覚耐性や精神耐性、物理攻撃耐性など耐性系のスキルも習得できるのだ。
 それをしばらく続けて、ミーシャの魔力が回復したのを確認すると、一旦打ち合いをやめる。そしてまた魔力を枯渇させるように指示した。
 しんどそうながらも俺の指示に従うミーシャを横目に、シルを見た。

「シル、こっちにおいで」

 シルはミーシャの訓練を見ていたようで、尻込みしているようだ。

「大丈夫だよ。遊びながら訓練するだけだからね。ふふふっ」

 俺がそう言うと、シルは警戒しながら近づいてきた。
 そんなシルに、俺は優しく説明する。

「シルは好きに逃げていいよ。俺が追いかけるから、捕まらないようにしてね」
『うん、それならだいじょうぶ! つかまらないよ!』

 シルは先ほどまでの警戒した様子ではなく楽しそうだ。尻尾も左右に揺れまくっている。遊びが始まるとでも思っているのだろう。

「じゃあ逃げろ!」

 俺の合図とともにシルは全力で走り始めたが、すぐに転んでしまう。
 ははは、状態異常のことを忘れていたな。
 シルは立ち上がると恥ずかしそうにこちらを見た。思わず笑いそうになるのを我慢する。
 シルは森の中に走っていく。
 俺は隠密おんみつスキルを使ってシルを追いかける。全力で追いかけるとすぐに追いついた。
 シルは木にぶつかりそうになりながらも一所懸命走っているな。
 俺はシルと並んでから、隠密スキルをオフにする。
 シルは突然俺が現れたことに驚いて、木にぶつかってしまった。

「捕まえたぁ~!」

 俺はシルを捕まえるとクリアと回復魔法を使ってモフモフを堪能する。

『なんで、なんでぇ~!』

 シルはモフモフされながら念話で尋ねてきた。

「走るだけならすぐに追いつけてしまうんだ。周りを警戒しないとダメなんだぞぉ~!」

 そう言いながら、シルを解放する。
 俺は走っていくシルを追いかけながら、シルが警戒すればギリギリ気が付く程度の隠密スキルを使う。
 シルは気配察知で俺に気が付くと、方向を変え逃げていく。俺は何度もシルを脅かして、怪我すると治してを繰り返すのであった。
 シルとの訓練を終え、戻ってくるとミーシャは剣を振っていた。
 練習熱心でいいぞ!
 またミーシャの訓練を再開する。
 そして十二時になるまで訓練を続けた。
 本当は眠らせずに訓練を続けて睡眠耐性スキルを習得させたかったが、明日は町に行くので今度にする。
 今日の研修成果を確認するため、ミーシャのステータスを確認する。


 名 前    :ミーシャ
 種 族    :[C]獣人族(狐獣人)
 レベル    :15
 性 別    :女
 年 齢    :15歳
 H P    :[D]85/85(UP!)
 M P    :[B]145/145(UP!)
 体 力    :[D]94/94(UP!)
 知 力    :[C]102
 筋 力    :[D]111(UP!)
 素早さ    :[B]147(UP!)
 器 用    :[C]119(UP!)
  運       :61
 称 号          :
 スキル          :生活魔術lv3、採取[C]、剣術[D]、気配察知[C]


 新しいスキルは習得していないが、能力値は軒並み上がっているので、一日の成果としては非常に良いはずだ!
 能力値は二割近く上がっているので、ドーピングしたことを考慮してもミーシャは相当頑張ったと言える。
 ……明日は町に行くので、訓練できないのが残念なくらいだ。
 一応シルのステータスも確認した。


 名 前    :シル
 種 族    :[A]シルバーウルフ
 レベル    :1
 性 別    :雄
 年 齢    :14日
 H P    :[B]240/240
 M P    :[B]240/240
 体 力    :[B]241/241(UP!)
 知 力    :[C]180
 筋 力    :[B]240
 素早さ    :[A]282(UP!)
 器 用        :[C]180
  運     :72
 称 号    :テンマの従魔
 スキル    :統率[C]、威圧[C]、夜目[B]、気配察知[B]、
         気配隠蔽[C]、身体強化[A]、風魔術[B]、魔力感知[C]、魔力操作[C]、毒耐性[B](NEW!)、麻痺耐性[B](NEW!)


 シルはすぐに飽きてしまい、あまり訓練をしていなかったから、ほんの少ししか能力値は上がっていない。
 それでも毒耐性や麻痺耐性のスキルを簡単に習得できたのは、やはり種族の特性だろう。
 その他のスキルは生まれつき持っているもののようだが、使っていないのを見ると、訓練しないと使い方が分からないのだろう。本来は親なり仲間から教えてもらうんだろうしな。
 これについては訓練方法を改めて考えてみる必要がある。
 まあシルはモフモフ枠なので慌てて育てる必要はない。明日町に行ったら従魔の扱いについて確認しよう。
 ミーシャのことを褒めてやると、嬉しそうにしながらシルと寝室に向かった。


 俺はルームに戻ると、改めてミーシャのことを考える。
 たった一日だが何となくミーシャのことが理解できた気がする。
 ミーシャは天然系脳筋ケモミミ少女だ!
 勝気な性格でもあるが、自分が興味ないことには無関心。だからよく考えないまま俺の話を了承することが多い。でも、こだわりのあることに関しては頑固だ。また、過酷な訓練は嫌いではないようだ。俺と似て、強くなりたいという欲のほうが勝つのだろう。
 この世界の年齢ではミーシャのほうが年上だが、俺にとって彼女は妹のような存在だ。女性とのコミュニケーションスキルのない俺には、ちょうど良い距離感かもな。
 そんなふうに結論し、俺も昨日から寝てないので寝室に移動して眠るのであった。


    ◆   ◆   ◆   ◆


 私、ミーシャは寝室に入ると、すぐにベッドに横になった。
 シルを抱きしめながら今日のことを思い返していた。
 朝食のときは自分でも子供っぽいことを言ってしまった。
 開拓村では毎日家族と食卓を囲んでいたから、食事に呼んでもらえないことに対するショックが、かなり大きかったのだ……。
 でも、これから自立した冒険者として生きていくには、甘えることなく自己管理をしなければならないのだろう。

「それにしても、凄かったなぁ……」

 私は寝返りをうちながら、研修のことを考えた。
 すごく大変ではあったし、これまでの常識から考えると予想外のことも多かったが、ステータスを見てテンマのやり方は間違いないと確信した。
 そんなことを考えていたから、しばらくは興奮して寝付けなかった。
 それでも慣れない訓練に疲れていたのだろう。それに、隣で寝ているシルはモフモフしていて温かい。
 私はいつの間にか深い眠りに落ちたのだった。




 第9話 馬鹿がモテる?



 俺、テンマは朝五時半にアラームで目を覚ました。
 まだ外は薄暗いが、どこ研の燻製小屋に移動する。
 昨日燻製にしたベーコンやジャーキーの様子を確認したかったのだ。
 それらが問題なく完成しているのを確認して、すべて収納する。
 その後キッチンに移動して、先ほど取ってきたベーコンをカリカリに焼いていく。それだけでは栄養バランスがかたよるので、トマトと葉野菜でサラダを作る。それらをアイテムボックスに収納してどこ研のテラスに移動した。
 すぐにシルが起きてきた。
 まずは本日のモフモフを堪能する。
 シルにミーシャを起こしてくるように頼むと、ぐずりながらも寝室にミーシャを起こしに行った。
 その間に俺はテーブルに朝食を並べ始める。今日の献立は、俺とミーシャが先ほど作ったカリカリベーコンとサラダ、白パン、オレンジジュース。シルはベーコンをブロックに切った物と、作り置きしていたもつ煮込みだ。
 少しして、シルがミーシャと戻ってきた。ミーシャはまだ眠そうだが、今日は起きてきたな。
 そして全員そろってテーブルについたところで、朝食を食べ始める。
 ミーシャはサラダを一口食べ、悲しそうに呟く。

「食事の味がよく分からない」

 昨日から状態異常のままになっているからだな……。

「朝食と夕食の前に状態異常を治すことにしようか?」

 そう俺が言うと、ミーシャは力強く頷く。

「うん、食事は唯一の楽しみ!」

 俺は毒と麻痺の回復薬を十本ずつと、毒薬と麻痺薬を出して、自分で管理するように言って、ミーシャに渡した。
 シルを鑑定すると状態異常の表示はなく、それぞれの耐性がlv1になっていた。
 種族補正の強力さに、もう呆れるしかない……。
 俺はベーコンをナイフで切りながら、今日の予定について話すことにした。

「ミーシャは、午前中は昨日と同じ訓練を続けてやってくれ。俺は薬草を採取しながら町へ向かう。昼前には町の近くまで行けるはずだから、それから昼食を食べて、ミーシャと一緒に町に入る予定だ」

 ミーシャはそれを聞くと少し考えてから口を開く。

「訓練のあとにすぐ昼食をとるとあまり食べられないから、町に行く前にお風呂に入りたい!」
「それは構わないよ」
「本当に⁉」

 ミーシャは嬉しそうだ。


 朝食を食べ終えると、俺が指示を出したわけでもないのに、ミーシャは自分で毒薬と麻痺薬を出して飲み、黙って訓練に向かった。
 シルにはまったく薄めない普通の毒薬と麻痺薬を飲ませる。

『これ前よりピリピリする!』

 当然そうなるよねぇ……。
 鑑定すると少しずつHPが減っているが、昼前になくなることはなさそうなので、そのまま走りに行かせる。
 シルは階段を転びながら降り、草原でも何度も転んでいた。
 ……あとで様子を見に行こうかなぁ。
 普通に毒薬と麻痺薬を飲ませてしまったので、シルのことが心配になったのだ。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 装備を整えるとどこ研を出て、薬草を採取しながら町へ向かう。
 森の中を進んでいるとワイルドベアに遭遇したが、即座に倒した。ワイルドベアはフォレストベアより凶暴な魔物だが、俺にとっては大差ない。他にも魔物に遭ったが、脅威となるようなやつはいなかった。
 町に移動しながら一度シルの様子を見に行ったが、HPが昼までもちそうなので、引き続き採取と移動を続けた。
 移動中に地図スキルのギリギリの辺りにハニービーの巣を確認した。今日は予定があるので巣には今度行くことにする。
 ハニービーの蜂蜜はちみつは美味しい。上位種のキラービーのほうが美味しくて中級ポーションの素材にもなるが、ハニービーは一つの巣から採れる蜂蜜の量が多くて、使い勝手が良いのだ。


 十一時頃には町の近くに到着した。
 予定より早く着いたな。
 どこ研に戻り、ミーシャに風呂に入るかと聞くと、二つ返事で風呂に入りに行った。
 シルには念のために回復魔法をかけてやり、鑑定すると毒耐性と麻痺耐性がlv2になっていた。
 今日の夜にはそれぞれの耐性がlv3になって普通の毒薬や麻痺薬では効かなくなるかも……。
 ミーシャが風呂から出てくるのを待って、ルームのダイニングで昼食をとる。
 そしてミーシャと二人で町に向かう。
 シルはまだ従魔登録していないのでどこ研でお留守番だ。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 ロンダの町に到着して入ろうとすると門番に声をかけられる。

「お前達、この前ランガと一緒に来た二人だよな?」

 声をかけてきた門番を見ると、この前町に来たときにランガと話していた人だ。
 確か……ヨルンさんだ!

「はい、そうです。ランガの知り合いのヨルンさんですよね?」
「おう、門番のヨルンだ。しかし、お前達は随分とこの前と雰囲気が変わったな?」

 目立たない服や装備にしたつもりだったが、失敗したかな?

「本格的に冒険者活動を始めるので、服も装備も変えてきました。ギルドカードを見せたほうがいいですか?」

 俺が問うと、ヨルンさんは首を横に振る。

「いや、必要ない。この町では言われたら見せるっていうのが普通だ。それよりお嬢ちゃんは、この前馬車の御者ぎょしゃをしていた子だよな? 嬢ちゃんも随分と雰囲気が違うから分からなかったぞ」
「そう?」

 ミーシャが不思議そうに聞き返した。

「ああ、たった数日ですごく可愛くなった。町の男共が放っておかないぞ!」
「うん、ありがとう!」

 ミーシャは褒められて嬉しそうだ。
 耳はピクピク、尻尾はブンブンだ!
 もしかしてこのために風呂に入ってから町に来たのか?
 ようやくミーシャが風呂に入りたがった本当の理由に気が付いた。
 まぁ服や装備ではなくミーシャが可愛くて目立つなら特に問題はない。
 俺はミーシャを横目に、門番と仲良くして損はないと思って挨拶した。

「これからよろしくお願いします」
「おう、よろしくな!」


    ◇   ◇   ◇   ◇


 ロンダの町に入るとまずは冒険者ギルドに向かう。
 冒険者ギルドの中は、昼過ぎなので人が少ない。それでも視線がミーシャに集中しているのが分かる。その視線に気付かないフリをしつつ、ひとまず掲示板でホロホロ鳥の依頼を剥がして受付に向かう。

「すみません、移動中にホロホロ鳥を獲ったんですが、この依頼を受けられますか?」

 俺が聞くと、受付のお姉さんは柔和な笑みを浮かべる。

「先に採取や討伐した場合でも依頼として受けられますよ。え~と、えっ、この依頼ですか? ホロホロ鳥は今、どこにあります?」
「収納に入っています。どこに出しますか?」

 俺がそう答えると、お姉さんは両手を胸の前で組んで、嬉しそうな悲鳴を上げる。

「ここで構いません。この依頼の受理は久しぶりです!」

 アイテムボックスからホロホロ鳥を三羽出すと、受付のお姉さんは固まってしまった。
 更に常設依頼として薬草十束とホーンラビット五匹の採取依頼も貼りだされていたので、これも取り出す。

「常設依頼の素材もここで買い取ってもらえますか?」
「えっ、はい、ここで一緒に預かって査定しますけど……」

 俺は身分を証明するためにギルドカードを提示しながら、お姉さんに尋ねる。

「それとギルマスに会いたいんです。先日顔を出す約束をしていたので、『テンマが来た』と伝えていただけると助かります」
「しょ、少々お待ちください」

 お姉さんはそう言うとバタバタと奥へ引っ込んでしまう。そして素材を奥に持っていき、査定するように頼む。他の人にはギルマスへの伝言を頼んでいるようだ。
 そして戻ってきたのは、先ほどとは違うお姉さんだった。

「テンマ君、グストが迷惑をかけたようでごめんなさいね」

 ……あぁ、俺達の冒険者登録をしてくれた人か! 丁寧に説明してくれたんだよな。
 年齢はたぶん二十代中頃の人族。髪の毛はダークブラウンで知的な顔つきをしているが色気もあり、笑顔も素敵だ。体型もスリムではあるが出るべきところは出ているし……。
 うん、ぜひとも仲良くしたい!
 俺は、姿勢を正す。

「グストさんもランガにだまされていたようです。仲間を思ってやったことですから、もう気にしていません」
「そう、それは助かるわ。それじゃああらためて自己紹介させてもらうわね。私は受付窓口のまとめ役のルカよ。何か相談事があるときは遠慮なく私に聞いてね」

 ルカさんは悩殺されそうな笑顔でそう言った。サーシャさんはランガの奥さんだったから諦めることになったので、ルカさんには一応確認しよう。

「こちらこそよろしくお願いします。でもルカさんみたいな綺麗な人が受付にいたら、言い寄られて大変じゃありませんか?」

 俺の言葉を聞いたルカさんは、嬉しそうに笑顔で答える。

「うふふふっ、昔はモテたんだけどねぇ。結婚してからは誰も相手にしてくれないのよぉ」

 やはりこんな素敵な女性が独り身のわけないかぁ。
 俺は落胆する。
 別に口説くつもりもスキルもない。ただ、お近づきになりたいと思っただけだ!
 そう心の中で誰にともなく言い訳をしつつ、俺は本心から言う。

「旦那さんは幸せな人ですねぇ……」
「え~と、テンマ君には言い辛いけど……隠してもすぐ分かると思うから話しておくね。私の旦那ってグストなのよぉ」

 げ、幻聴か!
 衝撃の事実にくらっとして、思わず俺は受付のカウンターに手をつく。

「ちょっ、ちょっとテンマ君大丈夫?」

 サーシャさんといい、なぜこの世界の俺好みの女性は、お調子者馬鹿とか脳筋馬鹿と結婚するのだろうか? もしかしてこの世界では馬鹿がモテるのか⁉
 信じたくない事実に打ちひしがれていると、ギルマスが姿を見せた。
 今はギルマスと話をしている余裕なんてあるかぁーーー!
 声にならない絶叫を上げる俺だった。




 第10話 ギルマスと話す



 正直今は放っておいてほしい気分だったが、さすがにギルマスを呼んでおいて今は話をしたくないとは言えないだろう。

「テンマ君、無事に戻ってきたようだね。グストから、ミーシャと二人で野営しながら町に来ると聞いて心配してたんだよ」

 新人がいきなり野営すると聞けば心配するよな。
 ともかく早めに用件を済ませるために、気持ちを切り替えよう。

「心配をおかけしたようですみません。それより先日の件についてお話しできればと思いまして。それと少し相談したいこともあるんです。ギルマスの都合が良いときにお願いできますか?」
「それなら今すぐ大丈夫だよ。一階の会議室に行こうか?」

 おうふ、今すぐ大丈夫とは! 少し冷静になる時間が欲しい!

「今ちょうど持ち込んだ物の査定をしてもらっているところなので、その後でも良いですか?」
「査定の結果は会議室に持ってこさせるから大丈夫だよ」

 ギルマスはそう言うと、ルカさんに指示を出して、すぐに歩き始めた。
 俺は諦めてギルマスの後ろに付いていくのであった。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 先日、ランガ達が正座させられていた部屋に案内された。
 ギルマスは一番奥の席に座ったので、俺はギルマスの正面の席に腰を降ろす。

「それで、先に相談とやらを聞こうか?」

 ギルマスが尋ねてきたので、まずはシルのことを確認する。

「え~と、従魔の扱いについて教えてくれると助かるんですが」
「テンマ君には従魔もいるのかい? 本当に多才なんだなぁ。従魔は冒険者ギルドで登録できるよ。登録するとタグが渡されるから、そのタグを紐かベルトのような物で従魔に着ければどの町も通行できるはずだ。あとで仮登録のタグを渡すから、ひとまずそれを持ってギルドまで来てくれ。あと専用の紐とかベルトを作ってくれる所も紹介できるよ」

 俺はギルマスの説明に頷いて、口を開く。

「承知しました。とりあえず仮登録のタグだけ借りられますか?」
「うん、分かったよ。それでどんな従魔なんだい?」
「シ、ウルフ系の魔物です」

 種族が分かっていると鑑定系のスキルを持っているのではと目をつけられかねないから、ウルフ系と説明したのだが、思わずシルバーウルフと言いそうになってしまった。

「ウルフ系なら野営とかで見張りをさせられるし、便利そうだな。このギルドにも従魔とともに活動している者はいるが、皆連絡用の鳥系の魔物ばかりだからな」

 そんなふうにギルマスが話している最中に、ルカさんが入ってきた。
 手続きを済ませてくれたようで、お金と紙、それにギルドカードを置いて、俺にウインクしてから部屋を出ていった。
 れてまうやろ~!
 グストへの殺意がフツフツと湧いてくる。
 そんな俺の気持ちを知らないギルマスは紙を開いた。

「グストからも聞いたが、本当にホロホロ鳥を獲るのが得意みたいだね」

 グストが開拓村のことを話したのだろう。
 ギルマスは紙を見せながらお金とギルドカードを渡してくれた。紙は査定の明細のようだ。報酬の合計は金貨十五枚と銀貨五枚だ。
 ホロホロ鳥はなんと一羽につき金貨四枚で買い取ってもらえるとのこと!
 俺が驚いているとギルマスが説明してくれた。

「ホロホロ鳥の基本的な買取価格は金貨三枚だ。最高品質でないと金貨四枚では買い取らない。テンマ君の持ってきたホロホロ鳥は肉をいためない狩り方で、かつその後の血抜きも完璧だったってことだ。なんなら私が職員割引で買い取りたいくらい……」

 そんな特典があるんだ……なんて俺が感心していると、ギルマスは咳ばらいをする。

「それより他に相談はあるかな?」
「いえ、ありません」

 俺がそう答えると、ギルマスは表情を真剣なものに変える。

「それじゃあ先日お願いした、魔力量を増やす方法について、改めて教えてくれないか?」

 先日冒険者ギルドを訪れた際に、ギルマスには魔力量を増やす方法について軽く話をしたのだが、彼はそれについて強い興味を示しているのだ。

「ええ、構いませんよ。ただ口で説明するには少々複雑な内容になるので、文書にまとめてそれを見ながら説明したいのですが、いかがでしょうか?」
「それなら魔術師ギルドに専用の用紙があるから、それを使うと良いよ。そのまま登録もできるし。何枚ぐらい必要かな?」

 登録? そういえばどこかでそんなことを耳にしたような気もする。

「他にもまとめたいことがあるので、百枚ほどお願いできますか?」

 まとめておきたい技術や仮説なんていくらでもある。なんなら百枚でも足りないぐらいだ。錬金術で紙を作れないこともないが、この世界の紙についても知っておきたいしな。
 ただ、一度に用紙をそんなに持っていく人間などそういないのだろう。ギルマスは驚いている。


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