転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

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2巻

2-2

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 ◇   ◇   ◇   ◇


 至福のバスタイムを終えた俺達は、ミーシャの待つリビングに移動する。
 リビングに入るとミーシャは俺の髪の毛の変化に気付いたようだ。視線が俺の頭に釘づけになったのが分かった。次いで後ろを歩くシルの毛並みを見て、立ち上がって歩いてきた。

「テンマ、これなに!」

 ミーシャはシルをモフりながら尋ねる。

「風呂の効果だよ。俺が作ったリンスを使うとこんな感じになるんだよ!」

 俺が胸を張ってそう言うと、ミーシャは口をへの字に曲げた。

「なんで言ってくれなかったの⁉」
「いや~、魔物や獣人族に効果があるか分からなかったし、変な効果や悪いことが起きたら嫌だから、まずはシルで試してみたんだよ」

 俺の説明を聞いてもミーシャは納得していない顔をしている。

「私も今から入る! そのりんす? の使い方を教えて!」
「今から明日以降の準備をしなくちゃいけないから、難しいな。それに使い方を教えるためには服を脱ぐ必要があるだろう? 明日までに風呂に入るための水着……水に濡れても大丈夫な服を用意するから、明日にしてくれ」
「ふ、服を脱ぐ⁉」
「服が濡れちゃうと困るだろ?」

 リンスの使い方を教えるだけなら服のままでも大丈夫だが、シャワーとかジャグジーの使い方まで教えることになるから、水着を用意してからのほうが良いだろう。
 ミーシャは考え込むような表情でシルをモフっている。
 俺はひとまず話題を変えることにした。

「そうだ、今日は寝室で寝ていいよ。シルも今日はミーシャと一緒に寝ていいからね」
「テンマはどこで寝るの?」
「俺は今後の準備があるからまだ寝ないかな。たぶん今日は寝ている暇がない気がするけど……まぁ、耐えられないくらい眠くなったらソファで寝るよ」

 するとミーシャは申し訳なさそうに首を横に振る。

「わ、私がソファで寝る!」
「う~ん、ミーシャは明日から本格的に訓練をするから、今日はしっかり寝てほしいなぁ」

 俺がそう言うと、ミーシャはしばらく迷った後に答えた。

「今日はそうする……」
「それじゃあ、おやすみ!」

 そして俺は、生産工房に移動するのだった。




 第3話 今後の準備



 生産工房で俺は一人、今後の方針について思案する。
 ロンダに到着したら冒険者をすることになるのだろうが……安全に暮らすためには情報を収集する必要がある。
 以前ロンダを訪れた際に出会った住民達のステータスから考えるに、焦って自分を鍛える必要はないだろうが、自分とは違った素質を持つ者がどうなるのかは分からない。
 だから俺の素質と違うミーシャと一緒に行動しつつ、データを取ろうというのが今の俺の行動方針である。
 け、決して美少女ケモミミ少女を育成したかったとか、そういうことではないのだ……たぶん。
 俺の育成方法……ゲフン、訓練方法が知られると目立ってしまうためどこ研を準備したのである。できるだけ快適に暮らしたいというのも大きな理由ではあるけどな。
 まあ、万一問題が発生したら別の国に逃げればいいか。
 そんな心配より、まず目先の生活の充実だ。
 まずは衣食住いしょくじゅうの中のを充実させるために、魔物の素材を使い、町で見た物を参考に服や装備を作ることにする。
 下着は伸縮性のある素材で作り、自動洗浄や自動修復、消臭やサイズの自動調節を付与。ズボンや上着も見た目はこれまで使っていた物と同じにしつつも、細かな部分に刺繍ししゅうを入れるなどこだわってみた。防具はあまり色々装備したら動きにくそうだから、これまで通り胸当てだけだ。素材は研修時代に倒した上位の魔物の皮だが、見た目は初心者用に見えるように加工する。
 他にもローブや靴など必要になりそうな物を作り、様々な効果を付与した。
 この服でも動きやすいがくつろげないので、着心地が良くシンプルなデザインの部屋着を作って俺が使う物はあらかた作り終えた。
 よし、次はミーシャの服と装備だな。まず下着からだ。
 下着は尻尾を通すための穴を開けつつ、動きやすいように工夫する。そして俺の下着同様、様々な効果を付与した。
 デザインが可愛くなってしまったのは……ご愛嬌だ。
 そして服の製作に取りかかる。最初に普段着を作るか。
 ピタッとしたパンツに、腰を包むようにフリルを取り付ける。それにシンプルな長袖のハイネックTシャツを合わせる形だ。アクセントとして大きなベルトと、胸当ても作った。
 この上下セットを色やデザインを少しずつ変えて五種類仕立てた。
 その中でも特に気に入ったデザインを使って、村に帰ったときに開拓村で世話になったランガ一家の娘であるメイちゃんに渡す用の服と装備も二種類作ってしまった。
 部屋着は更に力を入れて作る。
 もこもこしたパジャマタイプと、ダラッとした普段使いっぽいタイプの二種類を作ることにした。
 特にもこもこタイプは、こだわりたい!
 様々なカラーバリエーションを試し、最良の組み合わせを探る。
 その中でも俺のお気に入りは、ミーシャの毛色と同じ、黄色を基調とした物。
 同系色の部屋着を着るとモフモフ感がよりいっそう高まるはずだ!
 想像するだけで至高である。
 ただ、そうなると大問題がある!
 可愛らしい部屋着を着たケモミミ美少女と一つ屋根の下で、俺はモフらずに耐えることができるのだろうか……答えは否だ!

「やってもうたーーーーー‼」

 部屋着については、よく考えてから渡す必要がある!
 ミーシャはケモミミ美少女ではあるが、俺はまだ彼女のことを理解しきれていない。だから女の子としてかれているわけではないのだ。
 だが、この世界では『獣人の尻尾をモフる=責任を取らなくてはならない』らしい。
 だから衝動的にモフるのだけは絶対にしてはならない!
 俺は冷静になるために、一旦メイちゃんの部屋着作りをすることにした。
 そしてしばらくして……気が付くと俺の周りには部屋着だけでなくメイド服やらフリフリのアイドル衣装やらが散乱していた。

「妄想が暴走してるぅ~!」

 俺は叫んだ。
 自分のケモナー属性が想像以上に強いことを自覚させられたのだった。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 散らばった服を片付けた俺は、鍛冶かじ工房に移動してきた。
 作業を始める前に、ミーシャとシルを起こさぬよう、結界魔法を張りめぐらせた。
 まずは自分用のショートソードを作り始める。
 素材は魔鉄まてつにミスリルを混ぜた合金だ。魔鉄は黒っぽい金属なのだが、ミスリルを混ぜると、白みがかって普通の鉄の色になる。特殊な武器だとバレにくくなる上に、魔力を通しやすくなり付与効果も高くなるから一石二鳥なのだ。
 その合金を片刃で少し反った形の、幅広で剣厚もあるショートソードへと変形させる。
 出来上がったショートソードはとても綺麗きれいで、装飾を付けたくなるが……目立つから我慢だ。その代わりに斬撃強化や自動修復の付与効果だけでなく、貫通、そして軽くなる重量変化を付与する。
 ……うん、やりすぎだな! このショートソードで普通の剣と打ち合ったら、相手の剣を簡単に真っ二つにしてしまうことだろう。
 この剣はいざというときに使う用にして、別のショートソードを二本作る。一本は普段使う用なので自動修復と硬化を付与し、もう一本にはダメージ軽減の効果を付与する。こちらは訓練用だ。
 次いで、俺の物より一回り小さいショートソードを二本作る。こちらはミーシャ用だ。こちらも普段使う用と訓練用にそれぞれ別の効果を付与した。
 そして見た目は安っぽいが、自動洗浄の効果を付与したさやをショートソードと同じ数作り、その中にショートソードをしまう。
 解体用のナイフや、投擲用のクナイもいくつか作製して……刃物類は以上かな。
 次は、装飾品を作ろうか。
 初めてルームにミーシャを招待した際に彼女に渡した腕輪について考える。
 あの腕輪は自分のステータスを表示するステータス魔法と、収納魔法が使える優れもの。しかし研修時代に作った物だし、今ならもっと高性能でデザインを工夫した物ができるだろう。となると、万一盗まれたときに備えて、使用者制限も付けておいたほうが良いだろうな。
 ひとまずミスリルをはじめ魔力を通しやすい素材を使って五つほど飾り気のない腕輪を作り、彫金ちょうきんスキルを使って装飾することにした。
 ミーシャ用の腕輪には狐の顔と尻尾を彫り込み、目の部分にはミーシャの目と同じ色のグリーンのエメラルドをめる。メイちゃんにあげる腕輪もほぼ同じ作りだが、目に嵌める宝石はメイちゃんの目と同じ色のブルーのアクアマリンにしてみた。
 そして自分用にもシンプルなデザインの腕輪を作ったのだが、二つは余ってしまったのでひとまず収納しておくことにした。
 ついでにシルの首輪もミスリルを使って作製する。金属製だが自動サイズ調整もあるし、いくつか付与効果を付けたので問題はないだろう。


 鍛冶工房でやるべきことが終わったので、次は錬金工房に移動して、訓練で使う各種ポーションを調合する。
 ミーシャのステータスに合わせた、下級の訓練ポーションや魔力回復ポーションを大量に作製する。各能力値を効率的に上げるためには、ポーションの活用が必要不可欠だからな。
 それから少しして、必要なポーションを作り終えたところで俺はあることに気付く。素材の在庫に余裕がないのだ。
 ルーム内の倉庫に保管しているのは、中級や上級のポーションを作るための素材がほとんどだ。下級ポーションに流用できる素材もあるが、それでもこれから使う分を考えると、やや心許こころもとない。素材を採取するというのも、今後の方針に組み込んだほうが良さそうだ。
 そう考えつつ、生活魔法のタイムを使って時間を確認すると、すでに朝五時を過ぎていた。
 やはり今日は寝られそうにない。
 朝食の支度したくのためにキッチンに行こうか……いや、待てよ? 水着を作っていないじゃないか!
 俺はきびすを返して再び生産工房に移動。水着を作り始める。
 自分の水着は研修時代に作ったため、ミーシャのぶんだけで良い。
 ワンピースタイプとビキニタイプの両方を作り、風呂用に布面積を極端に減らした水着も作った。

「こ、これは体を洗うために仕方なく小さく……」

 誰にするわけでもない言い訳を呟く中、俺は気付いてしまう。

「体はクリアで綺麗にするから、布面積を小さくする必要はないんだよな……」

 それから俺の頭の中では、悪魔と天使が喧嘩けんかを始めてしまった。
 そして最終的に悪魔バージョンと天使バージョンの両方の水着を作り、あとはミーシャの判断に任せることにしたのだった。


    ◆   ◆   ◆   ◆


 私、ミーシャはテンマと村を出て、これから夢に見た冒険者生活が始まるのだと舞い上がっていた。どれだけ移動で疲れても、倒れるまでは走り続けようと思うくらい気合が入っていたのだ。
 でも村を出てからずっと、想像していたよりテンマが凄いことを見せつけられ続けている。
 テンマのくれたポーションを飲んだら体力は一瞬で回復するし、どこ研とかいうよく分からない空間? 施設? も作っちゃうし。
 だから、テンマに投擲を練習するように言われて、私はテンマに負けないように必死に訓練をすることにした。


 やがて暗くなってきてテンマの所へ行くと……先ほどまでただの草原だった場所に二つの建物が並んで建っていた。

「え? どういうこと……?」

 戸惑いながらも二つある建物の一階建てのほうを覗いた私は驚愕した。
 テンマがシルをいっぱい触っていたから。
 たまにサーシャお姉ちゃんとランガもモフモフし合っているけど、それは二人が夫婦だからだ。
 従魔を可愛がる意味で毛並みを撫でることはあるけど……テンマのはそれだけじゃない気がする。
 何度か呼びかけてやっと振り返ったテンマに「シルは雄だよ?」って言ったけど、彼はピンときていないみたい。

(私がしっかりしないとダメみたい……)

 私はそう思ったのだった。


 そんなテンマだから、きっと家事もからきしだろうと思っていたんだけど……その日の夕食は、これまで食べたことがないほど美味しかった。それにクリアの魔法が使えるテンマには洗濯も必要ないじゃん!
 そしてテンマは片付けまで手際よく済ませて、シルとお風呂に行ってしまった。
 一人残された私は、改めてお姉ちゃんが言っていたことを思い出す。

『ねえミーシャ、無理にテンマ君を好きになる必要はないけど、このままだとテンマ君はミーシャが一人で冒険者としてやっていけるようになったら、あなたから離れていくかもしれないわ』
『少しでもテンマ君のパートナーとして相応ふさわしくなれるように、精一杯頑張ってほしいし、ずっとテンマ君と一緒に過ごしたいなら、彼の心を掴むように努力しないとダメよ。そしてテンマ君の気持ちをもっと考えないとダメよ』

 その言葉を、軽く考えていたのかもしれないな、と私は落ち込む。
 お姉ちゃんの言っていた通り、私はテンマに必要ないのかも……。
 そんなことを考えていると、テンマとシルが戻ってきた。
 テンマの髪は輝くようにさらさらに、シルの毛並みも格段に綺麗でモフモフになっている。
 風呂とリンスのことを聞いて、更にテンマのよく分からない凄い部分が増えてしまった。
 そして寝室を使っていいと言われてしまって、私は動揺する。
 だって、何も家事をしていない私がベッドで寝て、テンマはソファで寝るだなんて、私は役に立てていないどころか、迷惑になっちゃうじゃん!
 そう思って断ろうとしたんだけど、テンマはやんわりとそれをさえぎって、「俺はやることがある」と言い残してリビングを後にした。
 私は、シルを撫でながら考え込む。

(エ、エッチなことくらいしか私にできること、ないのかなぁ……)

 一瞬そんなことを考えたが、それはなんか違う気がする。
 やっぱり彼に直接尋ねようと、生産工房に行こうかとも思ったけど……うまく話せるか不安になって入れなかった。
 それで結局明日話をしようと結論づけて早めに布団に入った。
『明日どう話そう』とか、『もしテンマが戻ってきたら寝室を譲るべきだよね』とか考えたりしてしばらく寝れなかったけど。




 第4話 ミーシャの意思確認



 キッチンに移動した俺、テンマは朝食と、ついでに昼食まで準備する。
 研修時代に農業で収穫した食材をふんだんに使って、ヘルシーかつ美味しいメニューを完成させた。
 ちょうど完成した頃に、匂いにつられたシルがキッチンに顔を出した。
 六時前だが、ちょうどいいか。

「シル、朝食にするからミーシャを起こしてくれ」

 シルは勢いよくキッチンを出ていった。
 俺はダイニングに移動して食事を並べる。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 ミーシャを起こしに行ったシルが、六時を過ぎても戻ってこない。
 様子を見に行こうと立ち上がったとき、シルが戻ってきた。
 どことなく疲れた顔をしている気がするな。ミーシャがなかなか起きなかったのだろう。
 頑張ってくれたご褒美として、シルにはホーンラビットのもつ煮込みを多めに出してやる。
 俺の朝食はトマトと葉野菜のサラダ、ホーンラビットに香草を振りかけて焼いた肉、パンとオレンジジュースだ。
 起きなかった奴のことなんて待ってられん!
 俺とシルはいただきますをして、先に食べ始めることにした。
 もつ煮込みは独特な香りがするのでシルの口に合うか不安だったが、がつがつと食べている姿を見るに、気に入ってくれたようだ。


 それからおよそ三十分後。
 俺とシルが食べ終わる頃にミーシャがダイニングに姿を見せた。

「二人だけ先に食べるのはズルいよ!」

 ミーシャは不機嫌な顔で言う。
 自分を棚上げする態度にムッとしたが、俺は我慢して答える。

「すぐに起きてこないミーシャが悪いんじゃない?」

 ミーシャは頬を膨らませている。
 今は計画のために我慢だ!

「リビングで待っているから食べたら来てくれよ」
「……分かった」

 俺はミーシャの返事を背に、シルとリビングへ向かった。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 リビングに移動した俺はミーシャを待っている間に、深夜に作った物をシルに渡すことにした。ソファにシルと横並びに座り、首輪をアイテムボックスから出す。

「この首輪はシルが家族であることを示す、いわば家族のあかしだ。でも無理に着ける必要はない。どうだ、着けてみるか?」
「わふん!」

 尻尾をぶんぶん振っているから、たぶん了承してくれたのだろう。
 俺は首輪をシルに着けてやる。

「苦しくないか?」
「わふん!」『苦しくない!』

 俺の言葉に、なんとシルは鳴き声と一緒に念話で返してきた。
 実は首輪に念話を付与したのであとで使い方を教えようと思っていたのだが、教えるまでもなかったな。
 そもそも研修時代に念話スキルや魔道具への付与についての知識を得ていたが、研修施設では念話を使う相手がおらず検証できなかった。だから、うまく付与・発動できるか不安だったのだ。
 ひとまず発動自体はできたので、今後はどこまで届くのか、必要な魔力量、チャットのようにやり取りできるかについても検証しなくては!

『シル、聞こえるか?』

 俺も念話でシルに話しかける。
 シルは不思議そうに周りを見回す。

『テンマだよ。念話で話しているんだ。分かるかい?』
「わふんっ!」『分かった!』

 シルは俺を見て答えた。

『声を出さないで、俺に話しかけるつもりで、頭の中で話してみて』
「わおん!」『やってみる!』

 いや声が出てるから……。

「ワ……」『あっ、声が出ちゃったよ』
『できたじゃん!』
「わふん!」『できた!』
『また声が出てるよ!』
「くう~ん」『難しいよぉ』
『少しずつ練習すればいいよ』
『うん、分かった!』

 少しずつコツを掴んできたみたいだな!
 まぁ、声が出ちゃうのも可愛いし、焦ることもないかぁ~。
 そんなことを考えていると、背後から声がする。

「テンマ!」

 振り向くと、食事を終えたミーシャがリビングの入口から呼んだようだった。

「おっ、食べ終わった?」

 俺が片手を上げながら言うと、ミーシャはなぜか渋い顔をする。

「食べ終わったけど……テンマ、シルは魔物だよ?」

 いつの間にか、俺とシルは至近距離で見つめ合っていた。それについて言っているのだろうか?

「あぁ、そんなこと分かっているよ。食べ終わったんならダイニングで話をしよう」

 そう答えるとミーシャはなぜか溜息をついて戻っていく。
 俺は首を傾げながらシルと一緒に移動するのだった。


    ◇   ◇   ◇   ◇


 ダイニングに戻ると、食器はミーシャがちゃんと洗ったようで、綺麗になっていた。
 俺はそれを収納して、テーブルにクリアをかけてから、先に座っていたミーシャの向かいに腰を降ろす。
 ミーシャは不機嫌そうな顔をしているが、気にせず話を始める。

「とりあえずこれからの予定を確認しよう」

 しかし、ミーシャは右手で俺の話を遮るようにした。

「ちょっと待ってテンマ、その前に話がある」
「えっ、話?」

 う~ん、話の内容は予想できるけど……まあ、お互いの考えを話し合うのは大事だよな……。

「私達はこれから一緒に冒険者をやるんだよね?」
「うん、そのつもりだよ」

 でも育成……ゲフン、訓練が優先だけどね。

「だったら食事は一緒にするのが普通。さっきの扱いはひどかったと思う!」

 気持ちは分からないでもないけど……。
 俺は溜息をついてから口を開く。

「シルが起こしに行ってから随分時間が経っていたし、なかなか起きてこないミーシャを待ってろと?」
「そうだけど……でも、待っててくれてもいいじゃん!」
「俺は寝ないで訓練の準備をして、朝食も用意した。それなのに起こしてもずっと起きてこないミーシャに責められないといけないのかな?」
「で、でも……」

 さすがに反論はなかったが、反省はしていないみたいだ。
 俺は精神年齢四十八歳の余裕を発揮し、さとすように言う。

「確かにゆっくり休むように言ったのは俺だけど、今日から本格的に訓練を始めるとも話していたはずだよ。それこそ冒険者として生活するって考えるなら、早く起きるのだって訓練じゃないの? それに、冒険者なら野営とかのときに交代で食事することもあるよね。一緒に食事するのは当たり前ではないような気もする。むしろ何かがあったときに飛び起きてすぐ臨戦態勢に入れるくらいの危機感を持つことのほうが大事だよ」

 ちょっと理屈っぽく責めすぎたかなぁ? なんて思っていると、ミーシャから苦し紛れの反論があった。

「でも、ルームは安全!」
「ルームは確かに安全だけど、いつでも必ず使えるとは限らない。それに、ルームが安全だから油断していいってことにはならないと俺は思うよ。ルームは俺の能力であって、ミーシャの能力じゃないしね」

 ミーシャはうつむいてしまって、反論してこない。
 別段俺だって意地悪で言っているのではない。
 でも最初にしっかり冒険者になることの意味と、それにつもなう覚悟について話しておかないと、後悔するのはミーシャだ。

「前にも話したが俺はソロで冒険者をしても構わない。ミーシャが俺を利用するだけで、自分で努力しようとしないなら、一緒に冒険者活動はできない。すまないが村に戻ってもらうことになる」

 少し待っても、ミーシャは口を開かない。
 ちょ、ちょっと厳しすぎたかなぁ~? なんて考えながらミーシャの様子をうかがっていると、ミーシャはゆっくりと顔を上げた。その頬には、一筋涙が伝っていた。
 やっぱり責めすぎちゃったのか⁉

「グスッ、ごめんなさい」

 ミーシャは涙声で俺に謝る。
 前世で女の子との関わりがほぼ皆無だった俺は、当然ながら女の子を泣かしたことなんてない。
 内心は動揺しまくっていたが、「一度きちんと話す必要があったのは確かじゃないか」と自分に言い訳する。
 とはいえ泣いている女の子を放置するわけにもいくまい。
 俺は内心びくびくしたまま言う。

「少し言いすぎたかもしれない……けど一緒に冒険者活動をしていくなら、こうやって言い合うのも必要だからさ……」

 くぅ~、我ながらヘタなフォローだぁ!
 しかし、ミーシャはコクコクと頷いてくれた。

    
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