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番外編① アーリンの残念なチート物語 学園入学?

第33話 なんで止めるの?

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戦闘訓練エリアは十数メートル四方の正方形の形をしている。床は石畳になっていて、一段高くなっていた。

その先頭エリアに上がると、乙女のプライドを気付つけた元学園長を睨みつける。元学園長はそんな私のことを馬鹿にしたように笑ってから話し始めた。

「これから魔術師の戦闘がどれほど素晴らしいかお前達に見せてやろう! 魔術師でなくとも、魔術師と戦闘になった時にどう戦うのか考えながら見るのだ。まあ、剣士などは恐れて逃げ出してしまうかもしれんがな。フハハハハ」

え~と、元学園長くそじじいはあの程度の魔術で、なんで自信満々なの?

「おい、そこの小娘! お前はどんな手を使っても構わぬぞ。その代わり命がけで戦うのだ!」

う~ん、これって学園の授業だよね?

それになんでそんなに余裕なのかしら……。

あっ、もしかして何か裏技を持っているのかも!

実戦では元学園長が先ほど見せた中級魔法を使ってくるとは思えない。
別にもっと得意な魔術や、初級魔法を組み合わせた戦闘をしてくるかもしれないのだ。

中級魔法を使えるのだから、初級魔法はもっと完成度が高いのかも……。

少し油断しそうになっていたけど気持ちを引き締める。

「おい、開始の合図をしろ!」

元学園長は彼の子飼いの教師に命令した。教師達は審判のように戦闘訓練エリアを囲むように移動すると、その中の一人が開始の合図する。

「は、始め!」

私は合図と同時にロッド前に構え、即座に自分にクイックの魔法を無詠唱で掛ける。時魔術のクイックは魔法を掛けた相手の動作を加速する効果がある。レベルにより加速度は違い、今の私のクイックは1.5倍まで加速する。

油断なく元学園長を見ると、まだ魔力を練っている途中だった。

こ、攻撃して良いのかしら?

魔力を練るのに集中しているので、元学園長は隙だらけである。

私の身体強化とクイックの効果を合わせれば、この隙に近づいて攻撃できそう。でも、何か裏技がある可能性もあるので、慎重に相手の動きに集中する。

『ファイアーア、ギャッ!』

……普通にファイアアローを使うつもりだったの?

元学園長が詠唱を始めると同時に、無意識で訓練用のクナイを投擲していた。クナイは彼が詠唱を唱え終わる前に顔に当たり、詠唱を中断させたのである。

あまりの呆気なさに一瞬固まってしまったけど、すぐに戦闘訓練中だと思い出して、元学園長に向かって走り出す。

「ま、待て!」

走り出してすぐに審判役の教師が戦闘中止の声をかけてきた。

なんで止めたの?

私は元学園長に走り寄るのをやめて、不思議そうに審判役の教師を見る。

「ま、魔術戦闘で卑怯なことをするな!」

卑怯って何よぉーーー!

元学園長せんせいはどんな手を使っても構わないと言ったと思いますけど?」

それにクイックを使っているから、魔術戦闘でもあるはず。

あっ、無詠唱だから気付いていないの!

「邪道じゃーーー!」

元学園長が鼻血を振りまきながら大きな声で叫んだ。

はぁ~、ふざけたこというのではありませんわ!

「何が邪道ですの? 元学園長せんせいは魔術師との戦闘を考えながらと仰いましたわ。魔術師の詠唱を中断させるのは当然の戦い方法だと思いますけど、元宮廷魔術師でありながらそんなことも知らないのですか?」

元学園長は顔を真っ赤にして怒っているけど、周りの生徒達が私の話に頷いているのを見て悔しそうに表情を歪めている。

乙女の制裁はこの程度で終わりませんわよ!

「ま、魔術師は兵士に守られながら、魔法を放つのが本来の戦い方だ! おい、お前達も戦闘に参加しろ!」

う、嘘ぉー! そんなことを言って恥ずかしくないのぉーーー!

元学園長だけでなく、子飼いの教師たちも恥ずかしくないのだろう。剣を抜いた教師と、盾と槍を持った教師が舞台に上がってくる。

元学園長はポーションを受取り飲み干すと、他の教師達と一緒にイヤらしい笑みを浮かべる。

「本当の戦いを教えてやる! おい始まりの合図をしろ!」

周りにいた生徒達や他の教師の大半も、元学園長の暴走ともいえる行為に顔を引きつらせている。

うふふふっ、あれで逃げ出されては楽しくありませんわ!

止めようとする教師もいたようだが、私が不気味な笑みをしているのに気付いて躊躇していた。

「は、始め!」

『スロウリー』

私は即座に学園長達にクイックの効果と逆になるスローの範囲攻撃を仕掛ける。まだそれほど使い慣れていないので、彼らの全員に当たるか不安だったけど、無事に当たったみたい。

私は身体強化と先程のクイックの効果が残った状態で、盾を構える教師に走りよる。相手は私の素早い動きに驚いたような表情をしていた。

ゆっくりと目を見開く顔はちょっと面白いわね!

雑念が浮かんだけど、すぐにロッドへ身体強化の魔力を広げ、相手の盾に思いっきり殴りつける。

ガキャン!

あっ、やり過ぎたかも……。

盾ごと殴られた教師は、半分に折れ曲がった盾と一緒に舞台の外に飛び出していった。

い、生きているよね!

戦闘中なので心配しながらも、視線の端で元学園長が魔力を練るのをやめて驚いているのを見て、安心してもう一人の教師に近づく。

彼は焦ったように剣を振り下ろしてきた。普段なら受け流すけど、腹を立てていたので思いっきりロッドで剣を上に弾いた。驚いたことに相手の剣は途中から折れて、剣先が上に舞い上がる。

あれっ、学園の授業なのに木剣じゃないのね。

一瞬そんなことが頭に浮かんだけど、相手は剣が折れたことに驚いて隙だらけなので、今度はロッドに魔力を纏わせないで腹を殴りつける。

「ウグゥ、ギャアーーー!」

腹を殴られた教師は呻き声を出して前のめりになったところに、先ほどの折れた剣先が落ちてきたのだ。剣先は彼の肩に突き刺さり、叫び声を上げたのである。

か、可愛らしい生徒の私と実剣で戦闘しようとした報いよね……。

まだ戦いの最中なので、今度は元学園長に視線を向ける。恐怖に顔を歪める元学園長の顔に気付いたけど、戦闘を止められる前にるために攻撃する。

無詠唱でファイアボールを放ち、続けざまに魔法を放つ。

『ファイアアロー』

「ギャァーーー!」

ファイアボールは狙ったつもりはなかったけど、元学園長の股間に当たり、ファイアアローは彼の右足に突き刺さった。

元学園長は地面に倒れ、必死に股間と足の痛みに耐えようと転げまわっている。

私は元学園長に近づくとロッドに目一杯魔力を込めて振り上げる。

元学園長が恐怖の表情で目を大きく見開いているのに気付いてた。

「まっ─」

ドッゴォーーーーーン!

審判役の教師が止めようと声を出したみたいだけど、最後まで聞く前に私はロッドを振り下ろしたのである。


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