上 下
270 / 315
番外編① アーリンの残念なチート物語 学園入学?

第7話 戦闘訓練

しおりを挟む
私は嬉してスキップしながら訓練場の中央に向かう。お兄様とは幼い頃に剣術の真似事をした記憶しかない。その頃はお兄様が笑顔で私の攻撃を軽くさばいていた。

成長した私をお兄様に見てもらえるのよぉ~。

訓練場の中央に到着すると、テンマ先生から貰った訓練用のロッドを収納からだして振り返った。お兄様は私が楽しそうにしているのを温かい笑顔で見ている。

「アーリン、戦闘訓練なんだろ。なんでロッドなんだ?」

「レオンお兄様、私は魔術師なんですよ。戦闘訓練で魔法は使いませんけど、武器はこのロッドになりますわ。これでも杖術スキルを取得していますから、お兄様でも油断していたら大怪我をしますよ!」

お兄様は私の話を聞いて不思議そうな表情をしていた。たぶん杖術スキルを知らないのだろう。

私もテンマ先生に教えられるまで、そんなスキルがあるとは知らなかった。
杖術スキルは魔術師が装備する杖やロッドで戦うスキルである。剣術スキルは剣による攻撃的な戦いをするのだけど、杖術スキルは相手の攻撃を杖でかわして、相手の体勢が崩れたら反撃するような守備的なスキルである。

私は剣術の素質が低く、杖術の素質が高かった。テンマ先生に教えてもらい、すぐに杖術スキルを取得した。今では、杖術スキルはlv2までレベルアップしていた。

「まあ、別に構わないかぁ……」

お兄様はそう呟くと剣を構えた。私もロッドを体の前に突き出して構える。

えっ、冗談でしょ!

お兄様は剣を構えてはいるが隙だらけに見える。いくら何でも無警戒すぎるお兄様に怒りすら感じる。

私は魔力を全身に広げていく。

「お待ちください!」

声のほうを見ると騎士がいつの間にか訓練場に降りてきて声をかけてきた。

「どうした?」

お兄様は驚いた表情で騎士に尋ねた。

「レオン様、准男爵様からアーリン様と訓練をするのは私とアーリン様の訓練を見てからするように言われていたはずです!」

もぉ、生真面目ねぇ~!

お父様は旅の疲れを気にしてのだと思うわ。それなのに普段から訓練を付き合ってくれる彼は忠実にお父様の言葉に従っている。

もしかして焼きもちなのかしら?

彼は幼いころから知っている騎士で、すでに結婚もしている。でも旅の間の訓練相手をずっとしてきたから、生徒のような私を奪われると感じたのかもしれない。

残念だけど私の先生はテンマ先生だけなのよねぇ。

彼は私に気を遣って寸止めばかりする。それではスキルの取得もレベルアップはできない。

スキルの取得やレベルアップするためには熟練度を稼ぐ必要がある。その為には何度も同じ訓練する必要があるのだ。

先生の話では特に耐性系のスキルは取得しやすく、レベルアップもしやすいらしい。
研修中に毒薬や麻痺薬を飲むのは、辛い状態で訓練したほうが熟練度を稼ぎやすく、集中する必要もあるので集中スキルの熟練度も稼ぎやすくなるためだ。さらに毒耐性や麻痺耐性などのスキルの取得やレベルアップできるのだ。

そして戦闘訓練で打撃を受けて、痛みや怪我を繰り返し受けることで、精神耐性や痛覚耐性、物理攻撃耐性などの耐性系スキルを取得、レベルアップできるのだ。だから彼との寸止めの訓練では杖術スキルの熟練度だけしか稼げない。

くふふふ、痛いけどレベルアップした時のあの感覚は最高よ!

貴族家の令嬢とか関係なく、テンマ先生は平気で腕や足、全身を遠慮なく骨折させてくる。

異性としては最悪の相手だけど、先生としては素晴らしいわ!

それにピピちゃんも七歳なのに遠慮なく攻撃してくる。

私の攻撃で骨折しても笑顔さえ浮かべる少女は不気味だけどね……。

最初は不気味だと思っていたけど、最近では私も骨折して微笑んでいるきまするわ。

お兄様も不満そうな表情をしていた。けれども当主であるお父様の言葉を無視するわけにはいかないようだ。

「ふん、それならお前が先にアーリンと少しだけ訓練をしてみせてくれ。すぐに交代すれば問題無いだろ!」

お兄様は渋々といった感じで後ろに下がった。そして騎士の彼が代わりに私の前で剣を構えた。

「アーリン様、旅の途中では人目もありましたが、ここでは遠慮なくテンマ式研修でいかせてもらいます!」

なっ、なんて素敵なセリフなのぉーーー!

それなら私も遠慮せずに行くわよ!

「望むところよ!」

私はそう言うと、彼に向かって走り出した。素早さや力の素質の低い私でも、それなりに先生の訓練で能力値が上がっている。さらに身体強化スキルで能力値の底上げもする。

身体強化スキルは魔力で体の能力をさらに強化するスキルだ。ピピちゃんやミーシャさんほどではないが、それでもC級冒険者とも戦えるくらいのスピードで彼に近づいた。

彼は焦る様子もなく、じっくりと私が間合いに入るのを見極めているのが分かった。私は彼の間合いの寸前で横に回り込もうとする。しかし、彼はそれを予想していたのか、回り込もうとした方向に一歩前に出て剣を振り下ろしてきた。

彼の剣の軌道をロッドでいなそうとする。予想以上に重い彼の斬撃をいなすことはできたけど、身体強化したはずの左腕に鈍い痛みを感じて、私はすぐに彼との距離をとる。覚えのある痛みに骨にヒビが入ったと思った。

これよ! これなのよぉーーー!

左腕に痺れるような痛みを感じているけど、痛覚耐性で戦闘を続けることに問題ない。でも同じような斬撃をもう一度受ければいなすこともできないわ。リーチ差があり過ぎて私の素早さでは、彼の懐まで入ることはできない。

そのことを彼が気付いたのかはわからないけど、今度は彼が間合いを詰めてくる。今度は私が彼の動きを観察して反撃するしかない。

くふふふ、これこそがテンマ式研修くんれんよ!

彼は私の間合いに入ると剣を振り下ろしてきた。私はその斬撃を半身になってかわすと、片手でロッドを振り下ろす。その位置から彼の体にはロッドが届かないことは分かっている。私は彼が剣を握り締める手を攻撃したのだ。

ロッドの先が彼の手に直撃して、彼の手を潰つぶしたような感触がロッド越しでも分かった。
彼が剣を地面に落としたので一歩前に出て追撃しようとした。だけど胸に激しい衝撃を受けて私は吹き飛び、訓練場の地面を何回も叩きつけられるように転がってしまった。

すぐに体勢を立て直そうとして、起き上がろうとした。

「くひゅっ!」

だけど肋骨が骨折したのか呼吸が上手くできずに変な声が出てしまった。

遠くでお兄様が焦ったように大声を出すのが聞こえていた。

しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。