上 下
226 / 315
第12章 マムーチョ辺境侯爵領

第22話 バルドーの焦り

しおりを挟む
妖精フェアリーに抱き着かれ体の力が抜けていく。しかし、なんか懐かしいと感じていた。最初は命の危険があると不安に感じたが、すぐに妖精フェアリーと繋がったような不思議な感じがした。

「あなたは何をしているのですか!?」

アンナが目の前にいつの間にかいて、妖精フェアリーと話していたのだが、少し遠くでアンナの声が聞こえた気がした。

「あ~ん、テンマ君から大事なあれHPを吸わないと、こんな小さな体でも存在が維持できないのよぉ~」

あと少しで膝をつきそうなっていたが、アンナが妖精フェアリーを引きはがしてくれたので、体のだるさも治まり、意識も明確になった。

アンナが羽の部分を掴んで妖精フェアリーを捕まえているのが見える。半透明だと思った妖精フェアリーの姿は普通に実体化したように見えた。

あれっ、土地神様フリージアさん!?

妖精フェアリーだと思ったが、姿が明確に見えると、妖精サイズだが間違いなくフリージアさんの姿であった。

でもなんで妖精フェアリーになっちゃったの?

次々と湧き上がる疑問に混乱する。それがアンナに伝わった訳ではないが、二人の会話で少しずつ疑問は解消されるのであった。

アンナ「無駄に羽など付けるから燃費が悪いのよ」
フリージア「でも、羽があるほうが神秘的でしょ?」
アンナ「まあ、何となく気持ちは分かるわ!」
フリージア「でしょぉ、王都ではこの姿で有名になっているのよ!」
アンナ「はぁ、あなたは何をやっているのよぉ……」
フリージア「だって、すぐに帰ってくると言ったのに……、私だけ王都に……」

ジト目で土地神様フリージアさんは俺を睨んでいる。

くっ、土地神様フリージアさんを騙すように王都を出てきた。でも、それはバルドーさんが……。

土地神様フリージアさんから視線を逸らし、助けを求めるようにバルドーさんを見る。バルドーさんは能面のように無表情していたが、額には汗が滲んでいた。

「土地神様、お久しぶりでございます。様々なことが起きてテンマ様がこの地から離れられなくなり、王都に戻れませんでした。すべてテンマ様の都合による結果です!」

あっ、あっ、ずるい!

バルドーさん、俺のせいにしているぅーーー!

数年前にバルドーさんが、元母親であるフリージアさんから逃げ出そうとしたじゃないかぁ!

フリージアさんに嫁をもらって子供を作るように要求されたバルドーさんは、率先して王都を逃げ出したのである。俺もトラブルメーカーであるドロテアさんから逃げ出そうとしたが、二年前に合流されてしまったのである。

よく考えればバルドーさんだけ望みが叶ったといえる。それなのに俺に責任を擦り付けるバルドーさんの対応に驚きしかない。

ふふふっ、バルドーメンズ隊をフリージアさんに紹介するしかないかなぁ!

悪魔のような考えが過った。バルドーさんは俺の悪魔の笑みに気付いたのか、必死に目で俺に許してもらおうとしていた。

しかし、バルドーさんの救世主メシアが現れる。

「あなた数年でずいぶんと力を付けたみたいね」

アンナが土地神様フリージアさんに尋ねた。土地神様フリージアさんはアンナの質問で俺やバルドーさんへの追及を忘れたように、自慢気に説明を始めた。

「へっへぇ~ん、この姿で王都では人気者になって、たくさんの信者を獲得したのよぉ。王都で人気が出れば他の街や領でも人気になって、さらに信者が増えたの! 人々に分かりやすいように土地神グッズも作らせたら一気に人気に火がついて、ヴィンチザード王国で私のことを知らない人はいないと思うわ!」

おいおい、グッズ販売とかで荒稼ぎはしていないよね?

「へぇ~、だから国内なら多少は移動できるようになったのね」

「そうよぉ~、この姿なら燃費も良いから何とかね。でもこの地はヴィンチザード王国になったといっても住民の理解が無かったから昨日までは来れなかったのよぉ。
でも今日の夕方に突然移動できるようになったの。式典をすると聞いていたけど、それでこの地の住民の多くが納得したのかしらねぇ」

話を聞いてなるほどと感心してしまう。土地神は信者の存在で力を増すのだろう。それに人が勝手に国として組み込んでも、その地に住む人が理解したり、納得したりしないとダメなんだろう。

「でも、これは燃費が悪いんじゃない?」

「あっ、いやん!」

アンナが羽を掴んだまま左右に土地神様フリージアさん振ると鱗粉のように光の粒が舞い落ちて消える。

光の粒はファンタジーぽくて綺麗だと思ったが、意識的な演出だと分かると微妙だと思ってしまう。

「こ、これは土地神として早く信者ちからを付けるために、テラス様の勧めてくれた演出よ。他にもグッズ販売や勧誘方法など、テラス様は本当に素晴らしい知恵を授けてくれたのよ!」

おいおい、テラス様は何をしているんだ!

まさか悪徳商法や悪徳勧誘なんかも教えていないよね……?

「それなら仕方ないわね……。でも勝手にテンマ様から吸っちゃダメでしょ?」

「だってぇ~、この地がヴィンチザード王国になっても、まだ私の信者は少ないから長時間維持できないのよぉ」

「それでもダメよ!」

「で、でも、私だけ置いてきぼりで、グスッ、寂しいんだもん!」

うん、さすがに申し訳ない気持ちになる……。

「それで、先ほど吸った分でどれくらいこの地にいられるの?」

「ふふふっ、テンマ君のHPあれはすごいから、この姿なら実体化で三日、実体化しなければ三ヶ月ぐらいよ」

土地神様フリージアさんは俺の問いかけに舌をペロリとしてから答えてくれた。サイズが小さいから問題ないが、普通のサイズなら色っぽかっただろう。しかし、鑑定で自分のHPを確認すると五分の一しか残っていない。

小さくなって燃費は良くなったけど、それでも燃費は悪いなぁ~。

「久しぶりに土地神様にお会いできたのです。私としては実体化した状態の土地神様を見ていたいです!」

「まあバルディ、嬉しいことを言ってくれるのね!」

おうふ、それは早く土地神様フリージアさんを追い出す作戦だよね!

バルドーさんは間違いなく早くこの地から土地神様フリージアさんを追い返すために、実体化を続けさせようとしているのだ。

バルドーさん、そんなに必死な目で俺に同意を促すように訴えてこないでぇ!

幸いなことにピピをはじめ、久しぶりに土地神様フリージアさんに会えたみんなが話を始めてくれた。

ピピ「土地神様、可愛いよぉ~!」
土地神フリージア「あら、ピピちゃんも相変わらず可愛いわよぉ」
ドロテア「土地神様、久しぶりなのじゃ。私のHPも提供するのじゃ!」
土地神フリージア「ふふふっ、ありがとう。でも、バルディの話を聞かせてほしいわ!」
ドロテア「喜んで教えるのじゃ!」
エアル「黒耳長族の族長であるエアルなのじゃ。初めましてなのじゃ!」
土地神フリージア「初めまして、よろしくね!」
エリス「エリスです。エクス群島にもお越しください!」
土地神フリージア「う~ん、エクス群島はヴィンチザード王国に入ってないのよぉ」
エリカ「エリカです。だったらエクス群島もヴィンチザード王国に入れば問題ないわ!」
エアル「そうじゃ! 早速戻って──」

「みなさん、お話は後でゆっくりとしてください! まだこちらの問題が片付いていません!」

バルドーさんが焦ったように皇帝とノーマン達を指差してエアルの話に割って入った。

うん、忘れていた!

土地神様フリージアさんの乱入で彼らのことを忘れていたのは間違いない。

しかし、バルドーさんはエクス群島をヴィンチザード王国に併合させないように話に割ってはいったと俺は確信していたのだった



しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。