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第12章 マムーチョ辺境侯爵領
第6話 一色触発!
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ヴァルケン皇帝はマムーチョ辺境侯爵が用意した馬車の中から町中の様子を見つめていた。
バッサンの街は、ローゼン帝国の港より整備はされているが、驚くような造りではなかった。ただ活気に満ちているのは分かる。それが式典の影響なのか、普段からそうなのかは分からなかった。
それでも行き交う人々の顔は笑顔が絶えず、豪華ではないが清潔な服装の人が多い。そして貧困層の人を見かけなかった。皇帝は式典に合わせて貧困層を街から排除したのだろうと考えていた。ローゼン帝国でも同じようなことはするからだ。
しかし、その考えも間違いではないかと迷い始める。
港に到着すると、港の一画をローゼン帝国側に提供するとマムーチョ辺境侯爵から使者が伝えてきたのである。
元々兵士用の宿舎は豪華ではないが機能的であり、それを無償で提供されたのである。
街への出入りも許可された。ただ街中への武器の持ち込みは申請した護衛にしか認めないと伝えてきた。実際に出入り口には検問のように兵士が立っていたが、それほど厳しい雰囲気はなかった。
親善使節とは言っても、半年前に戦争をした国から来たのである。一緒に来た船乗りや騎士への待遇としては破格な待遇といえるだろう。
皇帝は破格の対応とは思っていなかった。だが、相手にはそれだけの余裕があることが腹立たしかった。
◇ ◇ ◇ ◇
皇帝の乗る馬車は、ヴィンチザード王国の国王が使った同じ来賓用の玄関に横付けにされた。玄関前にはレイモンド夫妻が出迎えていた。それ以外は使用人と護衛が十人ほどであった。
皇帝の乗っていた馬車の前後の馬車から騎士が出てきた。それ以外にも走ってついてきた騎士も加えると五十人ほどで周りを警戒して、安全だと確認すると馬車の扉の前に列を作ると馬車から皇帝が降りてきた。
皇帝は堂々と騎士達の間をレイモンドのほうに歩いてくる。
レイモンドは皇帝が自分達の前で止まると自己紹介をした。
「私はヴィンチザード王国のマムーチョ辺境侯爵です」
レイモンドは頭を下げることなく話した。
「儂はローゼン帝国皇帝のヴァルケンじゃ!」
皇帝は胸を張り名乗った。
「今回は私の栄爵のお披露目の式典にローゼン帝国の皇帝自らおいでになるとは驚いております。何もない港町ですがごゆっくりとお過ごしください」
レイモンドは軽く頭を下げて歓迎の言葉を述べた。しかし、レイモンドの態度に不満を持ったのか護衛騎士の一人が剣に手を添え怒鳴った。
「無礼者! 皇帝陛下の御前である。跪くのが礼儀であろう!」
その瞬間に玄関前は緊迫の雰囲気に包まれた。
皇帝はたった十人しかいないマムーチョ辺境侯爵の護衛が、剣に手を添えるわけでなく変な姿勢で構えるのに気付いた。そして彼らから驚くほどの殺気のような圧力が膨れ上がるのが見えた気がした。
そしてそれ以上に濃密な圧というか魔力が膨れ上がるのを皇帝は感じていた。
魔力は渦を巻くようにレイモンドの隣にいるエクレアに集まっていた。魔力にそれほど敏感でないローゼン帝国の護衛でも、何かを感じたように無意識に剣に手を添えた。しかし、その行為を見たエクレアの周囲には二桁の魔法が展開されたのである。
エクレアはドロテアがヴィンチザード王国の王宮魔術師を止めた後も、ヴィンチザード王国の最強の魔術師であったのだ。そのエクレアがこの数年、テックスの知識や訓練を受けてきたのだ。以前のドロテアをはるかに凌ぐ能力を身に着けていたのだ。
それを見て最初に文句を言った騎士は青ざめてブルブルと震えていた。彼は小国を攻め落とした戦闘で武功を上げ、栄誉ある皇帝の護衛に抜擢されたのである。
彼は皇帝に対する思い入れも強く、小国の王族を処分するときの皇帝の姿を思い出して怒鳴ったのである。
小国の王族が皇帝の前で跪いて許しを請う姿は、彼には当然のことで、他の国もそうするのだと思い込んだのである。
「ほう、この場でそのようなことを要求するとは、そちらの騎士は礼儀も知らないようですね。それともローゼン帝国は我々に宣戦布告したということでしょうか?」
レイモンドは怯えることなく皇帝に向かって尋ねた。彼にとってはローゼン帝国の皇帝だろうと、多数の騎士に囲まれようと、恐れる気持ちは微塵も感じなかった。
なぜなら、これまでも何度もそれ以上に理不尽な存在を近くに見てきたのである。それも最初はその理不尽ともいえる相手の敵としても対峙したのである。
皇帝は苦々しい顔をしてレイモンドに答えた。
「臣下のものが無礼を働いたようじゃな。この者はこちらで処分する。それで済ませてくれ!」
皇帝は内心では文句を言った騎士の考えは間違っていないと思っていた。
しかし、時と場所が悪すぎると思っていた。明らかに目の前にいる女性魔術師は帝国のどの魔術師よりも優秀である。そしてその気になれば一瞬で我々を殲滅できるだろう。
周りにいるマムーチョ辺境侯爵の護衛の動きも気になっていた。あれは報告にあったマッスル弾を使おうとしているではと気付いたのである。
それでもローゼン帝国の皇帝として謝罪する気にはなれなかった。だから非を認めたふりをして命令するように答えたのだ。
「碌な謝罪もせずに済むとお思いですか?」
レイモンドは更に問い詰める。
皇帝はレイモンドの問いに答えることなく、文句を言った騎士のほうを見て話した。
「よくも儂に恥をかかせてくれたな。すぐに謝罪しろ!」
皇帝にそう言われた護衛騎士は一瞬だけ大きく目を見開くと、すぐに悔しそうに地面に手をついて謝罪した。
「失礼なことを言って申し訳ありません!」
皇帝は護衛が謝罪するのを見て、すぐに他の護衛に声を掛けた。
「すぐにこの者の首を刎ねろ!」
皇帝の言葉に謝罪した護衛はすすり泣きを始めた。そして他の護衛達は無言で頷くと首を刎ねるためにすすり泣く護衛の腕を押さえて首を突き出させた。そして体格の良い護衛が前に出て剣を抜こうとしたところでレイモンドが止めに入る。
「祝いの式典を血で穢すのですか?」
「そうではない。後で処分すると言ってもそちらが信用せぬかもしれぬ。だから目の前で愚かなことをしたこやつを目の前で処分するのだ!」
皇帝は当然といった感じで答えた。それを聞いたレイモンドは溜息を付いてから話した。
「ふぅ、処分はそちらで決めてください。ただし血でこの祝いの式典を穢すのはやめてください」
「ふむ、確かにそれは配慮が足りなかったようじゃ。そちらの希望通りに対処をしよう。それでこの件は終わりじゃな」
皇帝はレイモンドに尋ねるつもりもなく、これで幕引きだと決めてしまった。
レイモンドはモヤモヤとするものを抱えながらも、これ以上騒ぎを大きくするのを避けるために頷くのであった。
マムーチョ側の護衛も普通の任務に戻り、皇帝も護衛騎士の大半に宿舎へ戻るように命じた。護衛のリーダーと思われる騎士が何か言おうとしたが、皇帝は手で発言をさせずに命令を実行させた。
ローゼン帝国の護衛は十名が控室に入り、2名が皇帝について建物に入ったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
レイモンドはヴァルケン皇帝に歩きながら話す。
「これからヴィンチザード王国の国王にお会いして頂くつもりです。同席するのは私とゴドウィン侯爵、それと護衛を数名だけに配置しますがよろしいですか?」
ヴィンチザード王国の国王もいるのだから、顔合わせは必要だとレイモンドは考えたのである。国王からも事前にローゼン帝国の皇帝に会っておきたいと話もあったのだ。
皇帝としては式典には興味ない。興味のあるのはハルとドラ美ちゃんであった。その関係者の大賢者テックスやマッスルにも会いたいと思っていた。
彼らに会うには国王やマムーチョ辺境侯爵が邪魔だが、彼らと話さないことには会うことは難しいと分かっていた。だから、そのことの話が早々にできる機会は大歓迎でもあった。
「ああ、それで構わない。それよりそちらの魔術師殿は素晴らしいな。どうじゃ帝国に譲ってくれないか。そちにも多額の褒賞を用意するぞ」
レイモンドは苦笑いをして答える。
「バタバタして紹介が途中でしたね。こちらは私の妻でエクレアです」
レイモンドがエクレアを紹介すると皇帝は驚いた。
皇帝はもちろんエクレアのことは詳しく知っていた。元ヴィンチザード王国でドロテアの後を実質的に引き継いだのがエクレアである。ローゼン帝国では要注意人物であったし、彼女がレイモンドと結婚したことも知っていた。
皇帝はそれから国王のいる部屋まで行くまで不機嫌そうな顔をしていた。
皇帝は、なぜローゼン帝国ではなくヴィンチザード王国に優秀な人材が多いのだと、腹を立てていたのである。
バッサンの街は、ローゼン帝国の港より整備はされているが、驚くような造りではなかった。ただ活気に満ちているのは分かる。それが式典の影響なのか、普段からそうなのかは分からなかった。
それでも行き交う人々の顔は笑顔が絶えず、豪華ではないが清潔な服装の人が多い。そして貧困層の人を見かけなかった。皇帝は式典に合わせて貧困層を街から排除したのだろうと考えていた。ローゼン帝国でも同じようなことはするからだ。
しかし、その考えも間違いではないかと迷い始める。
港に到着すると、港の一画をローゼン帝国側に提供するとマムーチョ辺境侯爵から使者が伝えてきたのである。
元々兵士用の宿舎は豪華ではないが機能的であり、それを無償で提供されたのである。
街への出入りも許可された。ただ街中への武器の持ち込みは申請した護衛にしか認めないと伝えてきた。実際に出入り口には検問のように兵士が立っていたが、それほど厳しい雰囲気はなかった。
親善使節とは言っても、半年前に戦争をした国から来たのである。一緒に来た船乗りや騎士への待遇としては破格な待遇といえるだろう。
皇帝は破格の対応とは思っていなかった。だが、相手にはそれだけの余裕があることが腹立たしかった。
◇ ◇ ◇ ◇
皇帝の乗る馬車は、ヴィンチザード王国の国王が使った同じ来賓用の玄関に横付けにされた。玄関前にはレイモンド夫妻が出迎えていた。それ以外は使用人と護衛が十人ほどであった。
皇帝の乗っていた馬車の前後の馬車から騎士が出てきた。それ以外にも走ってついてきた騎士も加えると五十人ほどで周りを警戒して、安全だと確認すると馬車の扉の前に列を作ると馬車から皇帝が降りてきた。
皇帝は堂々と騎士達の間をレイモンドのほうに歩いてくる。
レイモンドは皇帝が自分達の前で止まると自己紹介をした。
「私はヴィンチザード王国のマムーチョ辺境侯爵です」
レイモンドは頭を下げることなく話した。
「儂はローゼン帝国皇帝のヴァルケンじゃ!」
皇帝は胸を張り名乗った。
「今回は私の栄爵のお披露目の式典にローゼン帝国の皇帝自らおいでになるとは驚いております。何もない港町ですがごゆっくりとお過ごしください」
レイモンドは軽く頭を下げて歓迎の言葉を述べた。しかし、レイモンドの態度に不満を持ったのか護衛騎士の一人が剣に手を添え怒鳴った。
「無礼者! 皇帝陛下の御前である。跪くのが礼儀であろう!」
その瞬間に玄関前は緊迫の雰囲気に包まれた。
皇帝はたった十人しかいないマムーチョ辺境侯爵の護衛が、剣に手を添えるわけでなく変な姿勢で構えるのに気付いた。そして彼らから驚くほどの殺気のような圧力が膨れ上がるのが見えた気がした。
そしてそれ以上に濃密な圧というか魔力が膨れ上がるのを皇帝は感じていた。
魔力は渦を巻くようにレイモンドの隣にいるエクレアに集まっていた。魔力にそれほど敏感でないローゼン帝国の護衛でも、何かを感じたように無意識に剣に手を添えた。しかし、その行為を見たエクレアの周囲には二桁の魔法が展開されたのである。
エクレアはドロテアがヴィンチザード王国の王宮魔術師を止めた後も、ヴィンチザード王国の最強の魔術師であったのだ。そのエクレアがこの数年、テックスの知識や訓練を受けてきたのだ。以前のドロテアをはるかに凌ぐ能力を身に着けていたのだ。
それを見て最初に文句を言った騎士は青ざめてブルブルと震えていた。彼は小国を攻め落とした戦闘で武功を上げ、栄誉ある皇帝の護衛に抜擢されたのである。
彼は皇帝に対する思い入れも強く、小国の王族を処分するときの皇帝の姿を思い出して怒鳴ったのである。
小国の王族が皇帝の前で跪いて許しを請う姿は、彼には当然のことで、他の国もそうするのだと思い込んだのである。
「ほう、この場でそのようなことを要求するとは、そちらの騎士は礼儀も知らないようですね。それともローゼン帝国は我々に宣戦布告したということでしょうか?」
レイモンドは怯えることなく皇帝に向かって尋ねた。彼にとってはローゼン帝国の皇帝だろうと、多数の騎士に囲まれようと、恐れる気持ちは微塵も感じなかった。
なぜなら、これまでも何度もそれ以上に理不尽な存在を近くに見てきたのである。それも最初はその理不尽ともいえる相手の敵としても対峙したのである。
皇帝は苦々しい顔をしてレイモンドに答えた。
「臣下のものが無礼を働いたようじゃな。この者はこちらで処分する。それで済ませてくれ!」
皇帝は内心では文句を言った騎士の考えは間違っていないと思っていた。
しかし、時と場所が悪すぎると思っていた。明らかに目の前にいる女性魔術師は帝国のどの魔術師よりも優秀である。そしてその気になれば一瞬で我々を殲滅できるだろう。
周りにいるマムーチョ辺境侯爵の護衛の動きも気になっていた。あれは報告にあったマッスル弾を使おうとしているではと気付いたのである。
それでもローゼン帝国の皇帝として謝罪する気にはなれなかった。だから非を認めたふりをして命令するように答えたのだ。
「碌な謝罪もせずに済むとお思いですか?」
レイモンドは更に問い詰める。
皇帝はレイモンドの問いに答えることなく、文句を言った騎士のほうを見て話した。
「よくも儂に恥をかかせてくれたな。すぐに謝罪しろ!」
皇帝にそう言われた護衛騎士は一瞬だけ大きく目を見開くと、すぐに悔しそうに地面に手をついて謝罪した。
「失礼なことを言って申し訳ありません!」
皇帝は護衛が謝罪するのを見て、すぐに他の護衛に声を掛けた。
「すぐにこの者の首を刎ねろ!」
皇帝の言葉に謝罪した護衛はすすり泣きを始めた。そして他の護衛達は無言で頷くと首を刎ねるためにすすり泣く護衛の腕を押さえて首を突き出させた。そして体格の良い護衛が前に出て剣を抜こうとしたところでレイモンドが止めに入る。
「祝いの式典を血で穢すのですか?」
「そうではない。後で処分すると言ってもそちらが信用せぬかもしれぬ。だから目の前で愚かなことをしたこやつを目の前で処分するのだ!」
皇帝は当然といった感じで答えた。それを聞いたレイモンドは溜息を付いてから話した。
「ふぅ、処分はそちらで決めてください。ただし血でこの祝いの式典を穢すのはやめてください」
「ふむ、確かにそれは配慮が足りなかったようじゃ。そちらの希望通りに対処をしよう。それでこの件は終わりじゃな」
皇帝はレイモンドに尋ねるつもりもなく、これで幕引きだと決めてしまった。
レイモンドはモヤモヤとするものを抱えながらも、これ以上騒ぎを大きくするのを避けるために頷くのであった。
マムーチョ側の護衛も普通の任務に戻り、皇帝も護衛騎士の大半に宿舎へ戻るように命じた。護衛のリーダーと思われる騎士が何か言おうとしたが、皇帝は手で発言をさせずに命令を実行させた。
ローゼン帝国の護衛は十名が控室に入り、2名が皇帝について建物に入ったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
レイモンドはヴァルケン皇帝に歩きながら話す。
「これからヴィンチザード王国の国王にお会いして頂くつもりです。同席するのは私とゴドウィン侯爵、それと護衛を数名だけに配置しますがよろしいですか?」
ヴィンチザード王国の国王もいるのだから、顔合わせは必要だとレイモンドは考えたのである。国王からも事前にローゼン帝国の皇帝に会っておきたいと話もあったのだ。
皇帝としては式典には興味ない。興味のあるのはハルとドラ美ちゃんであった。その関係者の大賢者テックスやマッスルにも会いたいと思っていた。
彼らに会うには国王やマムーチョ辺境侯爵が邪魔だが、彼らと話さないことには会うことは難しいと分かっていた。だから、そのことの話が早々にできる機会は大歓迎でもあった。
「ああ、それで構わない。それよりそちらの魔術師殿は素晴らしいな。どうじゃ帝国に譲ってくれないか。そちにも多額の褒賞を用意するぞ」
レイモンドは苦笑いをして答える。
「バタバタして紹介が途中でしたね。こちらは私の妻でエクレアです」
レイモンドがエクレアを紹介すると皇帝は驚いた。
皇帝はもちろんエクレアのことは詳しく知っていた。元ヴィンチザード王国でドロテアの後を実質的に引き継いだのがエクレアである。ローゼン帝国では要注意人物であったし、彼女がレイモンドと結婚したことも知っていた。
皇帝はそれから国王のいる部屋まで行くまで不機嫌そうな顔をしていた。
皇帝は、なぜローゼン帝国ではなくヴィンチザード王国に優秀な人材が多いのだと、腹を立てていたのである。
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