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第12章 マムーチョ辺境侯爵領
第5話 国王と皇帝
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レイモンド辺境侯爵夫妻はヴィンチザード王国の国王夫妻を出迎えの準備をしていた。場所は役所の来賓用の玄関前で、通常の役所の出入り口とは違い豪華な造りになっている。
レイモンド辺境侯爵夫妻だけではなく、元自治領主で今では辺境侯爵の寄子貴族になった者達も並んでいた。
そこに立派な装備の騎士達を先頭にして、ヴィンチザード王国の紋章の入った馬車が入ってくる。
紋章の入った豪華な馬車がレイモンド辺境侯爵夫妻の前に止まった。馬車の中からまず警戒するように護衛が出てくる。そして周辺の安全を確認した護衛が合図すると、国王夫妻が馬車から降りてきた。
「遠方からマムーチョ辺境侯爵領の領都バッサンにお越しいただきありがとうございます」
レイモンドが丁寧に挨拶して頭を下げる。合わせるように寄子貴族達も一斉に頭を下げた。
「そんな堅苦しい挨拶は止めてくれ。珍しく王宮を出ることができたのだ。公の場所以外では気軽にしてくれて構わん」
ヴィンチザード王国のイスカル国王は社交辞令ではなく本気でそう言った。
国王は滅多に王都を離れることもできない。ましてや王領以外など国王になってから初めてであった。
マリアのルームを利用してドラ美ちゃんで移動したから可能になったのだ。
バッサンの近くでルームから出て、馬車で移動を始めると国王は興奮して子供のように騒いでいた。話では聞いたことのある海を初めて見たのである。その壮大な光景は国王も話で聞いていてが、実際に見ると圧巻でしかなかったのである。
国王の気持ちはともかく、寄子貴族たちは緊張した顔つきであった。
元はホレック公国の貴族とはいえ、初めて新たな主であるヴィンチザード王国の国王に会ったのである。
ホレック公国の公王はコロコロと機嫌が変わった。それほど横暴なことはしなかったが、それでも機嫌が悪くなるとネチネチと嫌味を言い続けていた。数日でその事を忘れるのでそれほど問題ではなかった。
寄子貴族達としてはホレック公国より大きなヴィンチザード王国の国王ということで緊張しないはずがなかったのである。
しかし、馬車からマリアとリディアが出てくると、今度は護衛の騎士達に緊張が走った。
彼らの大半は今回初めてドラ美ちゃんに会ったのである。ヴィンチザード王国の王都近くで今回の移動のために初めてドラ美ちゃんに会った国王は驚きながらも感動した。
護衛の騎士達は国王を守るためにドラゴンとも戦う決意で護衛の任務に就いていた。だがドラ美ちゃんを直に見て、どうやっても勝てないと内心では感じていたのだ。
レイモンドはそんな護衛達の気持ちが分かり、すぐに国王夫妻に話しかける。
「このような場所ではなんですから、中で改めてご挨拶だけさせてください」
「そうだな。彼らと挨拶だけはしておかないと王宮に戻ってから宰相に怒られるからな。だがようやく面倒な国王の仕事を抜けてここに来られたのだ。挨拶をしたらのんびり過ごさしてくれ」
国王は仕事などしたくないと笑顔でレイモンドに言った。
レイモンドは笑顔を見せると建物内へ案内するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
国王夫妻が案内された部屋には、今回の式典のためにバッサンに来ていたヴィンチザード王国の各地の貴族も何人もいた。
先程まで、国王に初めて会ったマムーチョ辺境侯爵の寄子貴族たちが、改めて国王へ謁見の挨拶をした。そして挨拶が終わると、王妃やエクレア、そしてマリア達女性陣は別の部屋に移動したのである。
女性達が部屋を出ていくと国王はホッとしたように話した。
「後はのんびりさせてもらおう。せっかく口煩い宰相がいないのだ。式典以外は堅苦しいことは止めてくれ」
「陛下、宰相殿も口煩くしているのではありません。そんなことを言ったら宰相殿が気の毒ですよ!」
そう話したのはゴドウィン侯爵であった。彼も今回の式典に参加するためにバッサンに来ていたのである。
「わかった、わかった。だがゴドウィン、旅の先々で嫁を増やすお前に言われるのも釈然としないな。すでにこの地でも新しい嫁を見つけたのではないのか?」
「な、何を言われるのですか。そんなことは一切ありません! 監視のために妻が何人も同行しているのですよ。見つけたくともできないのです! あっ!」
国王がからかうようにゴドウィン侯爵に尋ねると、侯爵は強めに否定しながらも本音が漏れてしまった。
「ハハハハ、監視する妻が一緒じゃなければ、バッサンまでの旅の途中で二、三人、バッサンでも一人か二人は増えたのじゃないのか」
国王が楽しそうにそう話すと、ゴドウィン侯爵は渋い顔をするのであった。
ゴドウィン侯爵の事を知っている貴族達は国王と同じく笑い声をあげた。それを見て寄子貴族達もようやく緊張がほぐれたように笑顔を見せたのであった。
国王は改めてレイモンドに話しかける。
「レイモンド殿、私としてはエクレアが幸せそうなのが何より嬉しいのだ。私が不甲斐ないばかりに彼女には苦労をかけた。だから改めて感謝したい。ありがとう!」
レイモンドはすでに国王の臣下になっている。その臣下に国王が礼を述べるのは異例のことであった。
それを見ていた寄子貴族達は驚いていた。
彼らの中には内心ではエクス自治連合のままで良いと思う者もいた。ホレック公王の仕打ちに腹を立てていた彼らは、自治連合というレイモンドを実質的な頂点とする体制に満足していたのだ。
しかし、ヴィンチザード王国の国王は自分の失策を認め、臣下であるレイモンドに頭を下げたのである。それを見た寄子貴族達は驚いたが、それ以上に安心したのである。
「もったいないお言葉です。私こそヴィンチザード王国に大変ご迷惑をおかけしたホレック公国の王族に連なる身です。それを受け入れてくれた心の広い陛下に、感謝の言葉もありません」
レイモンドは恭しく国王に話して頭を下げた。
「ホレック公国の政策はやり過ぎだと思うところもある。しかし、国としては当然考えるべき政策でもある。それにホレック公国にデンセット公爵が加担していたのも状況が悪化した原因でもあるだろう。レイモンド殿が気にすることはない」
国王の話にレイモンドは頭を下げて感謝の気持ちを表した。国王はそれを見て笑顔を浮かべると砕けた雰囲気で話をする。
「それにあのお方がお許しになってレイモンド殿にこの地を任せたのだ。私にそれにとやかく勇気は無いぞ。ハハハハ」
「「「ハハハハ」」」
国王の話に誰もが笑った。そして笑ってはいたが、それが冗談ではないと思っていた。
ヴィンチザード王国の貴族としては大賢者テックスであり、元エクス自治連合の貴族にとってはマッスルであるテンマのことを、誰もが頭に浮かべていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ちょうどその頃、バッサンの港ではローゼン帝国の船が到着した。式典への参加という親善使節ということもあり、小規模の船団での訪問となった。小規模とはいえローゼン帝国の国家元首であるヴァルケン皇帝が一緒である。船団は12隻にもなっていた。
皇帝は船からバッサンの港を見つめていた。そして溜息をつくと複雑な表情になった。
皇帝はローゼン帝国の港を出発しダンジョン島を経由して、元ホレック公国の公都を経由してバッサンまでに船旅をしてきた。
元公都の港はマムーチョ辺境侯爵海軍の拠点となっていた。
エクス自治連合の頃からダンジョン島や帝国との商取引はなくなっていた。だがダンジョン島には元ホレック公国の貴族がいたので、警戒のために海軍を組織していたのだ。
テンマにより港は整備され、テンマの作った小型と中型魔導船により海軍が組織されたのである。
前回のローゼン帝国のとの戦争では、その海軍だけで圧勝したのである。
テンマの作った船は機動力も高く、防御力も高い。ローゼン帝国の大型船は機動力も低く、防御力の低いから簡単に船を沈められたのである。
そんな海軍の中枢ともいえる港に、マムーチョ側は平気で迎え入れたのである。
皇帝はその港を見て、ローゼン帝国とは比較にならないほど完成された港に驚いたのである。
軽く二百隻を収容できる港。人工的に作られた石の桟橋。大型船でも港に入れる水深の深さ。どれほどの魔術師を動員したのだろうと皇帝は考えたのである。
そこからバッサンまでは、中型魔導船2隻と小型魔導船8隻が水先案内人となり、ようやくバッサンに到着したのだが、皇帝は魔導船の性能に驚き、海戦で絶対に勝てないと確信したのだった。
皇帝は目の前に見えているバッサンの港も、元公都の港と同じような造りだと思った。そして僅かに数年で、これほどの港が複数造られたことの意味に気付いたのである。
ローゼン帝国でも同じような港を造れると信じているが、それには国家事業として資金と人材を大量に投じればである。それでも数十年単位での国家事業になる。
皇帝はいよいよ決意を固めた表情になったのである。
レイモンド辺境侯爵夫妻だけではなく、元自治領主で今では辺境侯爵の寄子貴族になった者達も並んでいた。
そこに立派な装備の騎士達を先頭にして、ヴィンチザード王国の紋章の入った馬車が入ってくる。
紋章の入った豪華な馬車がレイモンド辺境侯爵夫妻の前に止まった。馬車の中からまず警戒するように護衛が出てくる。そして周辺の安全を確認した護衛が合図すると、国王夫妻が馬車から降りてきた。
「遠方からマムーチョ辺境侯爵領の領都バッサンにお越しいただきありがとうございます」
レイモンドが丁寧に挨拶して頭を下げる。合わせるように寄子貴族達も一斉に頭を下げた。
「そんな堅苦しい挨拶は止めてくれ。珍しく王宮を出ることができたのだ。公の場所以外では気軽にしてくれて構わん」
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国王は滅多に王都を離れることもできない。ましてや王領以外など国王になってから初めてであった。
マリアのルームを利用してドラ美ちゃんで移動したから可能になったのだ。
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国王の気持ちはともかく、寄子貴族たちは緊張した顔つきであった。
元はホレック公国の貴族とはいえ、初めて新たな主であるヴィンチザード王国の国王に会ったのである。
ホレック公国の公王はコロコロと機嫌が変わった。それほど横暴なことはしなかったが、それでも機嫌が悪くなるとネチネチと嫌味を言い続けていた。数日でその事を忘れるのでそれほど問題ではなかった。
寄子貴族達としてはホレック公国より大きなヴィンチザード王国の国王ということで緊張しないはずがなかったのである。
しかし、馬車からマリアとリディアが出てくると、今度は護衛の騎士達に緊張が走った。
彼らの大半は今回初めてドラ美ちゃんに会ったのである。ヴィンチザード王国の王都近くで今回の移動のために初めてドラ美ちゃんに会った国王は驚きながらも感動した。
護衛の騎士達は国王を守るためにドラゴンとも戦う決意で護衛の任務に就いていた。だがドラ美ちゃんを直に見て、どうやっても勝てないと内心では感じていたのだ。
レイモンドはそんな護衛達の気持ちが分かり、すぐに国王夫妻に話しかける。
「このような場所ではなんですから、中で改めてご挨拶だけさせてください」
「そうだな。彼らと挨拶だけはしておかないと王宮に戻ってから宰相に怒られるからな。だがようやく面倒な国王の仕事を抜けてここに来られたのだ。挨拶をしたらのんびり過ごさしてくれ」
国王は仕事などしたくないと笑顔でレイモンドに言った。
レイモンドは笑顔を見せると建物内へ案内するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
国王夫妻が案内された部屋には、今回の式典のためにバッサンに来ていたヴィンチザード王国の各地の貴族も何人もいた。
先程まで、国王に初めて会ったマムーチョ辺境侯爵の寄子貴族たちが、改めて国王へ謁見の挨拶をした。そして挨拶が終わると、王妃やエクレア、そしてマリア達女性陣は別の部屋に移動したのである。
女性達が部屋を出ていくと国王はホッとしたように話した。
「後はのんびりさせてもらおう。せっかく口煩い宰相がいないのだ。式典以外は堅苦しいことは止めてくれ」
「陛下、宰相殿も口煩くしているのではありません。そんなことを言ったら宰相殿が気の毒ですよ!」
そう話したのはゴドウィン侯爵であった。彼も今回の式典に参加するためにバッサンに来ていたのである。
「わかった、わかった。だがゴドウィン、旅の先々で嫁を増やすお前に言われるのも釈然としないな。すでにこの地でも新しい嫁を見つけたのではないのか?」
「な、何を言われるのですか。そんなことは一切ありません! 監視のために妻が何人も同行しているのですよ。見つけたくともできないのです! あっ!」
国王がからかうようにゴドウィン侯爵に尋ねると、侯爵は強めに否定しながらも本音が漏れてしまった。
「ハハハハ、監視する妻が一緒じゃなければ、バッサンまでの旅の途中で二、三人、バッサンでも一人か二人は増えたのじゃないのか」
国王が楽しそうにそう話すと、ゴドウィン侯爵は渋い顔をするのであった。
ゴドウィン侯爵の事を知っている貴族達は国王と同じく笑い声をあげた。それを見て寄子貴族達もようやく緊張がほぐれたように笑顔を見せたのであった。
国王は改めてレイモンドに話しかける。
「レイモンド殿、私としてはエクレアが幸せそうなのが何より嬉しいのだ。私が不甲斐ないばかりに彼女には苦労をかけた。だから改めて感謝したい。ありがとう!」
レイモンドはすでに国王の臣下になっている。その臣下に国王が礼を述べるのは異例のことであった。
それを見ていた寄子貴族達は驚いていた。
彼らの中には内心ではエクス自治連合のままで良いと思う者もいた。ホレック公王の仕打ちに腹を立てていた彼らは、自治連合というレイモンドを実質的な頂点とする体制に満足していたのだ。
しかし、ヴィンチザード王国の国王は自分の失策を認め、臣下であるレイモンドに頭を下げたのである。それを見た寄子貴族達は驚いたが、それ以上に安心したのである。
「もったいないお言葉です。私こそヴィンチザード王国に大変ご迷惑をおかけしたホレック公国の王族に連なる身です。それを受け入れてくれた心の広い陛下に、感謝の言葉もありません」
レイモンドは恭しく国王に話して頭を下げた。
「ホレック公国の政策はやり過ぎだと思うところもある。しかし、国としては当然考えるべき政策でもある。それにホレック公国にデンセット公爵が加担していたのも状況が悪化した原因でもあるだろう。レイモンド殿が気にすることはない」
国王の話にレイモンドは頭を下げて感謝の気持ちを表した。国王はそれを見て笑顔を浮かべると砕けた雰囲気で話をする。
「それにあのお方がお許しになってレイモンド殿にこの地を任せたのだ。私にそれにとやかく勇気は無いぞ。ハハハハ」
「「「ハハハハ」」」
国王の話に誰もが笑った。そして笑ってはいたが、それが冗談ではないと思っていた。
ヴィンチザード王国の貴族としては大賢者テックスであり、元エクス自治連合の貴族にとってはマッスルであるテンマのことを、誰もが頭に浮かべていたのだった。
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皇帝は船からバッサンの港を見つめていた。そして溜息をつくと複雑な表情になった。
皇帝はローゼン帝国の港を出発しダンジョン島を経由して、元ホレック公国の公都を経由してバッサンまでに船旅をしてきた。
元公都の港はマムーチョ辺境侯爵海軍の拠点となっていた。
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テンマにより港は整備され、テンマの作った小型と中型魔導船により海軍が組織されたのである。
前回のローゼン帝国のとの戦争では、その海軍だけで圧勝したのである。
テンマの作った船は機動力も高く、防御力も高い。ローゼン帝国の大型船は機動力も低く、防御力の低いから簡単に船を沈められたのである。
そんな海軍の中枢ともいえる港に、マムーチョ側は平気で迎え入れたのである。
皇帝はその港を見て、ローゼン帝国とは比較にならないほど完成された港に驚いたのである。
軽く二百隻を収容できる港。人工的に作られた石の桟橋。大型船でも港に入れる水深の深さ。どれほどの魔術師を動員したのだろうと皇帝は考えたのである。
そこからバッサンまでは、中型魔導船2隻と小型魔導船8隻が水先案内人となり、ようやくバッサンに到着したのだが、皇帝は魔導船の性能に驚き、海戦で絶対に勝てないと確信したのだった。
皇帝は目の前に見えているバッサンの港も、元公都の港と同じような造りだと思った。そして僅かに数年で、これほどの港が複数造られたことの意味に気付いたのである。
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