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第11章 エクス自治連合

第5話 魔道具を止めて!

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ムーチョは詳細を後で説明するとレイモンド達を説得して、ヴィンチザード王国の使者の待つ会議室に急いで向かう。

レイモンドも大国の王妃が使者として来ているのである。ムーチョに色々追求したいこともあるが我慢して執政官としての仕事を優先する。

会議室に入ると使者の一行は大半が女性であった。ただ王妃と思われる女性ともう一人以外はレイモンドには冒険者にしか見えなかった。少し彼は驚いていたが挨拶する。

「お待たせして申し訳ございません。私がエクス自治連合の執政官であるレイモンドです。隣は事務官をしているレーラです。恥ずかしながら私の母上でもあります」

「ホレック公国公王の元側室だったレーラです。ヴィンチザード王国の王妃のシャノン様にはヴィンチザード王国の王都で一度お会いしていますわ。お久しぶりです。たしか5年振りかしら……、でも以前より若返られたのではありませんか?」

「オホホホホ、こちらこそお久しぶりですわ。こちらにいるドロテア先生に若返りポーションを譲ってもらいましてよ」

王妃のシャノンは上機嫌で答えた。レーラはドロテアを見て挨拶する。

「初めましてドロテア様、ご高名はホレック公国でも聞いておりました。お会いできてうれしく思います」

「……うん」

レーラは初めて会った設定でドロテアに挨拶したのだが、それに上手く対応できないドロテアは戸惑って顔を赤くして返事をするだけだった。

シャノン王妃はマリアに頷くと、マリアが収納から書類を出すのを見て、話しを続ける。

「国王陛下からエクス自治連合との不可侵通商条約を締結するよう委任を受けて、ヴィンチザード王国の国王陛下の使者として参りました王妃のシャノンですわ。バル、ムーチョさんから提案された内容で陛下が署名をして持ってきました。ご確認下さい」

レイモンドはマリアから書類を受け取ると、使者一行に座るように促して、自らも席に着くと条約の内容を確認する。

条約の内容は公平だったのだが、レイモンドは別の意味で驚いていた。
小国よりも小さなエクス自治連合を相手に大国でもあるヴィンチザード王国が公平な条約を結ぶことに驚いていたのだ。これほどの国力差があれば、ヴィンチザード王国側が国力を背景にして不公正な内容をゴリ押ししてきても不思議ではないからだ。

レイモンドはある疑惑を考えながら率直に尋ねることにした。

「ヴィンチザード王国ほどの大国が、エクス自治連合と公平な条約を結ぶのは、バルドー様がヴィンチザード王国の人間だからですか?」

レイモンドは率直に、そしてムーチョではなくバルドーと呼んで質問した。

「う~ん、名前が色々あって紛らわしいわねぇ。ムーチョでなくバルドーで良いのかしら?」

王妃であるシャノンは困惑しながら尋ねた。

「すでにエクス自治連合のことは全てレイモンド殿に引継ぎが終わりましたので、バルドーと呼んで構いません。王妃陛下」

バルドーは礼儀正しく答えた。それを聞いて安心したように王妃は頷くと、レイモンドの質問に答える。

「ハッキリさせますが、バルドーはすでにヴィンチザード王国の人間ではございませんわ。随分前に王宮からは身を引いて、テンマさんに雇われています」

「では、なぜこれほど公平な条約を?」

レイモンドはヴィンチザード王国がバルドーを使って、エクス自治連合を作ったのではないか、もしくはそこまでは考えていなくても、ホレック公国の分断を狙っていたのではと考えたのだ。

「それは……、塩が普通の価格で取引できるなら、ヴィンチザード王国としては損がないから……、というのもあるけど、たぶんテンマさんと敵対するのが恐いからかしら」

王妃も公平に条約を結ぶ理由など国王や宰相から聞いていないし、そんなことを聞かれるとは思っていなかった。だから正直に思ったことを話した。

「お主もテンマの力を見せられたのじゃろう。それでも大国という理由で、テンマが肩入れしている相手に変な要求をすると思うのか?」

ドロテアが何を当たり前のことを聞くのだという感じで話した。

レイモンドはそれを聞いてくだらない質問をしてしまったと気付く。
突然、ムーチョがヴィンチザード王国でも有名な人物だと知って、混乱して質問してしまったのだ。元々間違った行動や判断をしていたのはホレック公国だった。そして、ヴィンチザード王国が画策したなら、それこそ公平な条約など結ばないはずである。
そしてマックスと思っていた人物がテンマと言う名の少年で、その少年は自分達だけでなくヴィンチザード王国が恐れるほどの存在であることは、自分の目で見てきたのである。

「愚かな質問でした。マッスル様、これからはテンマ様と呼びますが、彼の事を考えれば当然の結論だと思います」

レイモンドは自嘲気味に笑いながら答えた。

「その通りじゃ。テンマが国を差し出せと言えば、陛下も喜んで差し出すほどじゃ」

なぜか自慢げにドロテアは話していた。しかし、それを聞いたレイモンドだけでなく、その場の全員が頷いていた。

「失礼なことを申しました。条約内容があまりにもエクス自治連合にとって都合の良い内容でしたので、愚かなことを聞いてしまいました。改めて謝罪をさせていただいて、この内容で条約を締結させていただきたい」

レイモンドは謝罪した。そして条約の締結をお願いするのだった。

「ええ、それで構いませんわ。すでに陛下の署名はしてあるはずです。執政官のレイモンド様が署名して、1通を返して頂ければ条約は締結されます」

王妃の話を聞いてレイモンドは即座に署名すると1通を王妃に差し出した。王妃は署名を確認するとマリアに渡してマリアは収納した。

「これでヴィンチザード王国の使者としての仕事は終わりね」

王妃がホッとしたように話したのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


王妃が仕事を終えたと話すと、ドロテアが待ってましたとばかりに何か言おうとしたが、横やりが入った。

「怪しい奴を捕まえた」

ミーシャが何かを抱えて部屋に入ってきた。誰もミーシャが部屋を出ていったのに気付いていなかった。しかし、驚いていたのはバルドーとレイモンド達だけで、使者の一行は誰も驚いていなかった。

「ミーシャちゃん、その首にナイフを突き付けている生き物は、もしかしてハル様じゃないかしら?」

「はるさま?」

『マリア~、助けてぇ~、ナイフがチクチク首に刺さってるのよぉ~』

ハルの念話を聞いて、ミーシャは何か気付いたようにナイフを収納してハルの両脇を抱えて改めてハルを見つめる。

「ハル様?」

ミーシャは首を傾げながらハルに問いかけた。

『そうよぉ~、何度も言ったじゃない! あんた段々テンマに似てきたわよ!』

ハルは文句を言ったが、ミーシャはテンマに似ていると言われて嬉しそうに微笑んでいた。

「ハル様、それよりどうしたのですか?」

マリアが尋ねた。ミーシャは予想外の行動はするが、不審な行動をしていない相手を捕縛したりしないから不思議に思ったのだ。

『バルドーとの念話が途切れて、テンマが心配して私に様子を見てくるように言ったのよ!』

ハルの話にバルドーも思い出したように話した。

「そういえばテンマ様に念話している最中に、念話が途切れてしまいましたなぁ」

「あっ、それはこの魔道具です。これは魔力障壁を作る魔道具で魔法による攻撃を防ぐ効果があるのです。これを使うと障壁の内と外の念話も途切れてしまいます」

そう話したのはエクレアであった。実はようやく完成したその魔道具の検証を兼ねて同行していたのである。

「こんな小さな魔道具にそれほどの能力を秘めているとは凄いですねぇ」

実は昔から魔道具に興味のあったレイモンドは、エクレアの手の平に乗る程度の箱なような魔道具を見て、近づいて興味津々に魔道具を色々な角度から見るのであった。

「やっと完成したばかりで、どの程度の効果があるのか検証するために持ってきました。でも、ドロテア様やマリアさんのような魔力量が多い人がいないと、まだ使い物にはなりません」

エクレアは少し落ち込んで話した。

「あ、あなたがこの魔道具を造ったのですか?」

レイモンドは本当に驚いた表情でエクレアを見つめて尋ねた。エクレアは久しぶりに男性に見つめられて、顔を赤らめて落ち着きなく答えた。

「は、はい、ですがこれはテックス様の秘伝を教えてもらって何とか完成させたのです。でも、未熟な私では実用化にはまだまだ……」

「いえ、ここまで完成されるだけでも凄いです! テックスというのは最近有名になり、大賢者テックスと呼ばれるお方ですね。私もそんな高名な人物に会ってみたいですね。ヴィンチザード王国に大賢者テックス様はおられるのですね?」

レイモンドの質問にエクレアは困ってバルドーに助けを求めるように視線を向けた。

「レイモンド殿、そんなことを彼女も簡単に話せませんよ」

バルドー指摘されたレイモンドはすぐに謝罪する。

「も、申し訳ありません! 昔から魔道具などに興味もあるのですが、勇者物語も好きで大賢者というだけで舞い上がってしまいました。最近は伝説のハル様やドラ美様、英雄エクス様の一族とか信じられない出会いがあったので、つい大賢者にも会いたいと思ってしまいました。本当に申し訳ありません!」

レイモンドは子供のように舞い上がってしまったことを恥じながら真剣に謝罪した。そんな潔く謝罪するレイモンドにエクレアは好感を持った。

「いえ、大丈夫です。私も勇者物語は好きですから。ドラ美様には会ってみたいけど少し恐いかしら?」

「いえ、普段のリディ、あっ、すみません! 私もその事を話してはダメでした。ハハハハ」

「そうでしょうね。ドラ美様が怒ったら大変そうですよ。フフフフ」

会議室の誰もが楽しそうに会話する2人を見て、生温かい視線を向けるのであった。

ただバルドーだけは、早くその魔道具を止めてくれと考えていた。
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