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第10章 ホレック公国
第25話 混乱するホレック公国側
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ドラ美ちゃんの背中の上で、ムーチョさんの書いた台本をエアルが声を出して読んでいる。
「これで本当に聞こえているのか?」
ダメ、ダメェ~!
『声に出すと下にいるすべての人に声が聞こうえちゃうから!』
念話でエアルに話しかける。
『すまんのじゃ。本当に聞こえているのか心配になったのじゃ……』
長い耳も反省したのか垂れている。子供を見るようで思わず頭を撫でたくなる。
風魔法で離れた人に声を届けるような魔法を創ったのだ。込めた魔力量でどこまで届けるか調整できるのだが、ハッキリ言って効率は悪い。公都全域となるとドロテアさんでも難しいだろう。とびぬけた魔力量を持つ自分だからできる芸当である。
『台本の通りお読みください。町や城を見る限る聞こえているようです』
下を覗くと戸惑った様子で周りをキョロキョロ見回している人を見かける。
『わかったのじゃ!』
エアルは拳を握りしめてやる気を見せる。
それが子供っぽくて可愛いじゃねぇかぁ~!
◇ ◇ ◇ ◇
城の会議室では混乱していた。誰が話しているのか分からないが、全員が同じように声が聞こえるのである。
「誰じゃ! 誰が話しておる!?」
公王は混乱して騒ぐが、誰も声の主を見つけることはできない。
『私は英雄エクスの娘エアルなのじゃ。黒耳長族の代表である。一緒にいるドラゴンは父の盟友でもあるドラ美様じゃ!』
「英雄エクスの娘?」
「物語ではないか!」
「ドラ美様!?」
「じゃあ、あのドラゴンが!」
「う、嘘に決まっている!」
公王「黒耳長族とはどこにいる一族じゃ!?」
誰もが聞こえてくる声に混乱し、またドラゴンを見上げる。公王の質問に答えられる人物はこの場には誰もいなかった。
これまで黒耳長族と直接関わってきたのは、第3公子のペニーワースだけであった。これまでも黒耳長族ことは公王達にも報告はされていた。しかし、報告には亜人一族としか書かれていなかったのである。
『先日、ホレック公国の使者が村に来て、我ら一族が不法に領土を占領していると言ってきた。何千年もそこに住んでいた我ら一族に対してだ! 勇者と共に父が戦ったからこそお前達は無事に過ごしてきたはずなのにじゃ!』
公王「どういうことだ? 誰がそんなことをしたのだ!?」
「誰か知っているか?」
「黒耳長族……?」
「なんで、何百年も前の物語の娘が生きてるのだ?」
話が見えず、全員が余計に混乱する。
『使者は我らに奴隷になるか、皆殺しになるか選べと言ってきた。私は我が一族のことを丁寧に話し申し出を断った!』
公王「どういうことじゃ? そんな話を儂は知らんぞ!」
宰相「も、もしかして、ペニーワース様の事では?」
公王「……」
宰相の話を聞いた重臣たちは、新年の祝賀の時に出立したペニーワースを総司令官にした船団の事を思い出していた。
亜人とは聞いていた。タイミング的にもあっている。だが融和策か強行策のどちらになるかは相手の状況や戦力を見てからとなっていたはずである。
『断った我らに対して、彼らは殲滅すると言ってきたのだ。愚かな彼らに実力差を分からせるために、英雄エクスの秘技であるマッスル弾を見せ、父の盟友であるドラ美様の事も教えたのじゃ』
公王「ペニーワースはそれを見て聞いたのに戦ったのか!?」
宰相「使者が見ただけで、ペニーワース様は信じなかったのでしょう……」
重臣たちも宰相の話に頷く。今はドラゴンが頭上に居るから、多少は信じられる。しかし、話を聞いても英雄エクスの秘技と言われても想像できないからだ。そして、その場の全員が英雄エクスの娘など信じていないし、公都上空を旋回しているドラゴンがドラ美様とは信じていなかった。
信じていなかったが、ドラゴンが相手側に居るという事実だけで、状況は全く変わらない。
『私は彼らに警告した。我々は手の内を教えても、簡単に我らが勝てる実力があると。
そして、戦いになればホレック公国の下した決断である以上、ホレック公国の公都をドラ美様と共に殲滅することになることも伝えたのじゃ!』
会議室の誰もが沈黙する。
公子のペニーワースが相手の実力を勘違いして戦いを挑んだ。その結果、ドラゴンが上空に居るのだと理解したからだ。
『愚かにも、ホレック公国は我ら一族に戦いを挑んできた。しかし、何隻もの船が沈められると、司令官は仲間を放り出して逃げ出しおった。捕虜となった者に話を聞くと、参謀と司令官が戦いを止めるように進言したのに、戦いを強行した張本人の総司令官が逃げ出したのじゃ!』
第2公子「だからあいつではダメだと私は言ったのだ!」
公王「……」
第2公子は第3公子のペニーワースを嫌っていた。第1公子は最初に生まれただけの長男で、身分の低い貴族出身の側室の子だから継承順位は一番低かった。だから第2公子が継承権1位で2位がペニーワースだった。ペニーワースの母親は側室だが公王の寵愛を受けていた。
だから公王も何とかペニーワースに手柄を立てさせようとしたのである。
この場にいる誰もが、これほどの大事になるとは思っていなかった。
隣国との塩外交が上手くいかなくなったが、これまで蓄えてきた資産は莫大だ。何十年も国を維持する資産は十分にある。
それでも先細りの不安から、とりあえずという軽い気持ちで進めた計画だったのだ。
ドラゴンを相手に戦えるのかとこの場の誰もが考える。しかし、どう考えても絶望的な状況であった。兵士は海賊と戦うことはあるが、それほど強い魔物との戦闘など経験はなかった。せめて時間があればダンジョン島の冒険者を呼び寄せられるのにと考えていた。
『じゃが、我々はホレック公国ほど残虐な行為が好きなわけではない。条件を受け入れれば公都を殲滅する気はないのじゃ。これから国の代表は大至急我らの所に来るのじゃ。日没までに誰も来なければ、公都は今日中にこの世から消えてなくなるじゃろう。また逃げ出した者は殲滅する!』
公都上空を旋回していたドラゴンが方向を変えると、西門の先にある草原に降り立った。
それを見ていた会議室の全員が大きく息をつく。とりあえず即座にドラゴンに攻撃されることはないとわかったからだ。
「相手がどんな条件を言ってくるかは分かりませんが、受け入れるしかないでしょう……」
重臣の誰かがそう呟く。
「相手は数百人程度の亜人の村だ。条件といっても大したものではないだろう。場合によっては相手の望むより良い条件を出して、あのドラゴンを我が国の戦力にすればよいないか!」
第2公子のゴダールは意気揚々と話す。それを聞いた重臣たちも笑みが零れる。ホレック公国の先行きを心配していたが、ドラゴンが味方になれば状況は一変する。外交も優位に進められ、それこそ他国の侵略さえ可能になるのだ。
「それならゴダールよ、お前が国の代表として交渉してこい!」
「えっ!?」
公王は第2公子のゴダールに命令する。公王は別に誰でも構わなかった、自分があんな危険なドラゴンのそばに行かずに済めば良いと思っただけだ。
逆に混乱したのはゴダールだった。国を代表するなら父親である公王が行くのが当然だと考えていたのだ。
「い、いや、国の代表と相手は言ってます。陛下でなくては……」
「何を言っておる。この国の将来はお前にかかっているのだぞ。全権を与える。すぐに行って交渉してまいれ!」
国の将来と言われ少し嬉しかった。しかし、ペニーワースは今回の事で失脚したはずである。それなら、別に無理せずとも、ゴダールは危険を避けたいと考えていた。
「ですが、私は交渉より戦闘のほうが得意ですから……」
「愚か者! 跡継ぎなら交渉能力も必要ではないか。それともお前は跡継ぎとしての資格が無いと自分で言うのか!」
公王はこれまで真剣に跡継ぎのことを考えたことなどなかった。まだまだ自分が現役だと思っているのだ。今もただ自分があそこに行きたくなかっただけである。
しかし、ゴダールは追い詰められていた。ここで交渉を断れば自分で跡継ぎを辞退したことになる。しかし、引き受ければあの危険なドラゴンと向き合わねばならない。
迷っていると公王はさらに命令する。
「宰相も一緒に交渉してこい。ゴダールはまだ経験が足りないから助けてやってくれ」
宰相も息を飲む。話の流れを考えると断ることもできない。
結局、ゴダールも断ることなどできず、ゴダールと宰相が全権大使として交渉に赴くことになったのだ。
「これで本当に聞こえているのか?」
ダメ、ダメェ~!
『声に出すと下にいるすべての人に声が聞こうえちゃうから!』
念話でエアルに話しかける。
『すまんのじゃ。本当に聞こえているのか心配になったのじゃ……』
長い耳も反省したのか垂れている。子供を見るようで思わず頭を撫でたくなる。
風魔法で離れた人に声を届けるような魔法を創ったのだ。込めた魔力量でどこまで届けるか調整できるのだが、ハッキリ言って効率は悪い。公都全域となるとドロテアさんでも難しいだろう。とびぬけた魔力量を持つ自分だからできる芸当である。
『台本の通りお読みください。町や城を見る限る聞こえているようです』
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『わかったのじゃ!』
エアルは拳を握りしめてやる気を見せる。
それが子供っぽくて可愛いじゃねぇかぁ~!
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城の会議室では混乱していた。誰が話しているのか分からないが、全員が同じように声が聞こえるのである。
「誰じゃ! 誰が話しておる!?」
公王は混乱して騒ぐが、誰も声の主を見つけることはできない。
『私は英雄エクスの娘エアルなのじゃ。黒耳長族の代表である。一緒にいるドラゴンは父の盟友でもあるドラ美様じゃ!』
「英雄エクスの娘?」
「物語ではないか!」
「ドラ美様!?」
「じゃあ、あのドラゴンが!」
「う、嘘に決まっている!」
公王「黒耳長族とはどこにいる一族じゃ!?」
誰もが聞こえてくる声に混乱し、またドラゴンを見上げる。公王の質問に答えられる人物はこの場には誰もいなかった。
これまで黒耳長族と直接関わってきたのは、第3公子のペニーワースだけであった。これまでも黒耳長族ことは公王達にも報告はされていた。しかし、報告には亜人一族としか書かれていなかったのである。
『先日、ホレック公国の使者が村に来て、我ら一族が不法に領土を占領していると言ってきた。何千年もそこに住んでいた我ら一族に対してだ! 勇者と共に父が戦ったからこそお前達は無事に過ごしてきたはずなのにじゃ!』
公王「どういうことだ? 誰がそんなことをしたのだ!?」
「誰か知っているか?」
「黒耳長族……?」
「なんで、何百年も前の物語の娘が生きてるのだ?」
話が見えず、全員が余計に混乱する。
『使者は我らに奴隷になるか、皆殺しになるか選べと言ってきた。私は我が一族のことを丁寧に話し申し出を断った!』
公王「どういうことじゃ? そんな話を儂は知らんぞ!」
宰相「も、もしかして、ペニーワース様の事では?」
公王「……」
宰相の話を聞いた重臣たちは、新年の祝賀の時に出立したペニーワースを総司令官にした船団の事を思い出していた。
亜人とは聞いていた。タイミング的にもあっている。だが融和策か強行策のどちらになるかは相手の状況や戦力を見てからとなっていたはずである。
『断った我らに対して、彼らは殲滅すると言ってきたのだ。愚かな彼らに実力差を分からせるために、英雄エクスの秘技であるマッスル弾を見せ、父の盟友であるドラ美様の事も教えたのじゃ』
公王「ペニーワースはそれを見て聞いたのに戦ったのか!?」
宰相「使者が見ただけで、ペニーワース様は信じなかったのでしょう……」
重臣たちも宰相の話に頷く。今はドラゴンが頭上に居るから、多少は信じられる。しかし、話を聞いても英雄エクスの秘技と言われても想像できないからだ。そして、その場の全員が英雄エクスの娘など信じていないし、公都上空を旋回しているドラゴンがドラ美様とは信じていなかった。
信じていなかったが、ドラゴンが相手側に居るという事実だけで、状況は全く変わらない。
『私は彼らに警告した。我々は手の内を教えても、簡単に我らが勝てる実力があると。
そして、戦いになればホレック公国の下した決断である以上、ホレック公国の公都をドラ美様と共に殲滅することになることも伝えたのじゃ!』
会議室の誰もが沈黙する。
公子のペニーワースが相手の実力を勘違いして戦いを挑んだ。その結果、ドラゴンが上空に居るのだと理解したからだ。
『愚かにも、ホレック公国は我ら一族に戦いを挑んできた。しかし、何隻もの船が沈められると、司令官は仲間を放り出して逃げ出しおった。捕虜となった者に話を聞くと、参謀と司令官が戦いを止めるように進言したのに、戦いを強行した張本人の総司令官が逃げ出したのじゃ!』
第2公子「だからあいつではダメだと私は言ったのだ!」
公王「……」
第2公子は第3公子のペニーワースを嫌っていた。第1公子は最初に生まれただけの長男で、身分の低い貴族出身の側室の子だから継承順位は一番低かった。だから第2公子が継承権1位で2位がペニーワースだった。ペニーワースの母親は側室だが公王の寵愛を受けていた。
だから公王も何とかペニーワースに手柄を立てさせようとしたのである。
この場にいる誰もが、これほどの大事になるとは思っていなかった。
隣国との塩外交が上手くいかなくなったが、これまで蓄えてきた資産は莫大だ。何十年も国を維持する資産は十分にある。
それでも先細りの不安から、とりあえずという軽い気持ちで進めた計画だったのだ。
ドラゴンを相手に戦えるのかとこの場の誰もが考える。しかし、どう考えても絶望的な状況であった。兵士は海賊と戦うことはあるが、それほど強い魔物との戦闘など経験はなかった。せめて時間があればダンジョン島の冒険者を呼び寄せられるのにと考えていた。
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それを見ていた会議室の全員が大きく息をつく。とりあえず即座にドラゴンに攻撃されることはないとわかったからだ。
「相手がどんな条件を言ってくるかは分かりませんが、受け入れるしかないでしょう……」
重臣の誰かがそう呟く。
「相手は数百人程度の亜人の村だ。条件といっても大したものではないだろう。場合によっては相手の望むより良い条件を出して、あのドラゴンを我が国の戦力にすればよいないか!」
第2公子のゴダールは意気揚々と話す。それを聞いた重臣たちも笑みが零れる。ホレック公国の先行きを心配していたが、ドラゴンが味方になれば状況は一変する。外交も優位に進められ、それこそ他国の侵略さえ可能になるのだ。
「それならゴダールよ、お前が国の代表として交渉してこい!」
「えっ!?」
公王は第2公子のゴダールに命令する。公王は別に誰でも構わなかった、自分があんな危険なドラゴンのそばに行かずに済めば良いと思っただけだ。
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「い、いや、国の代表と相手は言ってます。陛下でなくては……」
「何を言っておる。この国の将来はお前にかかっているのだぞ。全権を与える。すぐに行って交渉してまいれ!」
国の将来と言われ少し嬉しかった。しかし、ペニーワースは今回の事で失脚したはずである。それなら、別に無理せずとも、ゴダールは危険を避けたいと考えていた。
「ですが、私は交渉より戦闘のほうが得意ですから……」
「愚か者! 跡継ぎなら交渉能力も必要ではないか。それともお前は跡継ぎとしての資格が無いと自分で言うのか!」
公王はこれまで真剣に跡継ぎのことを考えたことなどなかった。まだまだ自分が現役だと思っているのだ。今もただ自分があそこに行きたくなかっただけである。
しかし、ゴダールは追い詰められていた。ここで交渉を断れば自分で跡継ぎを辞退したことになる。しかし、引き受ければあの危険なドラゴンと向き合わねばならない。
迷っていると公王はさらに命令する。
「宰相も一緒に交渉してこい。ゴダールはまだ経験が足りないから助けてやってくれ」
宰相も息を飲む。話の流れを考えると断ることもできない。
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