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第10章 ホレック公国
第21話 仮面の誘惑
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ようやくエクス門が完成した。本当はもっと早く造れないわけではなかったが、社畜生活を回避するためにわざと時間を掛けて造ったのである。
「あれがエクス門の完成形ですかぁ。ちょっと暗い色だし、形も不自然に傾いていますから、悪魔門と言ったほうが良さそうですなぁ」
ムーチョさんから指摘されて、悪魔門というほど禍々しい感じはしないと言いたかった。しかし、確かに塔や門としては異様な雰囲気を醸し出している。
「た、確かに変なのじゃ……」
くっ、エアル姉妹も気に入っていないみたいだ。
「わ、分かっていないなぁ~。あれは黒耳長族の耳を表しているんだ。少し斜めに反り返っているのは長い耳で、黒耳長族の肌の色に合わせて、少しだけ黒くしているんだ。エクス群島の入口なら、英雄エクス殿が見張っていると伝えたかったんだ!」
本当にそう意識して造ったんだが、途中で自分でも失敗したと感じていたよ!
「な、なるほど、そう言われると悪くない気がしてくるのじゃ!」
何とかエアル姉妹や黒耳長族は納得したような雰囲気になってくれた。
「まあ、それはどうでも良いでしょう。それでは、そろそろ次の計画を始めましょうか?」
おうふ、どうでもいいんかぁ~い!
黒耳長族も興味を失ったように散っていってしまった……。
◇ ◇ ◇ ◇
その場にはエアル姉妹とムーチョさん、そして俺や仲間だけが残っていた。
「そろそろホレック公国との交渉に向かう予定ですが、少しばかり問題がありまして……」
ムーチョさんが少しだけ困ったような表情をして話し始めた。
「実はエクス自治連合に参加する予定の領主たちが、説得に戻った者の話を信じていないみたいです。それにダガード子爵も家族から変人扱いされそうだと嘆いていました」
いやいや、それは当然じゃね!?
真実か物語なのかあやふやな勇者物語の英雄やドラゴンの話を聞いて、誰が簡単に信じるというのだろうか?
そんな物語に出てくる英雄の一族とか、ドラゴンとかと一緒に国に反旗を掲げるような事をすると話せば、変人扱いされるのは当然である。
簡単に納得するような領主がいたら、それこそダメな領主だと思う。
「すでに船で兵士たちが千人以上戻ったのに、信じてもらえないのは残念ですなぁ」
少し前に俺が改造した船でダガードの港に兵士たちが戻ったことは聞いていた。確かに彼らもドラ美ちゃんを見ているが、何となく家族にまで馬鹿にされていそうだ……。
「信じていないみたいですが、エクス自治連合の構想は領主たちに受け入れられている感じはあるそうです。後は信じる根拠を与えれば問題ないと思います」
その信じる根拠が気になるぅ~!
「ホレック公国との交渉には黒耳長族を代表してエアル殿に行ってもらいます。それと前にも話した通りマッスル殿、話をまとめやすくするためにドラ美様、そしてもちろん私もサポート役としてついて行きます」
そうなるよねぇ~。
でもムーチョさんはサポート役というより、エクス自治連合の代表じゃない?
「自治連合の領主たちを信じさせるために、ホレック公国へ行く前日にダガードの港にも顔を出す予定です」
それって、港町がパニックになるんじゃない!
「まあ、それぐらいの衝撃を与えないとまとまりませんからなぁ。はははは」
はははは、絶対に俺も目立つと思う……。
そんな俺の心配と関係なく、エアルがドラ美ちゃんに乗れると跳び上がって喜んでいる。それを羨ましそうに他の姉妹が騒いでいる。
うん、ある意味微笑ましい光景なんだが……。
ムーチョさんに乗せられて、黒耳長族の未来がそれなりに変わりそうなことを理解しているのか心配になるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
まだ暗い朝方に俺は1人でダガードの港に向かって移動を始めた。
前日から、エアルは『どこでも自宅』で泊っている。
リディアは朝が苦手なのでまだ寝ている。計画通り起きてダイニングに来たのは俺とムーチョさんだけだ。後はジジが朝食の準備をしてくれただけだった。
こうなるとはムーチョさんも分かっていたようで、焦ることなく近くまで俺一人で向かうように言われてしまった。
俺は移動しながらブツブツと愚痴を溢すくらいしかできなかった……。
いつもの崖まで到着するとD研を開いて中からみんなを外に出す。
「それでは到着時間をダガード子爵と調整します」
到着の演出の為に、効果的なタイミングで到着したように調整するのだという。ジジから軽食をもらって食べながら、その時を待つ。
ムーチョさんは念話でダガード子爵と到着時間の調整をしているようだ。
「それでは行きましょうか」
すぐに調整が終わったのかムーチョさんの指示でドラ美ちゃんの背中に乗る。乗るのは俺とエアル、そしてムーチョさんの3人だ。
エアルはドラ美ちゃんの背中に自力では乗れないので、俺が両脇を掴んで一緒に乗る。
「あ、ありがとう、なのじゃ……」
耳まで真っ赤にして言うなぁーーー!
◇ ◇ ◇ ◇
ドラ美ちゃんは回り込んで海側からダガードの港に向かっている。
「マッスル様、早く仮面を着けてください」
ムーチョさんに催促されるが、できれば着けたくない。自分で作ったのだが、どう考えても恥ずかしい。
「早くぅ~、見てみたいのじゃぁ~」
エアルに催促されて、諦めて仮面を装着する。
あまり自分の顔が広まりたくないと言うと、ムーチョさんに今回の交渉では仮面や衣装を着けようという話になった。それなら俺の仮面や衣装は英雄エクスを意識した作りにすることになったのだ。
「す、そごうのじゃ~。惚れしまうのじゃ~!」
惚れるなぁーーー!
仮面は目の部分だけを隠して、認識阻害が付与されている。問題は目だけではなく見た目が長耳になるように耳の部分まで仮面が繋がっているのだ。
「それに衣装を着ければ、英雄エクス殿の再来であるマッスル様として相応しくなりそうですなぁ」
すでにバッチコーイ仮面を着けたムーチョさんに言われる。
くっ、死にそうに恥ずかしい……はずなんだが、仮面を着けるとそれほど恥ずかしくない?
何となく悪魔王の時を思い出していた。あの時も仮面を着けたことで恥ずかしや、自重といったものが無くなった気が……。
ああ、そんな細かいことは気にしないぞ!
「そろそろ見えてきましたねぇ」
ムーチョさんが指差した方を見ると、確かに港町が見えてきた。
「グギャァーーーー!」
ドラ美ちゃんはダガード港町を飛び越えながらドラゴンの咆哮を響かせた。
そして速度を落としてダガードの港町をゆっくりと旋回しながら高度を下げる。
うん、港町がパニックになっているね!
予想通りの展開だが、ムーチョさんは微笑んでいるだけだ。
前世なら戦闘機でこんな事したら大問題だけど……。
町中では逃げ惑う人たちが見える。そして港は反対の少し小高い丘の上に立派な屋敷があり、そこの庭でも座り込んでしまっている人を見かける。
クククッ、愚民ども平伏すがよい!
んっ、違う、俺はそんなこと考えていない!
もう一つの人格が出てきそうだ……。抑えろ! 抑えろぉ!
屋敷の周りには千人以上の兵士が待機している。攻撃されないか警戒するが、すぐに見知った顔も居ることに気付き、彼らは嬉しそうに手を振っているのが見えた。
あぁ、島から戻った兵士さんかぁ……。
ムーチョさんの指示で庭の片隅にドラ美ちゃんが着地した。
何人か怯えて漏らした人もいるようだ。
しかし、そんなことを気にすることなく、ダガード子爵が歩み出てくると跪いて話した。
「ドラ美様、英雄エクス様のご息女であるエアル様、そしてマッスル様、態々お越しいただきましてありがとうございます」
うん、過剰演出!
まあ、これで信じない人は居ないじゃないかなぁ~。
「あれがエクス門の完成形ですかぁ。ちょっと暗い色だし、形も不自然に傾いていますから、悪魔門と言ったほうが良さそうですなぁ」
ムーチョさんから指摘されて、悪魔門というほど禍々しい感じはしないと言いたかった。しかし、確かに塔や門としては異様な雰囲気を醸し出している。
「た、確かに変なのじゃ……」
くっ、エアル姉妹も気に入っていないみたいだ。
「わ、分かっていないなぁ~。あれは黒耳長族の耳を表しているんだ。少し斜めに反り返っているのは長い耳で、黒耳長族の肌の色に合わせて、少しだけ黒くしているんだ。エクス群島の入口なら、英雄エクス殿が見張っていると伝えたかったんだ!」
本当にそう意識して造ったんだが、途中で自分でも失敗したと感じていたよ!
「な、なるほど、そう言われると悪くない気がしてくるのじゃ!」
何とかエアル姉妹や黒耳長族は納得したような雰囲気になってくれた。
「まあ、それはどうでも良いでしょう。それでは、そろそろ次の計画を始めましょうか?」
おうふ、どうでもいいんかぁ~い!
黒耳長族も興味を失ったように散っていってしまった……。
◇ ◇ ◇ ◇
その場にはエアル姉妹とムーチョさん、そして俺や仲間だけが残っていた。
「そろそろホレック公国との交渉に向かう予定ですが、少しばかり問題がありまして……」
ムーチョさんが少しだけ困ったような表情をして話し始めた。
「実はエクス自治連合に参加する予定の領主たちが、説得に戻った者の話を信じていないみたいです。それにダガード子爵も家族から変人扱いされそうだと嘆いていました」
いやいや、それは当然じゃね!?
真実か物語なのかあやふやな勇者物語の英雄やドラゴンの話を聞いて、誰が簡単に信じるというのだろうか?
そんな物語に出てくる英雄の一族とか、ドラゴンとかと一緒に国に反旗を掲げるような事をすると話せば、変人扱いされるのは当然である。
簡単に納得するような領主がいたら、それこそダメな領主だと思う。
「すでに船で兵士たちが千人以上戻ったのに、信じてもらえないのは残念ですなぁ」
少し前に俺が改造した船でダガードの港に兵士たちが戻ったことは聞いていた。確かに彼らもドラ美ちゃんを見ているが、何となく家族にまで馬鹿にされていそうだ……。
「信じていないみたいですが、エクス自治連合の構想は領主たちに受け入れられている感じはあるそうです。後は信じる根拠を与えれば問題ないと思います」
その信じる根拠が気になるぅ~!
「ホレック公国との交渉には黒耳長族を代表してエアル殿に行ってもらいます。それと前にも話した通りマッスル殿、話をまとめやすくするためにドラ美様、そしてもちろん私もサポート役としてついて行きます」
そうなるよねぇ~。
でもムーチョさんはサポート役というより、エクス自治連合の代表じゃない?
「自治連合の領主たちを信じさせるために、ホレック公国へ行く前日にダガードの港にも顔を出す予定です」
それって、港町がパニックになるんじゃない!
「まあ、それぐらいの衝撃を与えないとまとまりませんからなぁ。はははは」
はははは、絶対に俺も目立つと思う……。
そんな俺の心配と関係なく、エアルがドラ美ちゃんに乗れると跳び上がって喜んでいる。それを羨ましそうに他の姉妹が騒いでいる。
うん、ある意味微笑ましい光景なんだが……。
ムーチョさんに乗せられて、黒耳長族の未来がそれなりに変わりそうなことを理解しているのか心配になるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
まだ暗い朝方に俺は1人でダガードの港に向かって移動を始めた。
前日から、エアルは『どこでも自宅』で泊っている。
リディアは朝が苦手なのでまだ寝ている。計画通り起きてダイニングに来たのは俺とムーチョさんだけだ。後はジジが朝食の準備をしてくれただけだった。
こうなるとはムーチョさんも分かっていたようで、焦ることなく近くまで俺一人で向かうように言われてしまった。
俺は移動しながらブツブツと愚痴を溢すくらいしかできなかった……。
いつもの崖まで到着するとD研を開いて中からみんなを外に出す。
「それでは到着時間をダガード子爵と調整します」
到着の演出の為に、効果的なタイミングで到着したように調整するのだという。ジジから軽食をもらって食べながら、その時を待つ。
ムーチョさんは念話でダガード子爵と到着時間の調整をしているようだ。
「それでは行きましょうか」
すぐに調整が終わったのかムーチョさんの指示でドラ美ちゃんの背中に乗る。乗るのは俺とエアル、そしてムーチョさんの3人だ。
エアルはドラ美ちゃんの背中に自力では乗れないので、俺が両脇を掴んで一緒に乗る。
「あ、ありがとう、なのじゃ……」
耳まで真っ赤にして言うなぁーーー!
◇ ◇ ◇ ◇
ドラ美ちゃんは回り込んで海側からダガードの港に向かっている。
「マッスル様、早く仮面を着けてください」
ムーチョさんに催促されるが、できれば着けたくない。自分で作ったのだが、どう考えても恥ずかしい。
「早くぅ~、見てみたいのじゃぁ~」
エアルに催促されて、諦めて仮面を装着する。
あまり自分の顔が広まりたくないと言うと、ムーチョさんに今回の交渉では仮面や衣装を着けようという話になった。それなら俺の仮面や衣装は英雄エクスを意識した作りにすることになったのだ。
「す、そごうのじゃ~。惚れしまうのじゃ~!」
惚れるなぁーーー!
仮面は目の部分だけを隠して、認識阻害が付与されている。問題は目だけではなく見た目が長耳になるように耳の部分まで仮面が繋がっているのだ。
「それに衣装を着ければ、英雄エクス殿の再来であるマッスル様として相応しくなりそうですなぁ」
すでにバッチコーイ仮面を着けたムーチョさんに言われる。
くっ、死にそうに恥ずかしい……はずなんだが、仮面を着けるとそれほど恥ずかしくない?
何となく悪魔王の時を思い出していた。あの時も仮面を着けたことで恥ずかしや、自重といったものが無くなった気が……。
ああ、そんな細かいことは気にしないぞ!
「そろそろ見えてきましたねぇ」
ムーチョさんが指差した方を見ると、確かに港町が見えてきた。
「グギャァーーーー!」
ドラ美ちゃんはダガード港町を飛び越えながらドラゴンの咆哮を響かせた。
そして速度を落としてダガードの港町をゆっくりと旋回しながら高度を下げる。
うん、港町がパニックになっているね!
予想通りの展開だが、ムーチョさんは微笑んでいるだけだ。
前世なら戦闘機でこんな事したら大問題だけど……。
町中では逃げ惑う人たちが見える。そして港は反対の少し小高い丘の上に立派な屋敷があり、そこの庭でも座り込んでしまっている人を見かける。
クククッ、愚民ども平伏すがよい!
んっ、違う、俺はそんなこと考えていない!
もう一つの人格が出てきそうだ……。抑えろ! 抑えろぉ!
屋敷の周りには千人以上の兵士が待機している。攻撃されないか警戒するが、すぐに見知った顔も居ることに気付き、彼らは嬉しそうに手を振っているのが見えた。
あぁ、島から戻った兵士さんかぁ……。
ムーチョさんの指示で庭の片隅にドラ美ちゃんが着地した。
何人か怯えて漏らした人もいるようだ。
しかし、そんなことを気にすることなく、ダガード子爵が歩み出てくると跪いて話した。
「ドラ美様、英雄エクス様のご息女であるエアル様、そしてマッスル様、態々お越しいただきましてありがとうございます」
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